G.o.D 神魔戦役篇

風見星治

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第1章 月の夜 出会い

5話 これが 運命の出会い 其の4

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 猛スピードで車を走らせているが、目的地まではまだもう少し時間が掛かる。窓の外を見れば煌びやかなネオンと街灯に照らされた夜の街が映る。既に住民の避難は完了しているようで、かなりの距離を走ったにも関わらず人の姿は一人として確認出来ない。

「追い付かれる。もっと速度を上げろ」

「言われなくても上げてるよ!!」

「揺らすな。逸れる」

「これでも精一杯頑張ってるッ」

 人だけが消失した酷く幻想的で現実離れした夜の街に意識を向ける余裕はない。素性不明の女の淡々とした|(無茶な)指示と、その隙間を縫う銃声、そして未だ追跡を続ける化け物。

 逃走は未だ続いていた。既に10キロ近くは市内を引きずり回しているのに速度は一向に落ちない。散発的だった援護射撃も気が付けば引っ切り無しに行ってくれているようだが、何をどうしてか銃撃にも全く怯まない。

 極めつけに、高架下や歩道橋さえも強引に突っ切って来る。通過する度に後方から激しくぶつかる音が響き、その度に青い恐竜との距離が大きく開いた。が、減速はほんの僅かの間だけ。即座に速度を上げて追いかけてくる。

 とは言え、それでも十分に距離を稼いだ。このまま道なりに進めばバイパスに出る。信号のない直線道路は市外まで伸び、その先、市外との境目にはICがある。高速まで乗れば流石に引き離せる。というか流石に追跡してこない筈、いや頼むから来ないでくれ。

「揺れるから捕まってろ」

 そう後部座席の女に告げ、猛スピードのまま横滑りでカーブを曲がった。直後、視界の端がボウッと青色に滲んだ。

「オイ嘘だろ!?」

 堪らず叫んだ。減速せざるを得ない瞬間を狙いすまし、恐竜が不自然なまでに首を伸ばした。いや確かに色々と化け物染みていたが、流石にこの動作は予想していなかった。余りにも有り得ない光景に、情けない悲鳴と絶叫が口から飛び出た。

 一方、謎の女性はまるでこの状況を読んでいたかのように射撃体勢を取っていた。反対側の窓を銃撃で粉々に破壊するや手投げ式の爆弾らしき物を放り投げつつ、流れるような動作で道路上に設置された標識を撃ち抜いた。爆風で怯んだところに落下した標識に足を取られた恐竜はその速度を大きく落とした。

 俺は鏡が映したその鮮やかな手腕、粉々になったガラスと銀色の髪が光を反射する幻想的な光景を呆然と見つめていた。

 ※※※

 逃走劇は市外付近のホテル街へと差し掛かった辺りで不意に終わった。気が付けば青く輝く恐竜の姿はなかった。何にせよ助かったが、失った物は大きい。見事に割れた後部ドアのガラスと多数の擦り傷、幾つもの凹みがある車ではこのまま逃げ続けるには流石に目立ちすぎる。買ったばかりなんだけど。

 とは言え、一連の出来事に今日まで勤めていた清雅が関わっているとなれば身元証明にもなり得る車は邪魔だ。もう使えない。買ったばかりなんだけど。が、助けると決めたのだから泣き言は言わない。

 目立たない場所に隠し、ダッシュボードから予備携帯と更に予備携帯の予備、いざ情報を盗み出せた時用に偽名で登録した携帯、更に何かあった時用の予備端末を取り出した。

 気が付けば、助けた女が怪訝そうにこちらを見つめていた。目も口も隠しているから感情が読み取れないが、何も語らない態度が苛立っている心情を雄弁に語っている様な気がして、慌てて何でもないと告げた。

 次の問題は雨風を凌ぐ場所だが、俺にクビを告げたあの上司が何時の日か酔った勢いで、ごく一部しか知りえない秘密だと前置きした上でこんな事を教えてくれた。曰く、その場所は未だに現金払いで、しかも周辺の監視カメラは全部偽物で全く監視が行われていない。

 しかも、目的地はこの場所からそう遠くはない位置にある。彼女の明らかに浮いた格好も避難警報により住民全員が避難した街では関係なく、監視カメラも機能していないなら何の影響もない――と、降り出した雪に急かされる様に10分ほど歩き、漸く目的地までやって来た。

 ホテル街。良く言えば豪華、悪く言えば悪趣味な装飾や看板がひしめく一角をしばらく歩き、お目当ての場所に辿り着いた、着いてしまった。当面の隠れ場所としてこれ以上の条件はないと言いたいところだけど、問題はどうやって説明したものか、という方で。

 道すがら思いつくだろうと高を括ったが、やはり妙案は浮かばなかった。説明して納得してくれるか、命を狙われているとは言え入ってくれるか、果たして上手く誤魔化せるか。
 
 一際煌びやかに装飾された悪い意味で目立つホテルを前にして、どうでもいいような、しかし良く無いようなそんな葛藤を繰り返す。彼女は相変わらず無言だったが、無言で考え続ける俺に業を煮やしたのか――

「ここでいい」

 と、ぶっきらぼうに言い切ると勝手に中に入ってしまった。何も知らないのに先に入るなよ、さっきまで周囲を警戒してたのに――とは言えなかった。しかし、未だ名も知らない彼女は何故ああも行動的なのか。助けたはいいが、この先が思いやられる。
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