G.o.D 神魔戦役篇

風見星治

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第1章 月の夜 出会い

幕間1-1 逃亡成功 その裏で

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 戦い終わり、人心地つけていた山県大地の携帯端末に連絡が入る。戦闘を終えた彼等の周囲を見回せば、苛烈な戦闘を物語る痛ましい傷が建物や道路のアチコチに残る。車が数十台以上が使い物にならなくなり、周囲のビルも5棟が大きく破損、更に逃亡者の無理な追撃により複数の橋と歩道橋が全損した。

 が、逆に言えばそれ以外の被害は全くない。過大な物的損害に対し人的損害は見られなかった。無論、死傷者も。

 に対抗する為に作り出した武具の成果は想定以上だった。とは言え、それ以外にも幾つかの幸運が重なった結果ではあるのだが。
 
 ともかく、十分に良いスタートを切れた。映像は初陣を勝利で飾った精鋭達の様子を映す。が、勝利に浮かれているかと言えば違う。地球に残った女を逃がしてしまった。しかも、それを助けた地球人まで存在する。現状で唯一の想定外だ。

「……取り逃がしました……いや、ゲートを通過した痕跡はないので市外へは……もう一名は清雅の元社員です。名前は、伊佐凪竜一」

 立ち並ぶビルの一つに背を預け、戦闘で崩れた髪を整え直しながら報告を行う様子は相変わらず軽薄だが、一方で口調はしおらしい。怒りを抑える表情と口調と合わせれば、厳しい叱責が飛んでいるようだと察する。

 やがて話は終わり、山県大地が茶色の短髪をクシャクシャに掻き毟りながら他の仲間達の元に歩み寄った。露骨な不満が浮かぶ顔色に、仲間達も心情を察した。

「追跡は中止だとさ。いいか逆らうなよ、社長命令だからな」

「社長の指示ならオメーの機嫌そんなに悪くならないだろうが。あの秘書か?」

「これ以上は隠蔽が難しい、無駄な消耗も抑えたいからこれ以上の追跡は認めないとさ。後、なんか考えあるらしーぜ」

「本当かよ?まぁいい、初戦の成果は上々だろう。半信半疑だったけど、あんなに成果が出るなんてさ。ツクヨミ様は当然として、兵器開発の連中にも足向けて寝れねぇよ」

 誰もが初陣の勝利に酔いしれ、成果を誇る。が、山県大地だけは違う。不満を隠そうともしない彼は懐から錠剤を取り出すと、無造作に口へ放り込んだ。ボリボリと齧り、飲み込んだ。

「アイツを監視するだけの仕事どんだけ続けたと思ってるんだ!!付き合わされたコッチの身になれよ。直接話さないと気がすまねーとかよぉ、毎日どうでもいい事で話しかけてくるんだぞあの馴れ馴れしいクソヤロー!!監視の為に慣れない仕事でストレス溜めてるところに更にあの阿呆の世話とかやってられっかよ」

 薬を咀嚼した口から入れ替わる様に、取り逃がした男の文句が吐き出される。かつて友人としての演技を続けながら監視し続けていた男、伊佐凪竜一に対する一方的な侮蔑ぶべつが次々と零れ落ちる。そんな様子に他の面々は、また始まったと呆れがちに、仕方なく、同じ様に錠剤を口へ放り込みながら耳を傾ける。

「お前、何時も誰かの文句ばっかだな。最近はずっとソイツだけど。たまには社長以外の誰か褒められんのか?」

「そうそう、それにこっち来た時よりもだんだん口と性格悪くなってね?」

「でも、一時そうでもなかったよな。確かレイコ……って、オイ睨むなよ。冗談だよ、冗談」

「次は殴るぞ。後、そんな性格悪いつもりは全くねーけどなぁ。じゃあミズキに連絡入れた事だし俺ぁ帰るぞ」

「殴るって言った後に否定されても説得力ねぇよオイ。まぁいいや、お疲れ」

 程なく報告を兼ねた雑談は終わり、一足早く山県大地が踵を返し、戦場を後にする。入れ違いに数台の車が到着した。

 白衣を纏った一団は降車するや山県大地達への聞き取り、周囲の入念な調査を行い始めた。誰の顔も明るい。勝利への喜びだけではない。製造に携わった武装が想定以上の成果を上げた事実への興奮だろう。歓喜と安堵が隠し切れない。

 先の戦いは今後の命運を占う重要な一戦だった。もし全く歯がな立たなかったとなれば、それは彼等とこの星の終焉、破滅、死を意味していた。

 ある意味において、地球を背負う戦いに赴く彼等は、創作物の英雄と同一であると言える。が、その内面は英雄と呼べる程に高潔でもなければ自己犠牲的な精神も見られない。特に山県大地は――

「次は、殺す」

「え?何かおっしゃいましたか?」

「何でもねぇよ」

「そうですか。後、レイコ様から伝言を受け取っているのですが」

「眠てぇからパス。さっさと行け」

 送迎用の車に乗り込んだ山県大地は、己の内から湧き上がる殺意を抑えきれない。誰にも聞こえないように漏らしたドス黒く暗く冷たい本音は彼の本質か。それは、彼自身にすら理解できていないように見えた。やがて山県大地を送迎する車が発信し、戦場となった市街地から完全に姿を消した。

 一方、その姿を見送っていた彼の部下達へと視線を移せば、上司が消えや否や打って変わったように本音をぶちまけ始めた。

「アイツいつもアンなんだよな、付き合いづれーわ」

「黙ってろって。アイツはあー言う奴なんだよ、誰かの文句でしか盛り上がれねーんだわ。いっそ、その伊佐凪竜一って奴が哀れだよ」

「はぁ?馬鹿じゃねーのオマエ?知らねえ他人なんてどうでもいいだろ?じゃあ俺も帰ぇるわ……アレ?羽島の奴もう帰ったのか?」

「おう、お疲れさん……まぁそうだな。赤の他人なんぞどうだっていいか」

 彼等の間に仲間意識は存在しないらしい。極めて希薄で軽薄で空疎な関係。その繋がりはとても英雄とは呼べない程に脆い。

 だが、そんな彼等に戦いを、地球の命運を委ねなければならない――そうせねばならない。そうせざるを得ない。この世で一番愚かな者は誰か。戦う道を選んだ者か、それを導く者か、覚悟無く流されるまま戦場へとおもむいた者か。

 しかし、賽は投げられた。今更なかった事になど出来ない。否。最初から不可能だった。だから、戦うしかなかった。だから、以後も続く襲撃を何としても乗り切らねばならない。奴等から、宇宙から来た招かれざる客、侵略者達から地球を守らねばならない。例え、何をしてでも――
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