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第12章 魔女と神父
154話 三番目の派閥
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全員が呆然自失とした。それは奇しくも当時のミルヴァとアイビスと同じ表情。カートも、その周囲に座る他国の首脳達も、居並ぶ特殊部隊員の面々も考える事も誰もが等しく、一様に依頼人の奇妙な指示の意味を測りかねていた。
「あぁ、と……いや、済まない。さっぱりわからないな」
「仕方ないさ。何せアタシ達にもさっぱりわからなかったからね」
ミルヴァが匙を投げたカートに同調した。苦労して大統領の座に座ったであろう男がさっぱりわからないと苦悩する様は、真逆の人生を歩んだミルヴァ=ウィチェットにも十二分に理解できる感情だったようだ。
「でもさ、正直その次ももっとわからなかったよね」
「あぁ、そういやそうだったな」
「なんだ、まだあるのか?」
テーブルに居並ぶ面々が2人の言葉に心底呆れ顔で問いかけた。
「えぇ。依頼内容はほぼ似ていたよ。次はスポーツカーだったけどね」
「益々もって……いや、そうか」
椅子に座ったままの老人は、不意に何かに気付いた様子を見せた。椅子に深く体重を預けていた姿勢から一転、机上に広がる幾つものディスプレイを眺める様な仕草に全員の視線が集まる。
「何かお気づきになられたのですか、大統領?」
「うむ。確信がある訳ではないが、もしかしたら件の英雄が逃走に使った移動手段ではないか、と思ってね」
部隊員の一人が投げかけた質問に対し、大統領は伸びた無精髭を摩りながら声の方向へと視線を移しながら自信なさげに応えた。
「しかし、お言葉を返すようですが大統領?」
「言わずとも分かっている。誰が、という事だろう?」
「えぇ。清雅側から見ればあの時点の英雄は後に控える戦いの懸念点、不安材料でしかありません。仮に清雅一族内の反戦勢力の介入だったと仮定しても、逃走の痕跡を隠すだけと言う中途半端な真似をする理由はないように思えます。普通ならば先ず身柄を確保しませんか?」
隊員の疑問は至極当然、その場の全員が頷き「そうだよなぁ」と、異口同音に同意した。
「あぁそうだな、アタシ達も色々な可能性を考えたが納得のいく答えは出なかった」
「ならば残りは一つしかあるまい。清雅内において主流であるツクヨミ派、つまり戦って勝つ事を目的に行動を起こした派閥でもなければ、ツクヨミを差し出そうとした反ツクヨミ派とも違う……三番目の派閥が存在したと言う事だ」
「三番目?頭だいじょ……ッテ!?」
三番目の派閥、そんな荒唐無稽な仮説に対する反応は様々だったが、特にアイビスの反応は辛辣。勿論、隣の相棒にそれ以上言うな、おバカと窘められたが。
「荒唐無稽は承知の上だよアイビス君。それが何を目的に行動していたかは分からないがね。未だにその正体がつかめない依頼人なる人物は、結果として英雄の逃走を手助けした事になるのだから何方かと言えば反ツクヨミ派に近い様に見える。が、一方で直接的な介入は避けている。まるで何かを待っているとか、あるいは期待しているかの様な、実に中途半端な対応だ」
「待っていた?まさか英雄を……でしょうか?」
「さてね。これ以上は分からないし、そもそも三番目の派閥さえも可能性の産物であって証拠はない。早ければ今日にも行われるツクヨミ清雅本社地下の合同調査で何かわかるかも知れないがね」
その言葉にミルヴァとアイビスの表情が露骨に変わった。特に顕著なミルヴァの反応は、心情を暴露しているも同然だった。ツクヨミ清雅という組織に並々ならぬ関心がある、そんな心情が彼女の顔から十二分に読み取れる。
「随分と急ぐんだね?」
「フフ、ミルヴァ君も気になるかい?カガセオ連合側も正確な情報を欲しがっているのだよ。なにせ旗艦側のトップが暴走する形で今回の戦いを引き起こしたのだ。市民達は騙されたと憤慨しているそうで、早急な解決を望んでいるという訳だ。そういった事情もあって、共同調査という形であと数時間もすれば然るべき調査機関が地球に降りてくる。で、我々としてもその前に可能な限りの情報を知っておきたいと思ってこう言う場を用意したのさ。現時点で持ち得る情報は極めて少なく、それが異星人絡みの情報となれば尚の事だ」
その言葉に今度はアイビスの表情が変わった。何か聞きたげにソワソワし始めると、しきりに視線をカートとミルヴァの間で泳がせる。視線を送られたミルヴァはため息混じりに一言「いいんじゃない?」と背を押すと、カートもどうぞとジェスチャーで同意を示した。
「あのさ。エリア51ってウソなの?」
アイビスが勢い良く尋ねた。
「落ち着いた時にでも話してあげよう。特にアイビス君は喜ぶだろうね」
「って事はホントなのか!!そうなんか!!」
「フフ。実は我が国が撃墜、接収したモノとの関連性も今後の議題に上がっているのだよ、優先順位は低いがね。コレ、ホントは秘密なんだけど、もう隠す必要もないから特別に教えてあげよう」
特別、そんな甘い響きと共に語られた断片的な情報にアイビスの心は踊った。ミルヴァも同じく、喉まで出掛かった文句を引っ込めた。
エリア51。USAの空軍が所有する地域はゴシップネタが好きな人間ならば必ず知っている位には有名だが、逆にそれ以外にはさっぱり知られていない、知る人ぞ知る場所。
曰く、撃墜された未確認飛行物体が秘匿されているとか、宇宙人と協同で何かを作っているとか、あるいは解剖しているとか、眉唾物の噂に関しては枚挙にいとまがない。が、どうやらカートの口ぶりからすれば程度はともかく噂は真実であったようだ。
ミルヴァが黙り、アイビスとこの場に居合わせた部隊員達の大半が驚きの声を上げるのは致し方ない。しかも、今回の件に関係があるかも知れないと来れば尚の事。
対照的に、テーブル中央に座る面々はまるで当然の如く沈黙を保つ。どうやら一国だけの秘密という訳ではない様子で、清雅を取り巻く国家間の思惑とか政治的な事情が僅かに顔を覗かせる。
「そうか。事と次第によっては随分と前から目を付けられていたって事になるね。では続き……とは言ってもこの後もよく分からない依頼が一つあった位だけどね」
「成程、依頼人の名に間違いは無いと言う訳か。では頼む」
促されるまま、ミルヴァはその夜以降の話を話し始めた。
「あぁ、と……いや、済まない。さっぱりわからないな」
「仕方ないさ。何せアタシ達にもさっぱりわからなかったからね」
ミルヴァが匙を投げたカートに同調した。苦労して大統領の座に座ったであろう男がさっぱりわからないと苦悩する様は、真逆の人生を歩んだミルヴァ=ウィチェットにも十二分に理解できる感情だったようだ。
「でもさ、正直その次ももっとわからなかったよね」
「あぁ、そういやそうだったな」
「なんだ、まだあるのか?」
テーブルに居並ぶ面々が2人の言葉に心底呆れ顔で問いかけた。
「えぇ。依頼内容はほぼ似ていたよ。次はスポーツカーだったけどね」
「益々もって……いや、そうか」
椅子に座ったままの老人は、不意に何かに気付いた様子を見せた。椅子に深く体重を預けていた姿勢から一転、机上に広がる幾つものディスプレイを眺める様な仕草に全員の視線が集まる。
「何かお気づきになられたのですか、大統領?」
「うむ。確信がある訳ではないが、もしかしたら件の英雄が逃走に使った移動手段ではないか、と思ってね」
部隊員の一人が投げかけた質問に対し、大統領は伸びた無精髭を摩りながら声の方向へと視線を移しながら自信なさげに応えた。
「しかし、お言葉を返すようですが大統領?」
「言わずとも分かっている。誰が、という事だろう?」
「えぇ。清雅側から見ればあの時点の英雄は後に控える戦いの懸念点、不安材料でしかありません。仮に清雅一族内の反戦勢力の介入だったと仮定しても、逃走の痕跡を隠すだけと言う中途半端な真似をする理由はないように思えます。普通ならば先ず身柄を確保しませんか?」
隊員の疑問は至極当然、その場の全員が頷き「そうだよなぁ」と、異口同音に同意した。
「あぁそうだな、アタシ達も色々な可能性を考えたが納得のいく答えは出なかった」
「ならば残りは一つしかあるまい。清雅内において主流であるツクヨミ派、つまり戦って勝つ事を目的に行動を起こした派閥でもなければ、ツクヨミを差し出そうとした反ツクヨミ派とも違う……三番目の派閥が存在したと言う事だ」
「三番目?頭だいじょ……ッテ!?」
三番目の派閥、そんな荒唐無稽な仮説に対する反応は様々だったが、特にアイビスの反応は辛辣。勿論、隣の相棒にそれ以上言うな、おバカと窘められたが。
「荒唐無稽は承知の上だよアイビス君。それが何を目的に行動していたかは分からないがね。未だにその正体がつかめない依頼人なる人物は、結果として英雄の逃走を手助けした事になるのだから何方かと言えば反ツクヨミ派に近い様に見える。が、一方で直接的な介入は避けている。まるで何かを待っているとか、あるいは期待しているかの様な、実に中途半端な対応だ」
「待っていた?まさか英雄を……でしょうか?」
「さてね。これ以上は分からないし、そもそも三番目の派閥さえも可能性の産物であって証拠はない。早ければ今日にも行われるツクヨミ清雅本社地下の合同調査で何かわかるかも知れないがね」
その言葉にミルヴァとアイビスの表情が露骨に変わった。特に顕著なミルヴァの反応は、心情を暴露しているも同然だった。ツクヨミ清雅という組織に並々ならぬ関心がある、そんな心情が彼女の顔から十二分に読み取れる。
「随分と急ぐんだね?」
「フフ、ミルヴァ君も気になるかい?カガセオ連合側も正確な情報を欲しがっているのだよ。なにせ旗艦側のトップが暴走する形で今回の戦いを引き起こしたのだ。市民達は騙されたと憤慨しているそうで、早急な解決を望んでいるという訳だ。そういった事情もあって、共同調査という形であと数時間もすれば然るべき調査機関が地球に降りてくる。で、我々としてもその前に可能な限りの情報を知っておきたいと思ってこう言う場を用意したのさ。現時点で持ち得る情報は極めて少なく、それが異星人絡みの情報となれば尚の事だ」
その言葉に今度はアイビスの表情が変わった。何か聞きたげにソワソワし始めると、しきりに視線をカートとミルヴァの間で泳がせる。視線を送られたミルヴァはため息混じりに一言「いいんじゃない?」と背を押すと、カートもどうぞとジェスチャーで同意を示した。
「あのさ。エリア51ってウソなの?」
アイビスが勢い良く尋ねた。
「落ち着いた時にでも話してあげよう。特にアイビス君は喜ぶだろうね」
「って事はホントなのか!!そうなんか!!」
「フフ。実は我が国が撃墜、接収したモノとの関連性も今後の議題に上がっているのだよ、優先順位は低いがね。コレ、ホントは秘密なんだけど、もう隠す必要もないから特別に教えてあげよう」
特別、そんな甘い響きと共に語られた断片的な情報にアイビスの心は踊った。ミルヴァも同じく、喉まで出掛かった文句を引っ込めた。
エリア51。USAの空軍が所有する地域はゴシップネタが好きな人間ならば必ず知っている位には有名だが、逆にそれ以外にはさっぱり知られていない、知る人ぞ知る場所。
曰く、撃墜された未確認飛行物体が秘匿されているとか、宇宙人と協同で何かを作っているとか、あるいは解剖しているとか、眉唾物の噂に関しては枚挙にいとまがない。が、どうやらカートの口ぶりからすれば程度はともかく噂は真実であったようだ。
ミルヴァが黙り、アイビスとこの場に居合わせた部隊員達の大半が驚きの声を上げるのは致し方ない。しかも、今回の件に関係があるかも知れないと来れば尚の事。
対照的に、テーブル中央に座る面々はまるで当然の如く沈黙を保つ。どうやら一国だけの秘密という訳ではない様子で、清雅を取り巻く国家間の思惑とか政治的な事情が僅かに顔を覗かせる。
「そうか。事と次第によっては随分と前から目を付けられていたって事になるね。では続き……とは言ってもこの後もよく分からない依頼が一つあった位だけどね」
「成程、依頼人の名に間違いは無いと言う訳か。では頼む」
促されるまま、ミルヴァはその夜以降の話を話し始めた。
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