G.o.D 神魔戦役篇

風見星治

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神魔戦役篇 エピローグ

183話 既に 死んでいた

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主星むこうから連絡があった。オオゲツの死亡を確認した、とな。ほんの十数分前だ」

 オオゲツ死亡の吉報にニニギが歓喜した。不謹慎、などとは思わない。アラハバキを操り、地球に戦いを仕掛けた元凶。その死を喜びこそすれ悲しむ人間など今の旗艦にいない。

「追い詰められて自殺でもしたんですかね?そんな印象はないんですが」

 対照的に怪訝けげんそうな顔をするヤマヒコは、何故だか酷く顔色の優れないスクナを見た。隠し切れない疲労の中に、吉報を手放しで喜べない心情が滲む。

「そう単純でもなくてな。先ず遺体発見の現場は奴が同盟惑星に持っている別荘。問題は調査結果でな。死亡して……」

「して、何です?」

「2年」

「は?」
「へ?」

「少なくとも2年以上は経過していたと報告があった。死因は拳銃自殺。それ以外の外傷は争った形跡も含め一切なし、毒物薬物も検出されなかった。それ以外だと、涙の跡があった位か。自害の瞬間が映像に残っていたから間違いはないらしい」

 スクナが重い口を開いた。ニニギとヤマヒコは閉口する。つい数日前まで旗艦にいた人間が、今から2年以上も前に死んでいたなど有り得ない。

「いや待ってくださいよ!?幾ら何でも2年前でしょ?どんな保存状態なら外傷はともかく涙の跡やらが分かるんです?」

「2年も放置されてたら腐乱どころか白骨化、短期間で正確な調査を行うのは流石に無理でしょ?門外漢の私だってその位は知っていますよ」

 ヤマヒコとニニギが仲良くまくし立てた。如何に連合最先端の技術であっても、白骨死体から涙の痕跡を見つけるなど不可能。ならば一体何があったのか。スクナが続きを語る。

「それがな、遺体はフタゴミカボシの葬送儀礼に則って飾り付けられた棺に納められていたそうだ。ご丁寧に防腐処理機能付きのな。まるでついさっき死んだかのように見えた、とは駆け付けた守護者しゅごしゃ達の話だ」

主星むこうの最高戦力が?へー、動いてるんだ」

「流石に、な。その遺体なんだが、誰がどう見てもあからさま過ぎる。まるで調べろ、疑えと言わんばかりだ。罠か、素直に死者への哀悼あいとうの意かさっぱり分からんが、何らかの意図がある事は確かだ」

「知ってます。棺と遺体を誕生花で飾り付けるんですよね」

「あぁ。確かヒガンバナという名前の真っ赤な花で彩られていた……らしい」

 主星の習俗に明るいニニギが葬送儀礼を言い当てた。棺を死者の誕生花で彩るのは主星に古くから伝わる習わし。次の人生でも大輪の花を咲かせるように。そんな祈りを込めて、かの惑星では誕生月と誕生日を元に決められた誕生花を死者に手向ける。また、誕生花は誕生と同時に死を看取る花問い意味合いがある為、名に反し慶事けいじには使われない。

 得意気に説明するニニギ。対する男2人の反応は薄い。そもそも主題が違うのだから仕方のない話だが。

「まぁ、それは一旦置いておき。だとするなら、散々コッチを引っ掻き回したあの女は一体誰なんです?顔は整形用ナノマシンを使えば騙せるでしょうけど、それ以外は無理ですよ。仮に数十万を超える社員を騙し通せたとして、親族まで騙せますかね?何より個人識別用の生体認証はどうやって誤魔化したんです?登録情報の変更手続きは本人確認が必須条件。なのに争った形跡はないんでしょ?どうやって?そもそもオオゲツが来艦した時点でまだアマテラスオオカミは健在。騙し通せる可能性はゼロですよ。抜け道など一切ない旗艦アマテラスココで、一体どんな手段を使ったら神すら出し抜けるというんです?」

 ヤマヒコが矢継ぎ早に疑問をぶつけた。彼の話は全て真実。疑問が、また増えた。

「全部調査中だが、可能性があるとすれば複製体クローンで、次が一卵性双生児か。ただ複製体の製造は連合全体で禁止されている。例え姫でも容赦なく罰せられるレベルの厳罰でな」

 スクナも疑問を重ねる。最も高いと予測した複製体の可能性だが、実際は限りなくゼロに近い。法での禁止は当然、製造に僅かでも関連がある機器の製造・輸出は事前申請で雁字搦がんじがらめに管理されている。医療機関で行われる治療が一律肉体復元という手段を採用する理由も、部位レベルの複製どころか移植用の臓器すら法で禁止されている為。

「ですよね。そもそも複製体って4つの壁問題を突破出来てませんし」

 ニニギも複製体説を否定した。彼女が根拠とした4つの壁と題された問題は、次を指す。

 問題1。ある個体を複製クローニングした複製体は、複製元と同じ遺伝的脆弱性を抱える。
 問題2。ある個体を複製したとしても記憶と経験までは複製出来ず、有能な人材の確保に寄与しない。
 問題3。遺伝子組み換えで完璧に調整した個体を複製した場合、能力の高さから制御不能、ないし反乱を起こす危険性を排除出来ない。
 問題4。上記3点を全て解決出来たと仮定しても、成長までに必要な莫大なコスト|(時間+費用)を回収できないリスクを抱える。

 特に問題4は致命的で、ただでさえ連合における複製の研究自体が禁忌であるのに、コスト面にもリスクを抱えている。この現状に移植用臓器すら複製を禁止する連合法、連合の先端医療であるナノマシン治療が手軽で比較的安価で更に注射一本の後は軽い経過観察で済む手軽さなどの理由が重なり、複製体の研究は法云々を抜きにしても全く進展しておらず、その点に対する反論も上がっていない。

 寧ろ批判の矛先は便利な医療用ナノマシンの特許を持ち、莫大な財を集める一部大企業|(代表企業、主星の製薬会社アスクレピオス)、及び関連特許を売却した特兵研に向いているのが現状。

「あぁ、と。情報を見ていないので何とも言えませんが、多分一卵性双生児も違うと思いますよ」

 ヤマヒコが一卵性双生児の可能性も否定した。

「一卵性双生児だからって生体情報が全て同じになる訳ではありませんからね。これ見逃すってなると、無能以外有り得ないですよ?複製体にしたって急激な成長に伴うホルモン異常を原因とする臓器不全は比較的顕著だそうで。ま、守護者が未熟な姫様を見限ってオオゲツ達に尻尾振ったのなら話は別ですけど」

「流石に詳しいな」

「ま、それなりに。やはり大きな問題は生体認証ですね。記憶は何とでもなるでしょうが、生体認証はどうしたって無理がある。我々の知らない未知の技術を使ったとでも言うのでしょうかね?あるいは一昔前に行われていたと噂の法を逸脱した違法な遺伝子組み換えによる変異体……とかでしょうか?」

「あぁ、超人計画でしたっけ?今となっては娯楽用のネタになってるっていう」

「想像力逞しいな。その変異体が遺伝情報を自在に変えられると言う突飛な能力でも持っていると仮定すれば、確かにあり得るが……」

「人を逸脱した異常な固体って記録は僕も見ましたけど、どれも当時の倫理観からすら大きく逸脱してたので即座に禁止。一部が強行を試みたけど関連施設を徹底して破壊、頓挫とんざしたと記録に残ってましたね。ニニギの言う通り、データベースを除けばお伽噺と娯楽の中だけの話で、現実には存在すらしない。第一、時代が違い過ぎますからねぇ」

「今から何年前だっけ?1000年とか1500、位だったかな?そうなると後は人型式守シキガミ……は生体反応なんて出ないし、一体何がどうなっているの?訳が分からないよ」

 ニニギを最後に会話がピタ、と止まった。どんな可能性を考えても何かでつまづく。他に見落としがあるのか、それともオオゲツが人外の化け物なだけか。あるいは、いっそ化け物であった方がマシだと、そんな空気が生まれる。同時に、まるで巨大な壁が目の前にそびえ立っている様な圧迫感までも。先が見通せない不安が、三者を三様に押し潰す。
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