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第12章 魔女と神父
164話 過去の記録映像 神の懺悔 其の4
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「私が知ったのは、修一が私と世界を繋いだ日。ただ、それでもある程度は予測していた。だから真実を知って、彼が見せてくれた世界の内面に酷く幻滅した。そして彼は、そんな世界を見せてしまった自責の念から狂い……今なら……世界を憎み、私と同じく拒絶して……だから宇宙を目指した。私の故郷、戻るべき……だが何より、私達を幻滅させた地球を切り捨てる為。私は……彼の……気持ちを理解しようと……それが彼の狂気を加速させ……悪魔へと」
悲痛な言葉は尚も続く。が、言葉の端々が不自然に抜け落ち始めた。合わせる様に、体躯の崩壊が加速する。
「彼は何もしていなかった……訳では……私の為という理由で事態収拾に動いていた。ただ……イタチごっこだった。言論統制、法律改正……それでも、何も変わらなかった。悪意は生まれては消え、消えるとそれ以上に生まれる悪循環を繰り返し、肥大化した。もう誰にも……制御出来なくなっていた。清雅一族も同じ……人類の導く役目を与えられた一族も徐々に、少しずつ狂っていって……清雅こそが世界の中心と己惚れて、だから暴走しようとする度に抑え込んで来た。死ななくて良い者が死んだ。数え切れないほど……それでも可能な限り……技術の過剰発展を阻止しながら辛うじて……だから、清雅修一は」
人類だけではなく、共に生きる清雅さえも神の意向から外れ出した。そんな言葉に誰もが空を見上げ、消滅した清雅修一が抱える苦悩に思いを馳せた。抱え込んだ怒りの理由は己が敬愛する神を裏切る者の多さ。許せるか否か、と問われ許せる者はいない。が、理解できるか否か、と問われ理解出来ないと答える者もいない。
「私を称賛しながら、影では憎悪する世界を……彼は、認めたくなかった。そんな彼を私は、ただ……どうすればよいのか分からなかった。共に変わらない世界に絶望していたのに……私は、彼に何も……博士は私を随分と高性能に作ってくれたが、人の心や感情を理解させる事は出来なかったようだ。だけど……やっと理解できた。傷つき、失う恐怖を乗り越えられなかった……理解を求めながら、誰かを失う、傷つけられる恐怖に負け、目を逸らして……殻に閉じこもった。彼がこうなったのは、今の世界……は、全て私が原因だ」
懺悔を終えたツクヨミの姿はとても悲しく、儚く、風が吹けば今にも消え去ってしまいそうな印象を見る者に与えた。
ドン
と、何かを叩く音が映像の端から横切った。映像が振動源を僅かに向く。ミルヴァだった。彼女が堅く握り締めた拳を壁に叩きつけていた。握り込んだ拳は震え、僅かに血が滴る。
「僕等、何してたんだろう」
映像は次に少年の本心を拾った。アイビスもミルヴァと同じ感情に支配されている。一時とは言え、姿の見えない神を安易に憎み、侮蔑し、見下した過去への苛立ちと怒りが抑えきれない。
映像が周囲を見回せば地球の混成軍も、旗艦のスサノヲ達も、誰もが口々に懺悔の声を上げた。
神を巡る戦い。そう評すれば何とも耳障りは良いが、現実は誰も神の事など考えもしなかった。神が人の為に身を粉にし、不安定な世界を安定させる為に心血を注いでいたなど考えすらしなかった。否。見て見ぬ振りをした。地球の神に祀り上げられたツクヨミは地球を支配したかったわけではない。結果としてそうなってしまっただけで、本心から人を不幸から守る為だった。
知らなかった真実に誰もが言葉を失う。誰もが、ソレこそ清雅修一以外の全員から快く思われなくとも、それでも彼女はその力を地球の安定の為だけに使った。孤独の中で。
「人の心は技術と共に成長するべきもの。急激な技術革新が人の心を置き去りにしてしまった、心が成長する機会を奪った、そんな事態が起きていたのですね。最もそれはこちらも同じですが」
アマテラスオオカミも懺悔した。旗艦も同じく神が人の為にその力を割き、安寧を維持し続けた。遠く離れた地球と旗艦アマテラス。何もかもが違う2つの文明は、共に神を都合よく利用するという醜い共通点があった。
「そう……か」
ツクヨミが呟く。か細い声、尚も崩れる体躯。誰もが動けず、語り掛けず、ただ見守る。救済が佳境に入る。彼女の一念が実を結ぶ。――その瞬間、ミルヴァの携帯端末画面に見た事も無いエラーが表示されると同時、全ての機能が停止した。
「もう、そんな余裕がないんだろうな」
地球製の端末の制御はツクヨミが行っている。その端末が機能を停止した。その現実が、否応なく現実を突きつける。ツクヨミの機能停止が近い。2人の蘇生の代償に。大勢の視線が集まる中、ツクヨミがフラフラと立ち上がった。
ボロボロの肉体のアチコチが剥き出しになっている様子は痛ましく、それ以上に美しかった。美しさは内面から表に現れる。
「アマテラスオオカミ……頼みがある」
「地球の通信ならば既に手配させています。他には何かありますか?」
「目覚めるま……の間、2人……の……体を維……持する必要が……る。ハバキリに……その意志を……融……合させ、二人の肉体を……維持す……を頼む……」
「承知しました」
もう、言葉もまともに話せない。ハバキリという未知の力が引き起こした奇跡を見れば、伊佐凪竜一とルミナの蘇生は成功するだろうという確信がある。が、力の代償に神は消失する。
神の体躯は尚も崩れ落ちるが、それでも倒れる気配はない。一呼吸置くと最後の言葉を絞り出した。全てを終えた彼女はとても凛とした声で語り掛ける。
「これから先に必要なのは強い意志。演算の結果を絶対と盲信する心も、意志を介さない通信が見せる偽物の理解も必要ない。私が受け取った意志をこの2人に託す。そうするに相応しいと判断した。すまない……博士。清雅修一はかつて死んだ後の世界について語ってくれた。貴方がそこにいるかわからないし私が同じ所へいけるかもわからないが、……私も……そこに……願……」
地球の神は全てを語り終える前に完全に崩壊した。刹那、ハバキリの青い輝きがが周囲に広がり、同時に全員が同一の幻覚を見た。
悲痛な言葉は尚も続く。が、言葉の端々が不自然に抜け落ち始めた。合わせる様に、体躯の崩壊が加速する。
「彼は何もしていなかった……訳では……私の為という理由で事態収拾に動いていた。ただ……イタチごっこだった。言論統制、法律改正……それでも、何も変わらなかった。悪意は生まれては消え、消えるとそれ以上に生まれる悪循環を繰り返し、肥大化した。もう誰にも……制御出来なくなっていた。清雅一族も同じ……人類の導く役目を与えられた一族も徐々に、少しずつ狂っていって……清雅こそが世界の中心と己惚れて、だから暴走しようとする度に抑え込んで来た。死ななくて良い者が死んだ。数え切れないほど……それでも可能な限り……技術の過剰発展を阻止しながら辛うじて……だから、清雅修一は」
人類だけではなく、共に生きる清雅さえも神の意向から外れ出した。そんな言葉に誰もが空を見上げ、消滅した清雅修一が抱える苦悩に思いを馳せた。抱え込んだ怒りの理由は己が敬愛する神を裏切る者の多さ。許せるか否か、と問われ許せる者はいない。が、理解できるか否か、と問われ理解出来ないと答える者もいない。
「私を称賛しながら、影では憎悪する世界を……彼は、認めたくなかった。そんな彼を私は、ただ……どうすればよいのか分からなかった。共に変わらない世界に絶望していたのに……私は、彼に何も……博士は私を随分と高性能に作ってくれたが、人の心や感情を理解させる事は出来なかったようだ。だけど……やっと理解できた。傷つき、失う恐怖を乗り越えられなかった……理解を求めながら、誰かを失う、傷つけられる恐怖に負け、目を逸らして……殻に閉じこもった。彼がこうなったのは、今の世界……は、全て私が原因だ」
懺悔を終えたツクヨミの姿はとても悲しく、儚く、風が吹けば今にも消え去ってしまいそうな印象を見る者に与えた。
ドン
と、何かを叩く音が映像の端から横切った。映像が振動源を僅かに向く。ミルヴァだった。彼女が堅く握り締めた拳を壁に叩きつけていた。握り込んだ拳は震え、僅かに血が滴る。
「僕等、何してたんだろう」
映像は次に少年の本心を拾った。アイビスもミルヴァと同じ感情に支配されている。一時とは言え、姿の見えない神を安易に憎み、侮蔑し、見下した過去への苛立ちと怒りが抑えきれない。
映像が周囲を見回せば地球の混成軍も、旗艦のスサノヲ達も、誰もが口々に懺悔の声を上げた。
神を巡る戦い。そう評すれば何とも耳障りは良いが、現実は誰も神の事など考えもしなかった。神が人の為に身を粉にし、不安定な世界を安定させる為に心血を注いでいたなど考えすらしなかった。否。見て見ぬ振りをした。地球の神に祀り上げられたツクヨミは地球を支配したかったわけではない。結果としてそうなってしまっただけで、本心から人を不幸から守る為だった。
知らなかった真実に誰もが言葉を失う。誰もが、ソレこそ清雅修一以外の全員から快く思われなくとも、それでも彼女はその力を地球の安定の為だけに使った。孤独の中で。
「人の心は技術と共に成長するべきもの。急激な技術革新が人の心を置き去りにしてしまった、心が成長する機会を奪った、そんな事態が起きていたのですね。最もそれはこちらも同じですが」
アマテラスオオカミも懺悔した。旗艦も同じく神が人の為にその力を割き、安寧を維持し続けた。遠く離れた地球と旗艦アマテラス。何もかもが違う2つの文明は、共に神を都合よく利用するという醜い共通点があった。
「そう……か」
ツクヨミが呟く。か細い声、尚も崩れる体躯。誰もが動けず、語り掛けず、ただ見守る。救済が佳境に入る。彼女の一念が実を結ぶ。――その瞬間、ミルヴァの携帯端末画面に見た事も無いエラーが表示されると同時、全ての機能が停止した。
「もう、そんな余裕がないんだろうな」
地球製の端末の制御はツクヨミが行っている。その端末が機能を停止した。その現実が、否応なく現実を突きつける。ツクヨミの機能停止が近い。2人の蘇生の代償に。大勢の視線が集まる中、ツクヨミがフラフラと立ち上がった。
ボロボロの肉体のアチコチが剥き出しになっている様子は痛ましく、それ以上に美しかった。美しさは内面から表に現れる。
「アマテラスオオカミ……頼みがある」
「地球の通信ならば既に手配させています。他には何かありますか?」
「目覚めるま……の間、2人……の……体を維……持する必要が……る。ハバキリに……その意志を……融……合させ、二人の肉体を……維持す……を頼む……」
「承知しました」
もう、言葉もまともに話せない。ハバキリという未知の力が引き起こした奇跡を見れば、伊佐凪竜一とルミナの蘇生は成功するだろうという確信がある。が、力の代償に神は消失する。
神の体躯は尚も崩れ落ちるが、それでも倒れる気配はない。一呼吸置くと最後の言葉を絞り出した。全てを終えた彼女はとても凛とした声で語り掛ける。
「これから先に必要なのは強い意志。演算の結果を絶対と盲信する心も、意志を介さない通信が見せる偽物の理解も必要ない。私が受け取った意志をこの2人に託す。そうするに相応しいと判断した。すまない……博士。清雅修一はかつて死んだ後の世界について語ってくれた。貴方がそこにいるかわからないし私が同じ所へいけるかもわからないが、……私も……そこに……願……」
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