カースト最下位落ちの男。

田原摩耶

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カースト最下位落ちの男。

02※

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 大々的に発表された新カースト、最下位、もとい4軍。そしてそこにいるのは俺ただ一人。
 下位ランクの連中も憐れむ目で俺を見ていた。中位ランクのやつらは我関せず、上位の連中は新しい玩具と言わんばかりに話のネタにしている。
 最初は様子見だった。どいつもこいつも人の顔を見るなり「ああこいつが」という顔をしていた。カーストごとにネクタイの色が変わるようになっていたが、新しく用意された黒のネクタイはひと目を引く。
 ……とはいえ、思ったよりも全然だったな。もっと露骨に殴ったりされると思ったが、他のやつらもいたぶるならもっと顔がいい下位ランクのがいいと思ったのだろう。
 そう安堵し、その日は一日平穏に終えた。それから歩いてさっさと寮へと帰ろうとしてきたところ、向かい側から歩いてきた生徒にわざとぶつかられる。

「い……っ」
「おっと、悪いな」

 いってえな、と言いかけたときだった。露骨に腰を抱かれ、そのままするりと尻を揉まれてぎょっとする。

「って、なんだ。4軍ちゃんだ」
「……っ、は、なせ……!」
「お前何したんだよ、いきなり最下位まで落とされるとか、会長様でも怒らせたのか?」

 軽い冗談混じりだが、臀部に回された掌は無遠慮に尻の肉を揉みしだいてくる。顔が近い、気持ち悪い。あまりの嫌悪感に付き飛ばそうとするが、俺が4軍とわかったからかやつは遠慮するどころか更に大胆に指を動かすのだ。

「や……めろ……っ!」

 スラックス越し、強引に開かされた尻の谷間、その奥の窄まってる穴を指先で擦られれば全身がぞわりと粟立つ。

「……その、堪んねえな。処女か?」
「っ、キモいんだよ、この……ッ! ん、っ、ぅ……ッ!!」

 後頭部を掴まれ、唇を舐められる。
 いつも見てる光景だ。好き勝手上位ランクのやつらに身体を弄ばられる下位ランクの連中の姿が浮かぶ。けれど、今現実で弄ばれてるのは俺だ。

「っ、ふ……ッ!」
「……っ、舌、ちっせえな……ん……っ、ねえ、十鳥君だっけ? こんな最下位なんてやでしょ、俺の言うこと聞いてくれたら良くしてくれるようにお願いしとくよ?」

 平らな胸を撫で上げられ、息を飲む。交渉だ。下位の連中はこの言葉に喜んで飛び付いていたが、俺は違う。寧ろこんな下半身だけの連中よりも一番ケ瀬の方がよっぽど信頼できる。

「誰がテメエに頼むかよ……っ!!」

 思いっきり目の前のモブ野郎の腹に膝蹴りを食らわせ、その隙きに乗じて自室へと全力で帰ってくる。扉のロックを解除しようとして気付いた。――ロックが掛かっていない。嫌な予感がした。
 そっと扉を開いたとき、部屋の中から複数の笑い声が聞こえてくる。
 そして。

「や、おかえり十鳥君。待ってたぞ~」

 カースト上位の連中が、俺の部屋に我が物顔で入り浸っていた。
 考えるよりも逃げ出していた。けど、あと一歩及ばなかった。伸びてきた複数の手に身体を掴まれ、そのまま部屋の奥まで引きずり込まれる。

「な、んなんだよ、お前ら……っ!」
「何って、……なあ?」
「十鳥君の部屋、好きなだけヤリ部屋にしていいって聞いたからこうして挨拶しに来たんだよ。一応な」
「……ッ」

 あのいけ好かない生徒会長の顔が浮かぶ。
 あの男は本気で俺一人に下位ランクの連中の分まで身代わりになれと言ってるのか。
 できるか、こんなもの。とにかくこの場をやり過ごそうとするが、それよりも先にシャツを強引に脱がされる方が早かった。

「っ、な……や、めろ……っ!」
「やめてくださいだろうが。先輩への言葉遣いがなってねえな十鳥ちゃん。……お、乳首は案外可愛い色してんぞ」
「ッ、な、に……!」
「一番ケ瀬にはまだ触ってもらってないのか?お前らいつも一緒にいただろ」

 なんでここで一番ケ瀬の名前が出てくるのだ。
 言い返そうとしたが、無防備になった両胸の乳首を抓られあまりの痛みに思わず腰が震える。

「や、めろ……っ」
「お、もしかして乳首弱いのか?」
「っ、ち、が……ぁ……ッ」

 違う、そんなはずがない。そう言いたいのに、横から邪魔するように伸びてきたもう一本の指に先端部を撫でられればそれだけで声が漏れそうになった。

「ふ……っ、う……っ!」
「なんだなんだ? 十鳥君乳首弱いのかよ、一気にしおらしくなっちゃってさあ、かわいいねえ?」
「っ、ぅ……く……ッ」

 違う、そんなはずがない。そう言いたいのに、引っ張ったり揉み扱いたり、縦に縦にと伸ばすように側面を刺激されればそれだけで頭の中で火花が散り、堪らず膝をばたつかせる。手足に力が入らない。下半身が、気持ち悪い。

「なんだ、もう勃起してんじゃん。ほら、十鳥君準備万端ですよって」
「……ッ!」

 気づかぬうちに忍び寄っていた手に腿を大きく開かされ、息を飲む。慣れた手付きでベルトを緩められ、ジッパーも降ろされる。やめてくれ、と言う暇もなかった。

「さあて、御開帳~」

 そう周りの視線がこちらに向いたときだった。下着を脱がされそうになった瞬間、扉が開く音がした。
 そして、そこにいたのは。

「……おい、お前ら誰に断ってそいつに手を出してんだ?」

「っ、げ、一番ケ瀬……ッ!!」
「やべ、おい逃げろ……!! 副会長様だ!!」

 ……一番ケ瀬がそこにいた。
 一番ケ瀬の顔を見るなり、上位ランクの連中は蜘蛛の子を散らすように逃げ出した。
 ようやく二人きりになり、手足の拘束するものもなくなったというのに俺は暫く動くことができなかった。

「……っ、一番ケ瀬……」
「悪い、遅くなって……大丈夫、なわけないよな」

 近付いてくる一番ケ瀬に心臓の音がどくりと大きく脈打つ。中途半端に弄られたせいだろう、胸がじんじんと熱くなり、下腹部、下着の中ではぬるりとした感触が広がっていた。

「一番ケ瀬……っ、待て……」
「大丈夫だ、……抜くだけだから」
「ぬ、くって……」
「これ、苦しいんだろ?」

 これ、と下着の上から握られる性器。驚いて一番ケ瀬の顔を見ようとしたが、それよりも先にやつの手が下着の上から俺のものを揉み始めるのだ。

「っ、や、いやだ、やめろ一番ケ瀬……っ!」
「……俺じゃ役不足か?」

 違う、そういう問題ではない。そう言いたいのに、こいつの顔を見ると何も言えなくなるのだ。
 普段は堂々と振る舞ってる一番ケ瀬の頼りない、心許なさそうな顔に弱かった。俺だけに見せてくれると思ってしまうから、余計。

「……頼むから、暗く、してくれ……」





「っ、ぁ、一番ケ瀬……ッ! も、駄目だ、いいからっ、離し、離せ……ッ」

 暗闇の中、性器全体を包む一番ケ瀬の掌によって性器を刺激されればあっという間に射精を迎えてしまう。こちらの情けない顔を見せずに済む分、こちらからも一番ケ瀬の表情すら見えないのが怖かった。それでも、相手が一番ケ瀬だからこそ。

「……一番ケ瀬……?」

 何も言わない一番ケ瀬に不安になってくる。
 こちらはというと早く丸出しのチンポを直したいのに、萎えたそこを握ったまま一番ケ瀬は黙る。それどころか。

「っ、ま、て……待った、いち、ば……ッ、んぅ……ッ!!」

 射精したばかりの過敏になっているそこを再び緩く扱き出す一番ケ瀬に背筋に汗が滲む。駄目だ、やめろ。そう一番ケ瀬の手を掴み、止めようとするが精液を絡め取り全体に塗り込むように扱かれればそれだけでだめだった。

「っ、うっ、あ、や、嫌だ、一番ケ瀬ッ」
「っ、十鳥……お前、そんな声も出せるんだな」
「ばか……やろ、な、ぁ……ッ!」

 粘度の強い水音が響き渡る。
 あっという間に芯を持ち出すそこは既に限界が近い。だめだと分かっていた。自分でやるときはこんなにならないのに。亀頭を揉まれ、長く骨張った指に愛撫されるだけで駄目だった。

「ふ、ぅ……くぅう……ッ!!」
「十鳥……っ」
「い、いやだ、も……っまた、……ッ!」
「……いいよ、イケよ」

 なんなんだ、なんなんだよお前は。胸を押し返して抵抗するが、一番ケ瀬は怯むどころか先程以上に緩急付けて激しく上下されるだけでもう駄目だった。一番ケ瀬の掌の中、どぷ、と耳を塞ぎたくなるような音ともに熱が広がる。それを見て一番ケ瀬が笑う気配した。

「……お前、可愛いな」
「さいってい、だ、お前……ッぁ、く」

 開いた尿道口に何かが触れる。それが一番ケ瀬の指だと気付いたときには遅かった。

「っ、ば、か、やめろッ!」

 慌てて一番ケ瀬の腕を掴み引き剥がそうとするが、自分ですら触れないような敏感な部分を穿り出す一番ケ瀬に血の気が引いた。

「や、め……ッ、一番ケ瀬……ッ、おい……ってば……っぁ、あ……ッ!」
「亀頭弱いのか? ……止まんねえな、これ」
「っいちば、ぁ……ひ、ィ……ッ!!」

 尿道口から指が離れたかと思いきや、今度は掌で握り込まれそのまま亀頭を重点的に覆うように刺激され、あまりの刺激の強さに全身が震えた。
 もう無理だ、勃起すらしないと思っていたのに気付けば一番ケ瀬に勃たされて。
 挙げ句の果、「これ、気持ちいいだろ?」と笑いながら亀頭を揉まれて何も考えることができなかった。爆発するのではないかと思うほど大きくなる鼓動。やわやわと締め付けられ、尿道口付近の先端部分を掌で擦られる都度頭の中が真っ白になり全身の毛穴という毛穴からなんらかの体液が溢れ出るような感覚。

「ぉ゛い、いやだ、嫌だっ、やめろッも、む゛……ぅ……ッ!!」
「……お?」
「――ッ!!」

 亀頭を揉まれ、ぐに、と尿道口を潰された直後だった。射精感とは違う、別のものが溢れ出す。精液よりも水に近い。勢いよく飛び散ったそれが流れたあと、自分のベッドに広がっていく熱に急激に冷やされ下半身が冷たくなっていく。
 壊れたようにチョロチョロと尿道から溢れるそれを俺の意思で止めることなど出来なかった。





「……」
「十鳥、まだ怒ってるのか?」
「…………」
「気にすんなよ、俺だってお漏らししてたんだから。……小学生低学年の頃まで。あ、これはオフレコだからな」

 お前のお漏らしと一緒にするな、と怒鳴りたいところだったが声を出すことすらできなかった。
 結局あのあと、電気を付ければあまりにも酷い状況の部屋の中。
 一番ケ瀬が部屋の片付けも手伝ってくれたが状況も状況だ。
『また何かあったら危険だ、暫く俺の部屋に泊まればいい』という一番ケ瀬に半ば無理矢理やつの部屋まで連れてこられたけど……。
 正直な話、俺はあのもの好きな暴漢共よりも目の前の一番ケ瀬の方が怖い。

「なあ……機嫌直してくれよ、十鳥」
「俺は……お前が何考えてるかわからん」
「俺? なにが?」
「全部だ、全部」

 一番ケ瀬は優しい男だと知ってる。けれど、なんか、急によくわからなくなったのだ。
 やめろと言ってもやめないし、それに、そもそもお前そっちの気があったのか?とじとりと睨めば、一番ケ瀬は「んー……」と何か考えるような顔をした。

「……なあ十鳥、これは俺の話なんだけどな」
「なんだよ藪から棒に」
「お前、俺と付き合わないか?」
「はあ?」
「そうしたら他の連中も手を出さなくなるし名案じゃないか?」
「っだ、駄目だ、そんなの……無理に決まってるだろ、お前のファンの連中に殺される……っ!」
「ええ? でも……」
「第一……別に付き合わなくたっていいだろ、今のままでも……」

 なんでそうなるのだ。あまりにも突拍子ない一番ケ瀬の提案に顔が熱くなっていく。そもそも俺の恋愛対象は女性だ、女から掛け離れた一番ケ瀬相手にどうこう気を起こしたことなど一度もない。
 一番ケ瀬なりの冗談のつもりなのか、とちらりと見上げたとき。普段ならばやつは「だよな」と笑って流してくれるはずなのに、一番ケ瀬の表情には笑顔はない。

「お、おい……なんで黙るんだよ」
「でも……お前は平気か? 下手すりゃまたさっきみたいな目に合うかもしれないんだぞ」
「……別に、一ヶ月なんだろ? ……蚊にでも刺されたと思えば堪えられ……る……と、思う……」

 言いながら語尾が小さくなる。確かに不快感はないが、妹を差し出すハメになるくらいならこれくらい堪えられた。……堪えなきゃいけないのだと半ば言い聞かせる形にはなるが。

「本当……思った通りだったな」
「……へ?」
「お前だよ。……強いな、会長がお前に興味示したときはどうしようかと思ったけど……お前でよかったかも」
「な……なんだよそれ、言っとくけど俺はまだお前のこと怒ってるんだからな」
「分かってる。悪いと思ってるから早くどうにかしたいんだけどな……なあ、十鳥」
「……な」

 なに、と一番ケ瀬の方を振り返ろうとしたときだった。視界が遮られ、ふに、と唇に何かが触れた。
 一瞬何をされてるのかわからなかった。濡れた音を立て口の中へと入ってくるそれが舌だと理解したとき、俺は目の前の一番ケ瀬の胸を思いっきり付き飛ばそうとした。……が、不発。

「っん、ぅ……ッ!」

 舌を絡め取られ、唾液ごと舌を吸われる。なんだ、なんだこれ。まともにキスなどしたことなかった俺にとってカルチャーショックだった。
 文字通り捕食される。

「ん、ぅ~~……ッ!」

 溢れる唾液を拭うことすらも忘れ、どんどんと一番ケ瀬の胸板を叩く。収まっていたはずの熱が腰の辺りにじんじんと広がり、舌同士を絡ませられるだけで頭の奥が麻痺してぼんやりしてくるのだ。呼吸が浅くなり、息苦しさに視界が滲んだときだ。
 一番ケ瀬は俺から口を離した。そして。

「……十鳥、やっぱり他のやつに取られる前に俺と先に練習しておこうぜ」

 あっけらかんとした顔で、一番ケ瀬はそんなことを言い出した。返す言葉すらも失った。

「……俺、お前のことすげー好きだわ。他のやつらに先に唾付けられんの、やだ」
「な、な……」

 なあ、駄目か?と小首傾げ、こちらを覗き込んでくる一番ケ瀬に耳朶を揉まれ、びくりと腰が震えた。こいつは、やっぱりおかしい。そもそも順序が違うし、動機も不純だ。

「お前だけとは絶対に付き合わないからな……!!」
「ええ、なんでだよ十鳥」
「そういうところがだっ!」

 心強い親友が敵に転身した瞬間だった。
 これからの学園生活がどうなるかなんて知らないが、それでも貞操だけはこの一ヶ月死守しなければ。……そう改めて決心した。


 ◆ ◆ ◆


「それにしても一番ケ瀬、本当に良かったのか? あいつとは仲が良かったんだろ」
「ええ、問題ないですよ。……それに、十鳥はああ見えて負けず嫌いだし、逆境だからこそ燃えるタイプなんで寧ろ適任かと」
「とか言っちゃってさあ、一番ケ瀬あいつのこと気に入ってんだろ? 脈無しの相手をどん底に引きずり落として吊橋効果で惚れさせようとしてんの分かりやすすぎだろ、本当サイテーだわ。エグすぎじゃん」
「七搦……お前そうやって被害妄想すんのやめろよ、第一お前が用意した人員が使い物にならなくなったのが原因だろうが」
「……とにかく、余計な真似をしなければいい。黙って俺たちの言うことを聞くならな」
「ええ、会長。それなら問題ないかと思います。中等部には十鳥の妹がいます、あいつシスコンなので囮にすればすぐに言うことを聞きますよ」
「流石一番ケ瀬君だね、用意周到じゃないか」
「俺、妹ちゃんのが好みだな~。十鳥のやつトバして妹ちゃん引きずり出させよっかな~?」
「……」
「冗談冗談! 一番ケ瀬様に逆らったら何されるかわかんねーからな」
「……とにかく、十鳥についてはお前に一任するぞ一番ケ瀬。……くれぐれも、勝手な真似はするなよ」
「ええ、お任せください」

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