G.o.D 神魔戦役篇

風見星治

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神魔戦役篇 エピローグ

幕間23-2 終戦後 ~ 戦場に降り立つ地球の神 其の2

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 2人を助ける――告げた言葉に偽りはない。が、信じて貰えるかどうかは別問題。誤解され、攻撃される可能性は十分にあり得る。事実、大半が信用していない。人外の美貌など目の前に広がる惨状の前には有って無きに等しい。特にスクナの視線は険しさを一層増し、僅かでも疑念を抱かせれば即座に斬り捨てる荒々しい心情が隠し切れない。

 対するツクヨミは老兵を見つめ返す。神と老兵の視線が暫し交錯し続ける。程なくスクナは無言のまま刀を下ろし、地面に突き刺し、ツクヨミから目を背けた。どうやら即座に攻撃する意志はないようだ。ツクヨミは軽くほほ笑むとその場にしゃがみ、何かを拾い上げた。

 彼女の足元には転移直後に彼女が作り出した青く輝く小動物。その小さな口には黄金に輝く小さなプレート、アマテラスオオカミの封印を解除コード、アメノウズメの一つが咥えられていた。

「君の封印を解除するコードの一つだ」

「ありがとうございます。ですが、一つ回収し損ねました。封印解除は行えません」

「そうか、では代案を出そう。今、準備を行っている」

「承知しました」

 ツクヨミからの提案をアマテラスオオカミは即断で承認した。が――

「勝手に話進めてるとこ悪いけどよぉヒルメちゃん、相手はツクヨミだぜ?敵だよ?」

 訳も分からず進む状況にタガミが勢いよく捲し立てた。物怖じせず、空気も読まない彼らしい言だが――

「そもそも、今回の戦いはツクヨミの思惑を完全に外れています。彼女の立てた計画の最終目的は停戦交渉、地球側の兵器も極秘会談の映像もその為の手段です。にも関わらず被害が拡大した理由は、彼女が管理する清雅側の独断。とすれば、敵と判断する事は出来ません」

「でもよぉ」

「現状を見て下さい。彼女が戦いを望んでいない最大の証拠は今現在の地球です。本当に地球を支配するつもりならば、とうに達成しています。先の戦いも同じく。初手であの切り札を旗艦に送り込めば、その時点で私達は敗北、総勢30億を超える民の全滅も確定していました」

「あぁ、うん……はい」

 言い返せず、瞬く間に黙り込んだ。

「次の質問ですが、恐らく通常の治療だけでは助けられません」

「生命活動停止状態でも動き続けた為か?」

「そうです。生前の強烈な意志が肉体に宿るカグツチを動かす現象|(※旗艦側ではククリと呼称する)は私達も良く知るところですが、アレは比肩しようがありません。恐らく自らの意志をカグツチに融合させ、肉体を強引に動かしていたと思われます。その前提に立てば、周辺の全カグツチを消費して地球の切り札を消滅させた2名の意志は今現在もカグツチとして周辺を漂っています」

「つまり、遠からず霧散すると?」
 
「蘇生の条件は幾つかありますが、少なくとも意志なく蘇生は成功しません。マガツヒに侵食されると安楽死以外の手立てがない事実はスサノヲとヤタガラスならばご存知でしょう。つまり、蘇生には最後の一撃と共に拡散した2名の意志を全て回収しなければなりません。その程度ならば問題ありませんが……ツクヨミ、貴女が助けると言い切ったのならば、ハバキリにはカグツチに意志、ないし情報を即時伝達し、更に融合の触媒となる力があると判断しますが間違いありませんか?」

「そうだ。君が演算を行い、私が回収する。今の私ならばそれが出来る」

「そうですか。信じ難い話ですが、先ほどの力の発現を見れば信じるしかないでしょう。承知しました」

「話が早くて助かる。同時に君の演算の手助けも行う。地球上の全携帯と通信制御システムを繋いで分散処理を行う。不足分は補える筈だ」

 助かる。助けられる可能性が出た。二柱の神のやり取りを聞いたスサノヲからどよめきが上がった。一方、地球側は何が何だかよく分かっていない。超高性能な翻訳機能を備えた携帯端末は救済の準備を理由に使用不可となっており、大半の地球人が何を言っているのか全く理解できておらず、辛うじてツクヨミが話す日本語を理解可能な一部が驚くに止まった。

「ありがとうございます。残るは肉体復元に使用するナノマシンですが」

「時間が惜しい。私の身体を維持する分を使用する。数千年の稼働年数を想定して調整されたナノマシン、医療用ではないが性能は申し分ない。それと、伊佐凪竜一にナノマシン拒絶反応はない。過去に確認済みだ」

 最後の懸念は治療に使用するナノマシン。肉体復元に使用するナノマシンは応急処置目的に支給、販売される一般治療薬とは違う。性能は勿論、内臓ともなれば些細なバグが重篤な症状に直結、最悪は死の危険性まである為、遺伝情報を元に完璧に調整された物の使用が義務化されている。

 伊佐凪竜一のナノマシン拒絶反応について知れたのは幸運だった。後の調査によりルミナが好意から彼に経口薬を渡し、彼が疑いもせず飲み込んだが、何の異変も出なかったと判明している。

「承知しました。では、始めましょう」

 本来ならば許可するべきではない。が、500年前の天才科学者が作り出した代物ならば、とアマテラスオオカミは即断した。

 ツクヨミも躊躇ためらいなく実行に移す。彼女の体躯を維持するナノマシンの使用は、自らを犠牲と同義。スサノヲもヤタガラスも、地球の混成軍も、遠目で見守っていた清雅の現人偽神達もツクヨミの覚悟を知り、その上で見守る選択を下した。

 いや、もう戦うと言う選択肢を誰もが選べなかった。戦場を照らした輝きは戦いを望まない者の心に強く焼き付き、戦いを望む者には恐怖の光としてやはり人の心に焼き付いた。

「出来るのか?」

「必ず。その後は医療機関の手に委ねます。肉体復元用に調整したナノマシンの用意を急がせるよう連絡済みです」

 タケルの疑問にアマテラスオオカミは迷いなく答えた。ならば、私も必ず成し遂げよう。そうせねばならない。あの2人は長い間待ち焦がれた希望なのだから。私が準備が完了した旨をツクヨミに伝えると、彼女からの返答はなかったが既に演算、そしてハバキリの使用を開始していた。私もそれに続く。

 地球製の携帯端末一つ一つの処理能力は旗艦の同製品と遜色はない。加えて総台数200億と数も多い。が、それでもアマテラスオオカミの補佐に回すにはパワー不足。旗艦の神、天岩戸に封印された神の本体は一台がそれ単体で艦の運航全てを賄う程に高性能な子機を数百台連結している。

 どう考えても足りないが、それでも成し得なければならない。地球の携帯端末を一時的に連結、更にツクヨミに連結して必要な処理を行い、アマテラスオオカミに渡す。何としても希望を救う為、神が手を取り合う。
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