ヒーロー志望でしたが、手違いで三食宿付きヴィラン派遣会社に永久就職(?)することになりました。

田原摩耶

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CASE.09『ヴィラン志望です!』

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 そう言えば先程、もう一人作戦に加わると安生さんは言っていた。
 もしかしてサディークさんのことを指していたのか。
 そう純粋な驚きと思いの外元気そうなサディークに喜びを覚えるのも束の間、安生に肩を叩かれる。

「積もる話もあるでしょう。感動の再会はそちらのゲートに入ってからにしましょうか」

 そう目の前の機械の扉を指差す安生に俺は何度か頷いた。サディークも俺たちの顔を見るなり何か察したのだろう。小さく顎を引く。


 閉じたままの『C23』の扉だったが、安生が何か扉に触れて細工をすればそこだけ通電したかのように動き出した。シャッターが上がり、その先への道が開かれる。
「さあ、どうぞ」と安生。俺たちがそこへ入るのを確認し、安生は再び扉を閉じた。

 そこには大きな転移装置が置かれていた。
 その装置の台座の上に乗れば、特定のエリアへと飛ばされるタイプの転移装置だ。

「ここまで来れば地上までは目と鼻の先です。この転移装置はヒーロー協会のある区域へと飛ばされます」

 そう、装置の側に立った安生はゆっくりと俺たちを見渡した。

「残念ながら私はこの先へは行けません。地下からできる限りのサポートはするつもりですが、期待はしないでください。その代わり、そこの二人に全て伝えていますので」

 安生の言葉に、東風と羽虫が頷く。

「あくまで今回の目的は情報収集・操作、そして人材確保です。戦闘は回避してください。それから、ヒーロー協会周辺には別件で配属されているうちの社員もいます。彼らにも我々の動きは悟られないよう、最善の注意を払ってください」

 うちの社員という言葉にハッとする。
 そうか、安生さんの話だと兄さんからの指令できているナハトさんたちがいる可能性があるのか。
 そう考えると血の気が引いた。青ざめる俺に気づいたらしい、安生さんは「先ほども申した通り、ヒーロー協会にさえ潜入すれば問題ありません」と頷いた。

「最悪、バレて捕まりそうになったときの対応もそこの二人にお願いしていますので君は何も考えずいつも通りにしてくれれば大丈夫です」
「わ、分かりました……!」
「それと、地上での彼らとの連絡はこれを使ってください」

 そう安生から手渡されたのは地上で一般的に普及されているタイプのデバイスだ。手のひらサイズのそれをまじまじと眺める俺の横、他の三人にも同じものがで渡される。

「こちらは細工無しのものなので、あちらでも怪しまれずに使用できるかと。お互い連絡先は偽装して登録済みなので確実確認しといてくださいね」

 ちらりと連絡先を確認すれば、『むしさん』『こっちー』『佐渡』と書かれているのが見えた。いや、分かりやすくはあるけども。
 これはギャグなのか本気なのか分からずに反応に困っていたところ、手を叩いた安生は「それじゃ、最終確認しっかりしてくださいね~」と引率の先生のように声をかけてくる。

 俺も一応上着を着替え、忘れ物がないかの確認をする。なんとなく学生の頃のことを思い出しつつ、俺はネクタイを締め直した。

「あの、安生さん」
「なんですか?」
「――兄さんのこと、よろしくお願いします」

 安生は少しだけ目を開き、そして何も言わずに微笑む。
 開くゲートの前までやってきたとき、安生の手が肩に乗せられた。「貴方次第ですよ」と耳打ちされたと思った次の瞬間、肉体がゲートの光の中に飲み込まれた。

 瞬きをする、その一瞬の出来事だった。

「わ、……っ!」

 ゲートホールから落ちそうになった体を、下から生えてきた触手によって抱き抱えられる。
 そのままずるずると太い触手にしがみついたままコンクリート張りの地面に落ち、俺は顔を上げた。


 照りつくような日差し。太陽に向かって伸びるビルの影。
 久しぶりの日光は俺にとってあまりにも眩しく、そして焼けつくほど熱かった。

 ――帰ってきたのだ。地上に。

 触手はしゅるしゅるとコンクリートの裂け目へと吸い込まれていく。支えを失った状態のまま暫く地面の上に張っていた俺はよろ、と立ち上がり、辺りを見渡した。
 同じゲートを潜ったはずなのに、他の三人の姿は見当たらない。
 俺の側には羽虫さんから預かっていたあのアタッシュケースが転がっていることに気づき、慌てて俺はそれを拾う。

 ヒーロー協会に侵入する、ということは、ヒーローの人たちと会わないといけない。
 その前に他の三人と話したいこともあったが、取り敢えず一目につかない場所を探すべきか。

「おい、おい……!」

 と移動しようとしていたところで、背後の暗闇から小声で声をかけられた。
 振り返れば、建物と建物の隙間、そこに更に背の高い影が伸びている。

「サディークさん……!」
「良かった……拾えた。……ったく、あの人自分が言いたいことだけ言ってこれだもんな。……はあ、先が思いやられる」
「あの、他のお二人は……?」
「他の二人は潜伏。俺は……お前と一緒に行動、ってことになってる」

 そうデバイスを取り出したサディーク。そこから表示される量子モニターに、サディークのものらしき電子身分証が表示された。
 ――佐渡幾為。
 そう表示された名前にただ目を拵える。

「サドキナリ、ってことらしいから」
「……え?」
「だから、俺の名前。……まあ、好きな方で呼んでもらっていいけど」

「良平なら」となんだか居心地の悪そうな、照れ臭そうなものが入り混じった表情でサディークは続ける。

 サディークさん曰く、本当は本部に侵入する役目はサディークだったらしい。
 というのも、サディークさんの能力は一般的には隠匿されている。発揮条件は特殊ではあるものの潜伏性が優れ、一般的に見ても無害な人間に近いからだ。
 俺の代打でもあり、情報を引き抜くのに最適な人材でもあるというわけだ。
 ……が、もちろん佐渡幾為なる人物は存在しない。存在すると思い込ませることができればこちらのものだ――それがサディークの目的だと言う。
 そのために東風を協会内部に安全に入れるのが先決だと言う。
 因みに二人もどこかに潜伏しており、羽虫の触手片を持っている限り二人にも俺たちの会話や状況は伝わっているらしい。そううねうねとした蛸足のような触手を手にしたサディークさん。
 もしかして、とポケットを探れば、いた。なんかもぞもぞしてると思ったら触手だったようだ、嬉しそうに手を振るような仕草のそれを撫で返し、俺は再びポケットにしまう。

「……と、一先ずそれがある限りあの人はどこでも助けれるから心配はいらないよ」
「それは心強いですね……! っと、そういえば、サディ……佐渡さんはご存知だったんですか? あの……」
「羽虫さんのことは、俺もあの人らに連れてこられてから知った。……普通にビビるでしょ、なんでいんのって」

 ということは、ECLIPSEの皆も知らないのだろう。
 複雑そうなサディークだが、「ま、元気そうでよかったけど」とわざと触手に話しかけるように口にすれば触手はもぞもぞと動きながらサディークの手のひらの中に隠れる。

「はあ……ま、いいや。感動の再会とか言ってさ、そんな空気にも慣れないし。つか、良平はいいわけ。分かってんの?」
「はい、大丈夫です!」
「……相変わらずだね。どっからくんの? その謎の自信」

 呆れたように、けれどもどこか懐かしそうに目を細めてサディークは笑った。
 穏やかな笑顔だ。ずっと暗い表情ばかりを見ていたこともあってか、そんなサディークの笑顔についこちらも気が緩む。

 不安がないわけではないが、それもサディークが一緒だと分かってから薄まっているのは確かだった。

「サディ……佐渡さんのお陰です」
「はいはい。……皆に言ってるやつでしょ、それ」
「ち、ちが……わなくもないですが、今回は本当に心強いと思って――」

 るんですよ、と続けようとした矢先だった。
 近くの柱に取り付けられたスピーカーから警告音が鳴り響く。これは――ヴィラン襲撃を報せるサイレンだ。
 地下ではまず聞くことはないその久し振りのサイレンに驚き、足が竦みかける。
「近いな」とサディークが呟いたその次の瞬間、向かい側の歩道にあったビルが音を立てて崩れていくのを見た。
 まるで積み木が壊れるように軽々と吹き飛ぶ瓦礫、そして土煙から現れる巨大なシルエット。
 それを見た俺は安生さんの警告を思い出した。

『ヒーロー協会周辺には別件で配属されているうちの社員もいます』

 ――嫌な予感がする。

「サディ……佐渡さん! こっちへ!」
「え、うお……っ! 待った、俺日陰じゃないと辛い……」
「大丈夫です! この辺日陰はたくさんあるので!」

 それも、間も無く無くなるかもしれないが。
 なんて思いながら一先ず騒ぎが広がるその一帯から離れるため、サディークの腕を引いたまま俺は走り出す。
 少しヒーロー協会本部から離れてしまうが、仕方ない。
 ヒーローたちに出会う可能性と等しくヴィランたちとの遭遇確率も高いことを思い出しながら俺は久し振りに帰ってきた地上を満喫する暇もなく駆け回ることとなった。

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