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第一話 僕のレアリティ
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少年は畑でカボチャをくりぬいていた。
秋の連休も終わろうかという頃、直径1m以上にまで成長したアトランティック・ジャイアントというコンテスト用カボチャを相手に、包丁ひとつで挑んでいた。
カボチャは横から真っ二つにされ、ほとんど皮だけの状態になっている。抜き取られた中身は運搬用の一輪車に入れられ、肥料置き場に何度か運ばれていた。このカボチャは食用ではないので、大きさを競う以外では肥料しか用途が無い。ただ、果実に似た甘い匂いがするので、少年は虫が寄ってこないか懸念していた。
少年の名前は山根伊吹。地方の県立高校に通う17歳だ。
彼がカボチャをくりぬいているのには訳がある。端的に言えば、お金を稼ぎたいのだ。
くりぬいたカボチャの中に入り込み、切れ目を合わせて切断されていないように見せる。その状態でカボチャを揺り動かし、一人でに動いているようにする。怪奇現象かと思わせたところで、カボチャの上半分を持ち上げて立って、腰振りダンスを踊るという一連の動作を撮影する。
言うなれば、国民的アニメのオープニングの一部を、リアルに再現することになる。それを動画サイトにアップして、広告収入を得るつもりでいる。
面白い動画は多くの人が視聴し、収益に繋がることを知った彼は、自分も一発当てようと考えた。これといった特技がない自分でも可能なことを検討するうちに、稀少価値を突き詰めるようになっていった。
容易くできることは真似されやすいし、おそらく先駆者がいるだろう。だから、多くの人と自分の違いを見つめ直した末、“畑にデカいカボチャがある”という結論に行きついた。このカボチャを使って注目を集め、人々を楽しませる動画は何かを追求し、今の作業に至っている。
「終わったぁ~」
中身を綺麗に切り抜き、伊吹は額の汗をぬぐった。終わったと言っても、作業的には、これからが本番だ。それは本人もわかっていた。
カメラに映らないよう一輪車を移動し、三脚にセットしたデジカメの角度を調整する。デジカメの電源を入れて録画ボタンを押したら、カボチャに向かってダッシュ。
カボチャの下半分に入り、上半分を持ち上げたら、切断面が合わさるように下ろしていく。切断面がピッタリと合わさり、遠目なら切れていないように見える。大きなカボチャとはいえ、小柄な彼でなくてはできない芸当だ。
「よし、行くぞ」
小声で自分に言い聞かせ、カボチャをゆっくりと揺り動かす。着ている学校指定のジャージに、べちょっとカボチャが付き、何ともいえない不快感を味わう。それでも、「これも不労所得をゲットして、働き続ける将来にサヨナラするため」と思って続ける。
「もう少し、激しくしてみようかな」
録画されている映像を想像しながら、体を前後に激しく揺らし始める。今まで以上に服にカボチャが付いて気持ち悪く思ってると、近所の人の声が聞こえてきた。
「あれ、カメラでねぇ~が? なして、あんた所さ、あるんだべ」
「山根さんとこの畑だもの。ま~た、あそこの家の長男が、おかしなこと始めだんでねってが」
強い地方訛りと声質から、三軒隣に住む婆さんと、向かいの婆さんだとわかる。そもそも、田舎とはいえ若い世代になると、ここまでの訛りはなくなっているので、近所づきあいがなくても年代はわかる。
この近所間の強い繋がりから来るプライベートの無さと噂話は、伊吹が嫌悪するもののひとつだった。「これだから田舎は嫌なんだ。したくもない近所づきあいを強要されるし、年寄りばかりだし、面白い所もないし、変わったことをすれば噂になるし……。もっと、違う場所に生まれたかったよ」なんて思いながら、その憤りでカボチャを揺らし続けた。
動く度に切断面がずれるので、それを気にかけているうちに、揺れは予想以上に大きくなっていく。「なんか、変じゃないか?」と思う頃には、カボチャがゴロンと一回転するようになっていた。
「……回ってる?」
気づけば、カボチャは坂道を転げ落ちるくらいの速さになっていた。回転するカボチャの中で、伊吹は酔いそうになる。
「は、吐きそう……」
胃から何かが込み上げる寸前で、カボチャはピタリと停止した。
「……止まった?」
ホッとして、カボチャの上半分を持ち上げると、さっきまでいた畑とは明らかに違う光景が広がっていた。
そこは石造りの建物の中だった――
周りにはローブのようなものを纏った人や、見たこともない生き物が歩き回っていた。聴いたこともない言語が飛び交い、よくわからない音楽が演奏されていた。
その演奏は伊吹を取り囲んでいる人たちによるものだった。角笛のようなものを吹いている人もいれば、紐を引っ張って音を出す楽器を持っている人もいた。そんな彼らが一様に、他の人よりも高い位置にいる伊吹を残念そうな目で見ていた。
「な、何?」
とりわけ、残念そうな顔をしていたのは、伊吹の真正面で膝をつく、同い年くらいの少女だった。少女は簡素な布の服を着て、白いケープを羽織っている。栗色の髪をした彼女の視線は、伊吹の右腕に注がれていた。
彼女の視線を追うように、自分の右腕を見てみると、星印が3つ並んでいた。今まで、こんな痣みたいなものはなかった。
「……何、これ?」
唖然としていると、鳴り響いていた演奏が止み、目の前にいた少女が伊吹に歩み寄った。階段を上って伊吹のいる高い位置へと来ると、少女は星印にそっと手を振れる。一瞬だけ、じわっと来る熱さを感じたが、すぐに熱さは引いていき、星印は徐々に赤みを帯びていった。
「星3つ、レアだね」
少女の声だった。少女の口の動きと、聞き取れる言葉が合っていなかったが、確かに彼女から発せられた言葉だった。さっきまで聴いたこともない言語が飛び交っていたのに、今は周囲の人が何を言っているのか聴き取れるようになっていた。
「レアって何?」
「君のレアリティだよ。星1つはコモン、2つはアンコモン、そして3つはレア。その上がSレア、更に上がウルトラレア」
レアリティ……って、カードでもあるまいに。そう伊吹は思ったが、よく建物内を見てみると、腕に星印が付いた人や生き物が目に付いた。中には無い人もいる。
「星がない人は?」
「星が付いてるのはユニットだけだよ。私はユニットじゃないから、ほら」
少女は星印の無い綺麗な腕を見せた。
「ユニットって?」
「君みたいに、違う世界からやって来た人のこと」
「違う……世界……」
伊吹は状況を飲み込めないでいた。話しかけられたから、反射的に幾つか質問をしたものの、そもそも畑じゃない場所にいることが納得できなかった。
「僕は……畑にいたんだ」
「そうなんだ。でも、今は神殿の中にいるんだよ」
「ここ、神殿なの?」
「うん、ユニットを召喚する神殿。ガチャをまわすと、ユニットが出てくるの」
「ガチャ?」
「幾つか種類があってね、銅貨でまわすノーマルガチャ、銀貨でまわすレアガチャ、金貨でまわすプレミアムガチャがあって、ガチャによって台座が違うんだよ」
少女は他の台座を指しながら説明する。その間も、近くの台座では黒い霧が現れるとともに、袋や箱に入った生き物が降って来ていた。その度に台座を取り囲む人たちが演奏をしている。
「ソシャゲーみたいだ……」
引きつった笑みを浮かべ、伊吹はつぶやいた。
「早く降りろ! 次がいるんだぞ、次が!」
伊吹のいる台座の下で、派手なコートを着た男が叫ぶ。
「すみませーん」
少女は男に向かって謝ると、伊吹の手を引いて台座を駆け下りた。伊吹たちがいなくなると、台座の後ろに控えていたイソギンチャクのような生物が、その触手でカボチャを台座から降ろした。
「さぁ、来いよウルトラレア!」
派手な身なりの男は台座に近づくと、コートのポケットから手を出した。その指には金貨が挟まれている。
「わぁ~、お金持ちだぁ~」
少女が羨望の眼差しを向ける中、男は台座に空いた穴に次々と金貨を入れ、穴の近くにある四角い突起物を時計回りに回した。ガシャガシャという音と共に、台座の上に黒い霧が現れ、箱や袋が落ちてきた。その数は10個にも及んだ。
「10連ガチャだ。いいなぁ~」
少女は羨ましがっていた。それに気付いたのか、男はドヤ顔を向けた。そのドヤ顔に呼応するかのように、バックで盛大な演奏が始まる。
「何で演奏が入るんだよ……」
「この国の決まりだもん。落ちてきた物を見て、レアリティが高そうなら、盛大な演奏になるんだよ。君の時は演奏が盛大過ぎて……」
少女の言葉が途中で溜め息に変わる。
伊吹は察した。右腕の星の数が彼女に肩透かしを食らわせたことを。
そうこうしているうちに、台座上の箱や袋が開かれ、中に入っていた者達が次々に姿を現した。ナイスバディなお姉さんもいれば、骨だけの者や、揺れ動く液体状の者もいた。形は様々だが、星印は全員に付いていた。
「レア、レア、Sレア、Sレア、レア、Sレア、Sレア……なんだ、ウルトラレアはナシか」
派手な身なりの男は舌打ちし、面倒くさそうに召喚された者たちの星印を触っていった。触れられると、やはり赤みを帯びていった。
「よぉ~し、これで言葉がわかるようになっただろ? いいか、俺様の名はヒューゴ。お前らのご主人様だ」
ヒューゴの自己紹介は続く。自分が所有しているユニット、豊富な資金、この世界についてなど、何度となく言ってきたような慣れた口ぶりで話し続けた。ただ、聴いているユニットは、ナイスバディのお姉さんだけだった。無論、伊吹たちも耳を貸していない。
「この星印に触れると、言葉が通じるようになるの?」
「うん、そうだよ」
「もしかして、魔法?」
「マホウ? マホウって何?」
少女は小首を傾げた。魔法という概念が無いのかもしれない。
「魔法じゃないなら、超能力か何かで?」
「うん、能力のひとつだよ。『脳内変換』って言って、知らない言葉で話している人の感情をくみ取って、自分の知っている言葉に頭の中で置き換えるんだって。未契約のユニットには効果が無いから、私が触れて契約が成立するまでは、周りの人が何を言ってるか、わかんなかったでしょ?」
「うん……。これって、君の能力なの?」
「私はユニットじゃないから、何にも使えないよ。この能力はね、いろんな所に配置されているユニットのものだから」
「へぇ~……」
彼女の口の動きと、聞き取れる言葉が合っていないのは、そのためなんだと伊吹は理解した。
「ところで、さっき契約って言ってたけど……。僕は君と何か契約したの?」
「ユニット契約をしたよ。君は、私が召喚したから、私のユニットになったの。あっ、そういえば、自己紹介がまだだったね。私はチガヤ、君は?」
「僕は山根伊吹」
「ヤマネッコ……コキュウ?」
伊吹は「何? その間違え方」と思ったが、ネッコやコキュウという言葉にハッとした。
コキュウが呼吸だとしたら、息吹の意味から来ているのではないか。お世話になった人の苗字から伊吹と名付けられたが、息吹の意味も込められている名前だ。呼吸と変換されていても不思議はない。
知っている言語に変換されているということは、名前でさえも置き換えられている可能性があるのだろう。
仕方ないので、発音だけを伝えようと言い直す。
「や・ま・ね・い・ぶ・き」
「難しい名前だね、ヤマネイブキ。これからよろしくね、ヤマネイブキ」
「よろしく……」
何でフルネームで言うんだろうと思いながら、握手しようと手を差し出す。
「何か欲しいの?」
その手を見て彼女が戸惑う。握手という習慣が無いんだと思い、慌てて手を引っ込め、笑って誤魔化す。
「何でもないから、気にしないで」
「うん、わかった」
「それで、これから僕はどうなるの?」
「能力解析を受けたら、おうちに帰るよ」
「おうちって、君の? 僕も行くの?」
「もちろん。だって、これから一緒に暮らすんだもん」
さも当然といった顔で、チガヤはニコニコしている。“一緒に暮らす”という言葉に、淡い期待を抱く伊吹だった。
秋の連休も終わろうかという頃、直径1m以上にまで成長したアトランティック・ジャイアントというコンテスト用カボチャを相手に、包丁ひとつで挑んでいた。
カボチャは横から真っ二つにされ、ほとんど皮だけの状態になっている。抜き取られた中身は運搬用の一輪車に入れられ、肥料置き場に何度か運ばれていた。このカボチャは食用ではないので、大きさを競う以外では肥料しか用途が無い。ただ、果実に似た甘い匂いがするので、少年は虫が寄ってこないか懸念していた。
少年の名前は山根伊吹。地方の県立高校に通う17歳だ。
彼がカボチャをくりぬいているのには訳がある。端的に言えば、お金を稼ぎたいのだ。
くりぬいたカボチャの中に入り込み、切れ目を合わせて切断されていないように見せる。その状態でカボチャを揺り動かし、一人でに動いているようにする。怪奇現象かと思わせたところで、カボチャの上半分を持ち上げて立って、腰振りダンスを踊るという一連の動作を撮影する。
言うなれば、国民的アニメのオープニングの一部を、リアルに再現することになる。それを動画サイトにアップして、広告収入を得るつもりでいる。
面白い動画は多くの人が視聴し、収益に繋がることを知った彼は、自分も一発当てようと考えた。これといった特技がない自分でも可能なことを検討するうちに、稀少価値を突き詰めるようになっていった。
容易くできることは真似されやすいし、おそらく先駆者がいるだろう。だから、多くの人と自分の違いを見つめ直した末、“畑にデカいカボチャがある”という結論に行きついた。このカボチャを使って注目を集め、人々を楽しませる動画は何かを追求し、今の作業に至っている。
「終わったぁ~」
中身を綺麗に切り抜き、伊吹は額の汗をぬぐった。終わったと言っても、作業的には、これからが本番だ。それは本人もわかっていた。
カメラに映らないよう一輪車を移動し、三脚にセットしたデジカメの角度を調整する。デジカメの電源を入れて録画ボタンを押したら、カボチャに向かってダッシュ。
カボチャの下半分に入り、上半分を持ち上げたら、切断面が合わさるように下ろしていく。切断面がピッタリと合わさり、遠目なら切れていないように見える。大きなカボチャとはいえ、小柄な彼でなくてはできない芸当だ。
「よし、行くぞ」
小声で自分に言い聞かせ、カボチャをゆっくりと揺り動かす。着ている学校指定のジャージに、べちょっとカボチャが付き、何ともいえない不快感を味わう。それでも、「これも不労所得をゲットして、働き続ける将来にサヨナラするため」と思って続ける。
「もう少し、激しくしてみようかな」
録画されている映像を想像しながら、体を前後に激しく揺らし始める。今まで以上に服にカボチャが付いて気持ち悪く思ってると、近所の人の声が聞こえてきた。
「あれ、カメラでねぇ~が? なして、あんた所さ、あるんだべ」
「山根さんとこの畑だもの。ま~た、あそこの家の長男が、おかしなこと始めだんでねってが」
強い地方訛りと声質から、三軒隣に住む婆さんと、向かいの婆さんだとわかる。そもそも、田舎とはいえ若い世代になると、ここまでの訛りはなくなっているので、近所づきあいがなくても年代はわかる。
この近所間の強い繋がりから来るプライベートの無さと噂話は、伊吹が嫌悪するもののひとつだった。「これだから田舎は嫌なんだ。したくもない近所づきあいを強要されるし、年寄りばかりだし、面白い所もないし、変わったことをすれば噂になるし……。もっと、違う場所に生まれたかったよ」なんて思いながら、その憤りでカボチャを揺らし続けた。
動く度に切断面がずれるので、それを気にかけているうちに、揺れは予想以上に大きくなっていく。「なんか、変じゃないか?」と思う頃には、カボチャがゴロンと一回転するようになっていた。
「……回ってる?」
気づけば、カボチャは坂道を転げ落ちるくらいの速さになっていた。回転するカボチャの中で、伊吹は酔いそうになる。
「は、吐きそう……」
胃から何かが込み上げる寸前で、カボチャはピタリと停止した。
「……止まった?」
ホッとして、カボチャの上半分を持ち上げると、さっきまでいた畑とは明らかに違う光景が広がっていた。
そこは石造りの建物の中だった――
周りにはローブのようなものを纏った人や、見たこともない生き物が歩き回っていた。聴いたこともない言語が飛び交い、よくわからない音楽が演奏されていた。
その演奏は伊吹を取り囲んでいる人たちによるものだった。角笛のようなものを吹いている人もいれば、紐を引っ張って音を出す楽器を持っている人もいた。そんな彼らが一様に、他の人よりも高い位置にいる伊吹を残念そうな目で見ていた。
「な、何?」
とりわけ、残念そうな顔をしていたのは、伊吹の真正面で膝をつく、同い年くらいの少女だった。少女は簡素な布の服を着て、白いケープを羽織っている。栗色の髪をした彼女の視線は、伊吹の右腕に注がれていた。
彼女の視線を追うように、自分の右腕を見てみると、星印が3つ並んでいた。今まで、こんな痣みたいなものはなかった。
「……何、これ?」
唖然としていると、鳴り響いていた演奏が止み、目の前にいた少女が伊吹に歩み寄った。階段を上って伊吹のいる高い位置へと来ると、少女は星印にそっと手を振れる。一瞬だけ、じわっと来る熱さを感じたが、すぐに熱さは引いていき、星印は徐々に赤みを帯びていった。
「星3つ、レアだね」
少女の声だった。少女の口の動きと、聞き取れる言葉が合っていなかったが、確かに彼女から発せられた言葉だった。さっきまで聴いたこともない言語が飛び交っていたのに、今は周囲の人が何を言っているのか聴き取れるようになっていた。
「レアって何?」
「君のレアリティだよ。星1つはコモン、2つはアンコモン、そして3つはレア。その上がSレア、更に上がウルトラレア」
レアリティ……って、カードでもあるまいに。そう伊吹は思ったが、よく建物内を見てみると、腕に星印が付いた人や生き物が目に付いた。中には無い人もいる。
「星がない人は?」
「星が付いてるのはユニットだけだよ。私はユニットじゃないから、ほら」
少女は星印の無い綺麗な腕を見せた。
「ユニットって?」
「君みたいに、違う世界からやって来た人のこと」
「違う……世界……」
伊吹は状況を飲み込めないでいた。話しかけられたから、反射的に幾つか質問をしたものの、そもそも畑じゃない場所にいることが納得できなかった。
「僕は……畑にいたんだ」
「そうなんだ。でも、今は神殿の中にいるんだよ」
「ここ、神殿なの?」
「うん、ユニットを召喚する神殿。ガチャをまわすと、ユニットが出てくるの」
「ガチャ?」
「幾つか種類があってね、銅貨でまわすノーマルガチャ、銀貨でまわすレアガチャ、金貨でまわすプレミアムガチャがあって、ガチャによって台座が違うんだよ」
少女は他の台座を指しながら説明する。その間も、近くの台座では黒い霧が現れるとともに、袋や箱に入った生き物が降って来ていた。その度に台座を取り囲む人たちが演奏をしている。
「ソシャゲーみたいだ……」
引きつった笑みを浮かべ、伊吹はつぶやいた。
「早く降りろ! 次がいるんだぞ、次が!」
伊吹のいる台座の下で、派手なコートを着た男が叫ぶ。
「すみませーん」
少女は男に向かって謝ると、伊吹の手を引いて台座を駆け下りた。伊吹たちがいなくなると、台座の後ろに控えていたイソギンチャクのような生物が、その触手でカボチャを台座から降ろした。
「さぁ、来いよウルトラレア!」
派手な身なりの男は台座に近づくと、コートのポケットから手を出した。その指には金貨が挟まれている。
「わぁ~、お金持ちだぁ~」
少女が羨望の眼差しを向ける中、男は台座に空いた穴に次々と金貨を入れ、穴の近くにある四角い突起物を時計回りに回した。ガシャガシャという音と共に、台座の上に黒い霧が現れ、箱や袋が落ちてきた。その数は10個にも及んだ。
「10連ガチャだ。いいなぁ~」
少女は羨ましがっていた。それに気付いたのか、男はドヤ顔を向けた。そのドヤ顔に呼応するかのように、バックで盛大な演奏が始まる。
「何で演奏が入るんだよ……」
「この国の決まりだもん。落ちてきた物を見て、レアリティが高そうなら、盛大な演奏になるんだよ。君の時は演奏が盛大過ぎて……」
少女の言葉が途中で溜め息に変わる。
伊吹は察した。右腕の星の数が彼女に肩透かしを食らわせたことを。
そうこうしているうちに、台座上の箱や袋が開かれ、中に入っていた者達が次々に姿を現した。ナイスバディなお姉さんもいれば、骨だけの者や、揺れ動く液体状の者もいた。形は様々だが、星印は全員に付いていた。
「レア、レア、Sレア、Sレア、レア、Sレア、Sレア……なんだ、ウルトラレアはナシか」
派手な身なりの男は舌打ちし、面倒くさそうに召喚された者たちの星印を触っていった。触れられると、やはり赤みを帯びていった。
「よぉ~し、これで言葉がわかるようになっただろ? いいか、俺様の名はヒューゴ。お前らのご主人様だ」
ヒューゴの自己紹介は続く。自分が所有しているユニット、豊富な資金、この世界についてなど、何度となく言ってきたような慣れた口ぶりで話し続けた。ただ、聴いているユニットは、ナイスバディのお姉さんだけだった。無論、伊吹たちも耳を貸していない。
「この星印に触れると、言葉が通じるようになるの?」
「うん、そうだよ」
「もしかして、魔法?」
「マホウ? マホウって何?」
少女は小首を傾げた。魔法という概念が無いのかもしれない。
「魔法じゃないなら、超能力か何かで?」
「うん、能力のひとつだよ。『脳内変換』って言って、知らない言葉で話している人の感情をくみ取って、自分の知っている言葉に頭の中で置き換えるんだって。未契約のユニットには効果が無いから、私が触れて契約が成立するまでは、周りの人が何を言ってるか、わかんなかったでしょ?」
「うん……。これって、君の能力なの?」
「私はユニットじゃないから、何にも使えないよ。この能力はね、いろんな所に配置されているユニットのものだから」
「へぇ~……」
彼女の口の動きと、聞き取れる言葉が合っていないのは、そのためなんだと伊吹は理解した。
「ところで、さっき契約って言ってたけど……。僕は君と何か契約したの?」
「ユニット契約をしたよ。君は、私が召喚したから、私のユニットになったの。あっ、そういえば、自己紹介がまだだったね。私はチガヤ、君は?」
「僕は山根伊吹」
「ヤマネッコ……コキュウ?」
伊吹は「何? その間違え方」と思ったが、ネッコやコキュウという言葉にハッとした。
コキュウが呼吸だとしたら、息吹の意味から来ているのではないか。お世話になった人の苗字から伊吹と名付けられたが、息吹の意味も込められている名前だ。呼吸と変換されていても不思議はない。
知っている言語に変換されているということは、名前でさえも置き換えられている可能性があるのだろう。
仕方ないので、発音だけを伝えようと言い直す。
「や・ま・ね・い・ぶ・き」
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「よろしく……」
何でフルネームで言うんだろうと思いながら、握手しようと手を差し出す。
「何か欲しいの?」
その手を見て彼女が戸惑う。握手という習慣が無いんだと思い、慌てて手を引っ込め、笑って誤魔化す。
「何でもないから、気にしないで」
「うん、わかった」
「それで、これから僕はどうなるの?」
「能力解析を受けたら、おうちに帰るよ」
「おうちって、君の? 僕も行くの?」
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---------
もし気に入っていただけたら、ブクマや評価、感想をいただけると大変励みになります!
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この度ついに完結しました。
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---
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神をも凌駕する力を持つ最強で最凶のドラゴンに、
双子の猫耳獣人や常識を知らないハイエルフの美幼女。
トラブルメーカーの美少女受付嬢までもが加わって、主人公の波乱万丈の物語が始まる!
※以前公開していた旧版とは一部設定や物語の展開などが異なっておりますので改訂版の続きは更新をお待ち下さい
※改訂版の公開方法、ファンタジーカップのエントリーについては運営様に確認し、問題ないであろう方法で公開しております
※小説家になろう様とカクヨム様でも公開しております
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