G.o.D 神魔戦役篇

風見星治

文字の大きさ
262 / 273
神魔戦役篇 エピローグ

177話 不穏な気配

しおりを挟む
「あの、好きな方選んでいいんじゃないかな?どっち選んでも、その……君であることに変わりはないと思うんだ」

 迷うルミナに光明が射す。傍と声を向く彼女の視線が伊佐凪竜一の顔を映した。真っ直ぐ見つめる視線と助言にルミナは驚きつつも、直ぐに優しく微笑み返した。

「少し、時間が欲しい」

 回答保留。迷いなく、それでいて曖昧な決断に伊佐凪竜一以外は驚いた。ルミナ達の地球での足取り、行動は非常にデリケートな部分以外は関係者に共有済み。当然、彼女が幾つもの英断を下してきた事実も把握している。だから今回も、と無根拠に快諾を確信していたヤマヒコの動揺は酷く、落胆を隠そうともしない。

「そ、そうですか。では、何れ日を改めて」

「そうですね。では急いでゆっくり準備しますので私達はコレで」

「な、なんですかその妙な返答は?大体、貴女は時折……」

「いーから!!邪魔してすいませんね、ウッフフフフフフッヒヘヘヘ」

「あぁ、と。じゃ、これで終わりで」

 と、話を切り上げ急ぎ足で休憩スペースを後にするニニギとコノハナ。ヤマヒコは呆れる様に続き、伊佐凪竜一とルミナは余りの勢いに呆然と見送る。僅か間を置き、あ、と引き留めようと動くが既に遅く。何かを言いたそうに伸ばした手が虚しく空を切った。

「ありがとう」

 ルミナが感謝を口にした。零れる笑みが彼女の心境を物語る。

「いや、なんとなく、そう思っただけで」

 謙遜する伊佐凪竜一。助言の理由は彼自身にも分かっていない。共に過ごした日々は忘却の彼方にあるのは確実。それでも気遣うのは生来の性格か、それとも忘れた過去が無意識に表出した為か。ただ、何れにせよルミナにとっては最上の言葉だった。

「まただ」

 しかし長くは続かない。彼女から笑みがフッと消えた。困惑し、寧ろ緊張さえ浮かぶ顔が周囲を見回す。

「もしかして、君も?」

 伊佐凪竜一も同調した。恐らく、今日初めて話が合った。ただ、喜びはない。重苦しい、不快感を伴う空気が身体にまとわりつく。

「声、だよねコレ?」

「多分。最初は君の声かと思っていたんだけど……」

「でもこれって声……いや音、それとも歌?」

 何方ともなく何もない空に耳を傾けた。当然、何もない。が、確かに聞こえている。

「相談してみたいが、混乱させるだけか。ただでさえ私達の身体は異常らしいし」

「その異常がハバキリって力の影響なら、この声もそうなのかな?」

「分からないな」

 幻聴か、あるいは本当に聞こえているのか。しかし2人共、誰にも口外しなかった。担当医の誰もが些細な違和感であっても報告するよう求めていた事を知りながら、それでも自らの身に起きている異変を伝える事が出来なかった。献身的な看護と、何より信頼を裏切る形になるとしても、だ。

 本当に聞こえているならば自分達以外にも聞こえている筈。しかし他の誰も声、あるいは歌の話をしなかった。とすれば確実に何かが起きている。その何かは確実にハバキリで、だからこそ言い出せない。

 伊佐凪竜一とルミナの身体は問題ない。より正確には問題がなさ過ぎる。人間離れした異常な数値、とりわけ尋常ではないレベルの再生能力と免疫機能、スサノヲを凌駕するカグツチへの適性など、検査時に発覚した異常は枚挙にいとまがない。

 だが、何がどうして異常を引き起こすのか旗艦の誰も解明できない。そんな状態で余計な異常を重ねる必要はない。ただでさえ担当医数名が根を詰め過ぎて入院する羽目になっている。決して信頼していないという理由ではない。

「視線、感じない?」

 沈黙を破り、今度は伊佐凪竜一が問う。声、あるいは歌だけではない、と。

「同じか。確かに、時折だけど確かに私も誰かの視線を感じる」

 ルミナも否定しなかった。伊佐凪竜一を見つめる視線から熱が消え、不安の比重が増加する。

「厳重な警備のせいかもしれないし、まだ落ち着いていないせいかもしれないけど。でもなんだろう、この感覚」

「なら、俺も分からないかな。ハァ、死んで生き返ってから落ち着く暇もないな」

 声。視線。身体の異常に止まらない異変を確かに感じる。落ち着けないとごちる伊佐凪竜一に、ルミナも無言で同調した。再び、口が固く閉ざされた。

 無言の間に耳元で囁く声を聞き入る伊佐凪竜一とルミナ。声の正体は不明。ハバキリか、あるいは死者の声か。呼びかけられている様な、歌の様な声。懐かしい、と何方ともなく零した。不思議だと感じる。伊佐凪竜一もルミナも、この声らしき何かを聞いた記憶があるような懐かしさを伴った感覚に支配された。

 知らない筈なのに知っている様な、だけど誰か思い出せないもどかしさを感じながら、相変わらず何処からか感じる視線を受け入れながら2人はその両方に身を任せる。

 静寂――

「今、私の後ろに見えますのが現在二人の英雄が治療を行っている施設となります。地球の皆様もご覧いただけますでしょうか、現在両名共に意識を取り戻しており、また身体の方にも異常らしい異常が見えないとの事です」

 が、直ぐに破られた。熱量を伴う暑苦しい語り口に、伊佐凪竜一とルミナの意識が声へと向かった。休憩スペースに浮かぶ巨大ディスプレイから、報道関係者の熱弁が流れ始めた。声は、やがて聞き飽きる位に自分達を賛美し始める。偶然にも地球で出会い、逃げ続け、追い詰められ、それでも諦めず戦い続け、そして――

「復元担当医の話によりますと、今のところ精神的にも肉体的にも異常は見られないそうですが、共に精神的な緊張が見られるために検査の頻度を落とし、面会時間を設けているとの事です。既に深い仲になっていると言う話からも、今後の将来設計を見据えた……」

 映像が不自然に途切れた。気恥ずかしさからルミナが番組を切り替えた。が、幾ら番組を切り替えようが内容はほぼ似たり寄ったり。2人の仲が既に相当に深いところまで進行している、有体に言えば恋人同士だと。しかも治療が完了する半年後を目途に互いを配偶者として選ぶのではといった推測までされるなど、過熱する報道は戦いとは別の意味で暴走、当人達の心情などお構いなしに突き進む。

 ただ助けたかった。それ以上を考えていなかった。互いを助ける事だけが頭にあり、言い方は悪いがそれ以外の全ては二の次程度にしか考えていなかった。それ以上の何もない、混じりっ気ない純粋な意志の共鳴が清雅市最後の戦い勝利する力を引き寄せる原動力になった点は疑いようない。

 そうなのだが、それを自分達以外に説明しても納得して貰えない、貰えなかった。状況を冷静に見返せば、しかしそう思われても仕方がない程の死線を支え合いながら潜り抜けてきたのだから仕方が無い訳もなく――

「ほ、他に変えようか?」

 気まずさに耐えかね、伊佐凪竜一が声を上げた。泳ぐ視線が一層気まずさを強調する。

「そう……そうだな。何か見たい番組ある?とはいっても今はどこもこんな調子だろうけど」

 同意するルミナ。同じく気まずさに身悶えするが、視線は伊佐凪竜一から外さない。無責任な報道を垂れ流す巨大ディスプレイなど目もくれず、互いを見つめ合う。絡み合う視線に様々な感情が滲む。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

日本の運命を変えた天才少年-日本が世界一の帝国になる日-

ましゅまろ
歴史・時代
――もしも、日本の運命を変える“少年”が現れたなら。 1941年、戦争の影が世界を覆うなか、日本に突如として現れた一人の少年――蒼月レイ。 わずか13歳の彼は、天才的な頭脳で、戦争そのものを再設計し、歴史を変え、英米独ソをも巻き込みながら、日本を敗戦の未来から救い出す。 だがその歩みは、同時に多くの敵を生み、命を狙われることも――。 これは、一人の少年の手で、世界一の帝国へと昇りつめた日本の物語。 希望と混乱の20世紀を超え、未来に語り継がれる“蒼き伝説”が、いま始まる。 ※アルファポリス限定投稿

旧校舎の地下室

守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

日本新世紀ー日本の変革から星間連合の中の地球へー

黄昏人
SF
現在の日本、ある地方大学の大学院生のPCが化けた! あらゆる質問に出してくるとんでもなくスマートで完璧な答え。この化けたPC“マドンナ”を使って、彼、誠司は核融合発電、超バッテリーとモーターによるあらゆるエンジンの電動化への変換、重力エンジン・レールガンの開発・実用化などを通じて日本の経済・政治状況及び国際的な立場を変革していく。 さらに、こうしたさまざまな変革を通じて、日本が主導する地球防衛軍は、巨大な星間帝国の侵略を跳ね返すことに成功する。その結果、地球人類はその星間帝国の圧政にあえいでいた多数の歴史ある星間国家の指導的立場になっていくことになる。 この中で、自らの進化の必要性を悟った人類は、地球連邦を成立させ、知能の向上、他星系への植民を含む地球人類全体の経済の底上げと格差の是正を進める。 さらには、マドンナと誠司を擁する地球連邦は、銀河全体の生物に迫る危機の解明、撃退法の構築、撃退を主導し、銀河のなかに確固たる地位を築いていくことになる。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

蒼穹の裏方

Flight_kj
SF
日本海軍のエンジンを中心とする航空技術開発のやり直し 未来の知識を有する主人公が、海軍機の開発のメッカ、空技廠でエンジンを中心として、武装や防弾にも口出しして航空機の開発をやり直す。性能の良いエンジンができれば、必然的に航空機も優れた機体となる。加えて、日本が遅れていた電子機器も知識を生かして開発を加速してゆく。それらを利用して如何に海軍は戦ってゆくのか?未来の知識を基にして、どのような戦いが可能になるのか?航空機に関連する開発を中心とした物語。カクヨムにも投稿しています。

処理中です...