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CASE.10『ヘッドハントヒーロー』
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しおりを挟む真咲とともに部屋へと戻ってきてからというもの、真咲は変わらない様子で俺の話し相手をしてくれる。
体調面だったり気になることだったり、当たり障りのないヒアリングとともに何やら調書を取る真咲。
時折真咲さんから感じる違和感はなんなのだろうか。
とにかく下手を打たないように細心の注意を払いつつ、真咲からの質問を躱す。
けれどあれ以降真咲からあの時のような違和感を感じることはなかった。
そしてどれ程の時間が経っただろうか。
自室の呼び鈴が鳴らされる。俺の代わりに真咲が立ち上がり、そのまま玄関口へと向かった。
扉を開けば、そこには――。
「よ! 良平、会いに来たぜ~」
「真赤君、また君は……っと、ごめんね。善家さん、お邪魔するよ」
「真赤さん? 四葉さんも……!」
「あーあ、うるせえのが来たな」
ずかずかと部屋へと上がってくる真赤はそのままベッドに腰をかけていた俺の元までやってくる。それに続く四葉と、やれやれと肩を竦める真咲さん。
広くはない自室はあっという間に人口密度が増す。
「僕は真咲君の引き継ぎできたんだよ。ええと、真赤君は……」
「こんな狭い部屋で寝てんのか? 寝れねえだろこのベッド、俺の部屋くれば? ――むぐ」
「真赤君はそこでちょっと会っただけなんだけどね?」
そのまま人のベッドに転がろうとしていた真赤さんを回収する四葉さん。
その手つきは猛獣使いのように手慣れていた。
「ごめん、騒がしくして」
「本当だよ。……ったく、俺居る時でよかったよ。真赤、問題起こすなって言われてるだろ」
「んだよ、人をヴィランみたいに言いやがって。起こしてねーよなぁ? 良平」
「え、ええと……」
「相手にしなくていいよ、善家さん」
不満そうな真赤さんを見てるとなんとなく紅音君のことを思い出してしまう。
タイプは違うが、素直ですぐ顔に出るところは似ているのかもしれない。
なんて懐かしい気持ちになっていると、「それより」と徐に四葉さんが会話を切った。
「面談は終わった? 真咲君」
「軽くな。あとはお前に任せるよ」
「うん。ありがとう」
「んじゃ、あとは本業のやつらに任せますわ。……善家さん、またね」
「は、はい……! 今日はお付き合いありがとうございました、真咲さん」
慌てて立ち上がって頭を下げれば、真咲はひらひらと手を振ってそのまま自室を出て行った。
「真咲のやつ、羨ましいよな。良平と一緒に過ごすのが仕事かよ」
「それは僕にも刺さるからやめてね、真赤君」
「なあ四葉、俺と交代しねえ?」
「しないけど。……でもヒアリング、今日は君がする?」
それは思いついたような口ぶりだった。
真咲から受け取ったらしいボードを手にする四葉。その口から出た言葉に、真赤さんも俺も目を丸くした。
「あ、俺でいいんだ?」
「君も、善家さんには色々聞きたいことあるんじゃないかと思ってね。……勿論僕は同席させてもらうけど。あと、あまりにも立ち入った内容は僕の方からNG出すから」
「それおもろくねえじゃん」
「おもろいからやってるわけじゃないんだよ、これは」
つまらなさそうな真赤に対し、四葉は呆れたように眉を寄せる。
この面談はただのカウンセリングではないと分かっていたが、まさか真赤が相手になるとは思わなかった。
乗り気ではなさそうだったものの、四葉の手からボードを奪うように手にした真赤は無言で目を走らせる。そして、「あー、そゆこと」と小さく呟いた。
それからそのままベッドに腰を下ろした真赤は立ち尽くしていた俺の腕を取り、やんわりとベッドへと引っ張った。
「……あ、あの……」
「んじゃ、今日は俺とお喋りしようぜ。良平」
「真赤君、そっちじゃなくてこっちの席でね」
「ダメダメ。分かってねえな。テーブル隔てたら分かるもんも分かんねえって、なあ? 良平」
「あ、俺はどっちでも……」
「善家さん、無理しなくていいからね?」
「はい、大丈夫です。真赤さんがそう仰られるなら俺はここでも」
「……ごめんね、付き合わせちゃって」
自分から提案しただけに負い目を感じてるらしい四葉に俺は笑い返す。
それから俺と真赤は並んでベッドに腰をかけたまま、少し離れたところに簡易椅子に腰を下ろした四葉という謎の状態のまま面談は始まった。
「お前、ヴィラン連中のところに捕まってたんだってな」
「……はい」
「その時の記憶がハッキリしないって書いてあるけど、少しも覚えてねえの? 例えば、そこにいた連中の顔とか。お前を捕まえていたやつの顔とか」
――単刀直入。
敢えて皆触れてはこようとしなかった部分に躊躇なく突っ込んでくる真赤に驚いた。
いや、正確にはいた。一人。――万年青さんと会った時のことを思い出しながら、俺は小さく頷いた。
四葉もまさか直球で本題に突っ込んでくるとは思わなかったらしい。「真赤君」と呆れたように目を丸くした。
「お前が見つかったとき、触手に捕まってたらしいな。触手遣いってなるとわりと割れやすいんだよな。それに、あの触手。万年青のやつが一部切り取って持って帰ってきたお陰で大分特定しやすくなってる」
……それは初耳だった。
思わず「え」と反応しそうになるのを堪える。そんな俺の隣、電子ボードを弄っていた真赤はとあるページを拡大表示させる。
そこにはいくつかの顔写真がずらりと並べられていた。
全員が全員、戦闘中の映像を切り取ったかのように画質も顔の向きもばらつきがある。
恐らくここにいるのはヒーローとの戦闘記録が残っている者たちだろう。
「ここに見覚えのある顔は?」
思わず画面を見たまま息を呑む。そこに羽虫の写真はなかった。
「真赤君」と何か言いたげな顔をする四葉を無視し、「で、どうなんだよ」と真赤は俺の肩に手を回した。
「い、……いえ……見たことない方ばかりです」
体が、声が震えそうになるのを堪えて首を横に振れば、「まじか、振り出しじゃねえか」と真赤は俺の方へともたれ掛かってきた。
「真赤君、そのデータベースは……」
「まあまあまあ、いいじゃねえか。分かったろ? こいつを飼ってたのは普段地上に上がってこねえやつ。もしくは隠密系のやつだって」
「……っ、それは……」
「お仕事でやってんだから聞くことは聞かねえと。良平も家に帰れてないんだろ?」
「……真赤さん」
大雑把なようでいて、俺のことも考えてくれていたのか。その反面何も考えずにずけずけ立ち入ってきたと思っていただけに、思いの外真実に近づく真赤に嫌な汗が滲む。
「どうした? 良平。何か思い出したか?」
「……いえ、その……」
もしかしたら適当なヴィランを指名しとくべきだったのかもしれない。あまりにも咄嗟のことで対応ができなかった自分を悔やんだとき、真赤の手にしっかりと肩を抱き寄せられた。
「体、すげー硬くなってんじゃん。あー悪い、思い出したくないこと思い出させたか?」
「い、いえ、……その、皆さんのお力になれるのでしたら……俺も協力したいと思ってますので……」
「……ん。ありがとな、良平」
そう言って真赤は俺の肩を軽く叩き、笑う。
先程までの鋭い雰囲気とは違う、俺の知ってる無邪気さすら感じる真赤の笑みにほっとした。
そんな俺たちのやり取りをハラハラした顔で四葉は見守っていることに、その時の俺には気づく余裕などなかった。
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