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2.シャーデンフロイデ
親よりも身内な関係
純白君を探す。
とは言っても殆ど小緑君について行ったくらいだけれど。
一応純白君は登校しているらしいが、教室にも現れないようだ。
「心配だね」
「……ああ、そうだな」
「小緑君、授業サボってていいの?」
「良いわけないだろう。今その言い訳を考えている」
「……」
だから先ほどからソワソワしているのか。
僕もその気持ちには覚えがある。そんな僕よりも真面目で一本気な小緑君のことだ、罪悪感は考えられないほどだろう。
それにしても、そんな己を曲げてでも心配してくれるなんて。
純粋に純白君のことが羨ましく思えた。
「……好きなんだね」
「何を言ってる、サボり自体俺はよしとしないが」
「そうじゃなくて、純白君のこと」
改めて口にすれば小緑君は何を言い出すんだと片眉を釣り上げてこちらを見た。
「あいつには性格的にも難があるが、少なからず好意的に思っていなければ共に行動することはないだろう」
「それは好きって意味じゃないの?」
そこは『好きだ』の三文字に集約される部分ではないのかと思ったが、小緑君の反応は想像と違った。
通路の奥。先を歩いていた小緑君は立ち止まった。
その背中にぶつかりそうになったところ、なんとか免れる。
「………………分からん」
背中越し、小緑君の声が微かに聞こえてきた。
「え……」
「…………」
それはどういう意味なのだろうか。
あまりにも歯切れの悪い小緑君の隣へと立ち、その顔を覗き込む。
小緑君は迷ったような顔で口を押さえた。
何かを隠している。昔から小緑君は嘘が吐けない。
それは性質のようなものだ。嘘を吐いたことによる罪悪感から己を罰しようとして体の一部を強く掴む癖がある。口元を手で押さえたまま小緑君は押し黙り、そして僕から視線を逸らした。
「……小緑君、純白君とキスしてないの?」
逃げようとする小緑君の視線の先へと回り込み、そのままそっと小緑君の腕を掴む。
そんなに掴んだら息が苦しくなるよ、とやんわりと顔から手を離させれば、小緑君は僕をみた。
「するわけ――……っ、……」
ないだろ、と言いかけて、小緑君は再び顔を逸らした。しまった、と言うかのように目を瞑る。
あまりこれ以上虐めるべきではないのだろう。
けれど、思いもよらなかった事実に胸の奥が一斉に騒ぎ出す。
ほっとした感情と妬みにも似たような嫌な感情が同時に腹の中に湧き上がる。感じたことのない感覚に自分でも戸惑った。
「……そう、なんだ。……へえ」
「織和。……他のやつには黙っててくれないか」
「人に言う話じゃないし、それに恥じることでもないと思うな。僕は」
しかも、あの純白君相手に。
言ったら悪いが、純白君はきっと手が早い方だ。好きでなくとも誰とでも寝れる。
そんな彼が、手を繋いでキスもせず心を満たせるほどの良好な関係だと思うと脳味噌全体が締め付けられるような感覚があった。
だった、僕はなんなのか。僕たちはなんなのか。
それと同時に、まだ僕の知らない小緑君がいないと知れたことにほっとした。
僕はもう小緑君の特別でもないのに。何故なのか。
純白君の知ってる小緑君よりも、僕の方が小緑君のことを知ってる。その事実に安堵する。
吐き気がする。自分自身に。
どんどんと人の道を外れているような気がしてならない。
「……ごめん、変なこと聞いて」
「いや、当然の疑問だ。……無論、お前以外に伝えるつもりはなかったがな」
「……」
まだ小緑君は僕のことを信頼してくれている。
それが分かったからこそ余計、その信頼が息苦しかった。見えない手に首を絞められているようで、お前は変わったなと暗に言われているようで――苦しかった。
「僕たちはキス、したよ。告白されたときに、慈門君に」
小緑君の目が開かれる。怒ったような顔でこちらを見る小緑君に、「ごめん、小緑君だけ言うのはフェアじゃないと思って」と付け加えれば、苦虫を潰したような顔をした小緑君は「まあ、一理はある」と腕を組み頷いた。
「……が、実際に聞くといい気持ちはしないな」
「そう、かな。確かに知人の惚気って不思議な感じだよね。それに、僕たちの場合は――」
「親の惚気を聞いてるよりもゾッとするな」
「そ……そんなに嫌だった?」
「ああ。……安易に想像つく。あいつは猪突猛進の馬鹿だからな」
そう言って再び小緑君は先へ歩き出した。
確かに、小緑君が純白君との詳細な惚気を話し出したらきっと僕も同じようになっていたのだろうか。
「でも、小緑君くらいにしか言えないよ。こんなこと」
「……それも一理ある。俺も他人にペラペラ言う気はならない」
「僕だから?」
「ああ。……お前だからだ」
「……そっか、ありがとう。小緑君」
純白君のそれとは形が違えど、小緑君からの信頼が嬉しかった。
先ほどまでの嫌な感覚はいつの間にかに腹の奥からは消えていた。
気を取り直して校内を散策したが、結局純白君は見つからなかった。
それどころか、途中で先生に見つかって怒られることになってしまった。
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