誰が女王を殺した？

女王が生まれる日

ハートのクイーン※

　夢を見ていた気がする。酷い夢だ。お母様が処刑される夢。ジャックに殺されかける夢。エースと逃げる夢。帽子を被った変な男とお茶会する二人の変な男の夢。
　――アリスを殺す夢。
　そして、自害する夢。

「……ッ！！」

　飛び起きれば、全身が汗に滲んでいた。
　見慣れた床や壁、そして柔らかいベッドの上。
　ここは牢でも見知らぬ部屋でもない、自室だ。
　やはり、全て夢だったのだ。あまりにもなまなましく現実のような夢だった。
　部屋の扉が叩かれる。この時間には決まって白ウサギが朝の検診にやってくるのだ。幼い頃はあまり身体が丈夫ではなかった。しょっちゅう身体を壊すことが多かったので、女王が白ウサギに僕の様子を見させるのだ。
「入れ」と声を掛ければ、「失礼します」と白ウサギが現れる。相変わらず草臥れた顔をしている。けれど今日は格段に酷い顔だった。

「……王子、具合はいかがですか」
「見ての通りだ。……少し怠いがな」

　そうベッドに腰を掛け、白ウサギに向き直ろうとしたとき。ただでさえ色が白いやつの顔が土色なことに気付いた。

「おい、どうした？　……酷い顔をしているぞ、女王に怒られたのか？」

　そう、恐る恐る白ウサギを見上げたときだった。やつの赤い目から涙が溢れ出す。いい年した大人が、自分よりも大きな相手――それも男がこうして泣き出すとは思ってもいなくて困惑した。

「どうした、お前の方が具合が悪そうじゃないか」
「……っ、申し訳ございません、王子……」
「おい、謝罪の意味が分からないぞ……ほら、男のくせに泣くな。朝から辛気臭い……」

　そう、何か涙を拭ってやれるものはないかと辺りを探していたときだ。
　ノックもなしに扉が開かれた。
　何事かと目を向け、息を飲む。
　そこにいたのは――。

「やあ、ロゼッタ。……あれから三日も眠っていたから心配したよ。まさか、失敗したんじゃないかとね」

　この声、この笑い方――見間違いだと思いたかった。朝日に照らされキラキラと反射するプラチナブロンドに、幼さの残った笑顔。
　――アリス、何故この男がここに。そう固まったときだった、夢だと思っていた断片的な記憶が繋がる。違う、夢ではない。咄嗟に首に手を触れれば、そこには包帯が巻き付けられていた。違う。これは、現実なのか。

「っ、アリス様……いえ、王……っ」

　慌てたように頭を下げる白ウサギの口から出た言葉に血の気が引く。そうだ、明日がこいつの戴冠式で、それを絶対に阻止しなければならなかった。いや待て、今この男三日寝てたといったな。まさか。

「まさか……まさか……ッ、お前……！」
「お前、なんて酷いじゃないか？　ロゼッタ。……頭が高いぞ、なんてね。君にならなんて呼ばれても構わないよ」

　血の気が引く。全ての音が遠くなり、まるでこの男の言葉の意味が理解できなかった。

「……言っただろう、君は死なせないと」

　凍り付く身体を抱き締められ、耳元囁かれるその言葉にぞくりと背筋が凍り付いた。あいつは笑っていた。あの目だ、感情を読ませないあの目。

「さあ、早く起きて。準備をするんだ。……本当は僕の戴冠式のあとに君との婚約を結ぶ予定だったが狂ってしまったからね」
「ま、て……ちょっと、待ってくれ……」
「まだ寝惚けているのかい？　……君は朝に弱いと聞いていたが、ふふ、目が覚めていない君も愛らしいね」
「婚約って、誰が」
「無論、僕と君だよ。……ああ、君のお父様、いや、先王からの許可は貰ってる。あとは、君のドレスを探すだけだ」

　頭の中がぐるぐると、ぐるぐると掻き混ぜられる。意味がわからなかった。白ウサギはただ俯いてる。憐れむような、何かに赦しを乞うような目だ。僕は、目の前の男が理解できなかった。

「新しいクイーンは君だよ、ロゼッタ。
　……男は女王になれない？　問題ないさ、この物語のストーリーテラーは僕だからね」

　現実を受け入れることなどできるはずもない。
　王妃？誰が？女王？この男の言うことなど真に受けてはならない、そう思っていたのに僕を迎えたのは残酷なまでの現実だった。

　気分がそぐわないと伝え半ば強引にアリスを部屋から追い出した。
　そしてアリスがいなくなった部屋の中、僕は白ウサギに眠っていた間に起きたことを聞いた。
　王――父はアリスにその立場を譲位し、生前退位したという。
　それに伴いそしてアリスは実質この国のトップに君臨することになり、そしてアリスは僕と婚姻を結ぶことによりこれまでとは変らない生活――礼遇を約束するというのだ。

「父は、あの男は血迷ったのか……ッ！　母が守り続けたものを手放すどころかあの気違いに継がせるなど正気の沙汰じゃない……ッ！」
「……っ、王子……」
「ッ、あの男はどこだ、僕自ら首を落としてやる……ッ」
「いけません、王子……ッ！」

　部屋を出ていこうとすれば、白ウサギに腕を掴まれ引き止められる。
　止めるな、と振払おうとするが腕を掴む白ウサギの手は強い。それとも、それどの体力すら戻っていないということか。

「……王子、さぞお辛いことでしょう。ですがここは堪えて下さい。……ここにいれば、アリスは貴方には危害を加えることはないでしょう」
「っふざけるな、お前まで僕にあいつのイカれたままごとに付き合えと言うのか？」
「アリスに逆らった者は全員投獄されました。……処刑された者も少なくありません」

　白ウサギの言葉に、先日地下牢で見かけたディーとダムの姿が頭を過る。まだ生々しい記憶だ。
　そしてそれより以前――母が処刑されたあの日、罪人として牢に入れられたことも。

「……王子、貴方には今力がない。そして反逆者として罰される立場です。……アリスの後ろ盾がなければ再び兵隊に捕らえられるでしょう」
「っ、お前は……この僕にアリスに媚び諂って生きていけというのか？」

　尋ねれば、白ウサギはいいえ、と重々しく首を横に振る。
　そしてレンズ越し、疲労が滲むその目をこちらへと向けた。

「……女王亡き今、貴方まで失ってしまえばこの国は破綻する」
「……っ！」
「今はその時ではない、と言いたいのです。……それに王子、貴方の体調はまだ芳しくありません。そのような状態で前王の元へ向かったところで門前の兵隊たちに捕らえられるのが関の山です」

　白ウサギの言葉は最もだった。
　頭の血がゆっくりと落ちていくように目の前に色が宿っていく。状況が最悪なことには変わりない。けれど、白ウサギの言う通りだ。

「……っ、悪かった、頭に血が昇っていた」
「王子……いえ、貴方が憤るのも無理はありません。……私の前では我慢をしないでください」

　白ウサギはずっと母の近くで支えてくれていた。
　度々叱咤されていたが、それでも最後まで側にいた男だ。そんな白ウサギがこうして投獄されていないということは堪えているのだろう。
　辛いのは僕だけではない、そう考えると荒れ狂っていた心がいくらか落ち着いていくのだ。

「……そうだ、エースと……侵入者の男は？　僕が捕まった日、他に侵入者がいただろう？」
「侵入者は分かりませんが、エース様は捜索中のようですね。他にも外部からの侵入者を捕えたという話は聞いてません」
「……そうか」

　それだけを聞いて一先ず安心する。
　アリスはエースを処刑するつもりでいる。それだけは絶対に避けなければならない。

「ああ、王子……エース様のことで何か進展があればいち早く貴方の耳に入れましょう」
「面倒を掛けるな」
「面倒なんて。王子の力になれるのなら本望です」

　今はもう王位もなにも残されていない僕をまだ王子と呼び、従ってくれる白ウサギの存在が今はただ頼りだった。

「これ以上長居すると不審に思われるかもしれない、私はそろそろお暇させていただきます」
「……白ウサギ、お前に会うにはどうしたらいい？」
「今、王子の体調が万全になるまでは貴方の部屋にこうして通うことを許されております。また明日、この時間帯に訪れることになるでしょうが……何かあればアリスに私を呼んでると伝えてください」
「ああ、分かった」

「それでは失礼します」と白ウサギは恭しく頭を下げて部屋を出ていく。
　一人になった部屋の中、壁に掛かった時計の秒針だけが音を響かせていた。




　白ウサギとのやり取りを思い出してはその言葉は何度も反芻していた。
　あいつが、アリスがいなければ今の自分にはなんの権力もない。
　その事実は何よりも屈辱だった。
　どれもこれも、全てはあいつらが仕組んだことなのだ。行き場のない怒りが腹の奥で渦巻く。それでも、このまま言いなりになるつもりはない。
　目的は何も変わらない。
　アリスを殺して僕が王になる。そして癌になり得るものは全て排除し、この国を全て一掃する。
　そうすれば何も変わらない、あるべきワンダーランドの姿は取り戻せるはずだ。
　とにかく今は自分の身の安全は保証されているということか。……あの男のお陰だと露ほども思いたくないが、利用できるものは全てしてやる。
　一先ず、城内の様子を確認しよう。
　そう怠い身体を無理矢理動かして部屋の扉をそっと開いた。
　そのまま通路へと出ようとした矢先のことだった。

「ようやくお目覚めか？　――お姫様」

　扉のすぐ横、そこに佇んでいた赤い軍服の男の姿を見て全身から血の気が引いた。
　咄嗟に部屋へ戻り、扉を閉めようとするが一足遅かった。
　黒革の手袋に覆われた掌は閉まる直前の扉を掴み、力づくでこじ開けられる。ドアノブから手を離すタイミングを失い、そのまま部屋の外へと引きずり出された。

「……ッ、貴様……ッ！」
「随分な挨拶じゃねえか、俺らの仲だってのに」

　赤い軍服の男――ジャックはニヤついた不愉快な笑みを浮かべたまま僕の目の前に立ち塞がるのだ。
　あの牢ではない、僕は罪人ではない、そう分かっていても全身が竦む。殴られた肩に痛みが走るのだ。
　それをこの男にだけは気取られたくなくて、震えを殺すように拳を握り締める。

「僕の目の前から失せろ、出ていけ……ッ！！」
「おいおい、あんまキャンキャン喜ぶなよ。……アリスが心配すんだろ？」
「っ、触るな、この……ッ！　んぐぅ……ッ！」

　眼前へと伸びてくる手に顔下半分を覆われる。
　分厚い掌に鼻と口を塞がれ呼吸が困難になり、咄嗟にジャックの手首を両手で掴んで引き剥がそうとするがびくともしない。
　冷たい笑みを浮かべたまま、ジャックは僕の顔面を掴んだまま部屋へと押し戻すのだ。そして続いて自ら部屋の中へと押し入ってくる。

「っ、ふ、ぅ……ッ！」
「その顔、自分は安全だと思ったのか？　……馬鹿だよなあ、本当。平和ボケ王子様は自分の立場がまだ解っていらっしゃらないようだ」

　ジャックの背後で扉が閉まる。
　自室という聖域に土足で踏み入るこの男に反吐が出るが、それ以上に触れる手がひたすら不愉快だった。思いっきり蹴ってジャックを引き剥がそうとするが、あいつは顔色一つすら変えない。それどころか。
　思いっきり腕を振り上げるジャックに、いつの日か殴られたときの痛みが蘇る。

「……ッ！」

　考えるよりも先に身体が動いていた。
　咄嗟に腕で頭を庇えば、来るはずの骨を震動させるような痛みもなにもこない。
　何故だ、と恐る恐る目を開いたときだった。身体が、足が地面から離れる。抱き抱えられていると気付いた次の瞬間、僕が言葉を発するよりも先にベッドへと身体を放り投げられたのだ。
　受け身が取れず、慌てて起き上がろうとしたときにはベッドへと乗り上がってくるジャックに頭をベッドに押し付けられるのだ。

「ッ、き、さま……ッ！」
「臭え部屋だな。……女みてえな甘ったるい匂いだ。吐き気がすんな」
「退けッ、出ていけこの……ッ！」

　言いかけたときだった。
　思いっきり臀部を鷲掴まれた瞬間、血の気が引いていく。まさか、この男は。

「……ッ、！！」
「アリスの女になれば何もされねえと思ったのか？……だとしたら、随分と可愛い脳味噌だな」

　冗談じゃない。咄嗟にベッドから逃げようとするが頭を押さえつける掌は強く、上半身を起こすことすらできない。
　腰を掴まれ、下着ごと剥ぎ取られるのを感じ、血の気が引いた。

「な、ぅ……ッ！」

　やめろ、やめろ、もう二度とあんな思いしたくない。
　がむしゃらに足を動かして背後に立つジャックを蹴り飛ばそうとするが萎えた性器を乱暴に掴まれれば全身が凍り付いた。

「ッ、や、めろ……」
「さっきまでの威勢はどうした？　まるで尻尾じゃねえか」
「……ッ、……！」

　声すら出なかった。
　少しでもやつが力を入れれば性器を握り潰されるのではないだろうかというほどの恐怖に脳が停止しそうになる。最悪な状況。どうにかして逃げなければ、そう思うのに伸びてきた指に尻の割れ目を開かされ息を飲む。手袋ではない、ジャックの指だ。肛門を撫でられ、堪らず声を上げた。

「っ、こんなことして、アリスが許すと思ってるのか……ッ！」

　そう、あいつならば。
　こんな風にあいつには頼りたくないがこの男はアリスの支持者でもある。
　それならば、という一縷の望みに賭けてアリスの名前を出したときだった、僅かに下腹部を掴んでいたジャックの指先に力が入る。そしてすぐ、背後で笑う気配がした。
　瞬間、ずぶりとねじ込まれる指に背筋がびくりと震えた。やめろ、と声を上げることも拒むこともできないまま奥まで細くはない男の指が入ってくるのだ。

「っ、ぁ゛、あ゛……ッ！」
「そんなに気になるなら試してみるか？　俺は別に構わねえよ、けど、あいつはどう思うだろうな。……アリスはお前のことを聖女かなにかと思ってやがるからな」
「っ、ぬ、け……ッ、ぬ゛……ッぅ、ふ……ッ！」

　乾いた皮膚を引っ張られ、違和感と痛みに喉が焼けるように痛む。逃げようと腰を動かす度に引きずり戻され、更に指を増やされるのだ。唾液を垂らされ、ぬちぬちと中を乱暴に慣らされる度に痛みが熱となって内側から全身へと広がるのだ。

「お前が無理矢理犯されて喜ぶような売女以下だと知ったらアリスもお前を見限るかもなあ？……そうしたら二度とお前は日の光は見れねえだろうな」

「ま、そんときゃ俺が拾ってやるよ」ゾッとした。アリスに捨てられる。こちらが捨てることだけを考えていたが、この男の玩具にされることだけは、死んでも。

「ぅ、ひ……ッ！」

　中から左右に肛門を広げられ、空気が流れ込んでくる感触に堪らず息を飲んだ。まだ完全に解れたわけではないその肛門に宛がわれる肉の感触に息を飲んだ。この男は獣だ、品性や理性などない。解っていたはずなのにそれでも動揺する自分がいた。

「まっ、待て……ッ、こんな、こと……ぉ゛……ッ！！」

　して許されるのか、という言葉は濁った悲鳴に掻き消される。力任せに挿入された性器に閉じようと縮小していた括約筋を無理矢理拡げられる。圧迫感、激痛のあまり感覚は麻痺し、目の前が白く染まった。

「う゛、ごっ、ぉ……な゛……ッ！　ぬ、抜ッ、ぅ゛……ぅう……ッ！！」
「っ、あ？……なんか言ったか？」

　聞こえねえよ、と笑いながらも腰を一気に打ち付けられた瞬間声にならない悲鳴が漏れた。息をする暇すらなかった。

「っ、ん゛ぅ……ッ、ふ……ぅう゛……ッ！！」

　内臓を押し上げられ、胃液が込み上げる。抽挿を繰り返す度に肉が潰れるような音が体内から響き、奥を亀頭で擦り上げられるだけであのときの感覚、熱があっという間に蘇るのだ。
　シーツを噛み、声を堪えようとするが噛み締めた歯の奥からはただひたすら獣じみた声が漏れる。
　必死に声を堪えようとすれば、いきなり前髪を掴まれ頭を引き上げられるのだ。

　鼻先に近付くジャックの顔。唾の一つでも吐きかけてやりたかったのに、そのまま奥根本深くまで性器で突き上げられれば開いた口からは唾液しか溢れなかった。頬を舐められ、唇ごと噛み付かれる。舌を噛まれ、舐られ、唾液を流し込まれながらも犯される。酒と煙草の匂いで吐きそうだった。

「ん……っハ、感謝しろよな、アリスとの初夜で恥かかねえよう俺がきっちりお前の身体仕込んでやるよ」
「それは名案だ。アリスもさぞ喜ぶだろうね」

「……ッ！！」

　当たり前のように混ざってきた聞き慣れない声に全身が凍り付く。脳髄へと染み渡るような甘く、鷹揚のない声。ベッドの側、いつの間にかそこには見慣れない男が肘を突き、こちらを眺めていた。深い紫色の髪、そしてニヤついただらしなく弧を浮かべる口元。こいつは確か――。

「チ……ッ、おいチェシャ猫、見せもんじゃねえぞ」
「君はよく飲み屋街でこの手の見世物を肴にしてるじゃないか、俺だって客だ。差別は良くない」
「何が客だ、なら金払えよ」

　なんで、なんでこいつがいる。
　いつから、と混乱する頭の中、それでも行為を辞めようとしないジャックに余計何も考えられなかった。

　こいつは確か、ディーを懲罰房で拷問してた男だ。助けてくれるとは期待するつもりはなかった、それでも当たり前のように動じもせず自分の痴態を眺めてくるチェシャの視線が耐えられず、必死にジャックを止めようとその鍛えられた腕に布越しに爪を立てるが突き当りを亀頭で潰された瞬間力が抜けそうになる。

「み、るな……ッ！　み、ぃ゛……ッ、う゛ひ……ッ！」
「君は随分と汚い声で鳴くんだね。俺達のアリスは金糸雀の囀りが好きなんだ、その声じゃきっとお気に召さないだろう。ジャック、もっと可愛く鳴かせてみなよ。それとも君にはそんな技巧はないのかな？」
「ッ、うるせえな、萎えるから黙ってろ……！」
「ひ、ぅ゛ッ！」

　チェシャの言葉に苛ついたように奥を執拗に舐られる。その都度脳髄で火花が散り、何も考えることができない。頭を上げることも敵わない僕にジャックは構わず責立ててくる。

「はぁっ、あ゛……ッ！　ぁ゛ッ、ひッ！」

　やめてくれ、と捩ろうとする身体を抑え込まれ何度も執拗に中を犯された。絶え間なく与え続けられる快楽に次第に脳は白く靄がかり、何も考えられなくなる。いつの間にかに固く上を向いた己の性器が挿入の度に揺れ、先端からはどろりとした液体が溢れた。

「おいおい、王子様……っ、だらしねえな」
「や゛、ぁ……ッ」
「こいつに助けを求めるつもりか？　諦めろ、こいつはそんな善良なやつじゃねえ。相手が悪かったな」
「っ、あ゛、ぁ……ッ！」

　乱暴に摩擦され、肥大した前立腺を太い性器で摩擦される。電流を流され続けるみたいに口を閉じることもできない。ジャックの中のものがさらに硬度を増すに連れ、抽挿はより激しくなる。
　突き当りを押し上げられる度に、開きっぱなしの口から獣のような声と唾液が漏れてしまう。それが己の声だということもわからなかった。

「い゛ッ、ひ、ジャックッ！　や、めろ、ぉ゛ッ！」
「おーおー、外野がいると燃えるタイプか？　なあにが王子だ、お前なんか娼婦で十分だろ！　オラ！　もっとケツ締めろ！」
「ひッ、ぎ」
「あ゛ーっ、クソ……ッ、イライラすんな……！」
「ぉ゛……ッ！　ひぐ、ぅ……ッ！」

　ベッドの上で文字通りジャックに犯され続ける。継続的な射精感は止まず、ぬるりとした精液が飛び散り気持ち悪い。腹を、臓物ごと性器で押し上げられ吐き気がする。シーツにしがみつき逃げるが、すぐにジャックに手のひらごと掴まれる。骨が軋むほどの強い力だ。

「ん゛ぅっ！　ひ、ぃ゛ぐッ！　も、や゛ッ、めろ゛ぉ……ッ！　や゛ッ、め゛……――ッ！！」

　次の瞬間、腰を抱いていたはずの腕がぬっと背後から伸びてくる。そして次の瞬間、首ごと腕で締め上げられた。

「が、ぁ゛……ァ……ッ！！」
「ッ……ふ、ぅ……！」

　上体を無理矢理起こさせるよう、ジャックは鍛え上げたその腕で僕の首を締め上げる。ぎちぎちと締まる器官、ぼこぼこと腹が痙攣する。そして、熱。最奥、大量の精液が胎内へと放出される。視界が大きくブレ、天井が映る。文字通り意識が飛びそうになる中、チェシャがただじっとこちらを見てるのを最後に意識はぶつりと途切れた。