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CASE.10『ヘッドハントヒーロー』
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しおりを挟むそれから、サディークを交えて俺たちは三人で解放区を見て回ることになる。
早く二人きりになりたいのだろう。露骨に真咲に冷たく当たるサディークさんだが、対する真咲さんは手慣れた様子でそれを気にも止めず、且つ隔てなく振る舞う。こういった真咲の姿勢は見習うべきところでもある。俺はメモを取りつつ、改めて解放区で生活を送る他のビクテムたちを観察する。
養成区では浮いていたこの濃紺の制服も、解放区では当たり前に馴染んでいる。
そこにいるビクテムは皆それぞれが思い思い過ごしている。
それを脇目に、真咲に解放区の中心部にある食堂へと案内された。
「そういや佐渡さん、ここの飯食いましたか?」
「……食ってないけど、なに?」
「ここ、職員たちにも評判なんですよ。まあ職員勤めでも解放区勤務じゃないと食えないって評判なんですけど。俺は何度か解放区にヘルプできたときに食わせて貰ったんですけど、うまいっすよ」
「へえ……そうなんですね」
いいなあ、と思っていたのが顔に出ていたらしい。はっとした真咲は「まあ、あそこの飯も慣れたらクセになりますよ」と慌ててフォローする。
サディークはそれをじとりと睨む。「なんでこいつは解放区じゃないんだ?」と聞きたいのだろう。それでもぐっと堪えているのはこちらにも伝わってきた。
解放区での食事は確かに美味しい。
開けた広場にはお祭りのような屋台もあって賑わっている。
お祭りのような雰囲気に酔いつつも、反面さっさと二人きりになりたそうにそわそわしてるサディークが視界に入るたびにこちらまで落ち着かない気持ちになるのだ。
しかし、真咲はなかなか俺たちを二人きりにさせることこはなかった。
結局案内してもらっているうちに日は傾き始める。
解放区では基本保護シェルターがあり、そこで大体のビクテムが生活しているようだ。まだ幼い子供は別の養護施設で生活しており、そこが昼間サディークがいたところらしい。
施設としてはヒーローたちのあの部屋よりかは高待遇らしいが、代わりに厳しい門限があるという。
夕刻までに自室へと戻らなければならないと。
それでは、そろそろなのか。
結局サディークと二人抜け出す暇もなく悶々とした時間を過ごしてきた俺が意を決したとき。
「それじゃ、そろそろ俺たちはお暇させてもらいましょうか」
そう俺の肩を軽く叩く真咲に、俺もサディークも「え」と思わず声を重ねた。
「い、いやいや……早いでしょ。てか今日一日アンタが居たせいでこいつとまともに話すこともできなかったんだけど?」
「それは最初に時間取ったじゃありませんか。それに、一応今日の自分は善家さんのサポート役なんで目を離すこと自体本来NGになります。……けど、流石に再会時くらいはと大目に見させてもらってはいるんでその辺汲んでいただけると有難いんですけども」
「おかしいだろ、こいつにぴったりサポート付くこと自体。こいつが何かしたってわけ?」
「さ、佐渡さん……まあまあまあ」
これは同じビクテムからして当たり前の疑問だ。
敢えて疑問を投げかけることによってビクテム且つ俺の友人としての立場としての質感を持たせてくれているのだろう、サディークさんは。
それしても少し熱が入りすぎている気もしてならないが、真咲の態度は砕けつつもあくまで揺るがない。
「善家さんがどこまで話しているのかは分かりませんが、俺も末端の末端なんで。上から言われることしかできないんですよ。……佐渡さんなら分かってくれるかなって思ったんですけど」
そうぼそ、と呟く真咲。その言葉に少し引っかかりを覚えつつも、これ以上は話にならないと判断したらしい。
「……じゃ、そのままそいつを養成区へと連れて帰るって?」
「ご理解いただけたようで何より。……積もる話はあるでしょうが、また明日以降担当の者にお願いします」
「……」
滲む不信感を隠そうともしない。
サディークさん、流石にこれ以上は真咲さんに怪しまれるかもしれないです。
そうアイコンタクトを送れば、サディークは小さく息を吐いた。
「……なるほどね」
「ご不便おかけして申し訳ございません」
「……」
明らかにテンション下がっているサディークにそっと近づけば、サディークは萎れたまま俺を見た。
頭を撫でたい衝動に駆られるが、真咲の前だ。ぐっと堪え、代わりに「佐渡さん、また明日会いにきますね」と耳打ちする。
髪の下、覗く耳がぴくんと反応する。それから「……ん」と小さく頷いた。
す、素直だ……。
こんなことを言ったらサディークさんに怒られるかも知れないが、元気のないサディークさんも少し可愛いかもしれない。……などと思ったことは本人に伝えないでおこう。
それから「じゃあ、おやすみなさい」ととぼとぼと帰るサディークさんを見送りつつもなんだか焦らされた気分のまま真咲さんと共に解放区へと戻ることになる。
「佐渡さんって、善家さんのお友達なんですよね?」
――養成区へ戻る途中。
殆どのビクテムや職員たちは施設へと戻っているため、日中賑わっていた解放区は閑散としている。代わりに、主に夜の活動をメインとした隠密系のヒーローたちや任務帰りの私服のヒーローの姿が散見された。
養成区まで戻ってくれば、あれほど馴染んでいた濃紺の制服が浮いて見える。
遠くから視線を感じつつ、俺は隣に並んでいた真咲を見上げる。昼間見た時とは暗い場所で見る真咲の横顔は印象が違って見える。
本人の顔の造形が華やかなのもあるだろうが、笑顔がないというだけでもなんとなく怪しくみえるのだ。
「はい、佐渡さんにはよくお世話になってます」
「付き合ってるんですか?」
「え?」
「なんだか距離感的にそうなのかなって。踏み込んだ質問すみません、だとしたら佐渡さんに嫌われるわけだなーっと」
丁度近くに人気はなかったものの、突拍子もない真咲の指摘にぎくりとした。
それから慌てて首を横に振る。
「ち、ちがっ、違います! 佐渡さんはお友達です、た……ただの……」
「へー? ……佐渡さんが聞いたら悲しむんじゃないです? それ」
「ま、真咲さん……っ!」
「はは、すみません。善家さんたち見てるとなんだか学生の頃の同級生見てる気分になっちゃって」
だからか、やたらとサディークを刺激するような振る舞いをしていたのは。
「あの、佐渡さんはその……繊細な方なので。あまり刺激しないでくださいね」
可哀想なので、と言いかけた時。ふと立ち止まった真咲がこちらをじっと見つめてくる。
「……優しいですね、佐渡さんにも」
落ちてきた声は風で聞き取れなかった。「え?」と聞き返そうとしたとき、伸びてきた手にそのままそっと耳に触れられる。
「あ……あの、真咲さん?」
「……」
ほんの時折、二人きりになるときに感じていたむず痒さにも等しい違和感が襲いかかる。真咲の目に見つめられるとなんだか恐ろしく不安になるのだ。
その理由が分からない。だけど腹の内側がぞわぞわとする。無数の指で愛撫されているような奇妙で甘い感覚。
何かされているのか。真咲に。
そう直感で感じ、視線を外したとき。その違和感は一気に遠のいた。
けれど代わりに止まっていた時が一気に動き出したかの如く心臓はバクバクと激しく脈打つ。
何をされていたのか、それすらも分からない。
「あ……あの、今、何かしましたか?」
「いえ? 俺は何も?」
「……」
「それとも、何か感じましたか?」
いつもと変わらない笑顔。それなのにうっすらと開かれたその目に見つめられ、足の裏から力が抜けそうになる。
「ぃ……いえ、気のせいかも……です」
踏み込まないほうがいい。
本能が警笛を鳴らす。バクバクと激しく脈打つ心臓を抑えながら俺は「じゃあ、部屋に戻りましょうか」という真咲にそっと肩を支えられながら寮へと戻ることとなった。
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