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3.???
02
「……」
僕が、次はこの粗悪な動画を撮られる?
確かに純白君の言葉にも説得力があった。普通そう考えるだろう。
けれど、何か違和感があった。
そもそもなんで慈門君のアカウントで投稿したんだ?
「これは、疑問なんだけど……」
「はい、どうぞ」
「純白君の話によると、君たちは“こういうこと”は珍しくなかったんだよね」
自分で口にしながらも反吐が出そうだった。
犬馬利千鹿の家は無法地帯だった。犬馬利千鹿が直接手を下すことはなくても、慈門君に場所を貸したりすることはあったと。
そこで被害に遭った人も多数いる。それなのに、なんで今になってこんな動画が投稿されているのか。
「まあ、そうですね。俺が撮られたやつとかモザイクなしのやつですし」
「撮るとしたら、もっとちゃんと撮るってこと?」
「被写体にダメージを与えるんでしたらね。だってこんなの投稿されても俺、痛くも痒くもありませんし」
それはそれで純白君のメンタルが心配になったが、僕も同じ意見だった。
見せしめにするならもっと過激なものもあるはずだ。また後で投稿するつもりなのか。
それとも、まだ別の意図があるのか。
「暗いからここ外ですかね。声も反響してるし、どっかの倉庫勝手に使ってるのか特定はできそうですけど……」
「……特定?」
警察をおちょくってるのかとも取れるが、逆に考えればギリギリ撮れて送れるのがこれしかなかったとすればどうなる。
慈門君が咄嗟に撮影した?なんで?
――見つけて欲しいから?
「…………」
「……先輩?」
「これ、場所とか特定できる?」
「頑張ればできると思いますけど、それなら警察がもうやってると思いますよ」
「……そっか、そうだよね」
それでまだ騒ぎが収束していないとしたら、恐らくそこには何もなかった。
「先輩?」
「……」
慈門君が何を考えてるのかなんて理解できない。
できないし、したくない。けれど、もし。もし慈門君と犬馬利千鹿が仲違いしていたらどうなる?
そもそも僕に見つけて欲しかったのなら直接動画を送れば良かったんだ。なんで不特定多数に送った?違う。論点はそこじゃなくて。
「……」
警告のつもりか?
ふと、伸びてきた手に顔を持ち上げられる。そのまま白い指先に眉間を柔らかく揉まれる。
「な、なに?」
「先輩、眉間」
「え……あ……」
「怖い顔になってますよ。おまけに息止まってるし」
「……ごめん、気付かなかった」
「何か分かりましたか?」
「……今、頭の中をまとめてるところ」
噛み砕く。僕の知ってる慈門君を思い出す。
慈門君は器用と呼べるような人間ではなかった。けれど、運動神経はよかった。いつも笑っていて、僕のことを助けてくれた。
水泳部はいじめ問題で暫く活動停止状態にあった。
それもあって慈門君は生徒指導に目を付けられていると零していた。
もしかしたら先生たちもそこを監視していた可能性はある。だからこそそこを選んだのか。あくまで憶測でしかない。
万が一、それを見越した上の行動だとすれば慈門君がそれを行なったということはだいぶ追い詰められている証拠だ。
となると、犬馬利千鹿と対立している可能性が大きくなる。あくまで仮説だ。
その場合、僕が考えるべきは犬馬利千鹿の行動だ。
「……」
「先輩?」
「……慈門君の家に行こう」
「え? 今からですか?」
「確かめたいことがあるんだ」
「それはいいすけど、先輩、警察いる可能性ありますよ。怒られるんじゃありませんか?」
「いいよ、怒られるくらいなら」
「アンタ、意外とフィジ系なんすね。……ついでに俺に説明してください。その方が整理しやすくなるでしょ」
落ち着け、と純白君に窘められる。
落ち着いているつもりなのだが、確かにひとまず自分の考えを純白君に共有するのは手かもしれない。
「これは僕が犬馬利千鹿だったらの話なんだけど」
「導入が荒すぎますよ、アンタ」
「――慈門君と犬馬先輩が仲違いしてる可能性がある」
そう続ければ、純白君は目を丸くした。
「……それで?」
「慈門君が投稿した動画はSOSだよ。……水泳部は教師の監視にあったから、敢えて問題になりやすいそこにあげて外部に助けを求めたんじゃないかって思ったんだ」
「……」
「全部想像だよ、けど、もしそれが犬馬先輩に知られたとしたら――」
「天翔慈門がターゲットにされる?」
「いや、それはしないと思う。純白君が調べてくれたここ最近の連絡取れない子達、皆慈門君の近い人たちって言ってたよね」
「ええ、そうすね。仲良いかは知りませんが」
「動画で殴ってるのは多分慈門君。慈門君にやらせてるんだよ、犬馬先輩」
犬馬利千鹿のことを理解などしたくなかった。けれど、もしこの一連の行動が一致している場合。
「僕が犬馬利千鹿だったら、次に狙うのは……慈門君の家族かな。それか、」
と、言いかけて心臓が跳ねる。
慈門君の直近の友人たちが被害遭ったあと、更に近いところに行く。慈門君の心に近いところに。
そしてあの男のことだから僕のことは最後まで取っておくだろう。となると。
「――小緑君」
純白君の目が丸くなる。ただでさて白い顔が青くなっていくのを見た。
すぐに純白君は小緑君に連絡した。
「くそ……っ、出ない」
「授業中だから出ないだけだと思うよ。けど、多分警戒しないに越したことはない。家の方が警察がいるから大丈夫だと思うけど……」
「……っ、先輩……なんでそんな落ち着いてるんですか、アンタ」
「あくまで僕の想像だよ。……けれど、君も気をつけた方がいい。純白君、君もターゲットに入ってるかもしれないから」
犬馬利千鹿は僕と似ていると言った。
ずっと考えていた、その言葉の意味を。
なぜこんな周りくどい真似をする必要があるのか。
慈門君を通してあの男が直接何かを言ってる気がしてならない。こんなことをして何のためになるのか。
慈門君を追い詰めてどうなる?いや、追い詰めることが目的なのだろう。
慈門君を試そうとしている。
罪を重ねることによりより逃げられないようにする。
自分の手を汚すことなく、手っ取り早く失わせる。自分がしたと逃れようとすればただでは済まない。
慈門君に逃げ場はない。
「……」
これがあいつのしたかったことなのか。
心の奥に溜まっていた熱がすうっと引いていく。
消えない傷も、慈門君を殺すのも、全部。僕がすると決めていたのに。あの男はそれを横から全て掻っ攫っていくつもりなのか。
「…………許さない」
度を越えた怒りは脳を冷ましてくれる。冷たくなる拳を握りしめた。
誰にいうわけでもなく呟いた声は純白君に届いたのだろう。ぎょっとした純白君は、恐る恐る僕の頭を撫でる。
「先輩、顔が怖いです」
「純白君」
「……はい」
「……君、僕のためならなんでもするって約束してくれたよね」
「ええ。しましたよ。……あいつらを地獄に落とすためならなんでも」
その言葉にふっと胸の奥が軽くなる。ありがとう、と僕は純白君を見上げた。
「じゃあ、これからお願いを聞いて欲しいんだけど……」
切り捨てるものを的確に選び、目的を見失わない。
そうしなければ恐らく何もかも失う。
それだけは避けなければならなかった。
だから僕はずっと、大切に腹の中に仕舞い抱え込んでいたものを捨てることにした。
大事な大事な、僕と一緒に育ってきたそれを。
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