親友がカルト因習村村長の息子だった話。

田原摩耶

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 カビの匂い。湿気を含んだ部屋の空気。
 薄っぺらいベッドがあるだけのその部屋の中へと足を踏み入れた永良はそのままベッドに腰をかけた。
 それから隣を叩く。こちらへと来いということらしい。
 ここまできて後に引くという考えは頭になかった。俺はそのまま永良の隣に腰をかける。
 貧相なベッドの足が軋む。

「……ここがお前の部屋?」
「まあ、物心ついてからは寝泊まりは別でしていたけどね。お陰様でガキの頃はよく体を崩していた」 
「なんでここに連れてきた?」
「話をするならここが一番丁度いいと思ったからだよ。ここには盗聴器はないし防音も優れている。邪魔は入らない」
「……」
「ただ、肺にカビが生える」
「笑えねえな」

 何が面白いのか永良は笑う。それもすぐ、無表情になった。ゾッとするほど冷たい目で俺を見る。

「なんで帰ってきた? 帰省にはまだ早いよ」
「帰ってきたつもりはねえよ。永良」
「じゃあ、俺を殺しにきた?」
「違うな」
「……」
「お前に聞きたいことがあった」
「俺にはないよ」
「俺があるんだよ。永良」

 手を伸ばせば届く距離にあいつがいる。
 数年の空白も全て俺たちの間にはなかった。あいつと一緒にいるその空間はいつの日かの教室のように、或いは村外れの別荘、はたまた夕暮れ時の公園のように、記憶の中のまま永良は存在していた。

「なんであの時、俺を村祭りに参加させなかった」
「……」
「あの後、人をレイプした理由はなんだ」
「……」
「……村祭りのとき、この村でなにがあった」
「……」
「答えろ、永良」
「……」
「……なんで、俺を逃した?」

 ずっと引っかかっていた。咀嚼しようとしても歯も立たないほど疑問と違和感しかない。
 全てを憎悪で煮詰めることもできた。けれど時間が経ち、一つまた一つと実情を知れば知るほど嘉瑞永良という存在が分からなくなる。

 どんな答えが返ってきてもいい。
 それでも直接会って聞きたかった。永良の言葉で。

 永良はぼんやりと壁を見つめていた。
 そして、「はは」と笑う。渇いた笑い声が部屋の中に響いた。

「ねえ、隣春。その質問内容、まるで俺のことを意識してるみたいじゃないか」
「質問に答えろ」
「答えるかどうかは俺が決めることだよ。隣春」
「俺と話をするためにわざわざこんなカビ臭い部屋まで連れてきたんだろ」
「……だから、答えろって?」
「ああ」
「それ、すごく勝手だ」
「お前が言えた口かよ」
「俺はいいんだよ」
「……永良」
「お前が好きだから」

 唐突にその口から出てきた言葉に目を動かす。
 足をぶらぶらさせていたと思えば、そのまま手持ち無沙汰を誤魔化すように永良は片膝を抱き抱えた。顎を乗せ、こちらに視線を向けたまま永良は微笑んだ。

「なんて、言って欲しかったの?」
「……」
「なあ隣春。俺はさ、つまらない話は嫌いなんだ」
「ああ……俺もだよ」
「もっと楽しくて建設的な話をしよう。隣春」
「俺とお前の間に建設的な話があるのか?」
「ないね」

 そう永良はジャケットの下から何かを取り出した。カバー付きのナイフだ。人を殺すのに手頃そうな長さと大きさのそれを手にした永良は俺に手渡した。

「永良」とそれを突き返そうとした時、永良は身につけていた衣類の裾をたくし上げる。あの時よりも鍛えたのだろう。割れた真っ白な腹部に手を這わせた永良は笑った。

「今がチャンスだよ、隣春」
「……なにが」
「お前はここを、俺を潰しに来たんだろ? ここに来るまでお前はそれなりに頑張ったはずだ。だから、その褒美だよ」

「殺せよ、隣春」お前の好きにしろ、そう言うかのように永良は俺の手にナイフを握らせるのだ。

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