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第三章
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しおりを挟む「間人君、たまには散歩する?」
それはある日のことだった。
やることもなく、スマホのカメラ機能を使って部屋の中のものを撮ったりしていると、ふと花戸の方から声をかけてくる。
どういう風の吹き回しなのか。
驚いて反応に遅れていると、花戸は「ずっと籠りっぱなしだと体が悪くなるだろうし」と微笑む。
窓の外は既に傾きかけている。
こんな時間から?とも思ったが、誰も居ないような深夜帯に連れ出されるよりはましだ。
けれど、また訳の分からない首輪を嵌められるのではないか。そう思うと首を縦に振る勇気は出なかった。
「……」
「嫌?」
問いかけられ、自分でも戸惑う。
自分は何を渋っているのだろうか。どう考えてもここに閉じ込められっぱなしでいるよりかはましではないか。
無言で頷き返せば、「分かった」と花戸は頷いた。
「それじゃあ準備しないとね。もう少し待っててね、すぐ戻ってくるから」
そう言うなり花戸は奥の部屋へと引っ込んでいく。
花戸が戻ってくるのを待っている間、ずっと嫌な緊張が全身を痺れさせていた。
散歩ということは、この間みたいにやつの車に乗せられることはない、はずだ。でなければ意味がない。
閉じ込められている場所を警察に知らせる。
この男が殺人犯だと言う。
警察署に駆け込む。
頭の中でいくつものシミュレートを組み立ててみるも、どれも実現する気がしない。
それ以上に『今ではない』という気持ちが自分の中に芽生えている。
ただ罪を償わせるのは意味がない。この男を最も高いところから突き落とさなければ。
……だから、今日はこの男に付き合ってやるのだ。
「お待たせ、間人君。夜は少し風が冷たいからこれ、羽織るといいよ」
「……ありがとう、兄さん」
そう、そっと肩にかけられる薄手のジャケットに袖を通す。
瞬間、僅かに花戸が動きを止めた。
「……、……」
それから、何もなかったように花戸は微笑む。
俺はそんなやつの顔を盗み見てはなんとなく違和感を覚えた。
自分から兄呼びしろと言ったくせに、なんだ。
いちいち一喜一憂されても鬱陶しいが、違和感が拭えない。
花戸が用意したのは上着だけだった。
もしかしてまた首輪を嵌められるのではないかと身構えていた俺に、花戸は「それじゃ、行こうか」と俺に手を差し出す。
「……」
なるほどな、と思う。
ある種、電流が流れる首輪よりもキツいかもしれない。
痺れる指先を握り締めた後、そのまま俺は花戸の手を取る。乾いた掌は俺の手を握り締め、指ごと絡め取った。
「俺たちは今から恋人だよ。俺たちくらいの兄弟が手を繋いで歩いていると不審に思われる可能性があるからね」
「……」
「だから、外では俺のことは名前で呼んでね」
わざと兄さんと呼んでやろうかとも思った。けれど、あまりにも力強く握り締められる手にそんな気も削がれる。
「俺の名前、覚えてるかな?」
試すような物言いと視線に神経を擽られる。
芳名帳に綴られたあの几帳面な字を忘れられない自分を突きつけられるようで。
「――成宗さん」
そう口にすれば、花戸は笑みを深くする。
それから褒めるように頭をそっと撫でられ、額に押し付けられる唇の熱さに思わず後ずさった。
「心配はいらなさそうだね」
そう花戸は俺の手を引き、玄関へと向かう。
――試されている。
やつの言動からそれだけは明確だった。
俺がどこまで耐えられるのか、そのテストのつもりなのかもしれない。
実家に顔を出すよりはマシだ。
そう自分に言い聞かせながら、俺は花戸に引っ張られるように玄関口を出た。
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