G.o.D 神魔戦役篇

風見星治

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第12章 魔女と神父

147話 魔女と神父 其の2

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「さて、では君達が清雅市で見た全てを話して貰いたい」
 
 カートが改めて要求を伝えた。ミルヴァも、アイビスもただ話を聞きたいというそれだけの理由でこの場に呼び出された。清雅市含めたG県内を伊佐凪竜一とルミナが逃げ回っていた同じ時期に、この2人もまた清雅市にいた。

 対して、それ以外の面々は誰も清雅市にいなかった。また、大半の市民も清雅の指示に従う形で全員が市外へと避難させられた。残る清雅社員達は連合技術の漏洩ろうえいと極めて高い戦闘能力を理由に旗艦側で身柄を拘束されている。詰まるところ、現在の地球側が情報を集める手段がなかった。

「しかし映像データと簡素だが報告書を渡しただろう?おかげで全然眠れなかったぞ」

 機械的で無機質な男の声がカートの要求を突き放す。声の主は少年が持つPCから。小柄な少年はPC越しに少々不遜な返答を返すや、隣に立つ女の後ろに隠れてしまった。どうやら極度の引っ込み思案か、あるいは言葉を話せないか、単に会話自体が苦手らしい。が、対照的に内情は無遠慮で無頓着、奔放な性格をしている。

 カートは少年の仕草に怒る気配を見せず柔和な笑顔を向ける。極めて大人の対応は当然の如く打算。へそを曲げられて話を聞きだせないことを憂慮ゆうりょするカートの心情が笑顔に見え隠れする。

 ミルヴァが小声で叱りつつ、隠れた少年をつまみ上げ、引っ張り出した。カートと目を合わせた少年が素直に頭を下げる。どうやら隣の大女には頭が上がらないらしい。一方、素直に言う事を聞く辺り双方の仲は極めて良好なようだ。

「フフ。いや失礼、アイビス=ローウェイ、いや今はウィチェットだったかな。口酸っぱく言うが、我々は君達から直接聞きたいのだよ。文字の羅列と画像では伝わらない、当時の生の空気をね。君、頼む」

 2人の態度に苦笑するカート。対照的に指示を受けた兵士達がキビキビと動く。映像装置が起動し、議場の照明が落ちる。やがて闇の中、テーブルの上部に巨大なディスプレイが何枚も浮かび上がった。

「最初の映像はI県N空港。日付は清雅市中央区で最初のテロが起きた日だ。その一週間前、奇妙な依頼を受けたアタシ達はその謎の人物『依頼人』の言われるままに日本に来た」

「フム、しかしにわかに信じ難いな」

「えぇ。資料によればその依頼人なる人物が日本への入国を手配したとありますが、事実ならば明らかにおかしいですね」

「俺も不思議に思った」

「だろうね。世界最高レベルのハッカーの一人、神父プリーストアイビス=ウィチェットでさえそんな真似は出来ない。なにせ世界最高峰……いや、今の正確な情報だと銀河最高レベルの性能を持つツクヨミの監視を抜けるなど人間業ではない。そうだね?」

 カートの視線がミルヴァからアイビスへと滑る。とてもそう見えない身形の少年が「神父」と呼ばれる所以ゆえんは、少年のPCに内蔵された自作IFの名称に由来する。タイピングは元よりカメラが捉えた少年の表情から口元や喉の動きに至る複数要素からある程度自動で会話内容を出力する「神父」越しに会話を行っている、というかそれでしか会話を行えない。

 だが完璧に応答できるかといえばそうではなく、突発的な質問には弱い。故にアイビスはカートからの質問に対し言葉ではなく無言で頷いた。

「そう。だからアタシ達の仕事内容を知った元仲間達、個人的な知り合いの誰もが罠だと疑った。だけど赤い太陽を抜けて以降、真面に仕事してなかったんだ。方々から赤い太陽アイツラの邪魔が入ったと言う理由もあるし、清雅からも目を付けられてたし。幸い地元での人間関係は良好で食うに困らなかったが、何時までも好意に甘える訳にはいかない。だから危険を承知で仕事を引き受けた。本当ならばそれで良し、駄目でもコイツの腕前ありゃあ逃げ切れると思ってね」

「フム。で、その内容が次の一文か。しかし……これも、また」

 その言葉の終わり、カートを含めた全員が映像に浮かぶメールの一文を眺める。

『赤い太陽で辣腕らつわんを振るったアナタ達に荷物運びを依頼したい。報酬は言い値で構いませんが、仕事を引き受けてもらえるならば前金5000万円を即金で、成功報酬として更に別途5000万を支払う用意がありますが、如何です?』

 全員が奇妙としか言えない一文を睨む。

「荷物運び……か」

「あぁ。ココに居る全員なら当然知っているけど、隣のコイツはハッカーでアタシはその護衛兼雑用。地元の貧民街ファヴェーラじゃあギャング、今は自警団だけど、とにかくそんな事をやってる。どう考えても運送会社じゃねぇし金を貰えば何でも運ぶ運び屋家業もしてねぇし看板出した覚えもないんだよね。それに書いてある通り、依頼人はアタシ達が元赤い太陽だと知っていた上で接触して来た。しかも肝心の荷物は不明。挙句に出鱈目な報酬と来ればどう考えても真っ当な依頼じゃない」

「そうだな、確かに有り得ない。有能な運び屋なら合法違法含めゴロゴロと居る。だがその依頼人なる人物は、全てを無視して何故か君達に接触して来た訳か。しかも世界有数のハッカー、神父の存在を知りながらハッキングで接触を図っている。そんな能力があるならば、有能な運び屋の所在など直ぐに突き止めるだろうから……つまり、君達は意図的に清雅市に招かれたと言う事になるな」

「あぁ、だが理由が皆目見当付かない。あれから……必死で考えたが、アタシもアイビスも心当たりが全くない」

「フム……いや、今はとりあえず話を続けようか」

 ミルヴァが語り始めるのは不可思議極まりない依頼を受けた経緯。しかし彼女が会話の最後に見せた奇妙な間、言い淀んだ態度にカートの視線が鋭さを増した。が、一瞬の間の出来事。気が付けば老獪ろうかいな男は何時もの穏やかな表情へと戻っていた。
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