G.o.D 神魔戦役篇

風見星治

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第11章 希望を手に 絶望を超える

143話 心に希望を 重ねた手に勝利を 其の3

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「ふざけるなッ!!私が、私のツクヨミが作り上げた切り札が貴様らなんぞにッ!!」

 咆哮ほうこうに似た叫び声。次いで巨大な振動が響き、最後にオロチの首が一斉に狙いを定めた。戦場に立つ全てを殺戮さつりくする為、巨大な牙を向ける。手始めに動いたのは2つの首。地面に潜り、ビルを薙ぎ倒しながらスサノヲ目掛け飛びかかった。

 が、またしても異変。咆哮と共に蛇行する首の一つが不規則にうねり、出鱈目に動き出したかと思えば、急に内側から爆ぜた。

「今度は何だ!?」

 攻撃の予兆かと驚愕に震える声が行き交う中、破壊された首から姿を見せたのは――

「あの地球人か!?」

 伊佐凪竜一。内側から竜を吹き飛ばした彼の拳にはオロチを制御する端末の一つが覗き見える。彼は即座に端末を握り潰すと、今度はそのまま握り込んだ拳を振り抜いた。何もない空間をストレートに殴り飛ばした直後、直線状に存在したもう一体の竜が、まるで大砲の直撃を受けたかの如く不自然に吹き飛んだ。

 間一髪のところで助かったスサノヲ達は飛び退きながら、更に驚愕の光景を目撃する。無数の視線の先、伊佐凪竜一が放った一撃は複数の建造物を薙ぎ倒しながらオロチを霧散消滅させた。外部からの一撃が、巨大な首を制御端末諸共に破壊した。

「なっ、なんだアレは」

「遠当て?だが、何時習得した!?」

「しかも地球人だぞオイ!!どうなってんだ、戦力評価は連合最低レベルじゃねぇのかよ!?」

「それとも、これが地球人の特質なのか?何れにせよ、常識を逸脱いつだつしている」

 誰もが信じ難い光景に無意味な推測と疑問を重ねる。が、答えなど出ない。遠距離に衝撃を伝播でんぱさせる遠当ては地球にも存在するが、元を辿れば旗艦アマテラス側で戦技と略称される戦闘技術の一つ。戦技はアベルとツクヨミが護衛を目的に清雅一族に伝え、一族を経由して日本各所に伝わった。

 遠く離れた位置に衝撃を発生させるその技術は極めて厳しい試験を乗り越えたスサノヲが行使可能な技術。詰まるところカグツチに高い適性を持つスサノヲ専用で、適正が低い地球人類ではほぼ実現不可能。よって、地球に伝わる遠当ては「それっぽいだけの偽物」で、伊佐凪竜一が習得していたところで使用できる筈がない。

 だというのに、その偽物の威力は余りにも桁外れている。本物を通り越す驚異的な攻撃力にスサノヲの誰もが足を止めた。動けない、下手に動けば巻き込まれる。

 一方、2つの竜を破壊した伊佐凪竜一は一点をジッと見つめる。視線の先にはルミナがいる。遠く離れた2人の視線が絡み合う。遠く離れ、言葉も通じない2人の鼓動が、視線が、意志が重なる。見つめ合い、無言で頷き、同時に竜本体へと駆け出した。

「ならばァ!!」

 叫び、凄まじい振動が全てを震わせる。残りの頭が一斉に2人目掛けて突撃を開始した。もうそれ以外などどうでも良い。オロチ最大の脅威はたった2人の人間。逆に言えばその2人さえ倒せば後はどうとでもなる。

 スサノヲもアマテラスオオカミも揃って項垂うなだれた。気付いたところで何も出来ない。連合最強の矜持きょうじを持つスサノヲも、その連合を今の今まで維持運営して来た神も、まさか自分達が仲良く木っ端扱いされる日が来るなど思いもしなかった。

 ある者は呆然と、ある者は祈りながら、ある者はほぞを噛みながら三者の戦いの行方を見守る。もう伊佐凪竜一とルミナ以外にこの戦いを終わらせる事は出来ない。2人はもう一度だけ互いを見合わせ、襲い来るそれぞれの頭へと突き進む。

 武器はもうない。だが蹴り抜き、殴り飛ばす度に大質量の竜の頭部がまるで砂の様に吹き飛ぶ。対するオロチも周辺の物質を侵食、取り込み即座に損傷を修復するが、弱点は既に露見している。喉元付近に存在する制御端末を破壊すれば、それ以上の再生は行えない。

 清雅修一の桁外れた頭脳により施された改良、ツクヨミの施したリミッターの解除、そしてハバキリから流れ込む力の相乗効果によりオロチの性能は神の予測を遥かに超える程に凄まじい力を見せる。地球は元より連合最強足る戦力を擁する旗艦アマテラスさえ容易く滅ぼす力。その力が、たった2人の前に為す術なく追い詰められる。

 再生、修復、復元。そう呼ぶには生温い、受けた傷を出鱈目な速度で無にするナノマシンの力は圧倒的な火力の前に追い付けず、更に制御端末が破壊される事で完全に無力化する。1つ、2つ、3つ。全てを喰らい尽くす暴虐の竜は瞬く間にその数を減らした。誰もが思考が追い付かず、眼前の光景を呆然と見守る中、視認不可能な速度で動き回る2人が4つ目の竜を破壊し、遂にはあと一つだけとなった。

 電光石火、神業、神速、竜殺し、あるいは神殺し。そういった陳腐な言葉が幾らでも浮かぶが、しかしそのどれ一つとして目の前の光景を正しく表現出来ていない。今、全ての人間が目撃する光景はそれほどに常軌じょうきを逸していて、出鱈目で、桁外れていた。

 数多の視線が一つに集まる。青い濁流が力を失い霧散し、粒子へと変わるその光の中に立つ2人の人間を誰もが見つめた。人外の機動力を駆使してオロチを叩き潰した伊佐凪竜一の右腕は酷使し過ぎたのか、力なくダラリとぶら下がったまま動かない。残った左側の手に力を籠め拳を作り、残った竜を睨みつけるその目だけはギラギラと輝いている。

 ルミナも酷い。スーツとストッキング、皮膚の所々が破れ、その下から明らかに人とは違う機械がうごめく。人とは明らかに違う、そうであるが故に人の目を惹きつけ、より強く印象付ける。

 人が自らの一部を生身からそれ以外に置き換える時、あるいは持って生まれた一部分を欠損する時、そこに強い拒否反応が生まれる。過去の歴史を紐解けば人が自らとほんの少しでも違う他の人間を否定し、拒絶し、排除してきた事実は幾らでもある。

 人は違う事を本能的に恐れる。彼女も同じく、心に癒えぬ傷を残す何かがあったであろう事は想像に難くない。だが、誰もが見た。自らの肉体の奥にうごめくどうしようもなく人とは違う証を見ながら、それでもなお微笑む女の顔を誰もが見た。

 伊佐凪竜一を見ながら、今まで誰にも見せなかった笑みを浮かべる彼女の顔に絶望の色はない。
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