G.o.D 神魔戦役篇

風見星治

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神魔戦役篇 エピローグ

169話 幻想 ~ 激変 そして物語の始まりへ

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 昨日までと変わらない今日は、今日と変わらないであろう明日へと続く。平穏で、穏やかな時間の流れは――永久ではなかった。異変が起きる。

「どうして研究内容が漏れたの?いや、そんな事よりも……姫はまだしも今のスサノヲ達にだけは……あの子を渡してはダメ!!みんな何とか時間を稼いで!!」

 カメラ映像の全てが慌ただしく動く人の姿を捉えた。

「クソッ、脱出の準備を急いでるが間に合いそうにない!!そっちはッ!?」

「駄目だ。カイン、お前に変われって言ってる!!でなければ力づくで制圧するって!!クソッ、話を聞きもしねェ!!」

「今、彼女を渡すわけにはいかない。彼女は生まれたばかりで、心と意識はまだ子供なんだ。もっと、成長する為の時間が。だが、何より何も知らない子供に武器を持って戦わせる訳にはいかない。そもそも彼女は戦わせる為に生み出したのではッ」

「奴等、もしかして量産して実戦投入するつもりじゃ?24時間戦い続け、カグツチも使いこなせる兵器ならマガツヒとの戦力差をひっくり返せるって」

 500年前の悲劇、その発端が少しずつ明らかとなる。皮肉にもタケミカヅチ計画始動理由そのままだった。

「危険過ぎる。子供とは純粋で、純粋とは無知で、未熟で、善悪の区別がない。だから、無知故に選択を誤っても正せず、いや正しいかどうかすらわからず、未熟さ故に加減が出来ない、極論に走る。そして、善悪がないから残酷な選択肢を平然と選ぶ」

 カインが悲惨な未来を予見する。その予測は正しかった。図らずも、アラハバキが作り上げた壱号機が証明してしまった。

「意志を持つという事を理解できない者に渡してしまえばどのような悲惨な結果を生むかなど容易に想像がつく。だからゆっくりと育てる必要があるのに。それなのにッ。どうして彼等はああも身勝手に結論を急ぐのだ。どうして、こんな急に……」

 映像には怒り、焦りながらも慌ただしく動き回るカイン達を映す。しかし、徐々に怒りも焦りも消え、恐怖と混乱に支配される。敵はスサノヲ。いわば仲間。それがどうして自分達を襲撃するのか。

 各々の対応はバラバラ。開発途中の武器を手にし、手当たり次第に物を積み上げ障害物を作り、あるいは逃げようと試み、はたまたただ泣きわめくに終始する。一方、カインは――

「聞こえるか。我々は君達を脅かすような代物を作ってなどいない。ましてや武器兵器の類でもない!!」

 スサノヲと連絡を取った。映像に見慣れた戦闘スーツ姿の男が映る。その目は少なくとも正気とは思えない程に歪んでいた。

「ならば証拠を全て差し出せ。嘘がないならば出来る筈だ、違うか?」

「違うと言っている!!今はまだ完成したばかりだ、とても君達の手に渡せる状態ではない、特に未熟な君達には尚更だ。一体誰に何を吹き込まれたらこんな荒唐無稽こうとうむけいな話を信じるんだ、冷静になれッ!!」

 初めてカインが語気を荒げ、感情を剥き出しにした。稀代の天才科学者とうたわれた男であっても、人道に反した強硬手段を前に冷静さを欠くようだ。

「君達は未熟な上に結果を急ぎ過ぎている、このままでは遠からぬ内にマガツヒに滅ぼされる。そしてそれの原因は内側に……クソッ、一方的に切り足げて!!話をまるで聞くつもりがないッ。そもそも、スサノヲに取って代わる兵器なんて与太話をどこで……」

 説得虚しく、スサノヲは一方的に話を切り上げた。余計に苛立つカイン。が、激しい振動と騒音に苛立ちが霧散した。映像が切り替わる。各所に灰色の光が灯り、その奥から残光をまといながらスサノヲが姿を見せた。

 各々が武器を手に持つ。顔には怒気と殺気がみなぎる。明らかに真っ当な精神状態ではない。彼等は研究者を見つけると躊躇ためらいなく刃を振り下ろし、引き金を引いた。その度に血飛沫が上がり、床が地に染まる。研究者達は血の海に沈み、動かない。抵抗など無意味。ほぼ無抵抗の研究者達を次々と手に掛ける様は、まるで小さな虫を踏みつける子供の如く、酷く不気味に感じた。

「アマテラスオオカミに連絡を繋げ!!」

「駄目です、通信妨害されています」

「何なんだアイツ等!!確かに研究内容は秘匿されていたけど……だからってこんな真似する理由があるか!?」

「おかしいですよ?なんでこの事態をアマテラスオオカミが止められないんですか?それとも、まさか邪魔になって」

「いや、そんな事は有り得ない。だが、今は……」

 圧倒的な経験の実力の差を埋められる道理は存在せず。だが、頼みの綱とした神への直訴も失敗した。スサノヲ達が徹底して潰していた。殺戮は続く。人が死ぬ。無意味に、死に続ける。

 ※※※

 止まる事を知らないスサノヲの暴挙は遂に研究棟の中枢まで押し寄せた。爆発と衝撃に映像が揺れ動く。ツクヨミの元に届くのは時間の問題。が、現実はそうならなかったと誰もが知っている。程なく、カインの姿が映った。白衣は地に染まり、呼吸も荒い。

「博士。身体を作ったので見て頂きたいのですが……」

 ツクヨミがそう口走った。現状を理解出来ぬ訳がない。

「ごめんよ。とても、嬉しい報告だがそうも言っていられなくて。よく聞くんだ。急造の脱出艇を用意した。君はソレに乗ってここから脱出するんだ」

 カインは悲壮な笑みと共に否定し、ツクヨミに一人で逃げるよう指示した。現状は絶望的。連合最強のスサノヲを止めるなど出来ず、アマテラスオオカミへの通信も妨害されている。もう逃げる以外に道はない。

「何故ですか?まだ教育は終わっていません。」

 彼女は反論した。現状を理解できない訳ではない。ただ、心を学んでいないだけ。己の中に生まれた感情を正しく制御する手立てを持っていない。だから、演算の結果と口から出る言葉が乖離かいりする。カインも痛感していて、だから優しく諭すかように微笑みかけた。ツクヨミの心が激しく揺れ動く。

「アマテラスオオカミでは遠からず人の管理に失敗する。彼は人の心、意志を全く理解していない。ここを攻めてきた連中も同じだ。彼等もまた、理解から程遠い。いや、あれは暴走だ。弱くなった意志が引き起こした暴走だ……心と意志をより深く理解出来る君を作ったのは、そんなアマテラスオオカミを補佐する目的もあったのだが……少し、遅か」

「一緒に逃げられます。残る必要はありません」

「誰かが残って発進させなきゃ……最後に、君に力を託す。今は理解し合えなくてもいつか必ずその日が……その時、君に託した力が役に立つ、と」

 カインが絞り出した答えは、やはり否定。同時に僅か一瞬、青い輝きが映像を横切った。

「理解……出来ません。私は、貴方と一緒に……一緒に……」

 映像が何度も揺れ動く。その度に、ツクヨミの本音が溢れ出す。本当は自分と一緒に逃げて欲しい、一人では嫌だ、もっと傍に居て欲しい。だが、断られる恐怖から明言できない。答えを聞きたくないから、それ以上の言葉を身体が拒む。拒絶される恐怖、否定される恐怖、自分の訴えを認められない恐怖。彼女の内側から湧き上がる感情が、追体験する全員を締め上げる。

「決定打を欠いた今の状況では戦況を打開する事は出来ず、奴等に滅ぼされる。身内で争うならば尚更だ、今の戦力では到底足りない。彼等は打開策を求め宇宙を彷徨さまよい、何時の日か君達を見つけるだろう。彼等が助けを求め、君達か、君達の選んだ誰かがその意志を理解し、受け止められたなら意志に従う力は必ず一つになる、融合する。理解し合うという強い意志同士が起こす奇跡を見ればきっと、いや必ず皆考えを改めてくれる筈だ。いつか弱い心を克服し。理解し合える時が来る事……僕が見つけ君に託した力が先導すると、そう信じる……ごめんよ、でも……もうこれ以外の手立てがないんだ。済まない、こんな別れ方になって。そして……さようなら」

 死力を振り絞り、遺言を残し手早く端末を操作するカイン。映像が僅かに揺れ、赤い髪が少しずつ遠ざかる。ツクヨミの心が痛みと不快感に更に締め上げられる。もう会えない、もう二度と。己を押し潰す気持ちに耐えられず耐えきれず、だから彼女は一連の記憶を自らの奥底に封じた。

 映像が遠ざかるカインを映す。映像に力ない笑みを浮かべる彼は、やがて力なく血だまりに沈んだ。赤く染まった床に倒れた彼は、それでも遠ざかるツクヨミを最後まで見送り、爆風と共に消失した。

「いやだ。いや……理解、なんて、したく」

 崩壊する独立研究艦を見ながら本心を呟くツクヨミの言葉を最後に、映像は途絶えた。
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