6 / 273
第1章 月の夜 出会い
5話 これが 運命の出会い 其の4
しおりを挟む
猛スピードで車を走らせているが、目的地まではまだもう少し時間が掛かる。窓の外を見れば煌びやかなネオンと街灯に照らされた夜の街が映る。既に住民の避難は完了しているようで、かなりの距離を走ったにも関わらず人の姿は一人として確認出来ない。
「追い付かれる。もっと速度を上げろ」
「言われなくても上げてるよ!!」
「揺らすな。逸れる」
「これでも精一杯頑張ってるッ」
人だけが消失した酷く幻想的で現実離れした夜の街に意識を向ける余裕はない。素性不明の女の淡々とした|(無茶な)指示と、その隙間を縫う銃声、そして未だ追跡を続ける化け物。
逃走は未だ続いていた。既に10キロ近くは市内を引きずり回しているのに速度は一向に落ちない。散発的だった援護射撃も気が付けば引っ切り無しに行ってくれているようだが、何をどうしてか銃撃にも全く怯まない。
極めつけに、高架下や歩道橋さえも強引に突っ切って来る。通過する度に後方から激しくぶつかる音が響き、その度に青い恐竜との距離が大きく開いた。が、減速はほんの僅かの間だけ。即座に速度を上げて追いかけてくる。
とは言え、それでも十分に距離を稼いだ。このまま道なりに進めばバイパスに出る。信号のない直線道路は市外まで伸び、その先、市外との境目にはICがある。高速まで乗れば流石に引き離せる。というか流石に追跡してこない筈、いや頼むから来ないでくれ。
「揺れるから捕まってろ」
そう後部座席の女に告げ、猛スピードのまま横滑りでカーブを曲がった。直後、視界の端がボウッと青色に滲んだ。
「オイ嘘だろ!?」
堪らず叫んだ。減速せざるを得ない瞬間を狙いすまし、恐竜が不自然なまでに首を伸ばした。いや確かに色々と化け物染みていたが、流石にこの動作は予想していなかった。余りにも有り得ない光景に、情けない悲鳴と絶叫が口から飛び出た。
一方、謎の女性はまるでこの状況を読んでいたかのように射撃体勢を取っていた。反対側の窓を銃撃で粉々に破壊するや手投げ式の爆弾らしき物を放り投げつつ、流れるような動作で道路上に設置された標識を撃ち抜いた。爆風で怯んだところに落下した標識に足を取られた恐竜はその速度を大きく落とした。
俺は鏡が映したその鮮やかな手腕、粉々になったガラスと銀色の髪が光を反射する幻想的な光景を呆然と見つめていた。
※※※
逃走劇は市外付近のホテル街へと差し掛かった辺りで不意に終わった。気が付けば青く輝く恐竜の姿はなかった。何にせよ助かったが、失った物は大きい。見事に割れた後部ドアのガラスと多数の擦り傷、幾つもの凹みがある車ではこのまま逃げ続けるには流石に目立ちすぎる。買ったばかりなんだけど。
とは言え、一連の出来事に今日まで勤めていた清雅が関わっているとなれば身元証明にもなり得る車は邪魔だ。もう使えない。買ったばかりなんだけど。が、助けると決めたのだから泣き言は言わない。
目立たない場所に隠し、ダッシュボードから予備携帯と更に予備携帯の予備、いざ情報を盗み出せた時用に偽名で登録した携帯、更に何かあった時用の予備端末を取り出した。
気が付けば、助けた女が怪訝そうにこちらを見つめていた。目も口も隠しているから感情が読み取れないが、何も語らない態度が苛立っている心情を雄弁に語っている様な気がして、慌てて何でもないと告げた。
次の問題は雨風を凌ぐ場所だが、俺にクビを告げたあの上司が何時の日か酔った勢いで、ごく一部しか知りえない秘密だと前置きした上でこんな事を教えてくれた。曰く、その場所は未だに現金払いで、しかも周辺の監視カメラは全部偽物で全く監視が行われていない。
しかも、目的地はこの場所からそう遠くはない位置にある。彼女の明らかに浮いた格好も避難警報により住民全員が避難した街では関係なく、監視カメラも機能していないなら何の影響もない――と、降り出した雪に急かされる様に10分ほど歩き、漸く目的地までやって来た。
ホテル街。良く言えば豪華、悪く言えば悪趣味な装飾や看板がひしめく一角をしばらく歩き、お目当ての場所に辿り着いた、着いてしまった。当面の隠れ場所としてこれ以上の条件はないと言いたいところだけど、問題はどうやって説明したものか、という方で。
道すがら思いつくだろうと高を括ったが、やはり妙案は浮かばなかった。説明して納得してくれるか、命を狙われているとは言え入ってくれるか、果たして上手く誤魔化せるか。
一際煌びやかに装飾された悪い意味で目立つホテルを前にして、どうでもいいような、しかし良く無いようなそんな葛藤を繰り返す。彼女は相変わらず無言だったが、無言で考え続ける俺に業を煮やしたのか――
「ここでいい」
と、ぶっきらぼうに言い切ると勝手に中に入ってしまった。何も知らないのに先に入るなよ、さっきまで周囲を警戒してたのに――とは言えなかった。しかし、未だ名も知らない彼女は何故ああも行動的なのか。助けたはいいが、この先が思いやられる。
「追い付かれる。もっと速度を上げろ」
「言われなくても上げてるよ!!」
「揺らすな。逸れる」
「これでも精一杯頑張ってるッ」
人だけが消失した酷く幻想的で現実離れした夜の街に意識を向ける余裕はない。素性不明の女の淡々とした|(無茶な)指示と、その隙間を縫う銃声、そして未だ追跡を続ける化け物。
逃走は未だ続いていた。既に10キロ近くは市内を引きずり回しているのに速度は一向に落ちない。散発的だった援護射撃も気が付けば引っ切り無しに行ってくれているようだが、何をどうしてか銃撃にも全く怯まない。
極めつけに、高架下や歩道橋さえも強引に突っ切って来る。通過する度に後方から激しくぶつかる音が響き、その度に青い恐竜との距離が大きく開いた。が、減速はほんの僅かの間だけ。即座に速度を上げて追いかけてくる。
とは言え、それでも十分に距離を稼いだ。このまま道なりに進めばバイパスに出る。信号のない直線道路は市外まで伸び、その先、市外との境目にはICがある。高速まで乗れば流石に引き離せる。というか流石に追跡してこない筈、いや頼むから来ないでくれ。
「揺れるから捕まってろ」
そう後部座席の女に告げ、猛スピードのまま横滑りでカーブを曲がった。直後、視界の端がボウッと青色に滲んだ。
「オイ嘘だろ!?」
堪らず叫んだ。減速せざるを得ない瞬間を狙いすまし、恐竜が不自然なまでに首を伸ばした。いや確かに色々と化け物染みていたが、流石にこの動作は予想していなかった。余りにも有り得ない光景に、情けない悲鳴と絶叫が口から飛び出た。
一方、謎の女性はまるでこの状況を読んでいたかのように射撃体勢を取っていた。反対側の窓を銃撃で粉々に破壊するや手投げ式の爆弾らしき物を放り投げつつ、流れるような動作で道路上に設置された標識を撃ち抜いた。爆風で怯んだところに落下した標識に足を取られた恐竜はその速度を大きく落とした。
俺は鏡が映したその鮮やかな手腕、粉々になったガラスと銀色の髪が光を反射する幻想的な光景を呆然と見つめていた。
※※※
逃走劇は市外付近のホテル街へと差し掛かった辺りで不意に終わった。気が付けば青く輝く恐竜の姿はなかった。何にせよ助かったが、失った物は大きい。見事に割れた後部ドアのガラスと多数の擦り傷、幾つもの凹みがある車ではこのまま逃げ続けるには流石に目立ちすぎる。買ったばかりなんだけど。
とは言え、一連の出来事に今日まで勤めていた清雅が関わっているとなれば身元証明にもなり得る車は邪魔だ。もう使えない。買ったばかりなんだけど。が、助けると決めたのだから泣き言は言わない。
目立たない場所に隠し、ダッシュボードから予備携帯と更に予備携帯の予備、いざ情報を盗み出せた時用に偽名で登録した携帯、更に何かあった時用の予備端末を取り出した。
気が付けば、助けた女が怪訝そうにこちらを見つめていた。目も口も隠しているから感情が読み取れないが、何も語らない態度が苛立っている心情を雄弁に語っている様な気がして、慌てて何でもないと告げた。
次の問題は雨風を凌ぐ場所だが、俺にクビを告げたあの上司が何時の日か酔った勢いで、ごく一部しか知りえない秘密だと前置きした上でこんな事を教えてくれた。曰く、その場所は未だに現金払いで、しかも周辺の監視カメラは全部偽物で全く監視が行われていない。
しかも、目的地はこの場所からそう遠くはない位置にある。彼女の明らかに浮いた格好も避難警報により住民全員が避難した街では関係なく、監視カメラも機能していないなら何の影響もない――と、降り出した雪に急かされる様に10分ほど歩き、漸く目的地までやって来た。
ホテル街。良く言えば豪華、悪く言えば悪趣味な装飾や看板がひしめく一角をしばらく歩き、お目当ての場所に辿り着いた、着いてしまった。当面の隠れ場所としてこれ以上の条件はないと言いたいところだけど、問題はどうやって説明したものか、という方で。
道すがら思いつくだろうと高を括ったが、やはり妙案は浮かばなかった。説明して納得してくれるか、命を狙われているとは言え入ってくれるか、果たして上手く誤魔化せるか。
一際煌びやかに装飾された悪い意味で目立つホテルを前にして、どうでもいいような、しかし良く無いようなそんな葛藤を繰り返す。彼女は相変わらず無言だったが、無言で考え続ける俺に業を煮やしたのか――
「ここでいい」
と、ぶっきらぼうに言い切ると勝手に中に入ってしまった。何も知らないのに先に入るなよ、さっきまで周囲を警戒してたのに――とは言えなかった。しかし、未だ名も知らない彼女は何故ああも行動的なのか。助けたはいいが、この先が思いやられる。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
日本の運命を変えた天才少年-日本が世界一の帝国になる日-
ましゅまろ
歴史・時代
――もしも、日本の運命を変える“少年”が現れたなら。
1941年、戦争の影が世界を覆うなか、日本に突如として現れた一人の少年――蒼月レイ。
わずか13歳の彼は、天才的な頭脳で、戦争そのものを再設計し、歴史を変え、英米独ソをも巻き込みながら、日本を敗戦の未来から救い出す。
だがその歩みは、同時に多くの敵を生み、命を狙われることも――。
これは、一人の少年の手で、世界一の帝国へと昇りつめた日本の物語。
希望と混乱の20世紀を超え、未来に語り継がれる“蒼き伝説”が、いま始まる。
※アルファポリス限定投稿
旧校舎の地下室
守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
日本新世紀ー日本の変革から星間連合の中の地球へー
黄昏人
SF
現在の日本、ある地方大学の大学院生のPCが化けた!
あらゆる質問に出してくるとんでもなくスマートで完璧な答え。この化けたPC“マドンナ”を使って、彼、誠司は核融合発電、超バッテリーとモーターによるあらゆるエンジンの電動化への変換、重力エンジン・レールガンの開発・実用化などを通じて日本の経済・政治状況及び国際的な立場を変革していく。
さらに、こうしたさまざまな変革を通じて、日本が主導する地球防衛軍は、巨大な星間帝国の侵略を跳ね返すことに成功する。その結果、地球人類はその星間帝国の圧政にあえいでいた多数の歴史ある星間国家の指導的立場になっていくことになる。
この中で、自らの進化の必要性を悟った人類は、地球連邦を成立させ、知能の向上、他星系への植民を含む地球人類全体の経済の底上げと格差の是正を進める。
さらには、マドンナと誠司を擁する地球連邦は、銀河全体の生物に迫る危機の解明、撃退法の構築、撃退を主導し、銀河のなかに確固たる地位を築いていくことになる。
蒼穹の裏方
Flight_kj
SF
日本海軍のエンジンを中心とする航空技術開発のやり直し
未来の知識を有する主人公が、海軍機の開発のメッカ、空技廠でエンジンを中心として、武装や防弾にも口出しして航空機の開発をやり直す。性能の良いエンジンができれば、必然的に航空機も優れた機体となる。加えて、日本が遅れていた電子機器も知識を生かして開発を加速してゆく。それらを利用して如何に海軍は戦ってゆくのか?未来の知識を基にして、どのような戦いが可能になるのか?航空機に関連する開発を中心とした物語。カクヨムにも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる