亡霊が思うには、

田原摩耶

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I will guide you one person

13※

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「おやおや……」

 何度も歯を立てようとするが、骨のような歯応えしかしない。
 それが気持ち悪くて仕方ないのに、花鶏はというと全くダメージを喰らってる様子もなく俺を見下ろしては微笑む。

「貴方の方が堪えてどうするですか」
「……っ、ぅ、ぐ……」
「人を傷付けるのは不得意ですか? ……お優しいことで」

 くすくすと笑い、それから濡れた指を引き抜く。
 それが痛みからではないというのは明らかだった。唾液で濡れた指先はそのまま状態をなぞるように下半身へと降りていく。

「っ、……ぉ、い……っ!」
「そのままですよ、準一さん。……ああ、『待て』の方がこの場合は適切なのでしょうか?」
「なに言って――」

 言いかけた矢先だった。
 下半身まで降りてくる指先に慌てて足を閉じようとするが、構わず花鶏は勃起した性器――その奥へと指を這わせた。
 花鶏の指先は会陰を辿り、そのまま臀部の窄みへと這わされる。つまり、ケツの穴だ。

「っい、……ッどこさわって」
「少しは肩の力を抜いたらどうでしょうか、準一さん。こんなところまで緊張しているじゃないですか」
「っ、あ、たりまえ……っ、やめろ、指……っ」
「全身の力を抜いてください。……私に体を預けるようにもたれかかっても構いませんよ」

 そう言いながらケツの穴を撫でる花鶏にただ血の気が引く。
 必死に足をバタつかせるが、見た目以上に花鶏の力は強い。これが生身だったらまた違ったのだろうかと考えている場合ではない。

「まあ、そういった方を解していくのが楽しいんですがね」
「……へ……っ」

 変態と言いかけた矢先。
 そう自らの指に唇を寄せ、そのまま骨張った白い指に舌を絡ませていく花鶏。目の前で指を唾液で濡らす花鶏に俺は見開いた。

「っちょ、待って、なにやって……ッ」

 暴れる俺に構わず膝裏を掴み、そのまま腹へとくっつきそうなほど折り曲げてくる。そうされるとどうなるか。

「……っぅ……っ!」

 ぐ、と大きく腰が持ち上がる。
 より下半身に近付く花鶏の顔、その鼻先に頭に熱が昇っていくのがわかった。
 勃起した性器が腹にぴたりとくっつき、まんぐり返しのような己の情けなく恥ずかしい体勢に眩暈を覚える。

「な゛」
「――絶景ですね」

 そう、花鶏はただ静かに笑うだけで一切逃してくれる様子すらない。
 それどころか、唾液をたっぷりと絡ませ濡れたその指先で優しく肛門のふちを撫でるのだ。
 下腹部から聞こえてくるくちくちという恥ずかしい水音と肛門への違和感に脳味噌が煮えたぎる。
 屈辱、羞恥、それ以上に混乱している。

 なんで、なんでこんなことになっているのか。

 残念ながら他人に肛門を弄られるのは初めてではない。
 しかし、それでもこうしてじっくりと相手に見られながら触られるのとでは恥ずかしさは比べ物にならない。
 しかも俺に肛門を弄るのをわざと見せ付けるようにするのだから、余計タチが悪い。

「や、めろ……触るな……っ」

 声を上げる。みっともなく震え、上擦る自分の声を恥じてる場合ではない。
 俺の両足を捕らえていた花鶏は「おや」と小さく呟く。そしてわざとらしく肩を竦めた。

「まるで私が加害しているかのような言い分ではありませんか、準一さん。これは貴方のためでもあるんですよ、準一さん」
「してんじゃねえかよ、こんなの……っ! 誰も頼んでね……っ、ぇ……っ」
「貴方は特に自制的な傾向があるようなのでお手伝いですよ。これは。……この体になった以上、貴方の性質はこの先大変でしょうからね。人の好意は有り難く受け取るものですよ、準一さん」

 そう、演技かかったような口ぶりで残念がる花鶏。そのとんでもなく勝手な言い分を言い終わる前に、あろうことかこの男は人の尻の穴に指先を沈めてきた。

「ちょ、っ、ぅ゛」
「……っ、ふふ、締まりましたね」

 唾液を潤滑油代わりに、細く節張った指は俺の抵抗も虚しく強引に奥まで入ってくる。
 侵入してくる異物を拒もうとしても花鶏はそれを無視する。閉じようとする肉壁をくすぐるように撫でられるだけで違和感に全身の毛穴が開く。

「っ、ん、う……っ、ゃ、抜け……ッ」
「貴方は本当素直で分かりやすい方ですね」
「……っ、は、ゃ」
「ですが、ここまで締め付けるとは。――幸喜に何か仕込まれましたか?」
「っ、……ッ!」

 耳元で囁かれる言葉に目の縁が熱くなる。
 花鶏を睨みつければ、花鶏はくすりと微笑んだ。それから、ゆっくりと入り口から浅いところを解すように撫でられ全身が震えた。

「リラックスしてください。私は貴方に危害は加えませんよ」

 この行為が既に危害であるとは認めるつもりはないらしい。
「力を抜いてください」そう優しく腰を撫でられながら濡れた音ともに体内を何度も行き来する指先にただ強制的に慣らされていく。

 この体はどこまでも不便だ。
 
 逃げたいのに逃げられず、無理矢理受け入れさせられた肉体はどうなるのか。
 思考に刷り込まれていく余計な情報と感触に早速自分が順応始めていることが何よりも嫌だった。

「……っ、ぅ、ふ……」
「目を瞑ってはいけませんよ、準一さん。自分が何されているのかその目でしっかりと受け止めてください」
「……や、め……っ」
「ほら、見てください。第二関節まで私の指を愛しそうに咥え込んでいますよ」
「い、うな……っ!」

 耳を塞ぎたくなるような言葉に嫌でも腹の中のものを意識させられる。
 それの拒絶も構わず「恥ずかしがり屋さんですね」などと一蹴する花鶏。

「その調子ですよ、準一さん。貴方は生前からこんなに飲み込みのよい方だったのでしょうか。――だとすれば、もっと誇るべきですね」

 そう含み笑いを漏らす花鶏に俺は首を横に振る。

 ――こんなの知らない。俺の体じゃない。

 拒められるものなら拒みたい。
 けれど、できないのだ。壁を掻き分けて奥まで入り込んでくる指をただ受け入れるしかできない。
 そして難なく指の付け根まで挿入されるほど慣らされている自分の体から目を背けるよう、俺は硬く目を瞑った。

「……おや、耐えられませんでしたか」

「しかしまあ、構いませんよ。肉体の方は私を受け止めて下さっているようなので」どこまでも癪な物言いをする花鶏に一言や二言、三言ほど言い返したかった。
 けれど、下手に口を開けば変な声が出てしまいそうで恐ろしくて、俺はぐっと唇を噛む。

 真っ暗になった視界では体内で蠢く他人の指の感触が余計鮮明に伝わってくるようだった。
 中を弄るように曲げられる指に内壁を引っ掻かれれば、その刺激にビクンと腰が跳ねる。

「ふ……っん、く……ッ」

 緊張した内壁をほぐすよう、ゆるく抜き差しされる度に唾液が摩擦でぬちゃぬちゃと嫌な音を立てる。
 指から逃げるよう腰を揺らすが効果はなく、寧ろ花鶏を楽しませるばかりだった。

「ふ、ぅ……ん、ん……っ」
「声が甘くなってきましたね」
「……っ、そ、んなわけ……っ、ん、ぅ」
「ここには私しかいません。……思う存分貴方の声を聞かせてください、準一さん」

 耳元、擽るようなその優しい声にぞわりと下腹部に嫌な感覚が広がる。
 まるで女でも口説くような甘い口調と手つきで腿を撫でられ、歯が浮きそうになる。必死に堪え、股を閉じて抵抗しようとするがそれが裏目に出てしまったようだ。

 腹の奥、ぐ、と曲がる指先に臍の裏側のあたり、腫れ始めていたそのシコリを指の腹で撫でられた瞬間下半身に甘い感覚が走る。
 思わず目を見開けば、目の前で花鶏が満面の笑みを浮かべてこちらを見下ろしていた。

 ――しまった。

 そう後悔した時にはもう何もかもが遅かった。

「――っ、ふ、ぅ゛」

 そこをピンポイントに狙われるように刺激される。
 柔らかく押し上げられ、まあるく撫でられるだけで痒いところを掻いてもらったような、先ほどまでとは違う違和感が下半身に広がった。

「っ、う、……っん、う゛……っ」

 逃げ出したいのに逃れられない。
 ガクガクと震える腰を捕らえたまま更に執拗に追いかけてくる花鶏の指先にあっという間に追い打ちをかけられ、下半身の違和感は前だけではなく頭の奥にまで広がっていくのだ。

 最悪なことに、それは明確に心地よさを孕んでいる。
 俺の意思なんて関係ない。むしろ塗り替えてくるほどの強い快感は恐怖の対象でしかない。

「う……っ、ゃ、抜けって……抜いてくださ……っ、ぅ、くひ……ッ!」
「あぁ、よく絡み付いてきます。私の見込んだ通りですね」
「なに、言って……っ」

 噛み合わない会話に焦燥にも似た苛立ちを覚える。
 しかしそれすらを掻き消すような強い刺激に脳は塗りつぶされ、くの字に折れた指にぐりぐりと責め立てられれば喉の奥からは声が漏れそうになる。
 咄嗟に唇を噛み締めるが、くぐもった声までも殺すことはできなかった。

「く、んぅ……っ! ふ、ぅ……ッ」
「おや、腰が浮いてますね。気持ちいいですか? 準一さん」
「……っ、ふー……っ、ぅ……っ」
「そのように首を振らずとも私には分かりますよ。ほら、中が悦ぶように吸い付いてくる。貴方は口よりもここの方が素直なようですね」

 黙っていれば好き勝手言いたい放題のこの男を睨みつけることしかできない。
 おまけに睨めば寧ろ嬉しそうに微笑み、更に責めの手は激しさを増していく。

 息を継ぐ暇もなく激しく、ピンポイントで弱いところを責め立てられても平静を保てるような訓練は受けていない。
 呼吸困難に陥り、溜まらず口を開いた。

「ぅ゛、……ッやめ、花鶏さ、止めてください……っ! 花鶏さん……っ!」
「なるほど。止めてください、ですか。そうやって懇願されるのはなかなか悪くはありませんが……ここで止められて困るのは貴方の方ではないですか? 準一さん」

 わざと濡れた音を立て体内を引っ掻き回してくる花鶏はそう笑う。
 全身の筋肉を痺れさせるようなその甘い快感に指先から力が抜け落ちていくようだった。
 花鶏はずるずる崩れ落ちそうになる俺を抱え直す。しかし、指は抜かないままで。

「……仕方ありませんね」

 そう、自分の胸へと体を預けさせるように抱き込んだ花鶏は閉じることも忘れていたその股の間に膝を潜り込ませる。
 そのまま大きく足を開脚のさせられた状態で、花鶏はその中心で情けなく宙を向いていた性器を軽く跳ねる。
 その刺激だけで限界まで固くなっていた亀頭から体液が漏れそうになるのを見て、花鶏は小さく耳元で笑った。

「お手伝いしますよ、準一さん」
「は、ぁ……っ」
「お伝えしたでしょう。……私は貴方に息抜きの仕方を教えて差し上げたいと」
「ま、……っ、待て……」

 射精寸前まで膨張し、涎のようにカウパーを垂らしたそこを根本から先っぽへと指先でなぞられる。
 それだけで頭のてっぺんまで電流のような快感が走り、大きく体が震えた。けれど、足を閉じるのは許されない。

 今そこを触られたらまずい。
 そう青ざめる俺にただ花鶏は微笑んだ。

「お付き合いしますよ」

 そう、華奢な指が俺の性器に絡みつく。
 
 人は前立腺と性器を同時に愛撫されたらどうなるのか。
 俺には想像にも及ばなかった。なんなら別に知らなくてもいいと思っていた。

『なあ準一、知ってるか?』
『なにが』
『男のケツってすげー気持ちいいんだってよ』

 高校の夏休み。いつの日かアホみたいなことをアホみたいな顔で囁いてきた仲吉のことを思い出す。

『ケツの穴にある前立腺ってとこ弄ったらすげーいいらしい。射精するよりもずっと』
『お前な、馬鹿なこと調べてねえで勉強しろよ』
『ちげえよ、俺じゃねえって。聞いたんだよ、蔵元に』
『じゃあ蔵元と付き合うな、もう』

 あの時は呆れて言及する気にもならなかったが、頭の奥底にその無駄な知識が残っていたらしい。
 生前得た糧にもならないような知識が全て裏目に出るなどと今俺は思ってもなかった。
 なんならあの時の仲吉と、当時の仲吉に余計なことを吹き込んだ悪友に憎たらしさすら覚えるほどだった。



「ぅ゛、あ゛……っ、ひ、っ、う゛……ッ!」
「ああ、こんなにも窮屈そうに腫れ上がらせて……さぞお辛いでしょう。ほら、今すぐ私が楽にして差し上げますからね」
「耳元で囁くな……ぁ゛、う……っ!」

 やばい。まずい。まじで。

 語彙すらも解けそうになるほどの快感に溺れそうになるのを必死に堪えようとするが、巻きついてくる細い指に竿をねっとり扱かれながら中を刺激され続けた体は既に限界が近い。
 なんならとっくに越えてもおかしくないところを意地で耐えている状態だ。
 花鶏は汗で濡れた首筋に愛おしそうに唇を押し付け、玉のように流れていくそこに舌を這わせる。
 そのまま首輪を避けるように首筋へと吸いつかれながら性器を扱かれれば脳味噌は更に茹るのだ。

「……いいですよ、今の貴方はとても“生きている”」
「っ、ふ……っ、ぅ゛~~……っ」
「全て出し切ってください。ええ、我慢なんてものは毒にしかなりません。そうでしょう?」

 うるさい。黙れ。頼むから黙ってくれ。花鶏の低い声は体に響く。

 体外と体内、どちらからともなくぐちゃぐちゃと響く音は明らかに大きくなっていっていた。
 腰の痙攣も止まらない。俺の意識も関係なく、自ら花鶏の指を迎えにいくように浮く下半身を目に入れたくなかった。
 亀頭から垂れるカウパーは剥き出しになった肛門まで垂れていき、花鶏の指を汚す。
 それを絡み取るように拭ったその指が更に中へと追加されれば、難なく入ってくるそれに更に追い詰められることになった。

 呼吸もままならない。思考も。
 早くイキたい。それだけが理性ごと飲み込んでいく。
 花鶏の手コキに合わせて無意識に腰を動かす俺を見下ろし、花鶏は「その調子です」と甘く耳元で囁くのだ。

 もっと、もっと、と言うかのように優しく、そして徹底的に追い詰めてくる花鶏の指。
 複数の指に前立腺を揉みほぐされ、眼球の裏側に溜まっていた熱が溢れ出すようだった。

「っ、ぁ、う゛く……――っ! っ、ま゛、待って、ぅ、……あ、とりさ……ぁ……っ! 待……っ!」
「ダメですよ、我慢は」
「ちが、……っ、ぁ゛、う゛……っ!」

 意思とは裏腹に腰が動き、ぐっと爪先に力が入る。
 あまりの気持ちよさに思考回路は混線し、最早自分がなにを言っているのかわからなかった。
 訳もわからず懇願する俺に、花鶏は興奮したようにペロリと赤い舌で舌なめずりをする。そして、そのまま愛撫の手を早める。
 出したくもない声が喉から溢れる。
 カクカクと揺れる腰をしっかりと掴まえたまま激しい愛撫で腫れ上がったそこを押し上げられた瞬間、限界まで力が入っていた下半身から一気に力が抜けるのを感じた。
 そして、

「ん、くうぅ……ッ!」

 極限まで熱を溜めていた性器は腰の動きに合わせて大きく震え、瞬間、熱を吐き出した。
 ぼたぼたと落ちてくる精液を浴びながら俺はただ惚けた顔で天井を見ていた。
 真っ白になる頭の中、ただ呼吸を整えることしかできなかった。
 ガチガチに緊張していた筋肉は糸が切れたように弛緩し、だらりと背後の花鶏にもたれ掛かる。
 そんな俺をしっかりと抱き止めたまま、指を引き抜いた花鶏は優しく俺の腿を撫でる。その感触すらも快感に変換され、びく、と震えるのを見て花鶏はくすりと笑った。

「ふふ、鳴き声まですっかりワンちゃんではありませんか」

「これのお陰で飼い犬の気持ちがわかるようになったのでしょうか」そう、花鶏は笑いながら自分にもたれ掛かる俺の首に指を這わせ、そこに絡みついていた首輪をなぞった。

 揶揄するような言葉がムカついたが、言い返す気力なんてなかった。まさに虫の息というやつだ
 全身に襲い掛かってくる多大な疲労感に潰されそうになる反面、堪えていたものが解き放たれたような爽快感もなかったわけではない。あった。しかし、それが射精によって起こったものだと思うと複雑だ。

 腿を撫でていた花鶏の手はそのまま這い上がり、大きく捲れたシャツの下へと伸びる。そして腹部へと滴り落ちる白濁をそっと掬った。
 ぬちゃり、と嫌な音。

「は、ぁ……っ花鶏さん……ッ」
「たくさん出ましたね。些か部屋が栗の花臭くなってしまいましたが」

 誰のせいだと思ってるんだ。
 親指と人差し指に精液を絡ませ、わざとらしく糸を引かせてはそれを見せ付けてくる花鶏に苛立ちを覚える。
 背後の花鶏を睨みつければ、花鶏は寧ろ楽しげに微笑むのだ。

「そんな怖い顔しないで下さい。少しは晴れやかな気分になれたでしょう」
「……全然」
「そうですか、でしたらあなたの気が済むまで付き合いますよ」
「っなに言って……ッ!」

 まさかそんな返答をがくるとは思わず、ぎょっとする。
 またあんなことをされるなんて冗談ではない。
 精液で濡れた指が萎え切った性器に伸びるのを見て俺は咄嗟に身を引いた。
 その矢先のことだった。

「テメェ! 見付けたぞゴルァアアッ!!」

「――っ!!」

 バン!と背後で吹き飛ぶ勢いで扉が開いた音がしたと思えば、同時に飛び込んできたチンピラの怒声に俺は凍りつく。
 顔を見ずとも誰がきたのかは俺でもわかった。

 なんつータイミングだ。

 こんなタイミングで現れた闖入者に青褪めるのも束の間、咄嗟に俺の衣類に手を伸ばして整えてくれる花鶏に驚いた。汚れたままの下半身が気持ち悪いとかはさておきだ。

「……いけませんね。部屋に入るときはノックするようにといつも言ってるではありませんか、南波」

 言いながら、片手で器用に腕を束ねていたリードを解く花鶏。
 まさかこんな素直に解放してくれるとは。
 流石に南波の前で続行するほどの好色野郎ではないということか。と、ほっとしたが待て。普通はそもそも首輪を嵌めたまま人を襲わない。冷静になれ、絆されるな俺。

 思いながらも俺は慌てて服を整え、精液を消す。
 とにかく南波に悟られないよういつもの自分を思い出せば、全身は思考とともに平常時を取り戻していく。
 なんとか南波に見つかれる前にこの醜態を隠すことはできた。が、問題は南波だ。
 どう見てもブチ切れている。

「いきなり人を縛ったやつが言うことかよっ!」
「ええ、そうですね」
「てめえ……っ」

 そう、俺の状態を確認した花鶏はそのまま体を離し、ゆるりとした動作で立ち上がる。
 そのまま南波へと向き直る花鶏に釣られるように体勢を整えたときだった。

「って、じゅっ、準一さん!」

 そこでようやく南波は俺の存在に気付いたようだ。
 花鶏の影から現れた俺を見るなり焦ったような顔をする南波に俺は「……どうも」とだけ返す。
 どんな顔して向き合えというのだ、俺は。
 とにかくこの場合は南波に気取られないように、且つこの場を丸く収めなければならない。

 射精直後にやる労働量じゃねえよ、絶対。

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