雑談クラブ

A-T

文字の大きさ
3 / 10

第三話 必ず当たる占い

しおりを挟む
「あのさ、朝のテレビでやってる占いって、どこが一番当たるの?」
 今日も部室で、遥が部活には関係のない話題を切り出す。
「占いは、当たるも八卦、当たらぬも八卦」
 と葵。
「何? そのハッケって?」
「八卦は占いのこと。占いは当たることもあれば、外れることもあるから、気にするなって話」
「えぇ~、そんなこと言われてもさ、見ちゃったら気になるじゃん」
「それじゃ、良い結果だけ信じたら?」
 遥は目を閉じて、今朝見たテレビの画面を思い出した。
「おひつじ座が1位だったチャンネルがあったから、今日は運勢が良い日! 確か、思いがけない出会いがあるって言ってた」
「まぁ、そもそも12星座占いとか、人類を12種類に分けてる時点で無理があるよね。世界の人口が70億人いるとしても、5億人以上が自分と同じ運勢になるから、全員が当たっていたら不気味なことに……。5億人が今日中に思いがけない出会いとか、運命の神様のノルマは大変だ」
 淡々と話しながら、葵はスケジュール帳に“テスト”の文字を書き込む。
「なんか、そう言われるとさぁ……運勢が良くても、特別感がないよね。ホント、ラッキーアイテムとか、どうやって決めてんだろ?」
「決め方があるらしいけどね。占いによっては、長くて細いものが吉、だから蕎麦みたいな感じで……。でも案外、スポンサーが売りたい商品かも」
「何それ? ラッキーアイテムがプリンで、そのあとプリンのCMが入ったら、怪しいってこと?」
「そうそう。だから、占いの結果枠という広告枠が販売されていても……」
 と言いかけたところで、さすがに言い過ぎかなと葵は口を閉ざした。仮にラッキーアイテムがプリンだったとして、ライバルメーカーのものが手に取られる可能性もある。そう考えると費用対効果が悪そうだ。
「ねぇ、葵。占いって、もしかしてインチキなの? だってさ、みんな違うこと言ってんだよ? 根拠とかもないし」
「占いなんて、そんなもんでしょ。だから、当たるも八卦。根拠が欲しいなら、統計のデータでも見た方がいいんじゃない? 中には、占いは統計だって言う人もいるけど」
「トーケイって何?」
 遥は真顔だった。葵は予想外の質問に目を白黒させ、思いがけない沈黙が生まれる。横にいる楓は話を聴いていないのか、教科書にした落書きを眺めてニタッと笑った。
「統計って、授業でやらなかったっけ? 平たく言えば、調査して数を調べること。詳しく言えば、その数に法則性を見出すこと」
「ん~……初めて聴いた。たぶん、授業でやってない」
「百歩譲って、そういうことにしておくけど、授業は真面目に受けた方がいいよ。でね、占いが統計だって言ってる人は、こういう傾向があった人は、こういう風になった人が多いみたいなデータを元に、誕生した占いがあるからって話なんだけど……」
「生命線が長い人は、長生きした……みたいなこと?」
「まぁ、そんな感じ。でも、タロットとか、水晶とか、どう考えても統計に関係ないのもあるし、データを取ったからって統計だとは言えないの」
「何で?」
「調べなくちゃいけない標本数とか、特定の結果に偶然なる確率とか、いろいろと配慮しなきゃいけないことがあるんだって。私も、この辺に関しては怪しいけど」
「なんか、難しいね。でもさ、そのトーケイをきちんとやったら“超当たる占い”とか、できるんじゃない?」
「は?」
 占いをインチキ呼ばわりした後に、“超当たる占い”の可能性に話が飛躍し、その展開に葵はついていけないでいた。
「だってさ、みんな当てる為にトーケイやってんでしょ? だったら、こういう傾向にある人は、こうなりますみたいなことを徹底的にやれば、スゲー儲かりそうじゃん」
「ある意味、保険がそうだってウチの兄が言ってたけど」
「保険ってトーケイなの?」
 葵はコクンと頷いた。
「保険に入る前に、身内の病気傾向とか、既往歴……えっと、これまでにかかった病気のことね。そういうのを確かめるのは、その情報から特定の病気に罹る確率がわかるからなんだって。それでね、実際に保険が適用される確率から保険料が計算されて、保険会社的に儲かる仕組みになってるみたいだよ」
「えっと……よくわかんなかったんだけど」
「まず、病気になりそうな人からは、たくさん保険料を取る。病気にならなそうな人からは、少しだけ保険料を取る。確率的に、受け取った保険料よりも、支払う保険料を少なくしてるから、儲かるねって話」
「うわぁ~、まるで詐欺じゃん。入らない方が得だよね」
 葵は否定も肯定もしなかった。自分が知らない情報が他にもあるかもしれないし、何より兄の情報を鵜呑みにしていることでの不安もあったからだ。
「トーケイで金儲けは保険会社がやってるから、“超当たる占い”は他のがいいな。もっと簡単な方法で、超当たるようにならないかなぁ……」
 遥の視線は落書きをしている楓に向いていた。その視線に気づいたのか、楓はゆっくりと口を開いた。
「誰にでも当てはまることを言えば、必ず当たる」
 その言葉を聴いて、遥は指をパチンッと鳴らした。
「それだ! “あなたは死にます”とか言えば、いつかは、みんな必ず死ぬから100%当たる! なんで、こんな簡単なことに気付かなかったんだろ」
「あ、あぁ……」
 思いもよらぬ方向に話が向かい始め、葵は何て言っていいのかわからなかった。
「そう言えば、前に何かで見た気がする。“あなたの家の傍には大きな木がありますか?”とか訊いて、“あります”って言えば“そうでしょう。だから、あなたは……”って言って。“ないです”って言えば“だから、よかったんです……”って言うの。両方のパターンを用意しとけば、当てられたって思うんだって」
「それこそインチキじゃ……」
「違うよ、葵。これはトーク術だよ、トーク術。葵もなんか考えてよ、誰にでも当てはまる言葉とか」
 言われるがままに、葵は考えて言葉にする。
「優しい、とか」
「ダメだよ、優しくない人っているじゃん」
「遥に対して優しくない人も、自分に対しては優しかったり、他の何かに対しては優しかったりするでしょ?」
「そっかぁ~。便利な言葉だね、優しいって……。よぉ~し、優しい……っと」
 遥はバッグからルーズリーフを取り出して“優しい”とメモした。
「あのね遥、誰にでも当てはまる曖昧な言葉を、自分だけに当てはまるものだって思っちゃうのをバーナム効果って言うんだよ……」
「もぉ~、葵ってば、また訳わかんないこと言ってぇ~……。えっと、バーナムだっけ? ちょうどいいから、この占いの名前にしようっと。バーナム占い……っと」
 その言葉をルーズリーフに書き足す。続けて、今まで話した内容をまとめに入る。
「書いてるところ悪いんだけど、こんな誰にでも当てはまる言葉を言うだけの占い師に、需要ってあるのかなぁ?」
 遥のペンがピタリと止まる。
 辺りはシーンと静まり返り、楓が教科書に落書きする音だけが聴こえる。
「終了~」
 と言って遥は、この話題を終わりにした。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

まなの秘密日記

到冠
大衆娯楽
胸の大きな〇学生の一日を描いた物語です。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…

しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。 高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。 数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。 そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…

処理中です...