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I will guide you one person
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しおりを挟む「よかったですねぇ、準一さん。飼い犬がちゃんと飼い主の元へ帰ってきましたよ」
「誰が犬だコラ!」
「犬じゃないですか、それも薄汚れた野良犬」
早速揉め出す二人に頭が痛くなってきた。
花鶏も花鶏でなんでわざわざ南波を煽るような真似をするのか。案の定「あぁ?!」と噛みつきそうになる南波に慌てて「落ち着いてください」と止めに入る。
これ以上また状況が悪化することは避けたかった。
「っ、止めないでください、準一さん……っ!」
「おや、飼い主としての自覚が芽生えてきたのでしょうか。ならば私も協力した甲斐があるというものです」
何が協力だ。
どさくさに紛れて腰に回される手を思いっきり掴む。
手が自由に使えることがどれほどありがたいことか今知ることになるとは。
そのまま睨めば、「おやおや」と袖口で口元を押さえて花鶏は微笑む。
「そう怒らないで下さい。きっと、この先役に立ちますよ」
そんな時、一生来なくてもいい。
そう言い返したいところだったが、相手にする気にもなれなかった。
どっとやってくる疲労感がヘドロのように全身に絡み付き、気力を奪われているようだ。
花鶏はというとそんな様子露ほど見せないが。それがまた腹立たしい。
「しかしまあ、わざわざ自ら私の部屋へ乗り込んできただけ進歩でしょうね。成長したではありませんか、南波」
「うるせぇ! 人を勝手に縛っておいてしてんじゃねえよ! 御託は良いからさっさと準一さんの首輪を外しやがれっ!」
「きゃんきゃんきゃんきゃんと元気そうですね、南波。貴方は少しは待てを覚えた方がよろしいのではありませんか?」
「テメェはとうとう目が腐れやがったのか? 耄碌クソジジイ!」
俺の制止をすり抜け、そのまま花鶏に掴みかかる南波。
今度はそれを避けず受け止めた花鶏は耳を塞ぐような素振りをし、そしてこちらを一瞥する。
「準一さんの首輪でしたね。残念ながらそれは出来ません」
「んだと?」
「約束は約束ですからね、はいはい聞いていたら不平等でしょう」
「既に俺の扱いが不平等なんだよっ!」
ごもっとも。
「おや、自覚あったのですか」と意外そうにする花鶏に南波は「てめえ……っ」と唸る。頑張れ南波さん。
「しかしまあ、成長は成長です。せっかくあの南波が頑張ってここまで来たのですから少しくらい褒美を用意してもいいでしょう」
今にも殴りかかってきそうな南波に怖じ気付いた、というわけではないのだろう。
「褒美だと?」と南波の目の色も変わる。が、警戒心もしっかりあるようだ。
「ええ、褒美は褒美ですよ。……南波、手を出しなさい」
どういう風の吹き回しというのか。
俺の首輪に繋がるリードを握り直した花鶏に「あ?」と怪訝そうにしながらも手を差し出す南波。花鶏はそのままその手にリードを手渡した。
「え」
「テメェ、どういう……」
つもりだ、と言いかけてハッとした南波は慌ててこちらへと駆け寄ってきた。
「待っててください、準一さんっ。すぐに首輪を……ッ」
そう俺の首へと手を伸ばそうとする南波。
その気迫と緊張感に俺まで大丈夫なのかと心配になってきたのも束の間。
「誰が外していいと許可しましたか」
部屋の中に静かな声が響き渡る。
たった今俺の首へ伸ばそうとしていた南波の手首を取った花鶏は目を細め、微笑んだ。
「私はあなたにリードを預けましたが、それを外していいとは一言も口にしていません」
「なにを屁理屈言って……っ」
「外したければ外して構いませんよ。しかし、そうですね。もし朝日が昇る前にその首輪を外したら、そのときは先程の続きをしていただきましょうか。準一さん」
狼狽える南波越し、こちらへと視線を流す花鶏に顔が熱くなる。
『先程』――それを忘れるにはあまりにも時間が経っていない。
くそ、なにが俺のためだ。全部自分のためじゃねえか、色情霊が。
歯を食いしばり、腸が煮え繰りそうになるのを必死に抑え込む。
そんな俺とは対照的に全く話についていけていない南波は「先程?」と訝しげに眉を寄せる。
「おい、なに意味わかんねえこと言って……」
「……っ、南波さん」
「じゅ、準一さん……?」
「……俺の首輪のことは気にしなくていいんで、リードのことお願いしてもいいですか」
そう南波を止めれば、南波は更に混乱したように目を大きく見開いた。
「準一さん、正気ですか……ッ?! んでこんなやつのいうことなんか……」
「そんなに私と過ごすのは嫌ですか? 傷付きますねぇ」
どこが傷ついているというのか。
俺たちの反応を楽しむように笑う花鶏を無言で睨めば、花鶏は「冗談ですよ」と目を伏せる。
「そんなに私のことを意識しないで下さい。どきどきするではありませんか」
「なーーにがドキドキだぁ? 人の心もねえクソジジイがよく言いやがる」
「そうですね。私もそう思っていたのですが……ふふ、私もまだ枯れていないということですよ。南波」
「キッ……テメェ、準一さんにキモイこと言ってんじゃねえよ! 何考えてやがるっ!」
「女性となると見境のない貴方よりはマシでしょう」
「……」
南波に気づかれていないと思いたいが、あまりにも居た堪れなくなるやり取りにこちらの方が削られていく。
とにかく花鶏から逃げ出したい。その一心で俺は恐る恐るリードを引っ張れば、俺の合図に気付いたようだ。
びく、と肩を跳ねさせた南波は慌ててリードを握り直す。
「準一さん、このリードは責任もって俺が預からせていただきます……! この命に換えてでも!」
「い、いや、命には換えないで下さい」
ガチガチになりながら「うす!」と頭を下げる南波。
これは、本当に南波に任せてて大丈夫なのだろうか。
花鶏よりかはかなり頼もしいが、不安要素の方が大きいのも確かだ。
しかし、今はこの人に頼るしかない。
花鶏の先ほどの口ぶりからして朝になれば外してもいいらしいし、この首輪。それまでの辛抱だ。
「お願いします」と頭を下げれば、俺たちを眺めていた花鶏が「どちらが飼い主かわかりませんね」と笑った。
始めから俺たちはどちらが犬やら飼い主やら決めていないのだからわからなくて当たり前だろう。
言い返したかったが、口を利くのも癪だったので敢えて聞こえないフリをする。
俺の首輪生活はまだ終わらない。
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