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怪盗スピラは変態貴族兄弟に勝てない!【???】
01※
しおりを挟む――なぜ、こんなことになっているのだろうか。
豪奢なお屋敷の中、窓ガラスに反射した冴えない自分の顔と向き合う。
支給された執事服は着せられている感が拭えない。なぜこうも着る人間で印象は変わると言うのか。
窓ガラスを曇り一つないよう磨いていると、ふと足音が近づいてきた。
「やあ、トウタ。ここの仕事には慣れてきたかい?」
耳障りのいい柔らかい声。
慌てて振り返れば、そこには唯一この屋敷で見知った人間がいた。
背の高いシルエット。声同様上品な顔立ちと優雅な立ち振る舞いが様になったその人はゆったりとした足取りでこちらに近づいてくる。
慌てて俺は手に持っていた雑巾を背後に隠した。
「あ、ご主人様……」
「ふふ、二人きりの時は僕のことは名前で呼んでくれて構わないよ」
「アラネア様……」
「それより仕事中だったんだよね? いいよ、僕のことは気にしないでそのまま君は君の役目を続けて」
失礼かもしれない、と踏み台から降りようとする俺の腰をそっと支え、アラネアは囁いた。
その手がお尻に触れていることに気付いたが、必死に知らぬ顔をして俺は手にしていた雑巾で窓を磨いていく。
アラネアの長い指が尻の丸みをなぞっていく。足の付け根から腿へと、感触を確かめるようにゆっくりと。
その指先は再び上まで這い上がっていき、そのまま裾の下に隠れた奥へと辿り着きそうになったとき。
「……ぁ、あの……っ」
咄嗟に裾を押さえて背後のアラネアを振り返ろうとして、肩を掴まれる。
「前を見て」
「……っ」
「……その手を動かすんだ、汚れひとつないようにきちんとね」
ゆっくりと、抱き寄せるように背後に立ったアラネアは俺の首筋から肩のラインを撫でる。力を抜けというかのように、それでいて俺を縛り付けるような重みとともに。
「は、はい……」
頭部にアラネアの吐息を感じながら、俺は握り締めた手を再び窓へと這わせた。
背後のアラネアの存在を無視するように、下半身を撫でるその手を必死に知らぬふりをしながらも言われた通りに業務をこなしていく。
――酒場で働きつつ、副業として怪盗を始めて数日。
なぜ俺は町外れのお屋敷で窓を磨いているのかと言うと、深い事情があった。
アラネアと出会ったのは必然でもあった。
『使用人を奴隷のように扱う貴族の兄弟がいる』
そんな噂を酒場で聞いた俺は早速次の狙いを定め、その屋敷の造りや抜け道を予め下見しようとひっそりと忍び込んだ。
――そこまではよかった。
迷路のような中庭に引っかかった末に落とし穴にハマり、謎のぬるぬるとした液体にまみれながらもようやく脱出した俺の前に現れたのは一人のどこか儚げな青年だった。
『随分と可愛い迷子が迷い込んだみたいだね』
『あ……』
『声を上げないように。……今皆ピリピリしているから、君のような不審者が見つかると酷いことをされてしまうかもしれないよ?』
そう、謎の液体でテカテカと放っている俺を助けてくれたのがこの屋敷の噂の変態兄弟、その次男坊――アラネアだった。
どんなことをされるのかと戦々恐々としていた俺に対してずっと、アラネアは優しかった。
俺を風呂に入れてくれたし、着替えまで用意してくれた。
とうとう変態行為をさせられるのだろうと構えていたところ、アラネアは微笑む。
『怖がらなくても大丈夫だよ、丁度僕専属の使用人が欲しかったんだ』
『え、その……』
『皆怪盗騒ぎで構ってくれなくてさ、……君でよければ僕の専属の使用人になってくれないかな? なに、難しいことはないよ。ただ僕に付き合ってくれるだけでいいんだ。その分の相応の報酬も出す』
『い、いいんですか? 俺……』
こんなに怪しいのに、といい香りのする服に身を包まれながらもアラネアを見上げる。
アラネアは『もちろん、無理強いはしないよ』と続けた。
その場合はおそらく、正しく処罰されるのだろう。
不幸中の幸いか、まだアラネアには怪盗だということまではバレていない。
ただ迷子のフリしたのが功をなしたのか、こんな優しい人の使用人ならと俺は了承した。
それに、なんとなく噂のことが気になったのもある。
こんな優しいアラネアが使用人を奴隷扱いするのが想像できなかった。
というわけで、何故か口止めの代わりに使用人として雇われたのだが――すぐにその噂の真実を身をもって知ることとなる。
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