天国地獄闇鍋番外編集

田原摩耶

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志摩×齋藤

【√α後日談】志摩誕生日おめでとうSSS

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「まさか、齋藤が十二時ぴったりに『おめでとう』なんて言いながらプレゼントを持ち出す日が来るなんてね」

 出会ってから数年経っても、志摩のこの物言いは変わることはない。恐らくこの先も変わらないのだろうな、なんて思いながらも「志摩がそう言ったからね」と返せば、志摩はやや不満げにこちらを見るのだ。

「なにそれ、俺のせいってこと?」
「志摩のお陰って意味だよ。……それより、それ、まだ開けないの?」

 時計の針が十二に重なったのを見て渡したプレゼントは未だリボンすらも解かれずに志摩の腕の中にあった。
 それを大事そうに抱えたまま、志摩は「もう少しこのままでいる」と呟くのだ。

「食べ物だったらどうするの?」
「齋藤が食べ物選んでくるとは思わないし」
「なんで?」
「俺が、残る物の方が好きだから」

 なんだか仕返しされたような気分だった。
 こちらへと視線を向けた志摩はそう笑うのだ。にっこりとした外向きの笑顔だ。
 そこまで信頼されると少し照れくさくもあるが、志摩の言う通りだ。食べ物となると、好みに煩く偏食気味な志摩に味や素材でごちゃごちゃ言われて喧嘩になるよりはと無難に志摩の好みに合わせた。
 そんな俺の心も読まれてることだろうが、本人が嬉しそうならまあいいかとも思った。

「……それじゃ、俺は寝るから」

 役目は終わった。明日は授業もあるし、その後バイトもある。そのままあくび混じり俺はソファーから立ち上がり、志摩を残して寝室へと戻ろうとしたら「は?」と志摩がつられて立ち上がった。

「は? ……ってなに?」
「なに? じゃないよ、齋藤がなに? もしかしてもう寝るつもり?」
「……志摩、俺今日遅かったから疲れてるんだよ。それに、朝も早いし」
「俺の誕生日なのに?」
「代わりに明日休みにしたってこの前言ったと思うけど……」
「それでも、まだ一時だよ? 俺の誕生日は今日しかないんだよ?」

 ……予め俺の予定は伝えてたし、そのときもやや不満げではあったものの渋々納得してたので大丈夫だろうと思っていたが、俺は志摩の物分りの悪さを甘く見ていたようだ。

「……志摩、この前説明したと思うけど」
「それでも、普通恋人の誕生日に休みを入れるでしょ。齋藤ならわかってくれると思って俺、今日休みにしたのに」
「ええ……」
「サボって」
「志摩、我儘言っちゃだめだよ」
「我儘じゃないよ。普通でしょ。マナーだよ、マナー。いくら齋藤でも『知りませんでした』で許さないからね」
「志摩……」
「……」

 ついには人の腕を掴んだまま黙り込んでしまった。そもそもそんなマナー聞いたことない。

「志摩、そうやってこの前も一緒に暮らして七ヶ月記念とか初めて俺が手料理作って一週間記念とか言って仕事休ませたでしょ。そのせいで、ちょっと店長にやんわり怒られたんだからね」
「じゃあその店辞めよ。バイトもしなくていいよ、社会経験なんてそのうちつくから」
「またそんなこと言って……」
「でも、じゃあさ、今日くらいはいいでしょ。……ちゃんとした記念日だし」

 他のがこじつけに等しいちゃんとしていない記念日だという自覚はあったらしい。
 そう少しだけ語尾を弱くした志摩。あれほど饒舌で口から生まれてきたみたいな男が珍しくごにょついている。
 どうやら俺に咎められてる自覚もあるようだ。
「……だめ?」と恐る恐る尋ねられ、俺はどうしたものかと考えた。俺は志摩にしおらしくされると弱いらしい。

「……駄目、じゃないよ。けど、三時までには寝させてね」

 そして、折れるのもいつもの流れだ。
 俺の言葉に、志摩は「どうだろうね」と笑った。

「まあ、それも齋藤の頑張り次第なんじゃない?」
「……志摩。もしかして今の、演技?」

 あまりにもけろっとして人を寝室へと連れこもうとする志摩に堪らず問かければ、志摩は「演技?なんのこと言ってるの?」と悪びれもなく笑うのだ。

「俺は齋藤には本当のことしか言わないよ。……この先もずっとね」

 含んだような言葉とともに、呆けた俺の額にキスをする志摩。本当に食えないやつだと思う。扱いを覚えたのはこちらとばかりと思っていたが、どうやらそれは向こうも同じだったようだ。

「ま、齋藤が休みたくないって言っても休まざるを得ない状況を作ればいいわけだしね。そのときは最悪、俺が齋藤のバイト先に電話してあげるから任せてよ」

 ――なにを任せるというのか。
 さらっととんでもないことを言う志摩の言葉が冗談に聞こえず、俺はぶるりと背筋を震わせたのだ。


 ◆ ◆ ◆


「……」

 三時まで、と言ったのに気付けば空は明るくなっていた。隣で眠る志摩は俺からのプレゼントである抱き枕を抱きしめたまま眠ってる。
 久しぶりに志摩の寝顔を見たかもしれない。
 あまり眠れないのか、それとも睡眠が浅いのか。俺が起きるときとほぼ同時かそれよりも先に志摩はだいたい起きてる。眠っているところをあまり見なかっただけに、今こうして志摩の寝顔を見ることが出来て感動してる自分もいた。

 ――まあ、あれだけ疲れるような真似をしたのだから、本来ならばこれが普通なのだろうが。

 このまま志摩が目を覚ますよりも先に支度を済ませよう。そう起き上がり、ベッドを降りようとしたとき。がしっと手首を掴まれる。

「おはよう、齋藤」
「……おはよ、志摩」

 どうやらそれもつかの間のことのようだ。「どこ行くの?」とそのまま起き上がってくる志摩に、「トイレだよ」と答えながらやんわりと志摩の手を離させようとするが、離れない。

「ぐ……」
「齋藤、今日は全休だよ」
「違うよ」
「じゃあ俺も齋藤の学校に行く」
「前もそう言ってついてきたけど、講義中暇だとか文句行ってたじゃん」
「……けど、一人でいるよりマシだし」
「……はあ」
「は? 今もしかして溜息吐いた? 俺のことうざいって思った?」
「ち、違うよ……今のはアクビが出ただけ」
「俺と話してて退屈だったってこと?」

 ああ言えばこう言う。このままでは埒が明かない。そう判断した俺はそのまま志摩の額にキスをした。
 昨夜の仕返し、というわけではないが、ただ触れるような子供じみたキスだ。それでも、志摩を静かにさせるには充分だった。

「……分かったよ。今日は志摩の我儘に付き合うよ」
「齋藤」
「けど、仕事中と受講中はちゃんと待っててね。……夜、美味しいところご飯食べに行こうね」

 そう頭を撫でれば、志摩はそのまま「……うん」と小さく頷いた。そのまま抱きついてくる志摩の背中をぽむぽむと叩きながら、俺は裕斗さんもこんな気持ちだったのだろうかと思った。
 あの人の昔話で聞く志摩は到底同一人物と思えないか夢の中の話だと思っていたが、今なら少し分かるかもしれない。
 ――講義が終わったら、ついでに裕斗さんの病院にも顔を出そうか。
 あの人のことだし、弟の誕生日を祝いたがりそうだしな。なんて思いながら、俺はそのままくっついてくる志摩を引きずりながら洗面台で身支度を整えることにした。

 ――まだ一日は始まったばかりだ。


 おしまい
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