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第12章 魔女と神父
166話 魔女の秘密
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突き刺す様な鋭い言葉、視線がミルヴァとアイビスの足を止める。暫し黙ったまま動かない――否、動けない。やがて、覚悟したように振り返る。表情は平静を装っているが、心中穏やかではいられない。圧倒的な威圧感。カートだけではなく、テーブルに座る全員が一層強くミルヴァ達を睨む。
誰もがその頭脳と能力で国の頂点に立つ政治家。彼等は持って生まれ、鍛え上げた才覚を使い清雅という化け物と渡り合って来た。地球の政治家に求められる素養は能力一点のみ。それ以外の基準で選べば瞬く間に権益を奪われ、清雅に都合よい操り人形と化す。事実、そんな国家は幾つもあった。
「な、何の事かなぁ?」
反射的に口を開いたアイビス。
「おや、本当かい?」
大統領は視線をやわらげ、極めて穏やかな口調で語り掛ける。が、視線の奥の輝きは一切変わっていない。彼は堪らずミルヴァの背後に隠れた。
「アタシも何のことだかさっぱり」
続けてミルヴァも否定した。清雅市を撮影した映像は包み隠さず晒した。記録映像も渡した。と、すればとミルヴァは思考し、話の途中で見せた幾つものデータだろうと結論した。が、身長体重に始まり略歴から犯歴までに間違いはなく、秘匿データはそもそも初見なのだから理解出来ない。よって、そう答えるしかない。率直な感想に偽りはない。
「とぼけてはいけないよ、ミルヴァ君。私が清雅から摂取したデータを見せた時何か気になるところはないかね?と尋ねたが、君は明らかに言い淀んだね?確かにアイビス君にその形跡はない。だがミルヴァ君は違う。この危険度という項目、何故君だけ最高ランクの『0』なのかな?赤い太陽のカール=ルーティスは知っているよね?」
「あぁ、あのクソ野郎か」
ミルヴァが露骨に他人を扱き下ろした。カール=ルーティス、通称皆殺しのカーティス。テロリストの中において特に悪辣と評される、赤い太陽ですら使いあぐねる危険人物。当然、世界中から指名手配されている。
「そんな人物やテロを扇動ないし支援する様な国家の首脳ですら危険度は『1』。なのに君だけ、君だけがそれより上にランクされている。世界中で君だけ、過去には幾人か存在したようだが現在の地球上においてただ一人、君だけだ。君達のコンビ、我々も大いに警戒していたし、その腕前も高く評価している。だが、どうして君だけなのだ?」
カートが退室を制してまで聞きたかったのは危険度。現在の地球人類においてミルヴァ=ウィチェットだけが最高ランクに位置する理由。無言を貫くミルヴァ。が、そうするしかないというのが本音。重苦しい沈黙が全員に圧し掛かる。
「あの……清雅の対テロ部隊を相手に勝ったと言う理由じゃないんですかね?」
重苦しい空気に根負けしたアイビスが横槍を入れた。
「そうかも知れないが、正直なところはアタシも分からないよ。ソレこそナントカ課ってヤツにでも聞かない限りね」
ミルヴァも重ねて否定した。そう答えるしかない。そもそも危険度は清雅独自の判断基準で、自己申告する訳ではない。よって、彼女が最高ランクに位置する正確な理由を彼女自身が知るなど不可能。そんな程度はカートも分かっている。
「そうか。確かに君達の言う通りかもしれないね。ならばこの件は一端置いておこう。で、本命だが……」
曖昧極まりない説明に、カートは意外にも納得した。が、視線は相変わらず変化なし。それどころか寧ろ先ほどよりも鋭さを増した。まだ何かある。その雰囲気に気づいた大勢の隊員達は会議室の張り詰めた空気の元凶を見つめる。
「ミルヴァ君。君、うっかり口を滑らせたね?」
カートが切り出した。直後、ミルヴァの雰囲気が一変する。焦りに表情が固まり、身体が硬直する。露骨な変化に言葉の意味を理解できない隊員達の視線が自然とミルヴァに向かう。
「何が?」
「何の話だ?」
そんな言葉を口々に漏らしながら、同時に渦中の女を見つめる。視線には露骨な不信が混じり始める。会議室が異様で奇妙な熱に包まれた。
「『だが彼女は清雅から出られない』と、君はこう言った。確かに清雅の神、ツクヨミの姿を見た者は誰一人としていない。君達が記録した映像に映る女神の姿は人目を惹くほどに美しく、あれ程の美貌と特徴的な青い髪ならば誰がしかの記憶や何らかの記録媒体に残っている。だが、誰も見た記憶はない。よって、確実とは言い難いがツクヨミが清雅の聖域に隔離されていたという話は事実とみていい。だが、だがだよ。君はどうして彼女が清雅から出られないと言い切れたのだ?危険度の件は納得したが今度はそうはいかない。言葉の綾で誤魔化せると思わない方が良いぞ」
失言の理由を突きつけたカートの視線が一層鋭さを増した。テーブルに座る面々も、周囲を固める隊員達もミルヴァから視線を外さない。誰もが疑惑と混乱の眼差しで見つめる視線の先、ミルヴァは相変わらず苦悶を浮かべたまま唸るばかりで、一向に口を開かない。
再び沈黙が場を支配する。だが、今度の空気は一際重い。ミルヴァが何かを隠しているという事実が周知された。が、それは大した問題ではない。より大きな問題は、ツクヨミが清雅本社の聖域から出られないという事実を知る方法。現状においてその手段は一つしかない、と誰もが考える。
ミルヴァ=ウィチェットは何らかの手段でツクヨミ清雅に侵入し、更にツクヨミに直接会ってその話を聞いた。
清雅一族の誰かから、では有り得ない理由はツクヨミと清雅一族の関係。共生は建前、実質的に清雅一族はツクヨミに依存している状態。ツクヨミ派は当然ながら彼女を守りたく、反ツクヨミ派はツクヨミの身柄を安全にアラハバキに提供したい思惑があり、考えこそ相反するがツクヨミを破壊、または奪取されては困るという点で一致しており、だから堅牢に守られたツクヨミに関する情報の漏洩を許す訳がない――のだが、所詮は予想でしかなく、本人の口から語られない限り真実とはならない。
気が付けばアイビスもミルヴァを見上げている。重苦しい空気に好奇や疑念を含んだ無数の視線が集まる中、ミルヴァが遂に口を開いた。
誰もがその頭脳と能力で国の頂点に立つ政治家。彼等は持って生まれ、鍛え上げた才覚を使い清雅という化け物と渡り合って来た。地球の政治家に求められる素養は能力一点のみ。それ以外の基準で選べば瞬く間に権益を奪われ、清雅に都合よい操り人形と化す。事実、そんな国家は幾つもあった。
「な、何の事かなぁ?」
反射的に口を開いたアイビス。
「おや、本当かい?」
大統領は視線をやわらげ、極めて穏やかな口調で語り掛ける。が、視線の奥の輝きは一切変わっていない。彼は堪らずミルヴァの背後に隠れた。
「アタシも何のことだかさっぱり」
続けてミルヴァも否定した。清雅市を撮影した映像は包み隠さず晒した。記録映像も渡した。と、すればとミルヴァは思考し、話の途中で見せた幾つものデータだろうと結論した。が、身長体重に始まり略歴から犯歴までに間違いはなく、秘匿データはそもそも初見なのだから理解出来ない。よって、そう答えるしかない。率直な感想に偽りはない。
「とぼけてはいけないよ、ミルヴァ君。私が清雅から摂取したデータを見せた時何か気になるところはないかね?と尋ねたが、君は明らかに言い淀んだね?確かにアイビス君にその形跡はない。だがミルヴァ君は違う。この危険度という項目、何故君だけ最高ランクの『0』なのかな?赤い太陽のカール=ルーティスは知っているよね?」
「あぁ、あのクソ野郎か」
ミルヴァが露骨に他人を扱き下ろした。カール=ルーティス、通称皆殺しのカーティス。テロリストの中において特に悪辣と評される、赤い太陽ですら使いあぐねる危険人物。当然、世界中から指名手配されている。
「そんな人物やテロを扇動ないし支援する様な国家の首脳ですら危険度は『1』。なのに君だけ、君だけがそれより上にランクされている。世界中で君だけ、過去には幾人か存在したようだが現在の地球上においてただ一人、君だけだ。君達のコンビ、我々も大いに警戒していたし、その腕前も高く評価している。だが、どうして君だけなのだ?」
カートが退室を制してまで聞きたかったのは危険度。現在の地球人類においてミルヴァ=ウィチェットだけが最高ランクに位置する理由。無言を貫くミルヴァ。が、そうするしかないというのが本音。重苦しい沈黙が全員に圧し掛かる。
「あの……清雅の対テロ部隊を相手に勝ったと言う理由じゃないんですかね?」
重苦しい空気に根負けしたアイビスが横槍を入れた。
「そうかも知れないが、正直なところはアタシも分からないよ。ソレこそナントカ課ってヤツにでも聞かない限りね」
ミルヴァも重ねて否定した。そう答えるしかない。そもそも危険度は清雅独自の判断基準で、自己申告する訳ではない。よって、彼女が最高ランクに位置する正確な理由を彼女自身が知るなど不可能。そんな程度はカートも分かっている。
「そうか。確かに君達の言う通りかもしれないね。ならばこの件は一端置いておこう。で、本命だが……」
曖昧極まりない説明に、カートは意外にも納得した。が、視線は相変わらず変化なし。それどころか寧ろ先ほどよりも鋭さを増した。まだ何かある。その雰囲気に気づいた大勢の隊員達は会議室の張り詰めた空気の元凶を見つめる。
「ミルヴァ君。君、うっかり口を滑らせたね?」
カートが切り出した。直後、ミルヴァの雰囲気が一変する。焦りに表情が固まり、身体が硬直する。露骨な変化に言葉の意味を理解できない隊員達の視線が自然とミルヴァに向かう。
「何が?」
「何の話だ?」
そんな言葉を口々に漏らしながら、同時に渦中の女を見つめる。視線には露骨な不信が混じり始める。会議室が異様で奇妙な熱に包まれた。
「『だが彼女は清雅から出られない』と、君はこう言った。確かに清雅の神、ツクヨミの姿を見た者は誰一人としていない。君達が記録した映像に映る女神の姿は人目を惹くほどに美しく、あれ程の美貌と特徴的な青い髪ならば誰がしかの記憶や何らかの記録媒体に残っている。だが、誰も見た記憶はない。よって、確実とは言い難いがツクヨミが清雅の聖域に隔離されていたという話は事実とみていい。だが、だがだよ。君はどうして彼女が清雅から出られないと言い切れたのだ?危険度の件は納得したが今度はそうはいかない。言葉の綾で誤魔化せると思わない方が良いぞ」
失言の理由を突きつけたカートの視線が一層鋭さを増した。テーブルに座る面々も、周囲を固める隊員達もミルヴァから視線を外さない。誰もが疑惑と混乱の眼差しで見つめる視線の先、ミルヴァは相変わらず苦悶を浮かべたまま唸るばかりで、一向に口を開かない。
再び沈黙が場を支配する。だが、今度の空気は一際重い。ミルヴァが何かを隠しているという事実が周知された。が、それは大した問題ではない。より大きな問題は、ツクヨミが清雅本社の聖域から出られないという事実を知る方法。現状においてその手段は一つしかない、と誰もが考える。
ミルヴァ=ウィチェットは何らかの手段でツクヨミ清雅に侵入し、更にツクヨミに直接会ってその話を聞いた。
清雅一族の誰かから、では有り得ない理由はツクヨミと清雅一族の関係。共生は建前、実質的に清雅一族はツクヨミに依存している状態。ツクヨミ派は当然ながら彼女を守りたく、反ツクヨミ派はツクヨミの身柄を安全にアラハバキに提供したい思惑があり、考えこそ相反するがツクヨミを破壊、または奪取されては困るという点で一致しており、だから堅牢に守られたツクヨミに関する情報の漏洩を許す訳がない――のだが、所詮は予想でしかなく、本人の口から語られない限り真実とはならない。
気が付けばアイビスもミルヴァを見上げている。重苦しい空気に好奇や疑念を含んだ無数の視線が集まる中、ミルヴァが遂に口を開いた。
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