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神魔戦役篇 エピローグ
182話 誰も知らない計画
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「「は?」」
ともすれば間抜けな声が二つ、部屋に木霊した。
「え、は?なんで知らないの?」
「だって、勅令でしょ!?」
「だな。間違いなく」
続く疑問に即答するスクナ。が、回答に余計混乱するニニギとヤマヒコ。
「そのプロジェクト・イースターのデータは見せたんですよね?」
「それが終戦のゴタゴタの中で」
「え、消え……あぁ、もしかして消された、じゃないですよね?」
「さて、な」
スクナが天井に溜息を吐き捨てた。余りにも不自然なタイミングに何らかの意図を疑うのた当然。が、答えは出ない。何一つ、出ない。
「それじゃ、医療機関の方は?神が知らない正体不明の計画なら箝口令出されてたとしても確実に嘘で、従う義務ないから話せるでしょ?」
「当てが外れたよ。誰一人として知らん、とさ。無論、本人も」
と、結んだスクナが再び盛大なため息をついた。
「あるいは岩戸の奥、とか?」
霧散するため息にニニギが重ねた。勅令後に封印され、当該計画のデータを持ち出せず、だから知らなかったと仮定すれば一応は筋が通るとニニギはスクナを見上げた。が、視線の前でしゃがれた首が横に振れる。終ぞ何の計画なのか何も、誰にも分からず、疑問だけを残したまま当該計画は闇の底に沈んだ。
「あーと、じゃあ……身体検査で一部データが異常な数値を叩き出してるって話してましたよね?確か、免疫とか抵抗関係の数値でしたか?ナノマシン拒絶反応と関係ある数値って話までは覚えてるんですが、もしかしてソレじゃないですか?」
「正しくは高過ぎて最新機器でさえ測れない、致死率100パーセントの毒や病原菌すら効かない、だそうで。後、伊佐凪竜一も同じだから違うぞ」
「そ、そうですか」
「コノハナ女史も参ってたなぁ、その無茶苦茶な体質のせいで。なんか、全然休みが取れないから変なとこで寝落ちしてたり、気が付いたら時間と記憶が飛んでたり、触る必要のない資料を弄ってた、とかナントカ」
「医者の不養生、だな」
「何ですソレ?」
「地球の言葉。それはともかく、もう一つの話に繋がる訳だ」
「「もう一つ?」」
用件は暗号解除だけではなかった。仲良く重なる疑問の声にスクナが続ける。
「異常な免疫は間違いなくハバキリ。原理は考えても無駄だ。ただ、何にしてもその力が原因で本格的な復元作業に移行出来ない。何せ復元用に調整したナノマシンすら免疫が完全に破壊してしまうそうでな。と、いう訳で古典的な手段で対応するとさ」
最新の科学を嘲笑うハバキリの能力は、皮肉にも復元を妨害している。奇跡は誰にとっても奇跡ではない、とスクナは皮肉っぽく笑った。肉体復元はナノマシンで生成した仮の部位を作成後、細胞の増殖を促し肉体を修復、最後にナノマシンを分解するという工程を踏む。が、初手のナノマシン注入から躓いているのが現状。
「古典?と、言うと栄養たっぷりの食事と適度な運動ってところですか」
「あぁ。流石に食事を通した栄養は免疫も反応しないって訳ですね」
「それ以外に手立てがないと全員が匙を投げてな」
はぁ、と聞き終えたニニギとヤマヒコが呆れた。双方共に旗艦の要職に就く、言わばエリート。持ち得る知識も常人とは比較にならないほど高い彼女達でさえ感嘆に似た溜息を漏らす程にハバキリの力は桁外れている。
一方、不安も大きい。英雄の命を繋ぐ力は連合最先端でさえ全く解析不能な未知の力。蘇生した理由も不明、肉体の大半をナノマシンに置き換えられた状態で平然と生きている理由も同じく不明。生命維持装置もなしに何が2人を生かしているのか。性能が極めて高いだけのナノマシン群体が何をどうして骨格、筋肉、血管、内臓、果ては血液に至る全ての機能を正しく代替しているのか。
「そう、ですか。一先ず問題ないというならば。特兵研も今後どうなるか分からない人物専用の武器開発を行うなんて無駄になりそうで嫌ですからね」
「私も協力て欲しい事案がまだありますから2人共に無事なのは願ったり叶ったりですが。ところで……コノハナでも誰でも、2人の身体について他に何も言ってませんでしたか?」
「ン?あぁ、特に何も……伊佐凪竜一の記憶問題を除けば有り得ない位に元気だとか、そんな程度しか聞いとらんが?」
「そう、そうですか」
ニニギは何とも神妙な顔色を浮かべる。2人の身に起きる異変に気付いているのか、それとも――
「まぁそれはともかく、本題に入る訳だが」
「あれ?さっきまでのが本題じゃなかったんですか?」
暗い影の落ちるニニギを気に掛けつつ、スクナが改めて本題を切り出した。まだ終わっていなかった、ヤマヒコの顔には山積する問題への疲労が滲む。一呼吸遅れてニニギがスクナを見上げた。暗い影は、少なくとも今は見えない。
「食事だけじゃあ不健康って理由で伊佐凪竜一が適度な運動を要求してきた。で、ワシが担当する事になった」
「適度な運動、ですか。それって」
「もう一波乱あると直感しているのかもな。ルミナも同じ。気にしない素振りを見せているが、何だかんだ言いつつ伊佐凪竜一を気に掛けているようでな。健気すぎて『私なら絶対に離さない』とは女性陣の評価だが。ま、そんな訳で今後は検査に回せる時間がかなり減る」
「承知しました。開発、急いだ方が」
「あの」
思い立った様にニニギが声を上げた。唐突に割って入った言葉に驚く視線が彼女を見つめる。
「今、思ったんですけど。さっきの話、異常な免疫について口外しない様に伝えました?報道陣もそうなんですけど、もしオオゲツが知ったら何をするか」
ニニギの懸念は最も。スクナはあぁ、と何度目かのため息を零し――
「取りあえず、心配なくなった」
簡潔に伝えた。
「どういう事です?捕まったといった類の報告は上がっていませんけど?」
ニニギがふと口にした疑問に対するスクナの返答に空気が一変した。追及するニニギにスクナは黙ったまま語ろうとはしない。口火を切った彼女は困惑しながらも、何かが起きた事だけは察した。ややあって、スクナが重い口を開いた。
ともすれば間抜けな声が二つ、部屋に木霊した。
「え、は?なんで知らないの?」
「だって、勅令でしょ!?」
「だな。間違いなく」
続く疑問に即答するスクナ。が、回答に余計混乱するニニギとヤマヒコ。
「そのプロジェクト・イースターのデータは見せたんですよね?」
「それが終戦のゴタゴタの中で」
「え、消え……あぁ、もしかして消された、じゃないですよね?」
「さて、な」
スクナが天井に溜息を吐き捨てた。余りにも不自然なタイミングに何らかの意図を疑うのた当然。が、答えは出ない。何一つ、出ない。
「それじゃ、医療機関の方は?神が知らない正体不明の計画なら箝口令出されてたとしても確実に嘘で、従う義務ないから話せるでしょ?」
「当てが外れたよ。誰一人として知らん、とさ。無論、本人も」
と、結んだスクナが再び盛大なため息をついた。
「あるいは岩戸の奥、とか?」
霧散するため息にニニギが重ねた。勅令後に封印され、当該計画のデータを持ち出せず、だから知らなかったと仮定すれば一応は筋が通るとニニギはスクナを見上げた。が、視線の前でしゃがれた首が横に振れる。終ぞ何の計画なのか何も、誰にも分からず、疑問だけを残したまま当該計画は闇の底に沈んだ。
「あーと、じゃあ……身体検査で一部データが異常な数値を叩き出してるって話してましたよね?確か、免疫とか抵抗関係の数値でしたか?ナノマシン拒絶反応と関係ある数値って話までは覚えてるんですが、もしかしてソレじゃないですか?」
「正しくは高過ぎて最新機器でさえ測れない、致死率100パーセントの毒や病原菌すら効かない、だそうで。後、伊佐凪竜一も同じだから違うぞ」
「そ、そうですか」
「コノハナ女史も参ってたなぁ、その無茶苦茶な体質のせいで。なんか、全然休みが取れないから変なとこで寝落ちしてたり、気が付いたら時間と記憶が飛んでたり、触る必要のない資料を弄ってた、とかナントカ」
「医者の不養生、だな」
「何ですソレ?」
「地球の言葉。それはともかく、もう一つの話に繋がる訳だ」
「「もう一つ?」」
用件は暗号解除だけではなかった。仲良く重なる疑問の声にスクナが続ける。
「異常な免疫は間違いなくハバキリ。原理は考えても無駄だ。ただ、何にしてもその力が原因で本格的な復元作業に移行出来ない。何せ復元用に調整したナノマシンすら免疫が完全に破壊してしまうそうでな。と、いう訳で古典的な手段で対応するとさ」
最新の科学を嘲笑うハバキリの能力は、皮肉にも復元を妨害している。奇跡は誰にとっても奇跡ではない、とスクナは皮肉っぽく笑った。肉体復元はナノマシンで生成した仮の部位を作成後、細胞の増殖を促し肉体を修復、最後にナノマシンを分解するという工程を踏む。が、初手のナノマシン注入から躓いているのが現状。
「古典?と、言うと栄養たっぷりの食事と適度な運動ってところですか」
「あぁ。流石に食事を通した栄養は免疫も反応しないって訳ですね」
「それ以外に手立てがないと全員が匙を投げてな」
はぁ、と聞き終えたニニギとヤマヒコが呆れた。双方共に旗艦の要職に就く、言わばエリート。持ち得る知識も常人とは比較にならないほど高い彼女達でさえ感嘆に似た溜息を漏らす程にハバキリの力は桁外れている。
一方、不安も大きい。英雄の命を繋ぐ力は連合最先端でさえ全く解析不能な未知の力。蘇生した理由も不明、肉体の大半をナノマシンに置き換えられた状態で平然と生きている理由も同じく不明。生命維持装置もなしに何が2人を生かしているのか。性能が極めて高いだけのナノマシン群体が何をどうして骨格、筋肉、血管、内臓、果ては血液に至る全ての機能を正しく代替しているのか。
「そう、ですか。一先ず問題ないというならば。特兵研も今後どうなるか分からない人物専用の武器開発を行うなんて無駄になりそうで嫌ですからね」
「私も協力て欲しい事案がまだありますから2人共に無事なのは願ったり叶ったりですが。ところで……コノハナでも誰でも、2人の身体について他に何も言ってませんでしたか?」
「ン?あぁ、特に何も……伊佐凪竜一の記憶問題を除けば有り得ない位に元気だとか、そんな程度しか聞いとらんが?」
「そう、そうですか」
ニニギは何とも神妙な顔色を浮かべる。2人の身に起きる異変に気付いているのか、それとも――
「まぁそれはともかく、本題に入る訳だが」
「あれ?さっきまでのが本題じゃなかったんですか?」
暗い影の落ちるニニギを気に掛けつつ、スクナが改めて本題を切り出した。まだ終わっていなかった、ヤマヒコの顔には山積する問題への疲労が滲む。一呼吸遅れてニニギがスクナを見上げた。暗い影は、少なくとも今は見えない。
「食事だけじゃあ不健康って理由で伊佐凪竜一が適度な運動を要求してきた。で、ワシが担当する事になった」
「適度な運動、ですか。それって」
「もう一波乱あると直感しているのかもな。ルミナも同じ。気にしない素振りを見せているが、何だかんだ言いつつ伊佐凪竜一を気に掛けているようでな。健気すぎて『私なら絶対に離さない』とは女性陣の評価だが。ま、そんな訳で今後は検査に回せる時間がかなり減る」
「承知しました。開発、急いだ方が」
「あの」
思い立った様にニニギが声を上げた。唐突に割って入った言葉に驚く視線が彼女を見つめる。
「今、思ったんですけど。さっきの話、異常な免疫について口外しない様に伝えました?報道陣もそうなんですけど、もしオオゲツが知ったら何をするか」
ニニギの懸念は最も。スクナはあぁ、と何度目かのため息を零し――
「取りあえず、心配なくなった」
簡潔に伝えた。
「どういう事です?捕まったといった類の報告は上がっていませんけど?」
ニニギがふと口にした疑問に対するスクナの返答に空気が一変した。追及するニニギにスクナは黙ったまま語ろうとはしない。口火を切った彼女は困惑しながらも、何かが起きた事だけは察した。ややあって、スクナが重い口を開いた。
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