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壱畝×齋藤
【溺愛壱畝】壱畝×齋藤/IF/メリバ
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【溺愛壱畝】
最近よく夢を見る。
鬼のような形相のハルちゃんが、俺の首を締めてくるのだ。
喉仏を圧し潰すように、掌全体に力を込めて徐々に締め上げられる首の感触は酷くリアルで。
息が詰まり、目の前が白ばんでいき……そして目を覚ます。
目を覚ましたとき、決まって全身は汗でびしょ濡れになっていた。
そんなことがあるわけない、有り得ない、そうわかっていても、あの時のハルちゃんの目を思い出すだけで腹の奥底から得体のしれないものが込み上げてきて、手足が震えだした。
「おはよう、ゆう君」
そんな自分を落ち着かせるように腕を擦っているとベッドの傍に陰が一つ。
ハルちゃんだ。
「おはよう。……早いね、今日は休みなんじゃなかったっけ」
「あぁ。……でも、そろそろゆう君も起きる頃だと思ったから。ほら、お腹減っただろ。用意してるから待ってて」
白い部屋の中。
何かをとりに行くハルちゃんから目を逸らした俺は窓際の花瓶に目をやった。
色鮮やかな花は日に日に色や形を変える。
変わらない風景を眺めることしか出来ない俺を気遣って、ハルちゃんが毎日花を差してくれてるんだ。
学校行きながらオジさんたちの手伝いもしてるのだから本当はゆっくり休むべきなのに、ハルちゃんはこうして毎日俺に会いに来てくれる。
それが、純粋に嬉しかった。
それと同時に、申し訳なくなるのも事実だ。
「はい、どうぞ」
「ありがとう。……あ、これ」
「前に出掛けたとき、好きって言ってただろ。これ」
差し出されたのは見覚えのあるジャンクフードだ。
本当は先生たちが用意するモノ以外は口にしてはダメだと言われてるけど、俺はこっそりハルちゃんが持ち込んでくれるお土産を楽しみにしていた。
ハルちゃんは俺の好きなものを全部わかってくれてる。
このジャンクフードだって、確か、去年……?いや、もっと前だろうか、一緒に遊びに行った時に二人で食べたんだった。
「ありがとう、ハルちゃん。……でも、もういいよ、こうして毎日会いに来てくれなくても」
「何言ってんだよ。今更遠慮されても困るんだけど」
「でも、ハルちゃんだって忙しいだろうし……」
「ゆう君」
静かに名前を呼ばれ、無意識に体が硬くなる。
恐る恐る顔を上げたとき、ハルちゃんはにこりと笑った。
いつものその笑顔に、全身の緊張が解ける。
そして、そこで自分が緊張していたことに気付いた。
「余計なこと考えるのは腹が減ってるからだって、先生、言ってたぞ。ほら、喋る暇あるなら食えよ」
「あっ、ちょ、待って、ハルちゃん」
半ば強引に押し付けられるそれに、「わかったよ」と受け取ればハルちゃんは目を細めた。
ハルちゃんは強引だ。
だけど、その強引さが今の俺にとっては有り難かった。
袋を開ける俺をニコニコと眺めながら、ハルちゃんは「たくさん食べろよ」と笑う。
促されるがままジャンクフードを口にすれば、腹が満たされたのか次第に眠気が襲ってきた。
「……おやすみ、ゆう君」
薄れ行く意識の中、柔らかいハルちゃんの声だけが甘く響いた。
▼
▼
▼
齋藤が見付かった。
そう阿佐美から連絡を受けた俺はすぐさま指定された場所へと向かった。
都内の大型病院、そこの一角に齋藤は入院しているらしい。
白く長い通路を渡り、やってきたのは大きな白い扉の前。
扉横のプレートには阿佐美から聞いていた数字が確かに記されていて、それを一瞥した俺はそのまま扉を開いた。
そして、部屋の奥、大きな窓から差し込む陽射しに思わず目を細める。
「……齋藤?」
そこには、一人の青年がベッドの上で上半身を起こしていた。
齋藤だとわかったのは、その背格好からだ。
最後に見たときよりも少し伸びた黒い髪、それでもどこか面影が残っていて。
「齋藤っ」
間違いない、齋藤だ。
そう確信し、ベッドの上の齋藤に歩み寄れば、齋藤はようやくこちらを振り返る。
その顔に、俺は言葉を失った。
まるで顔を隠すかのように、目と鼻と口以外の部位には白い包帯が何重にも巻き付けられていた。
それだけでも声を失ったのに、齋藤は。
「……あの、どちら様ですか?」
まるで初めてあったかのように戸惑いの眼差しを向けてくる齋藤に、俺は、その場に立っていられるのがやっとのことで。
真っ暗になっていく視界の隅、ベッドのネームプレートに記された『壱畝佑樹』の文字に俺は膝から力が抜け落ちるのを感じた。
――志摩、よく聞いて。
――君も知っている通り、去年ゆうき君は事故で死んだ。
――いや、表向きそういうことになっているんだけど肝心の死体が出てこない以上、俺はまだ生存している可能性を信じた。
――結論から言おうか。
――齋藤佑樹という人間は見つけることができなかった。
――……その代わり、丁度事故が遭った日と同じ時期に入院したゆうき君と同じ年代の人を探してみたんだ。
――そしたら見付けたよ、一人。
――アンタにとっては、最悪なのかもしれないけど、そこまで気になるなら当たってみればいい。
――俺には、できなかった。……あんなゆうき君を見るなんて。
END
最近よく夢を見る。
鬼のような形相のハルちゃんが、俺の首を締めてくるのだ。
喉仏を圧し潰すように、掌全体に力を込めて徐々に締め上げられる首の感触は酷くリアルで。
息が詰まり、目の前が白ばんでいき……そして目を覚ます。
目を覚ましたとき、決まって全身は汗でびしょ濡れになっていた。
そんなことがあるわけない、有り得ない、そうわかっていても、あの時のハルちゃんの目を思い出すだけで腹の奥底から得体のしれないものが込み上げてきて、手足が震えだした。
「おはよう、ゆう君」
そんな自分を落ち着かせるように腕を擦っているとベッドの傍に陰が一つ。
ハルちゃんだ。
「おはよう。……早いね、今日は休みなんじゃなかったっけ」
「あぁ。……でも、そろそろゆう君も起きる頃だと思ったから。ほら、お腹減っただろ。用意してるから待ってて」
白い部屋の中。
何かをとりに行くハルちゃんから目を逸らした俺は窓際の花瓶に目をやった。
色鮮やかな花は日に日に色や形を変える。
変わらない風景を眺めることしか出来ない俺を気遣って、ハルちゃんが毎日花を差してくれてるんだ。
学校行きながらオジさんたちの手伝いもしてるのだから本当はゆっくり休むべきなのに、ハルちゃんはこうして毎日俺に会いに来てくれる。
それが、純粋に嬉しかった。
それと同時に、申し訳なくなるのも事実だ。
「はい、どうぞ」
「ありがとう。……あ、これ」
「前に出掛けたとき、好きって言ってただろ。これ」
差し出されたのは見覚えのあるジャンクフードだ。
本当は先生たちが用意するモノ以外は口にしてはダメだと言われてるけど、俺はこっそりハルちゃんが持ち込んでくれるお土産を楽しみにしていた。
ハルちゃんは俺の好きなものを全部わかってくれてる。
このジャンクフードだって、確か、去年……?いや、もっと前だろうか、一緒に遊びに行った時に二人で食べたんだった。
「ありがとう、ハルちゃん。……でも、もういいよ、こうして毎日会いに来てくれなくても」
「何言ってんだよ。今更遠慮されても困るんだけど」
「でも、ハルちゃんだって忙しいだろうし……」
「ゆう君」
静かに名前を呼ばれ、無意識に体が硬くなる。
恐る恐る顔を上げたとき、ハルちゃんはにこりと笑った。
いつものその笑顔に、全身の緊張が解ける。
そして、そこで自分が緊張していたことに気付いた。
「余計なこと考えるのは腹が減ってるからだって、先生、言ってたぞ。ほら、喋る暇あるなら食えよ」
「あっ、ちょ、待って、ハルちゃん」
半ば強引に押し付けられるそれに、「わかったよ」と受け取ればハルちゃんは目を細めた。
ハルちゃんは強引だ。
だけど、その強引さが今の俺にとっては有り難かった。
袋を開ける俺をニコニコと眺めながら、ハルちゃんは「たくさん食べろよ」と笑う。
促されるがままジャンクフードを口にすれば、腹が満たされたのか次第に眠気が襲ってきた。
「……おやすみ、ゆう君」
薄れ行く意識の中、柔らかいハルちゃんの声だけが甘く響いた。
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齋藤が見付かった。
そう阿佐美から連絡を受けた俺はすぐさま指定された場所へと向かった。
都内の大型病院、そこの一角に齋藤は入院しているらしい。
白く長い通路を渡り、やってきたのは大きな白い扉の前。
扉横のプレートには阿佐美から聞いていた数字が確かに記されていて、それを一瞥した俺はそのまま扉を開いた。
そして、部屋の奥、大きな窓から差し込む陽射しに思わず目を細める。
「……齋藤?」
そこには、一人の青年がベッドの上で上半身を起こしていた。
齋藤だとわかったのは、その背格好からだ。
最後に見たときよりも少し伸びた黒い髪、それでもどこか面影が残っていて。
「齋藤っ」
間違いない、齋藤だ。
そう確信し、ベッドの上の齋藤に歩み寄れば、齋藤はようやくこちらを振り返る。
その顔に、俺は言葉を失った。
まるで顔を隠すかのように、目と鼻と口以外の部位には白い包帯が何重にも巻き付けられていた。
それだけでも声を失ったのに、齋藤は。
「……あの、どちら様ですか?」
まるで初めてあったかのように戸惑いの眼差しを向けてくる齋藤に、俺は、その場に立っていられるのがやっとのことで。
真っ暗になっていく視界の隅、ベッドのネームプレートに記された『壱畝佑樹』の文字に俺は膝から力が抜け落ちるのを感じた。
――志摩、よく聞いて。
――君も知っている通り、去年ゆうき君は事故で死んだ。
――いや、表向きそういうことになっているんだけど肝心の死体が出てこない以上、俺はまだ生存している可能性を信じた。
――結論から言おうか。
――齋藤佑樹という人間は見つけることができなかった。
――……その代わり、丁度事故が遭った日と同じ時期に入院したゆうき君と同じ年代の人を探してみたんだ。
――そしたら見付けたよ、一人。
――アンタにとっては、最悪なのかもしれないけど、そこまで気になるなら当たってみればいい。
――俺には、できなかった。……あんなゆうき君を見るなんて。
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