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3.???
03
――翌朝。
結局ぐっすりと眠ってしまっていた。
アラーム音が響き、眠りの底から意識を引き上げられる。
「ん……」
カーテンの隙間から差し込む日差しの眩しさに目を細める。そしてすぐ、背中に感じる他人の熱に気づいた。咄嗟に飛び起き、振り返って思い出した。
「……おはよう、織和」
「こ、ろく……君……」
そうだ、僕は小緑君を部屋に泊めたんだった。
寝過ぎたのかも知れない。寝惚けた頭を起こしながら、僕は慌てて「おはよう」と返した。
対する小緑君はというとあまり寝れていないようだ。
「……なんだか変な感じだな」
「そうだね。……けど、よかったよ」
「良かった?」
「……朝起きたら君を蹴り落としてしまってるんじゃないかって心配してたんだ」
そこでようやく小緑君は笑った。今までどこか緊張していたその横顔が崩れるのを見て、つられてホッとする自分がいた。
「お前は昔から寝相はよかっただろう。それに、今ならお前に蹴られても受け止めるくらいできる」
「……そうかな」
「ああ、そうだ」
「……」
まだ脳が完全に起きれていないせいだろう。むず痒いやり取りに調子が狂わされる。
これで、合ってるはず……なんだけどな。
騙しているような心地の中、僕は曖昧に笑ってそれを受け流しつつサイドボードに置いていた端末を手に取る。
純白君からメッセージが入っていた。家の前で待ってます、という内容だ。送信時間は数分前。
僕は慌てて起き上がり、登校の準備をすることにする。それに倣い、小緑君もまだ眠たそうにしながらも降りてくる。
母親はもう仕事へ向かったらしい。リビングには三人分の朝食が用意してあった。
僕は寝間着のまま玄関へと出る。
家の前には純白君がいた。「純白君のご飯もあるよ。まだだったらどうかな」とご近所さんの迷惑にならないようにジェスチャーで誘えば、『甘南先輩は?』と純白君からメッセージ届いた。
それに返信をしようとしたとき、玄関前、背後から現れた小緑君は「藤!」と声をあげる。
その声に僕まで驚きそうになりつつ、慌てて小緑君の口を塞いだ。
「純白君、小緑君怒ってないから大丈夫だよ」
そう手招きすれば、純白君は怪訝そうな顔をしたまま恐る恐るやってくる。
背後の小緑君は大分怒ってはいたが、一応純白君も悪いと思っているのは伝わったらしい。「今度から馬鹿げた気を回すな」と言ったっきり、小緑君はそれ以上言及しなかった。
ひと足先にリビングへと戻る小緑君を見送りつつ、靴を脱ぐ純白君を待つ。
「……はー、怒ってますね、あれ」
「大丈夫だよ、純白君。小緑君のあれは君が心配だ、って意味だから」
「そうなんですか?」
「そうだよ」
そんなやりとりをしつつ、玄関の戸締りをしたあと純白君をリビングへと連れていく。
普段あれほど広く感じたリビングも、今ではなんとなく手狭だ。朝食を再度レンジで温めている間、小緑君は三人分の飲み物を用意する。
純白君はソファーに転がったまま「ここ、居心地いいですよね」と猫のように背もたれ越しにこちらを見ていた。
「それならよかったよ。……純白君、君は寝れたの?」
「俺は元々夜行性なんで夜は昼に寝る派なんですよ」
「どこをほっつき回ってたんだ?」
「補導されれようなことはしてません、安心してください」
君も正直者だな。
そんなことを思いつつ、朝食の支度を終えて三人で食卓を囲んだ。
僕と小緑君が並び、その向かい側に純白君が席につく。
「いただきます」
「いただきます」
「……す」
人と食べるのは慣れてないのだろうか。対面の座席が落ち着かなさそうに、純白君は僕らから体を逸らすようにテレビの方をむいたまま白米を少しずつ食べていた。
そんな様子をちらりと見つつ、隣で黙々と食事をする小緑君を盗み見る。不意に目が合い、目を逸らすのも変な気がしてじっと見つめ返せば、小緑君の方が視線を逸らした。
「……」
「……」
「なんか、二人とも今日は静かですね。なんかありましたか?」
「ない」
「……はは、即答。それ答えてるようなもんですよ、甘南先輩」
「残念だけど、本当に何もないよ。一緒に寝たくらいかな」
そう小緑君をフォローするつもりで答えれば、二人の動きがぴたりと止まる。箸で挟んだ卵焼きを落としそうになる小緑君と、驚いたように目を丸くする純白君。
二人のリアクションを見て、ああ、そうかと納得した。……僕らの場合は今一緒に寝るっていうのは通常不自然なのか。
「あー……なるほど、寝たんですね。一緒のベッドで」
「ニヤニヤするな、藤。言っておくがお前の思ってるようなものじゃない。背中を丸めて並んで織和を潰さないように横たわるという意味だからな」
「……小緑君、やっぱり無理してたんだね」
「ちが、違う。無理じゃない。いい訓練になった」
なんの訓練なのだろうか。気にはなったがあまり虐めるのも可哀想だ。
なんだ、と露骨に落胆する純白君はどさくさに紛れて小緑君の唐揚げを横取りしている。
そしてそれに気づいた小緑君が「行儀が悪いぞ」と純白君に叱るのを眺めつつ、僕も目の前の食事を胃に収めることにした。
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