恣意的なぼくら。

田原摩耶

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1.イネイブラー

06

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 それから先生に準備が終わるまで待ってろ、と言われて近くの空き教室で待ことになる。
 人前に行くのが辛いんじゃないかと言う先生の気遣いからだ。
 実際、もし慈門君と廊下でばったり出会ったら僕はどんな顔をすればいいのか、いつも通り振る舞える自信はなかった。

 人気のない部屋の中。廊下の外から聞こえてくる誰かの声に耳を立て、息を吐く。まだ指先が震えてる気がする。


 屋上から降りる前に常楽先生は事前にいくつか打診してきた。
 車で送る場合は事前に親に早退・車で送り届ける旨を連絡をする必要があること。
 落ち着くまで数日休んでいいということ。
 そのことについて親と話したいということ。

 僕は親には言わないでほしい、と先生に懇願した。
 余計なことで心配かけたくないし、そうなると慈門君の親御さんにまで連絡が行くかもしれないという心配もあったから。
 付き合っていると言うことも伝えていない状況でそんなことまで親たちに知られるのは辛い。そう伝えれば、「分かった」と先生は頷いた。

「い、いんですか……? 秘密にしてても……」
「今、最優先するのはお前の意思だ。それに、これはデリケートな問題だからな。……親に伝えづらいのは仕方ない」
「……」
「けど、俺の方から暫くの登校については本人の意向を尊重してほしいということを伝えといた方がお前も休みやすいだろと思ってな」
「……大丈夫です、その時は僕の方から伝えます」
「……」

 先生の表情は相変わらず渋いままだった。
 けれど、怒ってるわけではないというのはなんとなく分かるようになってきていた。
 また無理をしているのではないか、と心配してくれているのだろう。先生は「分かった」と静かに口にした。それから「言いにくいときは俺にメッセージ送ってくれればいい」とも。

 最優先されるのは僕の意思、か。
 その言葉を体現するように先生は親身になってくれた。
 ただ、それは慈門君と距離を取りやすいための環境を作るためだからだろう。


 屋上での常楽先生とのやり取りのことを思い出しながら、ぼんやりとこれからのことを考えていた。
 それから平静になってきた頭の中、『本当にこれでいいのか?』という迷いも。
 ここまで大事にするつもりもなかったし、僕一人が耐えれば慈門君も必要以上に咎められることもないだろう。

 少なくとも、イジメの加害者として慈門君が処分受けるとなると慈門君のおじさんおばさんも悲しむし、慈門君の内申にも傷がついてしまう。

 僕は本当にそこまでしたいのか?
 今ならまだ引き返せるのではないか。

「……」

 ドク、ドク。と脈打つ心臓を抑え、息を吐く。
 先生が言うにはこの状況こそが誤りなのだと。

 でも。と頭の中で弾けては消えて行く言葉を飲み込む。
 静まり返った部屋の側、扉が開いて常楽先生が迎えにきてくれた。

「帰るぞ」

 そう一言、そのまま歩いて行く先生のあとを慌てて追いかける。




 本来ならば教師の車に生徒を乗せるのは禁止されている、と先生は言った。

「一応換気と消臭はしてきたけど、我慢しろ」

 窓全開になっていた先生の通勤用の車に乗り込む。染みついたヤニの匂いと、普段はすれ違った時にほんのりと感じていた先生の香りに包まれている気がしてなんだか緊張した。

「大丈夫です。僕、嫌煙家ではないので」
「未成年が何言ってるんだ」
「僕の父親も喫煙者なので」
「……」

 だからだろうか、男の人のような香りなのになんとなく懐かしい感じもするのは。
 なんだか微妙そうな顔をして先生はハンドルを手にした。

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