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第2章 遥か遠い 故郷
37話 死線 終焉
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「な!?」
諦めと疲れと痛みで濁った思考が捉えた光景に意識が覚醒した。視界に映ったのは火花。何処かから飛来した青い弾丸がダイチの防壁とかち合い、火花を上げた。驚愕するダイチ。弾丸は尚も勢いを増し、凄まじい威力で防壁を押し続け、ダイチを突き上げ――
「嘘……ガァッ!?」
遂には防壁を貫通、破壊した。弾丸に撃ち抜かれたダイチは断末魔の叫びを上げながら吹き飛び、ガラス製の壁に激突、破壊、そのまま外に放り出された。ややあって、ガラスが砕ける音に混じり重い何かが地面に激突する鈍い音がした。
今、何が起こった?
この場には私とナギしかいない。周囲を調べても仲間の反応もなければ私達以外の人影もない。ならば彼以外に考えられない。しかし地球人はカグツチとの親和性は無きに等しい。曰く、連合の一般的な子供と同じ程度とかナントカ。そもそも力の使い方を知らない。
ならば武器の方か?いや、違う。確かにまだそれなりにカグツチは残っていたが、改造を施したとは言えあんな威力は出ない。訓練用や量産支給品とは違う、完全個人用にカスタマイズされた特化兵器ならばあの程度の火力は容易に出せるが、量産品にあの火力を出すには規格が共通となるカグツチの充填、吸収機構を複数台連結させる必要がある。
ナギも何が起きたかわからないという状態で立ち尽くしていた。手には酷い怪我を負い、銃も部分的に破損している。怪我はそのせいらしい。
ヘビを見れば胴体部分に弾丸に穿たれたと思しき大きな穴が開いたまま動かない。ただ、何れ修復する――様子がない。先程までの戦闘とは違い、傷を復元する様子がなければ動きもせず、ただ青白い燐光を放つばかり。
まるでエネルギー切れを起こしたみたいに固まる大きな顎から這いずりながら抜け出し、ヨタヨタとナギの元へと歩み寄る。こういう場合はどうやって声を掛けるべきか。迷った末に――
「大丈夫か?何が起きた?」
月並みな言葉を並べた。相変わらず呆然とする彼だったが、私の雑な気遣いに反応すると顔を動かし、私を見ると――
「あ……あぁ、い……痛てててってぇー!!」
銃を放り投げ、いきなり叫ぶと急にうずくまった。怪我を負った手だけではなく、身体中から痛みを訴え始めたらしい。耐えかねる痛みにのたうつ様子は中々に酷い有様だと思うし同情もするが、取りあえず命に別状はなさそうだ。が、先の様子では何が起きたのか聞いたところで分からないだろう。
痛みに転げまわる元気のある彼は一旦置いておき、何が起きたか把握する為に破損した武器を拾い上げた。が、疑問の解決には至らなかった。何かが原因で破損したようだが、何がどうして内側から破裂する様に壊れるのか。
いや、一つだけ可能性があった。ダイチが語った力の素質だ。清雅という巨大企業に入社する条件の中には適性検査を受けて合格する必要があり、ナギはその検査に合格したとあの男は言っていた。その言を信じるならば、彼にも何らかの力が発現する可能性があっても不思議ではない。ソレが土壇場で目覚めたのか?
「は、何だこりゃ?」
「何、どうなってるの?」
思考を遮る声が構内の奥から木霊した。聞かずともこんな場所に現れるのは追手以外にいない。チ、と堪らず苛立ちが零れた。問題が解決しない内に次から次へと、しかも私達は満身創痍でこれ以上の戦闘は不可能。この状況で戦闘を仕掛けられれば今度こそ死ぬ。
「な、何が起きたの!?」
「オイ、ダイチ!!何処だ、返事しろ!!」
人影が2つ姿を見せた。男と女。何れもダイチと同じ身なりをしている。やはり追手。互いの視線が重なった。が、追手は何もしない。私達よりも予想だにしない惨状を目の当たりにし、酷く狼狽するばかり。
まぁ、私達ですら予想不可能だったのだから当然か。保守点検通路から姿を見せた追手は私達を牽制しながダイチを探し始め、程なく駅入り口に発見するや大急ぎで何処かに連絡を取り始めた。酷く引き攣った顔が、私達以上の動揺と混乱に支配される内心を物語る。
好機。予測不能な事態に陥ったとは言え、市内全域から人払いしてまで追跡し続けた私達を素直に見逃すわけがない。但し、ごく普通の精神状態ならば。
「ソイツの様になりたくなければ今すぐ退けッ!!早く!!」
覚束ない手つきで銃を実体化し、銃口を突き付け、残ったありったけの力で叫んだ。どう見ても悪あがきで、ハッタリで、酷く情けない手段だが現状取り得る最善の行動。効果はある。初戦において私達を撃退した青い兵器は動きを止め、操っていた男も瀕死の怪我を負った。
地球の状況は理解出来ないが、最初に私達の前に姿を見せた様子から判断すれば、この兵器に相応以上の自信があったからこそ戦いと言う選択肢を選んだのは疑いようない。
その自信が砕けた。となれば状況分析と情報収集を行い敗因を分析、改良を行うのが真っ当な判断。目の前の光景は真実がどうであれ敗北にしか映らない。撤退する筈だ。彼等の兵器が洗練される事になるが、恫喝しようがしまいが改良は確定している。ならば、とっとと退いてもらうのが最善。
早く退け。私はジッと追手を睨み続けた。対する2人は何をするでもなくオロオロと凄惨な現場と瀕死のダイチを交互に見つめるばかり。やはりコイツ等、旗艦のクズリュウと同じで練度が余り高くない。あるいは、余程に自信があったのか。
「つまり、お前達も後を追いたいんだな」
再度の恫喝。当然、虚勢。見抜かれたら終わりという、幸運の星に祈りたい最悪の状況の中で時間だけが無為に進み続ける。どっちだ。早く決めろ。心の中で悪態を突きつつ、表に出さないよう必死に堪えながら、私はひたすらに睨み続けた。
諦めと疲れと痛みで濁った思考が捉えた光景に意識が覚醒した。視界に映ったのは火花。何処かから飛来した青い弾丸がダイチの防壁とかち合い、火花を上げた。驚愕するダイチ。弾丸は尚も勢いを増し、凄まじい威力で防壁を押し続け、ダイチを突き上げ――
「嘘……ガァッ!?」
遂には防壁を貫通、破壊した。弾丸に撃ち抜かれたダイチは断末魔の叫びを上げながら吹き飛び、ガラス製の壁に激突、破壊、そのまま外に放り出された。ややあって、ガラスが砕ける音に混じり重い何かが地面に激突する鈍い音がした。
今、何が起こった?
この場には私とナギしかいない。周囲を調べても仲間の反応もなければ私達以外の人影もない。ならば彼以外に考えられない。しかし地球人はカグツチとの親和性は無きに等しい。曰く、連合の一般的な子供と同じ程度とかナントカ。そもそも力の使い方を知らない。
ならば武器の方か?いや、違う。確かにまだそれなりにカグツチは残っていたが、改造を施したとは言えあんな威力は出ない。訓練用や量産支給品とは違う、完全個人用にカスタマイズされた特化兵器ならばあの程度の火力は容易に出せるが、量産品にあの火力を出すには規格が共通となるカグツチの充填、吸収機構を複数台連結させる必要がある。
ナギも何が起きたかわからないという状態で立ち尽くしていた。手には酷い怪我を負い、銃も部分的に破損している。怪我はそのせいらしい。
ヘビを見れば胴体部分に弾丸に穿たれたと思しき大きな穴が開いたまま動かない。ただ、何れ修復する――様子がない。先程までの戦闘とは違い、傷を復元する様子がなければ動きもせず、ただ青白い燐光を放つばかり。
まるでエネルギー切れを起こしたみたいに固まる大きな顎から這いずりながら抜け出し、ヨタヨタとナギの元へと歩み寄る。こういう場合はどうやって声を掛けるべきか。迷った末に――
「大丈夫か?何が起きた?」
月並みな言葉を並べた。相変わらず呆然とする彼だったが、私の雑な気遣いに反応すると顔を動かし、私を見ると――
「あ……あぁ、い……痛てててってぇー!!」
銃を放り投げ、いきなり叫ぶと急にうずくまった。怪我を負った手だけではなく、身体中から痛みを訴え始めたらしい。耐えかねる痛みにのたうつ様子は中々に酷い有様だと思うし同情もするが、取りあえず命に別状はなさそうだ。が、先の様子では何が起きたのか聞いたところで分からないだろう。
痛みに転げまわる元気のある彼は一旦置いておき、何が起きたか把握する為に破損した武器を拾い上げた。が、疑問の解決には至らなかった。何かが原因で破損したようだが、何がどうして内側から破裂する様に壊れるのか。
いや、一つだけ可能性があった。ダイチが語った力の素質だ。清雅という巨大企業に入社する条件の中には適性検査を受けて合格する必要があり、ナギはその検査に合格したとあの男は言っていた。その言を信じるならば、彼にも何らかの力が発現する可能性があっても不思議ではない。ソレが土壇場で目覚めたのか?
「は、何だこりゃ?」
「何、どうなってるの?」
思考を遮る声が構内の奥から木霊した。聞かずともこんな場所に現れるのは追手以外にいない。チ、と堪らず苛立ちが零れた。問題が解決しない内に次から次へと、しかも私達は満身創痍でこれ以上の戦闘は不可能。この状況で戦闘を仕掛けられれば今度こそ死ぬ。
「な、何が起きたの!?」
「オイ、ダイチ!!何処だ、返事しろ!!」
人影が2つ姿を見せた。男と女。何れもダイチと同じ身なりをしている。やはり追手。互いの視線が重なった。が、追手は何もしない。私達よりも予想だにしない惨状を目の当たりにし、酷く狼狽するばかり。
まぁ、私達ですら予想不可能だったのだから当然か。保守点検通路から姿を見せた追手は私達を牽制しながダイチを探し始め、程なく駅入り口に発見するや大急ぎで何処かに連絡を取り始めた。酷く引き攣った顔が、私達以上の動揺と混乱に支配される内心を物語る。
好機。予測不能な事態に陥ったとは言え、市内全域から人払いしてまで追跡し続けた私達を素直に見逃すわけがない。但し、ごく普通の精神状態ならば。
「ソイツの様になりたくなければ今すぐ退けッ!!早く!!」
覚束ない手つきで銃を実体化し、銃口を突き付け、残ったありったけの力で叫んだ。どう見ても悪あがきで、ハッタリで、酷く情けない手段だが現状取り得る最善の行動。効果はある。初戦において私達を撃退した青い兵器は動きを止め、操っていた男も瀕死の怪我を負った。
地球の状況は理解出来ないが、最初に私達の前に姿を見せた様子から判断すれば、この兵器に相応以上の自信があったからこそ戦いと言う選択肢を選んだのは疑いようない。
その自信が砕けた。となれば状況分析と情報収集を行い敗因を分析、改良を行うのが真っ当な判断。目の前の光景は真実がどうであれ敗北にしか映らない。撤退する筈だ。彼等の兵器が洗練される事になるが、恫喝しようがしまいが改良は確定している。ならば、とっとと退いてもらうのが最善。
早く退け。私はジッと追手を睨み続けた。対する2人は何をするでもなくオロオロと凄惨な現場と瀕死のダイチを交互に見つめるばかり。やはりコイツ等、旗艦のクズリュウと同じで練度が余り高くない。あるいは、余程に自信があったのか。
「つまり、お前達も後を追いたいんだな」
再度の恫喝。当然、虚勢。見抜かれたら終わりという、幸運の星に祈りたい最悪の状況の中で時間だけが無為に進み続ける。どっちだ。早く決めろ。心の中で悪態を突きつつ、表に出さないよう必死に堪えながら、私はひたすらに睨み続けた。
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