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友達の作り方
03
しおりを挟む「今日は静かでいいな」
放課後になり、ギリギリまで渋谷君を待っていた郁君はそう皮肉を言いながら帰宅する準備をする。
確かに、渋谷君が近付いてきたお陰でここ数日は毎日のように賑やかだった気がする。
前までは当たり前だった二人だけの時間が静かと感じるのだろうからよっぽどなのだろう。
「そうだね」と笑い返せば、廊下の方を見ていた郁君は小さく頷いた。
「これ以上遅くなっちゃうと先生に怒られるよ、そろそろ帰らなきゃ」
「……でも、慶太」
「渋谷君なら今日はもう来ないんじゃないかな」
「ね、残念だけどしょうがないよ。渋谷君も多忙なんだよ、きっと」促しても促しても動こうとしない郁君に声を掛けた。が、郁君は「でも遅くなるときはいつもメッセージくれる」となかなか折れない。
「じゃあほら、連絡する暇もないくらい忙しいのかもしれない。彼はお友達が多いみたいだったしね」
「要人、腹減ったんなら先帰ってていいぞ」
「え、郁君」
「……俺は、もう少し待ってる」
そう口にする郁君の横顔はどことなく寂しそうだった。
郁君を毒牙から守ったはいいが、どうやら既に手遅れだったようだ。
携帯を取り出し、まるで駄々っ子のようなことを言う郁君は本気で渋谷君が来るまで帰るつもりはないようだ。変なところで律儀で生真面目、そして頑固な郁君の性格が災いしたか。
待ってもどうせこないというのに――そう、内心冷や汗を滲ませた僕は「いやでも」と口ごもらせる。すると、きょろりと郁君の目がこちらを向いた。
「なんだよ、なんか今日お前様子変だよな。なんかあるのか?」
相変わらず、鋭い。
どうしても帰らせようとする僕を不審に思ったようだ。そう尋ねてくる郁君はじっと僕を見上げるが、そのまま僕が押し黙れば黙るほど郁君はしゅんと寂しそうな顔をする。
恐らく郁君は大体想像ついているのだろう、僕が渋谷君のことをよく思っていないこと。そしてそれを隠して郁君に合わせていたこと。
一度引きこもってから変にナイーブになってしまった郁君のことだ。今まで面倒を見てきたことを思い出し、僕に対して強く言えないのだろう。
表情豊かな分、頬の筋肉の動き一つで郁君の心情が手に取るようにわかった。
……まずい。傷付けたかもしれない。
「……もしかしてなんか用あるんなら構わず先帰っててもいいからな」
どこかばつが悪そうに続ける郁君。
我慢したような顔。ああ、駄目だ、駄目だ駄目だ駄目だ。そんな顔をされると堪らなく助けてやりたくなる。
いや、僕は郁君に対して自分は甘過ぎるんだ。甘やかし過ぎはよくない。
そう自制心を利かすが、郁君のためにやっているのにその行動によって結果的郁君を悲しませたり寂しがらせたりするのはどうなんだという心の声に頭が痛くなる。
ジレンマ。自分の任務遂行と郁君の笑顔。
どちらが大切かと聞かれれば答えはすぐにでる。
「……渋谷君なら今日は来ないよ。――捻挫して保健室に寝てるんだって」
「さっき、僕の携帯にメッセージ来てたから」そう気付いたときには僕はそんなことを口にしていた。
――ああ、我ながら甘過ぎる。
校舎内、保健室。
「慶太、お前捻挫したんだってな。大丈夫か?」
「あれ……っ? ちょっ、なんで、二人とも……」
カーテンを開き現れた僕と郁君に対し目を丸くした渋谷君は顔を青くさせ、そうわなわなと声を震わせた。
特に郁君の後ろにいた僕に驚いたようだ。まるで幽霊でも見たかのような顔をする渋谷君。
「郁君が渋谷君に会いたいって言ってたからさ」
そんな渋谷君に対し僕は小さく笑いかけた。
ますます渋谷君は混乱してるようだ。まだ意識が混濁してるのかもしれない。変に頭が回り出すよりも、今のうちに手を打っておいた方がいいかもしれない。
そう判断した僕は、ベッドの端へと逃げようとしていた渋谷君の肩をそっと掴んだ。
「足は大丈夫? 部屋まで送るよ」
「……え、やっいい!」
「……いいのか?」
渋谷君の全力拒否にショックを受けたような顔をする郁君に、僕は渋谷君の胸についたままになってる安全ピンを強く引っ張った。
「っ」
「遠慮しなくていいよ。まだ足痛むんだよね」
「郁君の言うこと聞かないならここにもつけるよ」布団をかけ直すふりをしてそのまま渋谷君の下半身に手を伸ばした僕は、そのままそっと耳元で囁いた。郁君に見えないよう、下腹部をぎゅっと掴めば、渋谷君はびくりと体を震わせた。手の中のそれは確かに固くなっていた。
そして、
「……わかったっ、わかったからっ」
「なにがわかったの?」
「……部屋まで帰るの、手伝ってください」
苦虫を噛み潰したような顔をしてそう呻くように吐き捨てる渋谷君に、僕は胸の安全ピンをくいっと引っ張る。
「っ」早速泣きそうな顔をしてこちらを見上げてくる渋谷君に僕は「笑顔」と小さく口を動かした。
すると、どうやら僕が言いたいことを理解してくれたようだ。渋谷君は眉を寄せるようにして目を細め、強張る顔の筋肉を無理矢理動かし唇の両端を持ち上げる――いつもに比べてぎこちなく、へったくそな笑み。
やりすぎたか、と僕は安全ピンから手を離した。
「じゃあ、郁君は渋谷君の荷物持って先に外で待ってなよ。すぐ僕たちも行くから」
「要人、お前一人で大丈夫か?」
「うん」
きっと郁君の中ではきっと僕は何年前の愚図のままなんだろうなあ。なんて思って、ちょっと情けなくなる。
あまり成長してないのも事実だけど、郁君になにかあったときのため体力だけはつけていたから結構力あるんだよ。……それに、渋谷君をここに連れてきたのも僕だ。
そう胸を張りたかったが、今言うべきことではないだろう。
渋谷君が寝ている間にクラスメートの人が鞄を持ってきてくれていたようだ。ベッドの傍に置いてあるそれを抱え、郁君はカーテンを開きそのまま保健室を出る。
郁君の姿が見えなくなったのを確認して、僕は「立てる?」と渋谷君に声をかけた。
「またさっきみたいにおんぶしようか」
「……っ」
「渋谷君、そんな顔しないで。郁君が待ってるんだから早く降りてよ」
「……御厨」
「なに?」
「なんで、さっき」
余程動揺しているのか、そうしどろもどろと言葉を紡ぐ渋谷君。が、その先は続かなかった。
なんでさっきあんなことしたのか。
……それとも、なんでさっきあんなこと言ったくせにここに来るんだ、か。
前者は身を以て分からせたし、恐らく後者だろう。
「僕が思ったよりも、郁君が君のことを気にいってるんだよね。だから、渋谷君にはまた郁君と仲良くしてもらいたいんだ」
「ごめんね。本当は僕も二度と君を郁君に近付けたくなかったんだけどさ、郁君が君と仲良くしたいって言うから」だから、また仲良くしてもらっていいかな。
言いながら、僕は屈み込んで渋谷君の足に上履きを履かせる。
「仲良くって」
「勿論、賭け抜きでね。嫌って言うなら、さっきの写真渋谷君の友達に一斉送信するから。あ、因みに写真は待ち受けにしといたから確認しておいてね」
「返事は?」上履きを履かせ、湿布が貼られた足首をそっと撫でながら渋谷君を見上げる。渋谷君は顔をしかめたまま、こくこくと何度も頷いた。
「……そっか、渋谷君が優しい人で安心したよ」
というより、物分かりがいいと言った方が正しいかもしれない。
そう笑ったとき、保健室の方から「おーい」と郁君の声が聞こえてくる。
どうやら待ち侘びてしまったようだ、気が短い郁君を知っている僕は慌てて立ち上がり「じゃあ、行こうか」と渋谷君に手を差し出す。
相変わらず怯えたような顔をしてこちらを見上げてくる渋谷君だったが、やがておずおずと僕の手を掴んだ。
エピソード1【友達の作り方】END
「君には精々、郁君の楽しい学園生活のための友達としてその役割に励んでもらおうかな」
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