恣意的なぼくら。

田原摩耶

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3.???

欠乏


 母親に小緑君ともう一人友人が家に来ること、それから食事は必要ないという連絡を入れたあと僕たちは外食することになった。
 その後僕の家へと向かう。
 小緑君は僕が入院中に何度も母親に会っていたこともあり母親は僕と小緑君がまた親しくしているのだと安心したようだ。純白君のことも気に入ったらしい。なんとなく本人はむず痒そうにしていて、すぐに僕の部屋へと向かっていっていた。

 そして夜――自室。

「純白君、お風呂沸いたよ」
「必要ないです。すぐ出るんで」
「え?」

 リビングで小緑君が親と何かを話している間、純白君が気になって様子見に来たらこれだ。

「あいつらの居場所、調べてきます」
「今から?」
「ええ、この時間帯が一番動きやすいんで」
「でも……」
「その間、甘南先輩のことを引き留めてて下さい。俺がいなくなったら多分ごちゃごちゃ言ってるくると思うんで、いい感じにお願いします」

 それは願ったり叶ったりだが、警察もいるのではないかと心配したがそのことを気にすること自体きっとナンセンスなのだろう。
 僕は彼を使うと決めた。ならば、彼に任せるのが一番いい。特にこういったことは。

「……危ないと思ったら帰ってきてね」
「言われなくてもそのつもりです。深入りはしませんよ」
「うん。……夜冷えるから上着、その格好じゃ寒いでしょ?」

 制服のままでは目立つだろう。そう上着を純白君に貸せば、純白君はなんだか変な顔をした。

「……そんなことを言われたら返さないといけなくなるじゃないですか」

 そう迷った後、純白君は僕の上着を羽織る。背格好が近いお陰でサイズは問題ないが、なんとなく不思議な感じだ。
「似合いますか?」と冷ややかに笑う純白君に「似合ってるよ」と頷き返せば、純白君は何も言わずに猫のように目を細める。多分、彼なりの笑顔なのだろう。照れたように眉を寄せる。

「何か分かったら後で報告します」
「うん。……気をつけてね」
「善処はしますが期待はしないで下さい」

 そう言い、純白君と一緒に僕は一階へと降りる。純白君が玄関から出ていくのを誤魔化すようにリビングへと向かい、小緑君たちとのやり取りに適当に混ざる。僕と久しぶり話せたことが嬉しかったらしい。おやつの準備をいそいそと用意し始める母親を嗜め、さっさと休むように促す。その後、それとなく純白君がいなくなったのを確認して僕は小緑君を自室へとあげた。

「……藤はどこ行った?」
「お風呂じゃないかな」
「ああ、風呂か」
「小緑君も疲れてるよね。純白君が上がったら入ってきなよ」
「お前が先に入れ。……俺は最後でいい」

 何気ない会話して時間稼ぎする。
 が、スマホを取り出した小緑君の顔が強張るのを見た。

「……」
「どうしたの? 小緑君」
「悪い、ちょっと下に行く」

 そうスマホを卓袱台に叩きつけ、小緑君は階段を降りていく。何気なく画面を見れば、どうやら純白君のメッセージを見たらしい。

『二人きりでお泊まり、男見せてくださいね』

 ……ああ、純白君らしいな。
 そんなことを思いながらベッドに腰を掛けていると、すぐに階段を駆け上がってくる足音が近づいてきた。

「……っ、織和、藤がいない……っ!」
「うん、そうみたいだね」
「そうみたいだねって、お前……」
「……空気読んでくれたみたいだよ、純白君は」

 君のために、なんて取り敢えず話を合わせておく。
 本当はなんのために家を出て行ったのかを知ればきっと小緑君は心配して自分も飛び出してくるだろう。それならば。

「……っ、あの馬鹿が」
「純白君、本当に君のことが好きなんだね」
「言ってる場合か。もし何かがあったら……」
「大丈夫だよ。純白君なら。……家に帰ってるんじゃないかな。久しぶりに」
「……それならいいがな」
「心配?」
「あいつは肝心なことを言わないところがある。助けて欲しい時に助けてと言わない。……そんなやつを野放しにするのは危険だ」
「でも、僕はその気持ちは分かるよ。……君って心配性だから、言ったら自分のことのように気にするだろう」
「……当たり前だ」

 諦めたような、そんな口ぶりだった。落ち着かない様子の小緑君を宥めるようにベッドに座らせる。「大丈夫だよ」と肩を軽く叩いた。

「放課後、純白君と色々話したんだ」
「何の話をした?」
「君の話もしたよ、小緑君」
「どうせ俺の悪口を言っていたんだろう、あいつは口を開けば憎まれ口を叩く」

 当たっている。けれど、純白君の憎まれ口も親愛の証みたいなものだ。
 慈門君に対する純白君の態度とはまるで違う。それに、悪く言いながらも彼は小緑君のことを心配している。
 二人とも不器用だから反発し合ってるけど、ちゃんとお互いのことを信用している。
 ――僕たちもそうだった。はずなのに。

「――羨ましいな」

 口にするつもりはなかった。ぽつりと漏れた言葉に、小緑君が顔を上げる。その目を見て、しまったと思った。余計なことを言ってしまったと。

「ごめん、今のは……」


 なんでもないんだ、と言いかけた時。小緑君は何も言わずに僕の肩に手を回した。

「小緑君、重いよ」
「……悪かった」
「別に君に謝罪を要求したわけじゃなかったんだ。……ごめんね」

 僕は大丈夫だよ、とその手をそっと重ねた。
 分かっている。分かっていて、ラインを探っている。爪先で地面を掘るように。

「織和」
「お風呂、入っておいで」
「……お前は」
「僕は最後でいいかな。……長風呂派だから」

 ここでその話は終わり。切り替えようと小緑君の背中を叩く。小緑君がそうしてくれたように、今までの僕たちを思い出すように触れた。
 小緑君は何かを言いかけた後、諦めたように立ち上がった。

「……ああ、じゃあ借りる」
「うん。ごゆっくり」

 着替えを見繕い、手渡したあと一階へと降りる小緑君を見送る。
 卓袱台の上に小緑君のスマホが置かれたままになってるのを確認し、念のため玄関から外へ行かないかを耳を拵えた後――それから息を吐いた。

 とにかく今夜を穏便に乗り越えなければならない。
 今夜は寝れそうにないな。そんなことを思いながら僕はベッドに仰向けに倒れ込んだ。

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