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本編
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デルフィニウムのような子だと思った。
夏を涼しくさせるような青みがかった長めの髪から覗く白い耳、そこにいくつも開いたピアスがアンバランスでより、興味が湧いた。
大学生くらいだろう。毎日のように店先を覗いては中まで入ってこない。恋人か大切な相手へのプレゼントを見繕いに来たのかと思ったが、そうでもなさそうだ。
花に興味あるわけでもなさそうだし、そうとなると大抵は絞られる。
「店長、あの子今日も来てましたね」
「暑いんだから中で涼んでいけばいいのに」
「またそんなこと言って……老若男女モテるイケメンは余裕あっていいですね」
「くだらないこと言ってる暇があるなら水換え頼むよ。俺、この後配達入ってるから」
「はーい」
ストーカーならともかく、害はない。それに、毎日あんなキラキラとした目で見つめられてみろ、健気で可愛くすら見える。
そんな遠くからではなくて話しかけてくれたらいいのに、と何度もこちらから話しかけようかとも思った。
けれど、それこそ二度と来てくれなくなるんじゃないかと思えば行動を実行に移すことはできなかった。
まるで窓の外に顔を覗かせにする鳩を見守るようなそんな感覚だろう。
それから暫く、友人から誘われた雀荘に顔を出して驚いた。あの子がそこで働いていたからだ。
よりによってこんな客層悪そうなところで働いてるのかと思うと少し心配になり、それから何度か仕事帰りフリーで打ちに行くことになったが肝心の彼と出会うことはできなかった。
何度かアイスコーヒーを運んでくれたが何故か目を合わせてくれなかったし、さっさと立ち去ってしまった。
普段見せてくれるあのキラキラとした目はない。
けれど、今日は違う。
「――あ、いらっしゃいませ。……天華さん」
「フリー打ちにきました」
「あ……今丁度満席で……」
「そっか、じゃあまた来るよ」
「あ、あの」
「?」
「……もう帰るんですか?」
本当は大好君の様子を見に来ただけだから、なんて言うのも露骨すぎる。
モトヤの二の舞にはなりたくなかったけども、そんな顔をして見つめられると自分というものが揺らぎそうで恐ろしくなった。
「……じゃあ、少しだけ待とうかな」
「待合室にご案内しますね」
丁度待合室に他の人間はいない。
革張りのソファーに腰を下ろせば、暫くしないうちにサービスで大好君はアイスコーヒーを持ってきてくれた。
「いつもの、ですよね」なんていじらしいことを言って。正直まだ喉は乾いてないが、そんなことを言われたら飲まざるを得ない。
……嫌われてる、わけではないんだよな。
ちらちらとこちらを見る目とか、相変わらず目は合わないが怯えてはない……はずだ。
「……ねえ、大好君」
「! は、はい。何か粗相が……」
「――どうして最近店に来てくれないの?」
ここ数日、ずっと疑問に思っていた言葉を彼に耳打ちすれば、一瞬意味がわからないという顔をしてこちらを見上げてくる。
お、ようやく目があったな。と思った次の瞬間、その顔は驚愕に染まった。
「……っ、……ぇ、あ、あの……」
「もしかして、俺がナンパしたから引かれたのかなって思ったんだけど。……だとしたら悪いことしたなって」
「ま、待ってください……!!」
「……? うん?」
「え、あ、あの……天華さん……?」
「はい」
「え、あの」と何度も雛鳥みたいに口をパクつかせる大好君を見て、『ああ、そういうことか』と納得した。
それと同時に、申し訳ないことをしてしまったということも。
凍りつく大好君の前、掻き上げていた前髪を下ろす。
「……これなら分かるかな」
「ぉ゛……ッ」
「いつも君が会いに来てくれるの待ってたのに、来てくれなくなるから」
「……ッ!!」
赤くなったり青くなったり白くなったり、面白いくらい普段見られない大好君の顔をいっぱい見てる気がする。
それから、ふらりと蹌踉めくその体を抱き留めれば大好君はそのまま体をぶるぶると震わせるのだ。
「はっ、へあ……っ、はっ、う、うそ、そんな……」
「ご、ごめん……もしかして本当に気付いてなかった?」
「み、見ないでください……っ!」
矢先、むぎゅ、と思いっきり顔を押さえつけられて驚いた。
「え?」
「ゃ、だ、だめ、今変な顔……してる……っ」
「…………」
指の隙間から覗く彼の顔は恐ろしいほど赤く、その目はもう八割くらい泣いてるんじゃないかというほど潤んでおり――正直、確かにその顔は他の客に見せるものではないなと判断した俺は大好君をソファーに座らせることにした。
「……してないよ、君は変じゃない」
「う、うぅ~~……耳元で囁かないでください……っ!!」
「え? ふ、普通に喋ってるつもりなんだけどな……」
「はあっ、は……ゃ、ど、どうして……」
騙したんですか、というかのような目で見つめられればそんなつもりもなくともチクチクと罪悪感が刺激される。それから、よろしくない感情もだ。
ぞわりと背筋を登り伝ってくるそれを必死に抑えながら、震えるその手を握りしめる。
「――君がやっと俺に声をかけてくれたから」
「て、んげさん」
「俺から声をかけると君、いつも逃げただろ? だから――つい」
もしこれが俺の勘違いならば、不必要に怯えさせてしまったことは申し訳なく思う。
けれど、振り払われない手に甘い期待をしてしまうのは間違っているのか。
「……そ、れは……」
「来なかったのって、もしかして俺が嫌いになったから……とか?」
「ちが、……っ」
ぶんぶんと慌てて首を横に振る大好君。
嘘をついてるわけでも無理してるわけでもなさそうだ。そう一先ず安心するが、だとしたら他に理由があるのか。
モトヤのやつにまだ付き纏われているとか、それとも――。
「す、好きな人が……できたので……」
真っ赤な顔を俯かせる大好君にそのまま全身が硬直する。そんな恥ずかしそうに、痛いくらいの好意は針のように皮膚に突き刺さった。
――これは、フラれてるのか。もしかして。
頭から血が降りていく音が聞こえてくるようだった。
「そうか。……それなら、仕方ないな」
「……っ、天華さん」
「……どんな人?」
客の分際でスタッフのプライバシーに必要以上に踏み込むのはマナー違反だ。モトヤと変わらない。わかってても、喉奥から絞り出した声は自然と低くなってしまう。
大好君は潤んだ目を右往左往させたあと、そして、恐る恐るじっとこちらを見つめてくる。
「……?」
「ぁ、あの、だから……」
「………………え? 俺?」
こくり、と大好君は頷いた。
◇ ◇ ◇
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