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神魔戦役篇 エピローグ
幕間23-3 終戦後 ~ 神の懺悔と全ての始まり
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清雅市が青く淡い光に包まれる。幻想的な光景が広がるに連れ、感嘆に似た声が波紋の様に戦場へと広がった。私の演算結果をアマテラスオオカミが受け取り再演算、ツクヨミに送り、彼女がハバキリを操作、清雅市全域から宇宙にまで飛散した伊佐凪竜一とルミナの意識を探し、地上に戻し、ナノマシンと融合し、2人の身体に戻す。カグツチ、ハバキリと融合したナノマシンが2人の身体へと取り込まれるに従い、僅かずつ破損した肉体が元に戻り始める。
「何か、話したい事がおありのようですね?」
ツクヨミの視線にアマテラスオオカミが問う。
「本来ならば直接会って話したかったのだが、もう無理だろうから……だから聞いて欲しい。この戦いの始まりを……」
地球と旗艦、遠く離れた神同士が、離れ離れになった兄妹機が500年という溝を少しずつ埋め始める。ツクヨミは一呼吸置き、過去を語り始めた。帰還途中だったスサノヲ達も、地球の混成軍も等しく足を止め、彼女の言葉に耳を傾ける。
「私は今から500年以上前にカガセオ惑星連合に存在した独立研究艦で生まれ、そして旗艦アマテラスから差し向けられたスサノヲ達の殺戮から逃げ延び、この星に辿り着いた」
彼女は今日この日に至るまでの歴史を語り始めた。長い長い懺悔の始まり――
「独立研究艦て何だっけ?」
「いかなる組織からも独立し、いかなる補助や寄付も受けず、特定の星系、企業、団体との関係も一切持たず、恒久的平和の実現とそれを阻む世界の敵根絶という理念に基づく調査及び研究を行う独立研究機関。連合を支える二柱の神、姫とアマテラスオオカミが理念に反すると判断しない限り独立性が完全に担保される研究機関だった」
「なるほど、流石タケル君」
タケルの言葉は正しい。同組織はもう存在しない。500年前、暴走したスサノヲが全てを無に帰した。旗艦最大の汚点と評された事件さえなければツクヨミは地球におらず、流れ流れて今日の戦いも起きなかった。あの事件もまた、歴史の大きな分岐点だった。
※※※
地球と宇宙の神が行う肉体の修復作業はある種の儀式のような荘厳さに包まれ、故に誰もが口を閉ざし、微動だにせず、青と白の二種類の粒子がまるで引き寄せられるように一か所に集まる幻想的な光景を見守った。
静かで、張り詰めた空気――が変わる。急造の参号機で必死に演算を行った影響か、アマテラスオオカミの演算が断続的に止まりだし、ツクヨミに至っては体躯の各所が崩壊を始めた。終わりが近い。そんな動揺が崩壊した市街地を駆け抜ける。
「皆様、お願いがあります。先ず、地球製の端末は確実に使用不能になります。彼女と繋がっているという事は一部機能、複製を防止する為に……恐らく起動に重要な心臓部分の制御を行っていた筈です。地球側の混乱を速やかに終息させる為、直ぐに技術開発部門を招集、対策に当たらせて下さい。次に地球側と今後を話し合う必要があります。早急に旗艦中央司法裁判官、旗艦執政官長、及び各区域の司法官と全艦の執政官から代表者を選出、招集して下さい。護衛はヤタガラスで対応。スサノヲは部隊単位で地球の治安維持に回します。回交渉記録役として旗艦所属弁護人から無作為に選出。後は、民間からも募りましょう。彼等も無関係ではありません。よって、特例としてアマテラスオオカミが許可します。もし市民、ないし民間企業より交渉記録役としての立候補があれば優先的に候補とするよう通達を」
自らも終わりが近いことを悟ったアマテラスオオカミが作業と並行しながら艦橋に指示を出す。誰もが、驚き戸惑いながらも行動に移し始めた。直後――
「それ以上の指示は出しません、皆様は……互いの為に恐れを捨て、死力を尽くす人の姿を見ました。その姿から感じてください、学んでください。それが皆様の……人本来の姿。この先に必要な力です」
神の要求に誰もが狼狽えた。今まで重要な判断の全てをアマテラスオオカミに委ねて来た者達だ。単純なレベルならば問題はないが、旗艦そのものも居住区域も悲惨な有様で、どれだけが路頭に迷うか全く持って不透明な状態。この状態で、旗艦の神が管理から身を引くと宣言したのだから混乱は必至。
が、批判する声は上がらない。無責任に逃げる訳ではない。己の存在は人にとって枷でしかないと理解し、だから人に自らの意志で未来へと進むよう促した。神としての役割から下りる時が来たと、神は自らに裁定を下した。その意を汲み、旗艦のオペレーターは動く。それまで神に頼って当然の思考を投げ捨て、迷いながらも正しいと信じた道を進み始めた。
これこそが私の、仲間の、何より我が主の願い。そして遠からず地球も同じ道を進むだろう。そうすれば私の役目も一つの終わりを迎え、ツクヨミも――
「これから先に必要なのは強い意志。演算の結果を絶対と盲信する心も、意志を介さない通信が見せる偽物の理解も必要ない」
立ち上がった彼女が空に語り掛けた。体躯がより顕著に崩壊し始め、体躯から濃い青色に輝く粒子が溢れ出し、伊佐凪竜一とルミナの身体に吸い込まれた。全てが終わった。彼女は死力を尽くし、救済した。その身を犠牲にして。
「私が受け取った意志をこの2人に託す。そうするに相応しいと判断した。すまない……博士。清雅修一が語ってくれた死後の世界、貴方がそこにいるか……私が、同じ所へいけるかも……が、……私も……そこに……願……」
最後の力を振り絞ったツクヨミは、受け取った意志を2人に託すと告げると伊佐凪竜一に折り重なるように崩壊、その機能を完全に停止した。それに合わせるように彼女の体躯に残った最後の輝きが弾け飛んだ。次の瞬間、全ての者の脳裏に鮮明な映像が映った。
それは彼女の記憶。唐突に送り付けられた光景に誰もが動揺、混乱した。それは全てが始まった日。彼女が生まれ、地球に逃れるその日までの出来事。彼女が自らの奥底に封じ込めた忌まわしい記憶。
「何か、話したい事がおありのようですね?」
ツクヨミの視線にアマテラスオオカミが問う。
「本来ならば直接会って話したかったのだが、もう無理だろうから……だから聞いて欲しい。この戦いの始まりを……」
地球と旗艦、遠く離れた神同士が、離れ離れになった兄妹機が500年という溝を少しずつ埋め始める。ツクヨミは一呼吸置き、過去を語り始めた。帰還途中だったスサノヲ達も、地球の混成軍も等しく足を止め、彼女の言葉に耳を傾ける。
「私は今から500年以上前にカガセオ惑星連合に存在した独立研究艦で生まれ、そして旗艦アマテラスから差し向けられたスサノヲ達の殺戮から逃げ延び、この星に辿り着いた」
彼女は今日この日に至るまでの歴史を語り始めた。長い長い懺悔の始まり――
「独立研究艦て何だっけ?」
「いかなる組織からも独立し、いかなる補助や寄付も受けず、特定の星系、企業、団体との関係も一切持たず、恒久的平和の実現とそれを阻む世界の敵根絶という理念に基づく調査及び研究を行う独立研究機関。連合を支える二柱の神、姫とアマテラスオオカミが理念に反すると判断しない限り独立性が完全に担保される研究機関だった」
「なるほど、流石タケル君」
タケルの言葉は正しい。同組織はもう存在しない。500年前、暴走したスサノヲが全てを無に帰した。旗艦最大の汚点と評された事件さえなければツクヨミは地球におらず、流れ流れて今日の戦いも起きなかった。あの事件もまた、歴史の大きな分岐点だった。
※※※
地球と宇宙の神が行う肉体の修復作業はある種の儀式のような荘厳さに包まれ、故に誰もが口を閉ざし、微動だにせず、青と白の二種類の粒子がまるで引き寄せられるように一か所に集まる幻想的な光景を見守った。
静かで、張り詰めた空気――が変わる。急造の参号機で必死に演算を行った影響か、アマテラスオオカミの演算が断続的に止まりだし、ツクヨミに至っては体躯の各所が崩壊を始めた。終わりが近い。そんな動揺が崩壊した市街地を駆け抜ける。
「皆様、お願いがあります。先ず、地球製の端末は確実に使用不能になります。彼女と繋がっているという事は一部機能、複製を防止する為に……恐らく起動に重要な心臓部分の制御を行っていた筈です。地球側の混乱を速やかに終息させる為、直ぐに技術開発部門を招集、対策に当たらせて下さい。次に地球側と今後を話し合う必要があります。早急に旗艦中央司法裁判官、旗艦執政官長、及び各区域の司法官と全艦の執政官から代表者を選出、招集して下さい。護衛はヤタガラスで対応。スサノヲは部隊単位で地球の治安維持に回します。回交渉記録役として旗艦所属弁護人から無作為に選出。後は、民間からも募りましょう。彼等も無関係ではありません。よって、特例としてアマテラスオオカミが許可します。もし市民、ないし民間企業より交渉記録役としての立候補があれば優先的に候補とするよう通達を」
自らも終わりが近いことを悟ったアマテラスオオカミが作業と並行しながら艦橋に指示を出す。誰もが、驚き戸惑いながらも行動に移し始めた。直後――
「それ以上の指示は出しません、皆様は……互いの為に恐れを捨て、死力を尽くす人の姿を見ました。その姿から感じてください、学んでください。それが皆様の……人本来の姿。この先に必要な力です」
神の要求に誰もが狼狽えた。今まで重要な判断の全てをアマテラスオオカミに委ねて来た者達だ。単純なレベルならば問題はないが、旗艦そのものも居住区域も悲惨な有様で、どれだけが路頭に迷うか全く持って不透明な状態。この状態で、旗艦の神が管理から身を引くと宣言したのだから混乱は必至。
が、批判する声は上がらない。無責任に逃げる訳ではない。己の存在は人にとって枷でしかないと理解し、だから人に自らの意志で未来へと進むよう促した。神としての役割から下りる時が来たと、神は自らに裁定を下した。その意を汲み、旗艦のオペレーターは動く。それまで神に頼って当然の思考を投げ捨て、迷いながらも正しいと信じた道を進み始めた。
これこそが私の、仲間の、何より我が主の願い。そして遠からず地球も同じ道を進むだろう。そうすれば私の役目も一つの終わりを迎え、ツクヨミも――
「これから先に必要なのは強い意志。演算の結果を絶対と盲信する心も、意志を介さない通信が見せる偽物の理解も必要ない」
立ち上がった彼女が空に語り掛けた。体躯がより顕著に崩壊し始め、体躯から濃い青色に輝く粒子が溢れ出し、伊佐凪竜一とルミナの身体に吸い込まれた。全てが終わった。彼女は死力を尽くし、救済した。その身を犠牲にして。
「私が受け取った意志をこの2人に託す。そうするに相応しいと判断した。すまない……博士。清雅修一が語ってくれた死後の世界、貴方がそこにいるか……私が、同じ所へいけるかも……が、……私も……そこに……願……」
最後の力を振り絞ったツクヨミは、受け取った意志を2人に託すと告げると伊佐凪竜一に折り重なるように崩壊、その機能を完全に停止した。それに合わせるように彼女の体躯に残った最後の輝きが弾け飛んだ。次の瞬間、全ての者の脳裏に鮮明な映像が映った。
それは彼女の記憶。唐突に送り付けられた光景に誰もが動揺、混乱した。それは全てが始まった日。彼女が生まれ、地球に逃れるその日までの出来事。彼女が自らの奥底に封じ込めた忌まわしい記憶。
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