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瓦解氷消【勇者ルートif】
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ミーティングを終え、自然とその場でお開きの流れになる。そそくさと俺は自室へと戻ろうとしたところ、「スレイヴ」と呼び止められた。
――自室前通路。
そこにはイロアスが立っていた。
「……話がある、ちょっといいか」
「なんだ」
「俺の部屋にきてくれ」
話ならここで聞く。そう続けようとしたところ、先手を打たれてしまった。
嫌な予感を覚えたが、拒む理由もない。
先に歩いていくイロアスの後をついて行く。
イロアスの部屋は少し離れたところにある。俺の部屋もそうだったが、勇者であるこいつの待遇となるとそれはそれは大層なものだった。
扉を開いたイロアスに、入れ、と視線で促されるがまま踏み込んだあいつの部屋の中、無駄に広いその部屋を見ていの一番に『こいつはここでいつも一人で寝てるのか』と思った。
豪奢だが淋しい部屋だ。
「……それで、話って……」
なんだ、とイロアスの方を振り返ろうとしたときだった。すぐ背後にイロアスが立っていることに驚く。
「……っ、な、んだよ」
「明日のことについてだ」
「明日って……お前らは闇市やら市長のおっさんのこと調べるんだろ?」
「ああ。……けど、お前を連れて行くことはできない」
「……別に、連れて行ってくれって言ったつもりもないけどな」
「話し合いのとき、不貞腐れた顔してただろ」
……それはお前の方じゃないのか。
人前では愛想笑いするくせに、俺の前で笑わなくなったお前の方じゃ。
「俺の顔は生まれつきだ。別に、お前の決定に不満もない」
「…………」
「話はそれだけか? だったら……」
「俺は、お前の身にまた何かがあったら……耐えられない」
「だから、大人しくしとけばいいんだろ」
それほど俺は信用ならないのか。
本当は出歩くつもりでいたが、イロアスがこの様子ならば大人しくしておくつもりでもあった。
けれど、それでもまだイロアスの強張った表情筋は和らぐことはない。
「イロアス……?」
何かを迷っているように見えた、そのときだった。イロアスがぼそりと何かを呟いた。
瞬間、視界が大きく傾いた。一瞬、何が起きたのか理解することができなかった。
気付けば俺はイロアスの腕に体を支えられていた。気絶、違う、全身に力が入らない。意識はあるのに、脳と筋肉の伝達を強制的に遮断されたような感覚だ。
――お前。
そうイロアスを見上げることも、声を出すこともできなかった。
何よりも、こいつに魔法を掛けられたということがなによりもショックで。
「……」
どうやら、目だけは動かせるようだ。
何も言わずにイロアスは俺を抱きかかえたまま部屋の奥――扉を開いて寝室へと踏み込む。
寝具だけの何もない寝室は暗い。そのままそっと俺の体をベッドに寝かせたまま、イロアスはこちらを見下ろしていた。
「怒ってるだろ、スレイヴ」
分かっててしたくせに、今更何を言ってるんだ。
「……言い訳はしない。落ち着いたらちゃんと魔法は解く」
だから、と伸びてきた手にそっと頬を撫でられる。
ベッドの縁に腰をかけたイロアスは、そのままそっと俺の髪を撫でた。
何も言わずに魔法かけられるくらいなら、いっそのこと言い訳された方がまだいい。
お前は、ずっとそうだ。なにも言わない。そのくせ俺に『何も知らないくせに』と声を荒げるのだ。自分勝手なのはお互い様だろ。
けれど、こう思ってるのも全部イロアスには届かない。そういう風にしたのもこいつだ。
「……スレイヴ」
そう、イロアスが何かを言いかけたときだった。
ふと、部屋の扉がノックされる。どうやら誰かがやってきたらしい。イロアスはぱっと俺から手を離し、そして名残惜しそうな顔をして立ち上がる。
そのまま寝室を後にするイロアス。閉じる扉に、俺はホッとしたような気持ちでいた。
「……」
この魔法がどれくらいのものなのかはわからないが、まさか明日も一日中この状態で放置されるということか。
身動き取れない状態でいると、どうしてもあのとき、敵に捕まっていたときのことを思い出す。既に乗り越えたつもりではいたが、どうやら思いの外心身に深く刻みつけられていたようだ。
体の感覚はないが、それでも落ち着いて眠れる気がしない。全神経が逆立ったような研ぎ澄まされた意識の中、再び寝室が開いた。
――イロアスだ。
ベッドの上に俺がいるのを確認し、イロアスは安堵したような顔でやってきた。
それから、俺の手に触れる。
「……そうか、そうだよな。意識があるのは辛いよな」
「すぐに眠らせてやる」悪かった、とイロアスが俺の目元に手を翳した瞬間、強制的に意識は遮断された。
――自室前通路。
そこにはイロアスが立っていた。
「……話がある、ちょっといいか」
「なんだ」
「俺の部屋にきてくれ」
話ならここで聞く。そう続けようとしたところ、先手を打たれてしまった。
嫌な予感を覚えたが、拒む理由もない。
先に歩いていくイロアスの後をついて行く。
イロアスの部屋は少し離れたところにある。俺の部屋もそうだったが、勇者であるこいつの待遇となるとそれはそれは大層なものだった。
扉を開いたイロアスに、入れ、と視線で促されるがまま踏み込んだあいつの部屋の中、無駄に広いその部屋を見ていの一番に『こいつはここでいつも一人で寝てるのか』と思った。
豪奢だが淋しい部屋だ。
「……それで、話って……」
なんだ、とイロアスの方を振り返ろうとしたときだった。すぐ背後にイロアスが立っていることに驚く。
「……っ、な、んだよ」
「明日のことについてだ」
「明日って……お前らは闇市やら市長のおっさんのこと調べるんだろ?」
「ああ。……けど、お前を連れて行くことはできない」
「……別に、連れて行ってくれって言ったつもりもないけどな」
「話し合いのとき、不貞腐れた顔してただろ」
……それはお前の方じゃないのか。
人前では愛想笑いするくせに、俺の前で笑わなくなったお前の方じゃ。
「俺の顔は生まれつきだ。別に、お前の決定に不満もない」
「…………」
「話はそれだけか? だったら……」
「俺は、お前の身にまた何かがあったら……耐えられない」
「だから、大人しくしとけばいいんだろ」
それほど俺は信用ならないのか。
本当は出歩くつもりでいたが、イロアスがこの様子ならば大人しくしておくつもりでもあった。
けれど、それでもまだイロアスの強張った表情筋は和らぐことはない。
「イロアス……?」
何かを迷っているように見えた、そのときだった。イロアスがぼそりと何かを呟いた。
瞬間、視界が大きく傾いた。一瞬、何が起きたのか理解することができなかった。
気付けば俺はイロアスの腕に体を支えられていた。気絶、違う、全身に力が入らない。意識はあるのに、脳と筋肉の伝達を強制的に遮断されたような感覚だ。
――お前。
そうイロアスを見上げることも、声を出すこともできなかった。
何よりも、こいつに魔法を掛けられたということがなによりもショックで。
「……」
どうやら、目だけは動かせるようだ。
何も言わずにイロアスは俺を抱きかかえたまま部屋の奥――扉を開いて寝室へと踏み込む。
寝具だけの何もない寝室は暗い。そのままそっと俺の体をベッドに寝かせたまま、イロアスはこちらを見下ろしていた。
「怒ってるだろ、スレイヴ」
分かっててしたくせに、今更何を言ってるんだ。
「……言い訳はしない。落ち着いたらちゃんと魔法は解く」
だから、と伸びてきた手にそっと頬を撫でられる。
ベッドの縁に腰をかけたイロアスは、そのままそっと俺の髪を撫でた。
何も言わずに魔法かけられるくらいなら、いっそのこと言い訳された方がまだいい。
お前は、ずっとそうだ。なにも言わない。そのくせ俺に『何も知らないくせに』と声を荒げるのだ。自分勝手なのはお互い様だろ。
けれど、こう思ってるのも全部イロアスには届かない。そういう風にしたのもこいつだ。
「……スレイヴ」
そう、イロアスが何かを言いかけたときだった。
ふと、部屋の扉がノックされる。どうやら誰かがやってきたらしい。イロアスはぱっと俺から手を離し、そして名残惜しそうな顔をして立ち上がる。
そのまま寝室を後にするイロアス。閉じる扉に、俺はホッとしたような気持ちでいた。
「……」
この魔法がどれくらいのものなのかはわからないが、まさか明日も一日中この状態で放置されるということか。
身動き取れない状態でいると、どうしてもあのとき、敵に捕まっていたときのことを思い出す。既に乗り越えたつもりではいたが、どうやら思いの外心身に深く刻みつけられていたようだ。
体の感覚はないが、それでも落ち着いて眠れる気がしない。全神経が逆立ったような研ぎ澄まされた意識の中、再び寝室が開いた。
――イロアスだ。
ベッドの上に俺がいるのを確認し、イロアスは安堵したような顔でやってきた。
それから、俺の手に触れる。
「……そうか、そうだよな。意識があるのは辛いよな」
「すぐに眠らせてやる」悪かった、とイロアスが俺の目元に手を翳した瞬間、強制的に意識は遮断された。
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