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神魔戦役篇 エピローグ
幕間23-4 さようなら そして ありがとう
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20XX/12/22 1116
幻覚。突如として全員の脳裏に送り付けられた過去の映像は、そう呼ぶ以外に適切な表現が浮かばなかった。
「これは……ツクヨミの記録、イや記憶か」
「なんじゃこりゃあ……ってお前も?なら」
誰も、何が起こったか理解出来なかった。誰もが互いに顔を見合わせた。スサノヲ達は遠く離れた艦橋に呼びかけ、地球の混成軍と清雅の社員達は周囲を見回し、同じ行動を取る者の多さに気付く。眼前に広がる光景、耳に届く音声は幻覚と呼ぶには余りにもリアルで、途轍もなく長かった。が、夢から覚めてみればほんの一瞬の出来事。
「ツクヨミの記憶でしょうね。あの赤い髪を無造作に束ねた科学者は稀代の天才、カインその人です。私は、彼と面識がありますから」
「なんと……だが、一体どう言うつもりであの映像を見せたのだ?」
「分かりません。推測でしかありませんが、彼女は自身で閉ざした心の殻を破り、あの2名を助ける為に全てを投げ捨て、機能停止しました。その際に一番奥深くに眠っていた記憶が最後に残ったハバキリを通し、伝わったと考えるのが妥当でしょう。そして……」
崩壊した妹を見やったアマテラスオオカミはゆっくりと艦橋の中央と歩を進めた。移動先に灰色の光が溢れ出す。短距離の転移を行う為に作り出したハイドリの光が艦橋を仄かに照らす中、彼女は無言で光に飛び込み、機能を完全に停止したツクヨミの傍に姿を現した。
「演算により宇宙にまで飛散した2人の意志を突き止め、掻き集め、肉体をハバキリとナノマシンで再構築しました。その力を何処まで信じれば良いかは私でも分かりません。目覚めるならば正しく奇跡でしょう。本題です。私は、神の座を退きます。もうアマテラスオオカミという先導役は不要です。民の為と言いながら、しかし結果として決断する意志と機会を奪っていた。だから人は弱くなった。神の加護は人に安寧を与える代わりに、それ以上の成長を阻害する枷となっていました」
神は己をただの枷と断じた。人の可能性を押さえつけ、未来を閉ざす枷だと。
「私は自らを不要との裁定を下します。人の意志は弱い。今回の様に、何時かまた私欲で戦争を起こすでしょう。ですが、同時にそれを止める強さも持っています。考え得る全ての壁を乗り越え、互いを理解しあう強い意志を見た今の皆様ならば正しい道を進めると信じます。もし、ルミナが目覚めたならば彼女に伝えて下さい。彼女は過去の事故により肉体の大半を失っていますが、望めば復元による肉体の再構成も可能であると。医療施設には復元に必要な諸々のデータが残っています。優遇措置の条件は満たしているので必要であれば適用してください。意識が戻る事が前提ではありますが確率は計算しません。信じましょう」
自身への嘲笑を含んだその言葉を一端止めたアマテラスオオカミは一度瞼を閉じ、しばしの後に再び目を見開いた。
「人造の神による管理は終わりを告げ、人が自らの意志で未来と歴史を作る世界が訪れます。人は神の手を離れ、自らの意志で前へ進まねばなりません。その選択が正しいか間違っているか、進む道の先に待つ運命が希望か絶望か、何れにせよ、神の意志もなければ安定もありません。それを捨てた代わりに得る未来を決めるのは皆様次第です」
それがアマテラスオオカミとしての最後の言葉となった。旗艦の神は500年の時を超えて巡り合った兄妹機ツクヨミの残骸を抱え、再び灰色の光の中へと消え去った。
旗艦アマテラス中央に位置する超高性能演算機能を制御する神、アマテラスオオカミは残された者に未来を委ねる形で神の座を退いた。同じく地球の神ツクヨミも伊佐凪竜一とルミナを救う為にその身を捧げた。
地球も、旗艦も安寧秩序を維持し続けた神が退いた。自由が訪れた。だが、茨の道だ。神が敷いた道をただ歩くだけだった人類は、次に進むべき道を自ら決め、なければ自らで作り出し、前へと進まねばならない。
今日この日までを思い起こせば、直近100年は苦難の連続だった。だけど、その最後に希望が生まれた。歪んだ歴史と引き換えに生まれた希望は、苦悩と絶望の末に自らの殻に閉じこもったツクヨミを救ってくれた。
「さようなら。そして、ありがとう」
戦場から消えゆく青い光に感謝を伝えた。長かった役目の最後に消滅した地球の神、私と苦楽を共にした仲間。ハバキリの残光と共に宇宙へと還った一人の女性に向けたその言葉は偽りない本心。
私もまた、清雅の聖域を後にした。もう、ここに用はない。私は、私も漸く目が覚めた。映像に消え行く旗艦の神と同じく、己が歩むべき道を見定めた。私には彼女の遺志に報いなければならない義務がある。自らに、そう架した。
幻覚。突如として全員の脳裏に送り付けられた過去の映像は、そう呼ぶ以外に適切な表現が浮かばなかった。
「これは……ツクヨミの記録、イや記憶か」
「なんじゃこりゃあ……ってお前も?なら」
誰も、何が起こったか理解出来なかった。誰もが互いに顔を見合わせた。スサノヲ達は遠く離れた艦橋に呼びかけ、地球の混成軍と清雅の社員達は周囲を見回し、同じ行動を取る者の多さに気付く。眼前に広がる光景、耳に届く音声は幻覚と呼ぶには余りにもリアルで、途轍もなく長かった。が、夢から覚めてみればほんの一瞬の出来事。
「ツクヨミの記憶でしょうね。あの赤い髪を無造作に束ねた科学者は稀代の天才、カインその人です。私は、彼と面識がありますから」
「なんと……だが、一体どう言うつもりであの映像を見せたのだ?」
「分かりません。推測でしかありませんが、彼女は自身で閉ざした心の殻を破り、あの2名を助ける為に全てを投げ捨て、機能停止しました。その際に一番奥深くに眠っていた記憶が最後に残ったハバキリを通し、伝わったと考えるのが妥当でしょう。そして……」
崩壊した妹を見やったアマテラスオオカミはゆっくりと艦橋の中央と歩を進めた。移動先に灰色の光が溢れ出す。短距離の転移を行う為に作り出したハイドリの光が艦橋を仄かに照らす中、彼女は無言で光に飛び込み、機能を完全に停止したツクヨミの傍に姿を現した。
「演算により宇宙にまで飛散した2人の意志を突き止め、掻き集め、肉体をハバキリとナノマシンで再構築しました。その力を何処まで信じれば良いかは私でも分かりません。目覚めるならば正しく奇跡でしょう。本題です。私は、神の座を退きます。もうアマテラスオオカミという先導役は不要です。民の為と言いながら、しかし結果として決断する意志と機会を奪っていた。だから人は弱くなった。神の加護は人に安寧を与える代わりに、それ以上の成長を阻害する枷となっていました」
神は己をただの枷と断じた。人の可能性を押さえつけ、未来を閉ざす枷だと。
「私は自らを不要との裁定を下します。人の意志は弱い。今回の様に、何時かまた私欲で戦争を起こすでしょう。ですが、同時にそれを止める強さも持っています。考え得る全ての壁を乗り越え、互いを理解しあう強い意志を見た今の皆様ならば正しい道を進めると信じます。もし、ルミナが目覚めたならば彼女に伝えて下さい。彼女は過去の事故により肉体の大半を失っていますが、望めば復元による肉体の再構成も可能であると。医療施設には復元に必要な諸々のデータが残っています。優遇措置の条件は満たしているので必要であれば適用してください。意識が戻る事が前提ではありますが確率は計算しません。信じましょう」
自身への嘲笑を含んだその言葉を一端止めたアマテラスオオカミは一度瞼を閉じ、しばしの後に再び目を見開いた。
「人造の神による管理は終わりを告げ、人が自らの意志で未来と歴史を作る世界が訪れます。人は神の手を離れ、自らの意志で前へ進まねばなりません。その選択が正しいか間違っているか、進む道の先に待つ運命が希望か絶望か、何れにせよ、神の意志もなければ安定もありません。それを捨てた代わりに得る未来を決めるのは皆様次第です」
それがアマテラスオオカミとしての最後の言葉となった。旗艦の神は500年の時を超えて巡り合った兄妹機ツクヨミの残骸を抱え、再び灰色の光の中へと消え去った。
旗艦アマテラス中央に位置する超高性能演算機能を制御する神、アマテラスオオカミは残された者に未来を委ねる形で神の座を退いた。同じく地球の神ツクヨミも伊佐凪竜一とルミナを救う為にその身を捧げた。
地球も、旗艦も安寧秩序を維持し続けた神が退いた。自由が訪れた。だが、茨の道だ。神が敷いた道をただ歩くだけだった人類は、次に進むべき道を自ら決め、なければ自らで作り出し、前へと進まねばならない。
今日この日までを思い起こせば、直近100年は苦難の連続だった。だけど、その最後に希望が生まれた。歪んだ歴史と引き換えに生まれた希望は、苦悩と絶望の末に自らの殻に閉じこもったツクヨミを救ってくれた。
「さようなら。そして、ありがとう」
戦場から消えゆく青い光に感謝を伝えた。長かった役目の最後に消滅した地球の神、私と苦楽を共にした仲間。ハバキリの残光と共に宇宙へと還った一人の女性に向けたその言葉は偽りない本心。
私もまた、清雅の聖域を後にした。もう、ここに用はない。私は、私も漸く目が覚めた。映像に消え行く旗艦の神と同じく、己が歩むべき道を見定めた。私には彼女の遺志に報いなければならない義務がある。自らに、そう架した。
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