G.o.D 神魔戦役篇

風見星治

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第12章 魔女と神父

165話 懺悔を背に 神は地球という檻を去る

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 懺悔ざんげ。理解して貰うには余りにも短い懺悔の終わり、地球の神は消失した。余りも救いがない最後に見えた。贔屓ひいき目に見ても、とミルヴァとアイビスが口を揃えた。

 映像は誰もが呆然の神の懺悔を聞きながら、何事かを呟く。そんな様子を映しながら、フィルム式の不鮮明な映像は終わった。ディスプレイが闇を映す。これ以上は無用と、戦いの終わりを理由にミルヴァ達が引き上げた為だ。

「そうか……やはり、実際に見てみると違うな」

 カートのうつろな眼差しに籠められた感情は神への懺悔か、それとも理由の如何を問わず今の今まで支配した怒りと恨みか。何れにせよ何も語らず、心境は分からない。懺悔に当てられ、自然と誰もがカートと行動を合わせる。口を閉ざし、何も語らず。議場の時が止まった。

「ありがとう。さて、何時までも呆けている時間はありませんね。ミルヴァ=ウィチェット。この映像、我々で預かって良いでしょうか?」

 口を閉ざすカートに代わり、隣に座る老女が声を上げた。欧州ドイツ区域の首相、ベールケ。首相の提案にミルヴァはそう言えば、昨日を思い出す。終戦直後、依頼人からの最後の連絡は時間がなかったせいか、極めて簡素だった。

 入金は確実に行ったという一言と証拠画像、これまでの行動に対する労いの最後に一言だけ――

「ありがとう」

 と、感謝が添えられていた。しかし、と彼女は更に記憶を辿る。報酬は確認した。画像データを元に県庁内を調べ、それぞれ1億ずつ、計3億が収められた3つのアタッシュケースを回収した。しかも自国通貨に換算された状態で。

 随分と丁寧だが、訳の分からない依頼に付き合ったのだから感謝も当然と報酬はそのまま受け取った。が、一番おかしな点がある。別途2億を支払ってまで行わせた先日の記録映像に関する指示が完全に抜け落ちていた。

 連絡を受け取った当時の2人は九死に一生を得たという状況。命懸けとは思っていたが、しかし自らの予想を遥かに超える現実を見た彼女は怒り心頭で――

「清雅の親玉があんなイカれた兵器を持ち出すなんて想像つくかよクソ野郎」

「神様呆れる位に祈らせるな馬鹿野郎」

 と、そんな程度は言ってやろうと息巻いていた。それ程に冷静さを失っていたが、最後に書かれた素直な感謝の一言に毒気を抜かれ、記録映像に関する指示を完全に忘れ去る形で引き上げた。

 冷静さを欠いた行動は更なる仇を呼び込む。訳の分からない仕事が終わったと気を緩め、羽を伸ばしながら県庁を後にした直後、運が悪いのかそれとも良いのか、撤退中の国家連合混成軍に鉢合わせた。自分達と目を合わせるや驚き、叫び、大挙して押し寄せる混成軍を目にした2人は仲良くその場にへたり込み、特に抵抗する事なく隣県にご同行させられる事となった。

「まーたこのパターンかよ」

「もう勘弁してよ」

 ミルヴァが愚痴り、アイビスがPC越しに嘆いたのは、専用車両で厳重に護送される中での一幕。そんなこんなで落ち着く間もなかった訳だが、何らかの形で連絡が来るだろうと気を張っていた。しかし、今日になっても何もなかった。こんな状況だから連絡手段など限られる。と、すれば――

「あの?」

「あ、あぁ。昨日の事を思い出していたんけどよ、依頼人はコイツをこの後どうしろとは何も言わなかった。アレから連絡もない。多分、だけどアタシ達の自由にしていいって意味だと判断する。奇妙だと思うけど、でも多分そのつもりだろうと思う。勿論、構いませんけど。但し……」

「分かっている、全世界に公表するつもりだ」

「あ、あぁ。ありがとうございます、大統領」

 思考に意識を割き、返答を保留していたミルヴァが慌てて回答した。が、彼女の動揺はまだ続く。カートの視線だ。先程までとは違い妙に鋭く、まるで獲物を狩る猛獣の様にミルヴァを睨みつける。先程までの温和な雰囲気は完全に消失している。何か嫌な予感がする。隣に立つアイビスも奇妙な雰囲気を感じ取ったのか、妙にソワソワし始めた。

「じゃあ、話せる事は全部話したんで」

「そ、そだね。じゃ、僕等はこれで」

 これ以上話す事はないと簡素に告げ、一同に頭を下げ、部屋の出口へと足早に駆け出すミルヴァとアイビス。少々強引な流れだが、約束は果たしたのだから不自然ではない。

「待ちたまえ」

 背後から低く、しゃがれた声が呼び止めた。カートの声だ。逃げるように退室する2人を牽制する物言いに2人は黙ったまま動かない。動けない。そんな2人にカートが更に重ねた。

「何か、隠している事はないか?」
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