職業村人、パーティーの性処理要員に降格。

田原摩耶

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番外編

Marking

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 その村は街ほどは発展していないが活気のある村だった。住民たちは皆明るく、まるでその村全体が家族のように協力して支え合っている。
 住民の数はそう多くはない。近隣の街からも離れており、目障りな騎士団も近付かないような辺鄙な田舎――実験に使うには好条件の村だった。
 上級魔物を呼び出すためには生贄が必要だ。生贄は多ければ多いほど善い。

 村全体に魔法陣を敷くため、放浪者として村へと潜入するのは容易かった。警戒するどころか久し振りのお客様だからと手厚く歓迎してくる村人たち。晩飯から寝床まで頼んでもいないのに用意してくれるのだから笑いも出ない。
 警戒心もなく、護衛すらできない者は摂取されるだけだ。人というものはどうしてこうも愚かなのか。慣れ合うつもりもない、用を済ませてさっさとこの村を出ていこうと滞在していた民家を出たときだった。
 足元にどんと何かがぶつかった。
「わっ」と鳴き声を上げ、そのまま地面へと転がる小さな影に視線を落とす。そこには金髪の子供がいた。
 前を見ていなかったらしい、どこで村人たちが見てるかも分からない。一応声を掛けてやるか、と「大丈夫か?」としゃがんだ矢先だった。

「イロアス!……おいっ!あんたちゃんと前を見て歩けよ、危ないだろ!」

 ……もう一匹、小さいのが増えた。

「……そりゃ悪かったな。怪我はないか?」
「……大丈夫です、あの、すみません」
「何謝ってんだよイロアス、向こうが悪いだろ」
「スレイヴ、やめろよ。俺が悪いんだから」

 ぶつかってきたのがイロアス、横からきゃんきゃんと煩いのがスレイヴというらしい。
 まるで親の敵のようにきっと睨んでくるスレイヴは「おっさん、気を付けろよな」と捨て台詞を吐く。そしてそのままイロアスの手を引いて歩いていこうとするスレイヴの首根っこを掴んだ。あまりにも軽い。

「っおい、何するんだよ」
「誰がおっさんだ?お兄さんって言え」
「す、スレイヴっ!」
「おっさんはおっさんだろ、っくそ、降ろせよ!」
「謝ったら降ろしてやる」
「俺は間違ったこと言ってないし、悪いのはアンタだろ!」

 この、と短い手足でじたばたと暴れるスレイヴ。
 可愛げがない、クソガキもいいところだ。怖じ気づくことを知らない。足元でイロアスがあわあわしてるのを見えた。
 ……ああ、駄目だ。余計なことをするつもりはなかったのだが。
 他の大人たちに見つかる前に仕方なくスレイヴを降ろしてやれば、あのガキは泣くわけでもなく「変質者め!」と人の脛を蹴り上げてくる。

「おい……」
「ご、ごめんなさい!スレイヴ、やり過ぎだ!」
「先に手を出したのはこのおっさんだ。イロアス、このおっさんの味方するのかよ!」
「そ、そういう問題じゃ……ほら、スレイヴもごめんなさいしろって」
「……いや、いい。気にするな。俺も少々大人気なかったしな」

「おっさんのくせにな」と余計なことを言ってくるスレイヴに思わず反応しそうになり、堪えた。
 ……こんな子供相手に熱くなってどうする。

「これは詫びだ。この店で貰ったんだが俺は苦手でな、よかったら二人で食べればいい」

 そう、手土産に貰った菓子の入った袋を敢えてスレイヴに押し付ける。ぎょっとしてこちらを見上げたスレイヴだったが、袋の中からする甘い菓子の匂いに釣られたらしい。ごくりと喉を鳴らし、それから恐る恐る袋の中を覗き込んだ。そしてスレイヴの腹から弱々しい腹の虫の音が聞こえてくる。

「腹が減ってるのか?食べたらいい」
「わ、これスレイヴの好きなやつだ。良かったな、スレイヴ」
「い……いらない」
「えっ?」
「知らないやつから物もらったら駄目だってかーちゃん言ってた!」

 そう言って、スレイヴは袋をこっちへと返してくる。腹を空かせてくるくせに好物を前に堪えるその意地っ張りっぷり。……本当に、可愛げがない。
 可愛げはないが、悪くはない。

「そうか、じゃあこれはお前にやろう。一人で食べていいからな」

 代わりにイロアスに渡せば、少し戸惑ったイロアスはちらりと隣のスレイヴを見て、それから「ありがとうございます」とぎこちなく頭を下げる。
 受け取るイロアスに「馬鹿、受け取るな」とスレイヴが噛み付いていた。それを尻目に俺はその村を後にした。
 なにもない退屈な村だと思ったが――悪くはない。

 あの子供がどう成長するのか見守りたい気持ちはあった。魔物共にただでくれてやるにはあまりにも惜しい。
 後方、まだ揉めている二人の子供を振り返る。
 イロアスには勇者の素質があった。――もし、あの子供を勇者に選ばせることが出来ればスレイヴも自分に会いに来てくれるだろうか。

「……スレイヴか」

 自分たち以外の家族同然の村人たちが死ねば、あの子供はどんな反応をするだろうか。悲しむか、或いは――。
 刺激もなにもない退屈な日常に、ほんの少し楽しみができた。
 次の再会への期待を胸に村から出た。



「――……随分とご機嫌ですね」
「そう見えるか?」
「ええ、貴方にしては」
「そうか。ならいい」

【END】
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