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SSS
傍観者は夢を見る
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痛みに堪えられず大きく開いた彼の口から喉を張り裂くような悲鳴が上がる。
文庫本に向けていた視線を上げれば、教壇の上、複数の男子生徒に囲まれた彼が露出した下半身を踏み潰されているところだった。
叩かれ、蹴られ、いたぶられたそこは赤く腫れ上がれ、たった今一人の生徒によって竿ごと潰されそうになっている。
鬱血し、醜く肥大した亀頭からは血が混ざった黄色い汁が飛び出し、漏らした彼に周りは「こいつ漏らしやがった」と下品に笑った。
彼の撒き散らした尿のせいで教室にはアンモニア独特の異臭が広がり、不快なそれに僕は僅かに眉を潜める。
溢れていた尿が途切れ、彼の悲鳴が終わったかと思えば今度は呻くような嗚咽を上げ出した。
面白がった生徒は、彼の中に残った尿を出そうと竿を二、三回踏みつければ先程まで筆記用具を詰め込まれ広がっていた尿道からは膿のような赤黄色の汁が飛び出し、激痛に目を剥いた彼はもがくように喘ぐ。
靴の跡がくっきりとついた性器を庇おうとするが拘束された彼の腕は動かない。
鼻水と涙と汗でぐしゃぐしゃに汚れた彼の顔が歪み、だらしなく開いた口からは絶叫とともに涎が溢れ、自身の上半身を汚す。
そんな彼に顔を拭くためのハンカチを差し出そうとする人間は一人もいない。
皆、楽しんでいる。彼の性器が潰れることと、その彼の反応を。教室に撒き散らされ充満する鉄が混ざったアンモニアの異臭を。
そして、僕は……。
「助けて」
声が、聞こえた。今にも消えそうな、かすれたか細い声が。
目を動かせば、すがるような目でこちらを見る彼と目があった。充血した潤んだ目。
「助けて」
彼は、酸素を求める魚のようにぱくぱくと口を動かす。
彼の折れた歯の隙間からひゅーと風が抜ける音が聞こえた。
僕は読んでいた文庫本に栞を挟み、そのままぱたんと本を閉じる。
「上蔵く、あぐらくん、待って、助けて」
これは、幻聴だ。彼が僕を見るはずがない。ましてや僕に助けなんて。
僕は彼の人生に関わるような資格はない。
ああ、駄目だ。僕はあくまで傍観者でなければならない。ましてや、誰かを助けるようなヒーローになんて。
彼から目を逸らした僕は彼の視界から逃げるように教室を出た。
なにをしたわけでもないのに呼吸が浅くなり、じんわりと汗がにじむ。
僕は、傍観者だ。誰にも関わってはならない。だって、そんな資格がないから。
彼には僕なんかよりよっぽどかっこいい別のヒーローが待っている。
だから、血迷うな。そう、自分に言い聞かせるように固く握り締めた拳を廊下の壁に叩き付けた。
それでも自分の骨が軋むばかりで、再度聞こえてくる彼の悲鳴を聞き流しながらヒーローになる勇気すら残されていない僕はただひたすらその場を離れた。
「ごめんね、ごめんね、楸くん。僕のせいでごめんね……っ」
いつ現れるのかすらわからないヒーローに制裁されるのを夢見て傍観者にすらなりきれない僕は一体なにものだろうか。
君の王子になれないことは確かなのだろうけど。
文庫本に向けていた視線を上げれば、教壇の上、複数の男子生徒に囲まれた彼が露出した下半身を踏み潰されているところだった。
叩かれ、蹴られ、いたぶられたそこは赤く腫れ上がれ、たった今一人の生徒によって竿ごと潰されそうになっている。
鬱血し、醜く肥大した亀頭からは血が混ざった黄色い汁が飛び出し、漏らした彼に周りは「こいつ漏らしやがった」と下品に笑った。
彼の撒き散らした尿のせいで教室にはアンモニア独特の異臭が広がり、不快なそれに僕は僅かに眉を潜める。
溢れていた尿が途切れ、彼の悲鳴が終わったかと思えば今度は呻くような嗚咽を上げ出した。
面白がった生徒は、彼の中に残った尿を出そうと竿を二、三回踏みつければ先程まで筆記用具を詰め込まれ広がっていた尿道からは膿のような赤黄色の汁が飛び出し、激痛に目を剥いた彼はもがくように喘ぐ。
靴の跡がくっきりとついた性器を庇おうとするが拘束された彼の腕は動かない。
鼻水と涙と汗でぐしゃぐしゃに汚れた彼の顔が歪み、だらしなく開いた口からは絶叫とともに涎が溢れ、自身の上半身を汚す。
そんな彼に顔を拭くためのハンカチを差し出そうとする人間は一人もいない。
皆、楽しんでいる。彼の性器が潰れることと、その彼の反応を。教室に撒き散らされ充満する鉄が混ざったアンモニアの異臭を。
そして、僕は……。
「助けて」
声が、聞こえた。今にも消えそうな、かすれたか細い声が。
目を動かせば、すがるような目でこちらを見る彼と目があった。充血した潤んだ目。
「助けて」
彼は、酸素を求める魚のようにぱくぱくと口を動かす。
彼の折れた歯の隙間からひゅーと風が抜ける音が聞こえた。
僕は読んでいた文庫本に栞を挟み、そのままぱたんと本を閉じる。
「上蔵く、あぐらくん、待って、助けて」
これは、幻聴だ。彼が僕を見るはずがない。ましてや僕に助けなんて。
僕は彼の人生に関わるような資格はない。
ああ、駄目だ。僕はあくまで傍観者でなければならない。ましてや、誰かを助けるようなヒーローになんて。
彼から目を逸らした僕は彼の視界から逃げるように教室を出た。
なにをしたわけでもないのに呼吸が浅くなり、じんわりと汗がにじむ。
僕は、傍観者だ。誰にも関わってはならない。だって、そんな資格がないから。
彼には僕なんかよりよっぽどかっこいい別のヒーローが待っている。
だから、血迷うな。そう、自分に言い聞かせるように固く握り締めた拳を廊下の壁に叩き付けた。
それでも自分の骨が軋むばかりで、再度聞こえてくる彼の悲鳴を聞き流しながらヒーローになる勇気すら残されていない僕はただひたすらその場を離れた。
「ごめんね、ごめんね、楸くん。僕のせいでごめんね……っ」
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