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金属バットとラブレター
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しおりを挟むエピソード2【金属バットとラブレター】
蕪木佳夫(かぶらきかお)、十六歳。
自慢じゃないけど顔はそこら辺の連中よりいいと思う。目が合えば女は「可愛い」と頬を染め、男は「こいつなら」と血迷うくらいには。
まあ、そんなこんなでボクは入学した男子校でアイドル扱いを受けていた。
ただでさえ女っ気のない男子校、ボクみたいな男でも女神扱いされるしまあ、正直悪くない。
イケメンにちやほやされて、平凡以下の不細工連中はパシリにして入学してから今までそれはもう満足な学園生活を送ってきた。
それなのに、どういうことだ。
「慶太、慶太! 慶太ってば!」
「だから、ついてくんなって言ってんだろ」
「だって慶太無視するじゃん」
学園内、廊下。
そう、目の前を行く男子生徒・渋谷慶太の腕を掴めば、足を止めた慶太は「忙しいんだよ、わかれよ」とうんざりしたような口調で小さく息を吐いた。
これだ、この顔だ。仮にも元恋人に対し、『うわまじだりー』とでも言いたそうな態度を隠さない慶太にボクはむっと頬を膨らませる。
「なんだよ、いつも自分の用があるときばっか呼び出すくせにボクが呼び出したら忙しい忙しいって」
「そんくらいでキレんなよ。まじで忙しいんだって」
立ち止まって相手をしてくれるのかと思いきや、ボクと対話してる時間すら勿体ないとでも言うかのように慶太は目の前で携帯を弄り出す。
前までは鬱陶しいくらい優しかったのに。そううじうじと悔やみはしないが、やはり、自分を見てくれないのは寂しい。
「遊びたいなら他当たればいいだろ。佳夫(かお)ならそこら辺のやつでも相手してくれるって」
そして、とどめ。
あっさりと携帯を仕舞ったと思えば、そう宥めるように続ける慶太は笑いながらボクの頭を撫でてくる。
ここ最近のことのはずなのに、その手が酷く懐かしく感じる反面その気遣いがただ息苦しかった。
「違う、ボクは慶太と……っ」
今までの行いを考えれば、誤解されるのは仕方ないのかもしれない。
それでも、やっぱり自分の気持ちはわかってて欲しくて。
切羽詰まって、慶太に詰め寄ったボクはそのまま慶太を見据える。
また、慶太と付き合いたい。
たったこれだけを伝えるだけなのに、慶太の目を見ると酷く息が詰まり、言葉が出ない。顔が熱くなった。
――ああ、早くしろ、早くしろ。せっかく二人きりになれたのだから。
そう、勇気を振り絞って緊張した唇を薄く開いたときだった。
「慶太!」
廊下に響くわ溌剌とした明るい声。
背後からするその声につられて振り返れば、そこには色素の薄い男子生徒ともう一人、ぱっとしない生徒が立っていた。
男子高生にしては線の細いその美少年の姿を見るなり、ぱっと人懐っこそうな笑みを浮かべた慶太は「おー榛葉!」と手を軽く振り、ボクの横を通り過ぎてその美少年に歩み寄っていく。
ああ、そうだ――榛葉郁(しんばかおる)。
ボクよりも可愛いだとか噂されてる一個上の二年で、今、慶太が狙ってるって言われてる男。
「悪いな、遅くなって。んじゃ行くか」
そう言いながら、慶太は榛葉とその取り巻きの男子生徒に笑いかける。
ここ最近やたら見かける光景なのに、目に映るもの全てが邪魔で堪らない。
せっかく榛葉たちがいない隙を狙ったのに。二人きりになったのに。
なんで邪魔をするんだ。
疎外感、不快感、嫉妬、物寂しさ。それらが混ざり合い、胸の奥底におどろおどろとした嫌な感情が産まれる。
楽しそうに談笑しながら立ち去る連中の背中を睨みながら、ただ一人取り残されたボクはぎりっと噛み締めた。
――学生寮、ラウンジ。
「っ、うぅ、慶太の馬鹿……っ」
「ハハハッ! だからあの時言っただろ、絶対俺の方が良いって」
授業に出る気にもなれなかったボクは友人を呼び出して愚痴っては慶太のことを思い出し泣きそうになっていた。
そんなボクに対し、友人――内藤恭二は寧ろ楽しそうに笑う。
「っく、笑うな恭次!」
向かい側の席。自販機で買ったペットボトルを凹ませて遊ぶ恭次を睨むが、当の本人はどこ吹く風で軽薄な笑みを浮かべた。
「どいつもこいつも趣味悪いんだよ、今さら謝ったって知らねえからな」
前、恭次と慶太に告白されたとき、ボクが慶太を選んだのを未だ根に持っているようだ。ねちっこいやつめ。
恭次にしてみればそれほどボクが好きだったというより、そのことにより自尊心を傷つけられたことを恨んでいるのだろう。
どちらにしろ、そっちが勝手にただの遊びで付きまとっていたとわかった今、恭次のやつに申し訳ないとも思わなかった。
「別に謝らないよ。でも、なんだよ慶太のやつ、信じらんないっ。なんなのあいつ、榛葉郁! もう恭次たち賭けやめたんじゃなかったの?」
「ああ、止めたよ。渋谷が降参して終わり」
唸るように吠えるボクに対しそう続ける恭次は少しだけ考えて難しそうな顔をする。
「……だったんだけどなあ、まだ榛葉郁に付きまとってるってことは、あいつまじで榛葉に惚れてたりして」
「はあ? なにそれ、慶太そういうキャラじゃないじゃんっ」
「ほら、人間誰しも恋に落ちるときは落ちるって言うだろ?」
自信たっぷりなニヒルな笑みを浮かべ、べこりとペットボトルを潰す恭次。なに言ってやったみたいな顔してんだよ、ムカつく。
恭次のこういう、なんというのだろうか、見透かしたような態度とか、言うことなすこと偉そうなところが好きになれない。あと手遊びをやめないところ。
……本当、慶太はなんでこんなやつとつるんでいるのか。
なんて思っていると、不意に真面目な顔をした恭次は手遊びを止め、こちらを見据えた。
珍しく真面目な顔をする恭次に内心ドキッとしながら、ボクは「なんだよ」と相手を見つめ返せば、ふっと恭次が笑った。
「お前もそろそろ諦めろよ、あいつ、絶対お前のこと興味ねえから」
本当、なんなんだこいつは。ムカつく。
小馬鹿にしたような顔をして鼻で笑う恭次。その言葉は現在進行形でナイーブになっているボクにとって酷なもので、べこりというペットボトルが潰れる音と同時に自分の中のなにかがブチりと千切れるのがわかった。
「っ、知ってるから、そんなこと。慶太が、ボクのこと、興味ないとか……っそんなこと……ひ、ぅぐ……うぅっ」
喋りながらも、ぐにゃりと世界は歪んだ。
鼻の奥がツーンとして、熱くなった目頭からぶわわっと涙が込み上げてくる。
こういうのにはホント、弱いのだ。恋愛とか失恋とかそういうのには。
ぼろぼろ泣き出すボクに対し、ぎょっと目を丸くした恭次はペットボトルを弄ぶ手を止める。
「あれ、お前まじで慶太好きだったの? うっわ引くわー」
ホント、こいつは憎まれ口しか叩かないというか、どうやったらこうもひねくれた人格が出来上がるのだろうか。こいつの育ての親の顔が見てみたい。
「うっさい恭次、慰めてよっ」
「はいはい、他のやつ呼んでやるからそっちによろしく」
「恭次の馬鹿っ、薄情者ーっ!」
目の前に泣きじゃくる可愛い子がいるにも関わらず、面倒臭そうな顔をしてさっさと逃げ出そうとする恭次。あまりの冷たさに堪らず怒鳴れば、恭次はただただ楽しそうに笑った。
くそ、これも全部榛葉郁のせいだ。
慶太が構ってくれないのも、パシりだったやつが学校来なくなったのも、恭次がくそ生意気なのも、全部!榛葉郁のせいだ!
榛葉郁、今に見てろよ――ギャフンと言わせてやる。
そう一人意気込むボクはふんと鼻を鳴らし、テーブルの上に残されたペットボトルを恭次に投げ付けた。普通に避けられた。ムカつく。
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