この腐った学園で生き抜くためのたった一つの方法。

田原摩耶

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「因果応報ですよ、先輩」
「……天方」
「聞きました、部長に。新入生のスキャンダル捕まえなきゃ先輩が生徒会長さんの肉便器になるって」
「概ね合ってるのが癪だな」
「ケツの具合は?」
「お陰様で椅子に座れない」
「でしょうね。ドーナツ型のクッション、あれ職員室から借りてきましょうか?」
「……使用済みは嫌だ」
「アンタはこんなときでも相変わらずなんすね。……ま、変に落ち込まれるよりかはマシすけど」

 そう言って天方は俺のデスクに近づいてくる。背もたれに置かれた手。なんだ、と顔を上げれば思いの外近い位置に顔があって一瞬息を呑む。
 ばちりと睫毛がぶつかりそうな、そんな位置。

「……取り敢えず、一人目の記事用意しときましょうか」
「何、一人目って」
「『花形新聞部員、先輩に片思いをしていたが生徒会長に寝取られる!』……なんて、どうです? 先輩が書きそうな頭の悪い見出し」

 本当にな、そんなことありもしないのに。
 笑おうとして上手く笑えなかった。理由は明白だ。ネクタイを掴まれたから。天方に。

「……なんのつもりだ」
「先輩、これから他の奴らにも抱かれに行くつもりなんすよね?」
「……な」
「さっき売店で切れ痔用の薬とローション買ってんの見かけました。流石にゴム買うのは恥ずかったんですよね」

 お前、見てたのかよ。
 最悪だ、と脳が処理をする前に、そのまま襟のボタンを外していく指に思考が向く。

「それと、『これ』の関連性がどこにある?」
「これ以上先越される前に、先に抱いておこうかと」
「……なんだって?」
「あんな連中にこれ以上先輩が傷物にされるくらいなら、傷ついたアンタを優しく抱きまくって俺で上塗りしたいって話。一人ならまだしも、二、三人に抱かれた後に回されんのもやだから、そうなるとタイミングって今しかないですよね? 先輩」
「まあ、その場合はな」
「そういうことで」

 惚けてる暇もなかった。
 軽く触れるようなキスをされたかと思った瞬間、部屋の奥でフラッシュが焚かれる。思わずそちらに目を向ければ、「ああ、タイマーですよあれ」と天方はなんでもないように微笑んだ。

「でもその反応は生っぽくていいすね。……これならいい記事かけるでしょう」
「ああ、そうだな。ご協力感謝する。……で、いい加減退いてほしいんだが」
「なんで?」
「……なんでって」

 スキャンダルには十分だ。俺の顔にはモザイクをかけて、『プレイボーイ新入生、早速新聞部部室に連れ込みキス!』でも十分話題性はある。

「まだ弱いっすよ、先輩。そんなんだから生徒会長に詰めが甘いって言われるんすわ」
「な……今俺のことを馬鹿にしたか?」
「してませんよ、先輩は可愛いって言ったんです」

 そっちの方がなんか、と言い終わるよりも先に、イタズラにキスをされる。今度はすぐに離れなかった。柔らかく唇を啄まれ、舌で擽られる。
 こんなの。

「――っ、ぷ、は……っ!」
「先輩」
「ふざけるのもいい加減にしろ、俺はこれから取材の準備をしないと……」
「しなくていいですよ。そんなの」
「え……」
「光永と梁井のネタは掴んでます。脅せば多少協力してくれますよ」
「な、んで」
「だって先輩があいつらのことばっか構ってるから、先回りしてネタ掴んでおこうと思って。ああ因みにあいつらには俺以外の新聞部は相手にしなくていいって言い聞かせてるから先輩が何言っても無駄ですので」

 唖然とただ天方を見ることしかなかった。

「なんで」
「だってそうしたら先輩、俺のこと頼るしかなくなるでしょう?」

 優しく頬を撫でられる。指先が耳の溝をなぞり、天方は微笑んだ。

「あんなカス生徒会長の肉便器より、俺の犬の方がよくないっすか。先輩」

 語尾にハートがつきそうなほど甘ったるい声で天方は囁きかけてくる。
 確かに、それはそうかもしれないな。
 セックス疲れで擦り切れた頭の中、吹きかけられる甘い言葉の数々に酔いつぶされそうになってきた。

「つまり……お前の言うことを聞けばさっさと生徒会長からも解放されるってわけだな」
「そうです」
「そんで、その代わりに今度はお前の肉便器になれと?」

 力なく天方の胸に頭を沈める。
 天方は存外優しい手つきで俺の頭を抱きしめて、髪を掻き上げた。

「それには語弊があります。――まあ、恋人ですね」
「………………そうか、よく分かった。お前が言いたいことは」

 そう、俺は体を起こし、天方から離れる。
 そして胸のポケットに隠していたペン型ボイスレコーダーを取り出した。

『あんなカス生徒会長の肉便器より、俺の犬の方がよくないっすか。先輩』

「うん、なかなかよく録れてるな」
「おい、先輩アンタ……」
「これを使えばお前にケツを差し出さずとも光永と梁井も言いなりにでき、そしてあのカス色ボケ生徒会長からも免れることができるというわけだ。……天方、感謝するぞ」

 惚ける天方の手を振り払い、向き直る。

「先輩」
「ついでに言っておくが、天方。部内恋愛は禁止だ」

「今まで世話になったな。その点は礼を言ってやる」けれど、俺は誰の犬にもなるつもりはない。

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