あなたが勇者になりたくない理由

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あなたが勇者になりたくない理由

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 青年が異世界に転移してから、数ヶ月の時が経っていた。元の世界ではありふれた存在でしかなかった彼も、異世界に来ると強靭な肉体と特殊能力が備わり、いつしか英雄として祀り上げられるようになっていた。
 邪悪なモンスターがはびこる剣と魔法の世界で、人々を救う英雄となった青年は勇者と呼ばれるようになり、ついにはモンスターの親玉である魔王を撃ち滅ぼそうとしていた。

「勇者よ、よくぞわしを倒したと褒めてやろう。だが、いつの日にか、お前も知るのだ。この世の闇が何処にあるのかを……」

 勇者は手負いの魔王にトドメを刺し、息の根を止めると彼の骸を持って凱旋した。人々は勇者の功績を称え、歓喜の声で彼を出迎えてくれた。世界に希望をもたらした彼に言い寄る女性も多く、勇者はこの世の春を謳歌する。
 しかし、人々は次第に勇者を敬遠するようになっていた。誰よりも強い力を持つ者を怖れ、もしも機嫌を損ねれば一瞬で消されるのではないかと危惧したのだ。
 勇者は孤独になっていった――
 誰もが素っ気なくなった街を離れ、勇者は人里離れた場所で暮らし始める。すると、勇者が人間と敵対していると思ったのか、モンスターが懐くようになっていった。
 そこで初めて、モンスターたちは自分のテリトリーに入って来た者を追い払おうとしていただけだと気づき、勇者はモンスターとの共存を呼びかけようと街へと向かう。
 一方、街では勇者がモンスターを集めて何かを企んでいると噂になり、勇者への対策が話し合われていた。そこに勇者がやって来たので街は騒然となる。天に向かって祈る者、家財をまとめて逃げ出す者、屋根裏に隠れる者など様々だった。
 街中がパニックになる中、王様の使者が勇者に問う。

「これは勇者殿、街に何用ですかな?」
「モンスターとの共存を提案しようと思い、こうして来た次第です。彼らは自分のテリトリーに入って来たものを追い払おうとしているだけなので、攻撃を加えずに立ち去れば問題ありません」
「では王様には、そのように……」

 使者は王宮に戻ると、そのことを王様に伝えた。

「勇者はモンスターとの共存を望んでいるとのこと。如何いたしましょう?」
「モンスターと共存だと? 一緒に暮らしたければ、土地をやるから全モンスターを連れて行けと伝えろ。場所は前に魔王が住んでいたところがあるだろう」
「ははーーっ」

 王の命を受けた使者が戻って、その意向を伝えると勇者は肩を落とした。これでは共存ではなく、自分ひとりとの共同生活ではないかと。
 勇者は仕方なく、魔王が住んでいた区画を所有することとなり、そこでモンスターたちと暮らし始めた。
 モンスターと勇者が同じ場所に隔離されたことで、王様は後顧の憂いを断ったと宴会を催した。

「これで邪魔ものは全ていなくなった。魔王さえいなくなれば、勇者などは無用の長物。要らない物は早めの処分が肝心だ」
「あら、あなた。また、魔王のような存在が現れたら、そのときはどうなさるおつもりで?」
「妃よ、心配するでない。そのときは、また奴を呼び寄せて討伐を命じればよかろう。また人気者になるチャンスだとばかり、無償で戦ってくれるに違いない。だが、奴を英雄のまま街においておけばどうなる? 国王より人気が出て、新たな王として担ぎ出されるやも知れん」
「それは困りますわ。そんなことになったら、この子に王位を継承できませんもの」

 まだ幼い王子を抱えながら、王妃は国王の言うことに感心していた。
 元魔王城での暮らしにも慣れ始めた勇者は、城の中を綺麗に整理してまわった。魔王討伐の途中で手に入れた貴重な武器や防具を宝物庫に収め、もう使わないだろうからと鍵をかける。
 そんな折、人間たちの間でモンスター狩りが流行り出す。人間たちは倒したモンスターの部位をはぎ取って持ち帰ると、それを見せ合うようになっていた。
 身内を殺されたモンスターが怒って人を襲うようになると、人間たちは“モンスターが狂暴化し始めた。勇者が先導しているに違いない”と噂し始める。
 勇者が事態を把握し、問題解決の為にモンスターへの謝罪を要求すると、これを勇者の宣戦布告と見なした国王は、新たな勇者を召喚すべく儀式を執り行った。こうして、勇者は魔王と呼ばれるようになり、新たな勇者が異世界から召喚されるのだった。

 数ヶ月の後、新勇者は元勇者の城へと辿りついた。
 新勇者は宝物庫の扉を盗人のような手際の良さで開けると、そこにあった元勇者の武器や防具を手にして勢いづき、そのまま元勇者の元へとなだれ込んできた。

「お前が魔王か!」

 新勇者に魔王と呼ばれた元勇者は、かつての自分を見ている気分だった。
 元勇者が魔王だと認めないうちに、新勇者が襲いかかってくる。かつての元勇者なら避けられた攻撃も、この世界に疲れ果てた彼には難しく、いとも簡単にダメージを負ってしてしまう。何より、彼が集めた武器や防具は素晴らしく、手ぶらの元勇者では歯が立たなかった。
 元勇者は追い詰められ、最後の時を迎えようとしていた。

「新勇者よ、よくぞ私を倒したと褒めてやろう。だが、いつの日にか、お前も知るのだ。この世の闇が何処にあるのかを……」

 新勇者は手負いの元勇者にトドメを刺し、息の根を止めると彼の骸を持って凱旋した。人々は新勇者の功績を称え、歓喜の声で彼を出迎えてくれた。世界に希望をもたらした彼に言い寄る女性も多く、新勇者はこの世の春を謳歌する……。
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