G.o.D 神魔戦役篇

風見星治

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第12章 魔女と神父

150話 過去の記録映像 其の3

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 映像に表示された時刻はもう後少しで20時になる頃合い。場所は如何にも、という高級料亭の駐車場。映像が誰かの吐息に合わせて揺れ動くが、やがて車の前で止まった。ドアが開き、後部座席が映る。

「ン、また聞いてたんだ?」

「待ってる間、な」

 屈託ない少年の声に、運転席からぶっきらぼうな返答が返って来る。

 ※※※

「依頼内容は得意分野じゃないからまぁ納得してやるさ。しかし居場所を調べてまでアタシ達に接触する位だ。世間からなんて言われているかなんて当然知ってるよなぁ?」

「勿論。ですから先ほど説明した通り清雅市内までの案内は私が行いますし、報酬も約束通りお支払いします。前金で5000万、成功報酬で追加5000万。荷物運び以外の仕事が発生した場合は別途追加報酬。前金は先ほど指定口座に振り込みましたよ」

「そうか。あぁ……じゃ最後に、アンタの名前は?これから仕事をするのに名前を知らないのは色々と不便だ」

「そうですね。では、そのまま『依頼人』でどうでしょう?」

「随分と適当だな。言えない理由でもあるのか?」

「想像にお任せしますが、振り込んだ前金分位は信じて貰えるでしょう?」

「喰えないな、分かったよ。それじゃアタシ達は今から目的地に向かう……どうだ、分かったか?」

「イヤ。全然全くサッパリ分からなかった。全く追跡出来ない……尻尾すら、少なくとも僕以上だコイツ。クソッ!!」

 ※※※

 運転席から依頼人との最初のやり取りを録音した音声が流れる。が、肝心の依頼人の音声は加工されていて年齢性別は不明。それ以外も徹底して情報を隠していて正体は掴めない。それは、世界最高レベルの頭脳を持つアイビスでさえ、だ。

「依頼人サマからメールがあったよ、色々とね」

 音声が途切れるや待ってましたとアイビスが重ねる。ン、と反応するミルヴァの眼前にディスプレイが浮かび上がった。

「事態が急変したから予定を変更したい、ねぇ」

「ソッチはいいさ。もう一つの方、どうする?」

 アイビスの声がもう一つ、と重ねた。同時に別のディスプレイが浮かび、ミルヴァの視界を塞ぐ。

「『アナタ達に覚悟がおありならば清雅市中央区大通りに来てみてください。但し、指定したルートを通り、指定した建物に入る事。指示を無視した場合、命の保証は出来ません。もし、全てをクリアして無事に中央区に来れたならば、そこで世界の真実の一端を目にする事になるでしょう』か。全く」

 指示を読み終えたミルヴァが軽く舌打ちした。顔には苛立ちが隠し切れない。

「なんかさ、挑発してないコイツゥ?」

「だな。来れるもんなら来てみろ、ってな」

 苛立ちの正体にアイビスも直感した。依頼人は露骨なまでに2人を何処かに誘導しようとしている。

「確定、だな」

「うん。コイツ、清雅の関係者だ。しかも、相当な位置にいる」

 共に、依頼人の正体の一端を掴んだ。接触方法からして只者ではなく、警備厳重な清雅市に招き入れる時点でほぼ確定していた。が、不測の事態を利用してまで清雅市中央に足を運んでほしい時点で決定的となった。依頼人は清雅市の中央で起こっている何かを知る立場にある。

 しかも、とミルヴァは携帯を取り出した。画面には僅か前、食事中に発令された避難勧告が映し出される。テロリストにより清雅市の中央付近で戦闘が行われている、と勧告に付記されている。

「どうしたのさ?」

「今は仕事中。口調を戻せって、まぁいい。見て欲しいってのは間違いなくコレだな」

「テロ、だね。でもなんでさ?」

「既に避難用の移動手段は用意されていますって辺り、織り込み済みだったって訳か?」

「そぉ?だって世界にその名がとどろく天下の清雅市だよ?」

「だとしても、ここまで警備厳重な清雅市でテロやろうなんて考える馬鹿がどこにいンだよ?」

「実際に起きてる訳ですが?」

 アイビスの真っ当な追及にミルヴァはそれ以上を語れず、だよなぁと寒空に吐き捨てた。

「んで、どうする?」

「行くさ。馬鹿面下げて避難所に逃げ込んで素性がバレたら厄介だ。ソレに、逃げても何も解決しねぇ」

「良いねぇ、挑発乗ってやろうじゃん。あ、戦いなったら任せるよ」

「元よりアタシの領分だ」

「そうそう。後は炊事洗濯食事の用意後片付けに買い物、それから車の運転に仕事の交渉もネ」

「仕事と割り切ってるから文句言わんが……やっぱなんか手伝え」

 嬉々として語るアイビスに、どうしたものかとミルヴァは困惑する。どうやらアイビスは桁違いの頭脳に反比例して|(年齢以上に)精神年齢が幼く、生活能力に至っては皆無らしい。素直に言う事を聞くのは少年の性格や生き方も関係しているのだろう。ミルヴァに見捨てられたら、恐らく彼は生きていけない。

「いーや……あ、待って」

「何だよ、ってまーた連絡か?」

 エンジンを吹かし、発進させようとした矢先にアイビスがミルヴァを制した。溜息と共にアクセルペダルから足を話すミルヴァの眼前に再びディスプレイが浮かぶ。

「今度は……『依頼した特別な荷物運び、もしかしたら日時が変わるかも知れない』だとさ」

「つまり、何時運ぶか分からないけど何時でも行動起こせるように準備しとけって事でオーケー?」

「オーケー。全く、本職は運び屋じゃねぇんだけどなぁ」

 依頼人からの連絡にミルヴァもアイビスも揃って溜息を漏らした。荷物が何か分からず、何時になるかも分からない。この手の依頼において荷物が不明なのはよくある事だと2人共に知っている。が、何時になるか分からないという点は納得しない。真っ当な荷でない点は依頼主をミルヴァとアイビスに選んだ時点で明白だが、その上で警戒厳重な清雅市に拘束されるなどリスクが高過ぎる。

「そうだよねぇ。最初から気になってたけど、僕の腕を見込むなら別に雇った運び屋の手伝いをしろって依頼にする筈……だよね?だよね?」

「あぁ。接触方法から依頼内容から人柄に至るまで何もかもが怪し過ぎるが、前金5000万を気前よく払う時点で金ケチってる訳じゃねぇってのだけは分かる。が、なァ」

「ホントに金払いはいいよねぇ。これ位あれば裏マーケットに流れてる清雅の流出品とか余裕で買えるんだけどなあ」

「懐事情を知ってるからかも知れんね。とにかく中央に向かう。話はそこで見られるって何かを見た後だ。後、買い物は帰ってからにしろ」

「え?いいの?やったぜ!!」

「仕事用なら好きに使っていいっていつも言ってるだろ?だけど生きて帰れたらだぞ。それから、時と場合によっては頼りにさせてもらうからな」

「オッケーオッケー、任せてよ。あ、中央区までのルート受け取ったよ」

 何もかもが胡散臭いと感じつつ、それでもミルヴァとアイビスは依頼人からの挑発を受けた。映像には楽しそうなアイビスの声、呆れがちに映像を見つめるミルヴァの顔が映し出される。ややあって、小さなため息。が、直ぐに唸るエンジンにかき消された。

 映像は裏通りを走りながら中央区へと向かうミルヴァ達を映し出す。気が付けばアイビスの嬉しそうな声は消え、エンジン音が静かに映像を揺らす。

 何かが起こる、あるいは起こっている点は疑いようないと確信したようだ。しかも、口振りから少なくともテロ絡みの何かだと予感させ、更にこの依頼人は中央で起こっている一連に関する情報を持っている。

 ミルヴァの顔が自然と強張る。何かがある。何かを見せたがっている。否――正確には、何かに巻き込みたがっている。程なく映像がカタカタと僅かに振動した。ミルヴァの顔が一層険しさを増す。直後にゆっくりと車が、続けてエンジンが止まった。

「この揺れ、戦闘か?」

「かも。こっからは歩きだってさ」

 後部座席から飛び降りたアイビスが夜の闇へと足早に駆け出した。目的地が、目的とする何かは近い。
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