恣意的なぼくら。

田原摩耶

文字の大きさ
127 / 153
3.???

02※


 硬い指先が下腹部に伸びる。シャツの上から臍の下の辺りを抑えられた瞬間、ぞわりと嫌なものが背筋に走った。「やめて」と声が洩れそうになり、それを阻害するように再び唇を塞がれる。

「ん、は……っ、ぅ」

 上顎を舌先がくすぐるだけで唾液が分泌され、舌同士が触れ合う度に濡れた音が響いた。
 僕の気なんて知らずに、空は青かった。どこで見られているかも分からないこんな場所で抱き合ってる姿は側から見ればさぞ滑稽だろう。自分の罪を曝け出しているような恥ずかしさは拷問でもあった。
 少しでも離れようと顔を逸らせば、「逃げるな」とすぐに顎を掴まれ小緑君を向かされる。

「……っ、ま、って、まって、小緑君」
「俺に恋人になれって言ったのはお前だろ、織和」

 そうだ。その通りだ。
 僕はキスも、それ以上のこともやる覚悟は決めていた。そうだったはずなのに。
 違う、と頭の中で拒絶の文字が浮かぶ。違う。何が違うのかも分からない。

 咄嗟に小緑君の舌先に歯を立てる。ほんの一瞬、力が緩んだ隙を見て小緑君の体を突き飛ばした。
 ベンチから降りて、とにかく逃げよう。そうもつれる足で駆け出す。けれど、ろくに力が入らずにその場で躓いてしまう。

「それは鬼ごっこのつもりか?」

 背後から聞こえてきた声にしまった、と思った時には遅かった。伸びてきた腕に体を引き上げさせられる。後少し。目の前の扉のドアノブに手を伸ばし、鉄製の扉にしがみついた。
 背後から伸びてきた小緑君の手はドアノブを掴む僕の手を握りしめる。手のひらを包み込むように重ねられる小緑君の手は熱かった。
 手の甲の筋をなぞるように指は谷間へと這わされる。

「っ、ぅ……」

 背中越しに感じる小緑君の気配にただ謝罪することしかできなかった。覆い被さってくる体に、抱き締められる背中に、鼓動が流れ込んできては混ざる。

「こ、ろくく……っ、ん、む」

 制止の声も飲み込まれる。何度キスされたのかも分からなくなるほど唇を重ねられた。何度も、ようやく離れたと思えば角度を変えて唇を噛みつかれる。
 逃げ出すこともできず、あっさりと小緑君に捕えられた体はそのまま扉から引き離される。抱き締められたまま、僕が逃げるのを諦めるまでずっと。

 逃げる必要はない。目的は果たしている。
 小緑君が僕だけを見ててくれればいい。他のやつらの声も聞けないくらい、僕だけ。
 そう決めたのは僕なのに。

「っ、ご、めん……なさ……」

 震える唇から声が洩れる。

「ご、めんなさい」
「……」
「ごめんなさい、ごめんなさ、っ、ん」

 無意識に洩れる謝罪に小緑君は何も言わなかった。
 殴られているわけでも首を絞められているわけではないのに、それよりもずっと苦しかった。心臓が痛くて、小緑君の冷たい目が怖くて、それで。
 落ち着く暇もなく濡れる頬を舐め取られる。

「何故謝る?」
「……っ、……」
「俺のことが憎いんだろ? お前は」

 ずっと、わざわざこんなことをしなくても僕は小緑君を傷つけていた。

「お互い様だ、織和」

 違う。君は悪くない。
 そう言う権利すら僕にはない。
 小緑君の手が掌から手首、二の腕まで登ってくる。肩のラインをなぞり、鎖骨の凹凸を確かめるように。その指は胸元へと到達し、シャツ越しに平らな胸を掌全体で撫で上げた。

「ぅ、や、めて、小緑君……っ」

 こんなことをしたくなかった。そんな君を見たくなかった。これも全部僕のエゴだと分かってた。
 拘束されたまま動けない体を弄られ、全身の血液がより熱く滾る。頭が茹だりそうだ。

「細いな。……それに」
「っ、ひ、ぅ……っ」

 耳朶に唇が触れ、そのまま柔らかく耳朶を噛まれながら胸を撫でられる。熱い。苦しい。乾いた指に乳首を擦られるだけで体が大きく震えた。
 おかしい。こんなの。
 耳元で小緑君が呼吸するのが聞こえた。

「ああ……この匂い、お前の匂いだ」

 ――どうにかなりそうだった。
 ぷつりとボタンを外され、開かれる胸元。そのまま大きく胸元を開かれれば晒される胸の先が視界に入って青ざめる。慌てて前屈みになって胸を隠そうとするが、小緑君はそれを許してくれなかった。
 肩を掴まれ、抱き寄せるように大きく胸を仰け反らされる。自然と海老反りになったそこからつんと主張するそこに這わされる指、そこから目を逸らした。
 意識したくなかった。背後にいる男が小緑君だと。

「ゃ、……う……っ、ひ……っ、や、やめて、小緑君……こんな……っ」

 なんでこんなことをするの、小緑君。
 癇癪起こした子供のように泣くことしかできない。自ら聖域を踏み荒らしたのは僕で、自業自得だと分かってる。それでも受け入れられない。
 小緑君に触れられることではない。小緑君自身に僕の聖域を――僕の小緑君との思い出すらも踏み荒らされることに耐え難いほどショックを受けた。

「や、やる、から……こういうことも、君とする、だから……お、お願い、強引な真似は……しないで……」
「それ、天翔にも同じことを言ったのか?」
「……っ、ぁ、う……っ!」
「それとも、俺にだけ言ってるのか?」
「は、っ、う」
「答えろ、織和」

 指先に柔らかく突起を掴まれる。くにくにと柔らかく潰すように根本から先っぽを捏ねられるだけだ全身から汗が噴き出す。鼓膜に直接注ぎ込まれるその声に強い酩酊感を覚えた。重圧に、逃げようとすればするほど強まる拘束に、自ら雁字搦めになっていく。

「君には、こんなことを……して、ほしくない」
「傲慢だな、お前は」
「っ、ぁ……っ」
「何度も俺は言ったはずだ。それでも、俺を信じなかったのはお前だろ?」
「ぁ、は……く、ひ……ッ! し、信じる、信じてる、僕は……」
「じゃあ話せ」

 腰に感じる重みと硬さに背筋が震える。
 ドアノブを掴んだまま、両胸を這いずり弄ぶ指から逃れることも出来ずにただ縋り付くことしかできない。頭を横に振り、その度に乳輪から先っぽまで搾られる。それだけで脳味噌全体がぎゅっと締め付けられてはじんわりと快楽物質が染み出した。

 ――小緑君を切り捨てる。
 それは僕にとって自分の体の一部を切断する行為に等しかった。その結果、これだ。

 何故小緑君を守ってるのかも自分で訳が分からなくなっている。そうだ、僕は――小緑君を巻き込みたくなくて、小緑君が僕たちのことで苦しむのも見たくなくて。

「ぉ゛、ぐ……っ、ひ、ぃ」
「言え」

 整った指先で先っぽを穿られる。散々慈門君に弄られたせいで昔よりも明らかに大きくなったそこを執拗に追いかけられ、潰される。

「そ、こ……ぉ゛……っ、そこ、ゃ゛……も……っ」
「言え」

 その度にぷにゅ、と形を崩したそこはすぐに芯を持ち始め、恥ずかしげもなく硬く主張を続けた。

「やめ、て……っ! やめて、小緑く……っ!」
「なら、全部話せ」

 カクカクと痙攣する下半身を隠すこともできなかった。大きく胸を逸らしたまま、辛うじて保っていた一本の糸は両胸の突起を同時に扱かれ、柔らかく潰されたことによりあっさりとキレる。
 声を上げることもできなかった。頭が真っ白に染まり、自分の口を塞いだまま背後の小緑君にもたれ掛かる。突起から指を離した小緑君はそのまま僕の胸元を撫でる。乱雑に指が過敏になったそこに触れるだけで全身が痙攣する。わざと往復させ、その度に僕が魚のように反応するのを楽しむ気配すらあった。

「ぁ、や、やめて、ほんとに……っ、こんな、やり方は……っ、ぁっ、ん、あ、き、きみは……そんな人じゃなかった……」
「その言葉、そっくりそのまま返してほしいか? 織和」
「っ、ぅ、くひ……っ」
「俺の知ってるお前は、好きでもない男に告白するようなやつでも恋人でもない男と寝るようなやつでも自ら相手を扇動するようなやつじゃなかった」
「ぼ、僕……っ、は……っ」

 胸を撫でる掌がそのまま下半身へと降りていく。神経が昂り、皮膚を撫でられるだけで勝手に肉体が反応する。
 指先がベルトを緩め、そのままスラックスを膝下までずり落とされた。拾い上げることも許されぬまま、小緑君の指が下着越し――既に染みを作っていたそこに触れる。

「ここまで端ないやつだともな」

 言わないで、と続けることもできなかった。長い小緑君の指に下着の上からくるくると膨らみを撫でられるだけで下着の中で硬くなっていたそこが反応する。
 僕だって、信じたくない。こんな状況で何故勃起して、あまつさえこんなに先走りを滲ませているのか。
 考えたくない。嫌なのに。こんなこと望んでなかったのに、肉体と思考が乖離していく。

「ち、ちが……う、こんな……僕は……っ、ぁ」
「何も違わないだろう。お前も、俺も同じだ」

 そう、押し付けられる下腹部に先ほどよりも鮮明に小緑君のものを感じた。スラックス越しでも分かるほど大きくなったそこに全身が痺れる。呼吸が浅くなり、逃げようとすればさらに押し付けられ、そのまま下着の上から尻の谷間を探るようにゆっくりとその山を擦り付けらるだけで目の前が滲む。

「は、ぁ、いや、いやだ、小緑君」
「ずっと、想像してた。お前が天翔に抱かれているのを見てから、ずっと。……お前は性欲が薄いやつだと思っていたが、あの馬鹿相手にねだられれば断りきれないと分かっていたからな。……ここに何度咥えさせられた?」
「っ、小緑く、やめて……っ」
「この薄い体であいつの相手をさせられてるのだと想像する度に腸が煮え繰り返りそうになった。……お前が、俺の知らない顔をあいつに見せてるんだと、聞いたこともないような声を上げてるんだろうと想像しただけで……どうにかなりそうだった」

 そのまま尻の感触を確かめるように丸く撫でられ、指先がウエストのゴムに引っかかる。
 あ、と思った時には遅かった。ずるりとそのまま脱がされる下着の奥、きゅっと閉まった肛門を広げるように小緑君の指が這わされる。
 待って、小緑君。そう叫ぶ声すら、中に入ってくる指にかき消された。

感想 47

あなたにおすすめの小説

人気アイドルの俺、なぜかメンバー全員に好かれてます

七瀬
BL
デビュー4年目の人気アイドルグループ「ECLIPSE(エクリプス)」に所属する芹沢 美澄(せりざわみすみ)は、昔からどこか抜けていてマイペースな性格。 歌もダンスも決して一番ではないはずなのに、なぜかファンからもメンバーからも目を離されない存在だった。 世話焼きな幼なじみ、明るく距離の近い同い年、しっかり者で面倒見のいい年上、掴みどころのない自由人、そして無言で隣にいるリーダー——。 気づけば、美澄の周りにはいつも誰かがいて、当たり前のように甘やかされていく。

世継ぎは他の妃が産めばいい——子を産めない私ですが、帝の寵愛を独占して皇后になりました

由香
恋愛
後宮に入る女の価値は、ただ一つ。 ——皇子を産めるかどうか。 けれど私は、産めない。 ならば—— 「世継ぎは他の妃に任せます。私は、陛下に愛される女になります」 そう言い放ったその日から、すべてが狂い始めた。 毒を盛られても、捨てられず。 皇子が生まれても、選ばれたのは私だった。 「お前は、ここにいろ」 これは、子を産めない女が ただ一つの武器“寵愛”だけで頂点に立つ物語。 そして—— その寵愛は、やがて狂気に変わる。

祖国に棄てられた少年は賢者に愛される

結衣可
BL
 祖国に棄てられた少年――ユリアン。  彼は王家の反逆を疑われ、追放された身だと信じていた。  その真実は、前王の庶子。王位継承権を持ち、権力争いの渦中で邪魔者として葬られようとしていたのだった。  絶望の中、彼を救ったのは、森に隠棲する冷徹な賢者ヴァルター。  誰も寄せつけない彼が、なぜかユリアンを庇護し、結界に守られた森の家で共に過ごすことになるが、王都の陰謀は止まらず、幾度も追っ手が迫る。   棄てられた少年と、孤独な賢者。  陰謀に覆われた王国の中で二人が選ぶ道は――。

やきもち

すずかけあおい
BL
攻めがやきもちを妬く話です。

闇を照らす愛

モカ
BL
いつも満たされていなかった。僕の中身は空っぽだ。 与えられていないから、与えることもできなくて。結局いつまで経っても満たされないまま。 どれほど渇望しても手に入らないから、手に入れることを諦めた。 抜け殻のままでも生きていけてしまう。…こんな意味のない人生は、早く終わらないかなぁ。

思い込み激しめな友人の恋愛相談を、仕方なく聞いていただけのはずだった

たけむら
BL
「思い込み激しめな友人の恋愛相談を、仕方なく聞いていただけのはずだった」 大学の同期・仁島くんのことが好きになってしまった、と友人・佐倉から世紀の大暴露を押し付けられた名和 正人(なわ まさと)は、その後も幾度となく呼び出されては、恋愛相談をされている。あまりのしつこさに、八つ当たりだと分かっていながらも、友人が好きになってしまったというお相手への怒りが次第に募っていく正人だったが…?

幼馴染がいじめるのは俺だ!

むすめっすめ
BL
幼馴染が俺の事いじめてたのは、好きな子いじめちゃうやつだと思ってたのに... 「好きな奴に言われたんだ...幼馴染いじめるのとかガキみてーだって...」 「はっ...ぁ??」 好きな奴って俺じゃないの___!? ただのいじめっ子×勘違いいじめられっ子 ーーーーーー 主人公 いじめられっ子 小鳥遊洸人 タカナシ ヒロト 小学生の頃から幼馴染の神宮寺 千透星にいじめられている。 姉の助言(?)から千透星が自分のこといじめるのは小学生特有の“好きな子いじめちゃうヤツ“だと思い込むようになり、そんな千透星を、可愛いじゃん...?と思っていた。 高校で初めて千透星に好きな人が出来たことを知ったことから、 脳破壊。 千透星への恋心を自覚する。 幼馴染 いじめっ子 神宮寺 千透星 ジングウジ チトセ 小学生の頃から幼馴染の小鳥遊 洸人をいじめている。 美形であり、陰キャの洸人とは違い周りに人が集まりやすい。(洸人は千透星がわざと自分の周りに集まらないように牽制していると勘違いしている) 転校生の須藤千尋が初恋である

【完結】出会いは悪夢、甘い蜜

琉海
BL
憧れを追って入学した学園にいたのは運命の番だった。 アルファがオメガをガブガブしてます。