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第2章 遥か遠い 故郷
38話 残された謎
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「チ、クソが!!」
「お、覚えてなよッ!!」
最初に聞こえたのは男の吐き捨てる様な言葉、次に女の捨て台詞。未だ状況を飲み込めない追手は苦々しい顔を浮かべながら、血を流すダイチの傍に駆け寄り、私を視界に収めながら大急ぎで抱え上げるや一目散に逃げていった。
助かった。辛うじて、だが。しかしそれでも今の私達からすれば十分。残ったのは満身創痍の私達と、もはやその機能を成さない程に破壊しつくされた駅。そして――
「な、何だコレ!?」
素っ頓狂な声。見れば、主を失った青白い化け物に穿たれた大きな穴をナギが見入っていた。ひたすらに追いかけ続けてくれた化け物も最後は呆気ない。まるで溶けていくかのように青白い粒子がヘビの身体から立ち上ると、それに伴い少しずつその身体が消失していった。やがて全てが消え失せると、最後に何かが残った。
「「人?」」
私達の言葉が重なった。霧散した化け物の後に残ったのは大人がギリギリはいるだけの大きさの透明なカプセル状の物体。その中には白い服を着た老年の女が収められていた。内側には用途不明な機器が幾つも接続されており、外部には端子状の様な穴が開いている。
妙な物体も気になるが、中身はもっと気になる。女の着る服は清潔感があった。例えるなら、まるで医療施設で入院する病人が着るような、そんな服。奇妙な服を着た女が入った奇妙な物体が化け物から出てきた。いや、消えた後に残ったという方が正しいか。
「これ……病院で着させられる……なら病人?それにコレ、まるで棺みたいだな。えーと、い、生きてるます?大丈夫ですかー?」
これが彼の性分なのか。自分の命が危なかったと言うのに、彼はあろう事か他人の心配まで始めた。この状況から予測できる事実は少ないが、それでも敵だと言う事は十分に理解できるだろうに。
私が呆れる間も彼は不用心にカプセルの周囲で声を掛け続けた。が、程なく中に眠る女の顔をジッと見つめると、あーとかうーんとか唸り始めた。もしや、心当たりがあるのか?
「でも、あれ……この人。えーと確か清雅の……そうだ、確か清雅想子」
「誰?知り合い?」
「国内最大手の保険会社、清雅生命保険の社長。間違いないけど、でもおかしいな?」
「何が?もしかして、死んでるとか?」
「いや。確か随分前に健康上の理由とかナントカで市内の病院で療養している、とか何とか言ってたような。なのに、なんでこんな物に入れられてるんだ?」
ナギが口走った情報に私は驚かされた。いや、流石に元清雅という組織に務めていただけあってよく知っていると言うべきか。となれば、服装も理由が付くのだが、一方で何がどうなってこの状況に繋がるのか、という疑問が横たわる。
清雅想子。名前からするにこの女も清雅源蔵と関りがある可能性は高い。世界を傘下に置く巨大企業、清雅を牛耳る一族の血縁――となればこの女も相当に影響力を持っていても不思議ではない。だというのに、これではどう考えても利用されている様にしか見えない。それとも一族内に序列があって低い者は利用される、とか?
もしそうならば――何処であっても同じだなと、腹の底から不快感がせり上がって来た。この女のように私達も上に良いように利用されている。カプセルに閉じ込められた憐れな女に自分の現状と重ね合わせてしまった。同時に、そんな残忍な連中を相手にしているのかと思い、身体の奥から冷えていく感覚があった。
「い……わ、い……ああぁおああ……イヤ、イヤあぁああああぁぁ!!」
不意に、女の叫び声がボロボロの構内に響いた。不用意にもナギがカプセルに近寄り、恐らく閉じ込められた女性を介抱しようとでもしたのだろうが、その声はまるで恐怖におびえている様に聞こえた。
声の原因が彼の行動だとして、その行動を咎める気にはならない。何なら褒めたい位だった。カプセルに横たわる女は現状において数少ない情報源。もし意識を取り戻したならば、もっと有用な情報を引き出せる。
が、意識を取り戻した女はうわ言のように金切り声を上げるに終始する。辛うじて聞こえたのは「怖い」という単語だけ。それ以外は言葉の体を成しておらず、何を言っているのか全く聞き取れない。それ程度に女は狂乱していた。
一体、何がどうなっているんだ?もしかして何かした?と、ナギを見つめるが、彼は慌てて首を横に振った。違うらしい。困惑する私達を他所に女は叫び続け、やがて不意にパタリと止んだ。急いでバイザーを起動したが、残念ながら生命反応は出なかった。
化け物から現れた謎の物体に入っていた女は、幾つもの疑問に対する有効な回答を全て抱えたまま事切れた。同時にカプセルから青い粒子が立ち上った。いや、よく見れば中の女からだ。まるで魂、意志、心といった見えない何かが身体から抜けていくように、粒子は夜の闇に舞い散った。
静寂が訪れた。未知の兵器の正体、窮地を救った力、まだまだ分からない事だらけで思考が纏まらない。それだけならばまだしも疲労で意識を失いそうになる。幸か不幸か、身体を軋ませる程の痛みが意識を繋ぎ止めてくれた。
「お、覚えてなよッ!!」
最初に聞こえたのは男の吐き捨てる様な言葉、次に女の捨て台詞。未だ状況を飲み込めない追手は苦々しい顔を浮かべながら、血を流すダイチの傍に駆け寄り、私を視界に収めながら大急ぎで抱え上げるや一目散に逃げていった。
助かった。辛うじて、だが。しかしそれでも今の私達からすれば十分。残ったのは満身創痍の私達と、もはやその機能を成さない程に破壊しつくされた駅。そして――
「な、何だコレ!?」
素っ頓狂な声。見れば、主を失った青白い化け物に穿たれた大きな穴をナギが見入っていた。ひたすらに追いかけ続けてくれた化け物も最後は呆気ない。まるで溶けていくかのように青白い粒子がヘビの身体から立ち上ると、それに伴い少しずつその身体が消失していった。やがて全てが消え失せると、最後に何かが残った。
「「人?」」
私達の言葉が重なった。霧散した化け物の後に残ったのは大人がギリギリはいるだけの大きさの透明なカプセル状の物体。その中には白い服を着た老年の女が収められていた。内側には用途不明な機器が幾つも接続されており、外部には端子状の様な穴が開いている。
妙な物体も気になるが、中身はもっと気になる。女の着る服は清潔感があった。例えるなら、まるで医療施設で入院する病人が着るような、そんな服。奇妙な服を着た女が入った奇妙な物体が化け物から出てきた。いや、消えた後に残ったという方が正しいか。
「これ……病院で着させられる……なら病人?それにコレ、まるで棺みたいだな。えーと、い、生きてるます?大丈夫ですかー?」
これが彼の性分なのか。自分の命が危なかったと言うのに、彼はあろう事か他人の心配まで始めた。この状況から予測できる事実は少ないが、それでも敵だと言う事は十分に理解できるだろうに。
私が呆れる間も彼は不用心にカプセルの周囲で声を掛け続けた。が、程なく中に眠る女の顔をジッと見つめると、あーとかうーんとか唸り始めた。もしや、心当たりがあるのか?
「でも、あれ……この人。えーと確か清雅の……そうだ、確か清雅想子」
「誰?知り合い?」
「国内最大手の保険会社、清雅生命保険の社長。間違いないけど、でもおかしいな?」
「何が?もしかして、死んでるとか?」
「いや。確か随分前に健康上の理由とかナントカで市内の病院で療養している、とか何とか言ってたような。なのに、なんでこんな物に入れられてるんだ?」
ナギが口走った情報に私は驚かされた。いや、流石に元清雅という組織に務めていただけあってよく知っていると言うべきか。となれば、服装も理由が付くのだが、一方で何がどうなってこの状況に繋がるのか、という疑問が横たわる。
清雅想子。名前からするにこの女も清雅源蔵と関りがある可能性は高い。世界を傘下に置く巨大企業、清雅を牛耳る一族の血縁――となればこの女も相当に影響力を持っていても不思議ではない。だというのに、これではどう考えても利用されている様にしか見えない。それとも一族内に序列があって低い者は利用される、とか?
もしそうならば――何処であっても同じだなと、腹の底から不快感がせり上がって来た。この女のように私達も上に良いように利用されている。カプセルに閉じ込められた憐れな女に自分の現状と重ね合わせてしまった。同時に、そんな残忍な連中を相手にしているのかと思い、身体の奥から冷えていく感覚があった。
「い……わ、い……ああぁおああ……イヤ、イヤあぁああああぁぁ!!」
不意に、女の叫び声がボロボロの構内に響いた。不用意にもナギがカプセルに近寄り、恐らく閉じ込められた女性を介抱しようとでもしたのだろうが、その声はまるで恐怖におびえている様に聞こえた。
声の原因が彼の行動だとして、その行動を咎める気にはならない。何なら褒めたい位だった。カプセルに横たわる女は現状において数少ない情報源。もし意識を取り戻したならば、もっと有用な情報を引き出せる。
が、意識を取り戻した女はうわ言のように金切り声を上げるに終始する。辛うじて聞こえたのは「怖い」という単語だけ。それ以外は言葉の体を成しておらず、何を言っているのか全く聞き取れない。それ程度に女は狂乱していた。
一体、何がどうなっているんだ?もしかして何かした?と、ナギを見つめるが、彼は慌てて首を横に振った。違うらしい。困惑する私達を他所に女は叫び続け、やがて不意にパタリと止んだ。急いでバイザーを起動したが、残念ながら生命反応は出なかった。
化け物から現れた謎の物体に入っていた女は、幾つもの疑問に対する有効な回答を全て抱えたまま事切れた。同時にカプセルから青い粒子が立ち上った。いや、よく見れば中の女からだ。まるで魂、意志、心といった見えない何かが身体から抜けていくように、粒子は夜の闇に舞い散った。
静寂が訪れた。未知の兵器の正体、窮地を救った力、まだまだ分からない事だらけで思考が纏まらない。それだけならばまだしも疲労で意識を失いそうになる。幸か不幸か、身体を軋ませる程の痛みが意識を繋ぎ止めてくれた。
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