G.o.D 神魔戦役篇

風見星治

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第3章 漂流

幕間6-5 楽園にかつての面影はなく 其の5

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 旗艦の状況は監視開始以降、目まぐるしく変化していった。無論、悪い方に。先の会話にあった密輸の件もそうだが、こうした犯罪が艦内で横行している。

 原因は神の不在と、徐々に緩められている監視の目。旗艦内を余すところなく監視するカメラの稼働率は日を追うごとに下がり始め、中には区域全体が丸ごと監視外とされた事例もある。恐らく――いや、確実に人手不足が理由。

「何だよアイツ等、滅茶苦茶じゃねぇか!?」

「では今後も私の指示通りに、という事で宜しいでしょうか?」

 何もかもが異常だと、意味もなく旗艦を憂う私の耳をタガミの怒号が掠めた。陽光の間に一番近いカメラが、胸元のバッジを弄りながらヒルメと会話をする様子を映し出す。クズリュウの隊章の形をしきりに気にする男の様子は、買ってもらった玩具を大事に扱う子供にしか見えなかった。端的に、幼稚過ぎる。

 この男に関する情報も既に調べがついている。旗艦アマテラス出身、最終経歴はヤタガラスの要人警護部の部隊長。経歴を見るに戦闘能力と判断力は折り紙付きらしい。一方でスサノヲへの昇進試験は、その全てにおいて精神面の未熟さを理由に落とされていた。

 旗艦アマテラスと周囲に浮かぶアメノトリフネの総人口34億を守るのは、その一割にも満たないミカボシの中から選抜された僅か300万程度、総人口のおよそ0.1%でしかないヤタガラスが務める。そのヤタガラスにおいてあらゆる分野で秀でた者、又は現役のスサノヲないしアマテラスオオカミから推薦された者のみがスサノヲへの門戸が開かれるのだが、推薦条件も試験内容も厳しく、脱落者は非常に多い。

 その分、優遇措置も多い。給与は勿論、任務の遂行に必要と判断されれば一部のみではあるが法すら彼らを縛り付ける事はできない。そしてヤタガラスよりも遥かに高性能な専用装備も支給される。

 当然ながら義務も大きい。常に鍛え続ける事は勿論、有事とあれば如何なる理由であっても出撃を強制される。それが確実に死ぬとされる内容であっても拒否権は与えられない。旗艦を脅かす存在を討つ為だけに存在する旗艦アマテラス専属の戦闘集団は、僅か1000名程しかいない。

 だが、それでもミカボシの誰もがその狭き門を目指す。旗艦における最高の栄誉、それがスサノヲ。アマテラスオオカミ封印という旗艦を揺るがす大事件の影響により、スサノヲの地位は大幅に低下、旗艦内の治安維持と防衛を担当するヤタガラスも巻き添えを喰らう形で影響力を奪われた。

 その後に新設された組織がクズリュウ。スサノヲとヤタガラスに代わり旗艦の治安維持とマガツヒの掃討を担う実力組織。旗艦法を変えたところでスサノヲもヤタガラスも黙って言う事を聞くとは考え辛いと判断したアラハバキが求めた、使い勝手の良い道具。

 タガミがかつての同僚に誘われる形でアラハバキが新設したクズリュウに参加したのは新設とほぼ時を同じくする。

 内訳を見てみれば大半が志願兵で、中には成績や素行により道を閉ざされた者、退役者などもいたが、例外なく簡単な検査だけでほぼ全員が素通りで入隊していた。

 タガミも同様に、精神面に問題を抱えながら水準以上の成績理由に好待遇で迎え入れられた。憧れたスサノヲ、ヒルメと出会った事など幾つもの幸運が重なり増長したのだろう。タガミの幼稚な態度はクズリュウ隊章への並々ならぬ執着からも見て取れる。

「あぁ、わかったよ。いやすまねぇ、今の今まで疑っちまって。まさかアンタの言葉通り、本当にタケミカヅチ引っ張り出してくるとはなぁ。このまま指ィ咥えてたら予想以上に危険な状況になりそうだ」

「ありがとうございます。貴方様の賢明な判断に感謝致します。ですが、一点だけ。不用意に喧嘩を売らないでいただけないでしょうか?彼等との関係を悪化させる利はありません。また、感情の揺らぎは予測の精度を下げます。以後、迂闊うかつな言動は慎んで下さい」

「アイツとはどうも、な。で、上手くいく保証はあるのか?」

「その質問については未知数としか回答出来ません。ですがこのまま何も行わずに進めば間違いなく最悪の事態に陥るでしょう」

「オイオイオイ、頼りねぇなぁ。じゃあ、イッチョ頑張りますかね」

「お願いします。今の私が頼れる者はそう多くありませんので」

 アラハバキを危惧するタガミとヒルメもアラハバキ同様、何かを画策しているようだ。会話の端々からアラハバキとは異なる思惑が滲む。タガミはどうでもいいがヒルメを侮るのは危険だ。推測ではない、確かな確信がある。

 もう一つ、旗艦を観察して確信した事がある。文明、種族に区別なく、制御し難い輩は何処にでも存在するという事だ。

 だが、地球と旗艦には大きな違いがある。神が存在するか否か。地球はツクヨミを頂点に、旗艦との戦いに万全の準備を敷いた。一方、旗艦の神は不在。神たるアマテラスオオカミに代わりアラハバキが準備を進めている。しかし、大多数はアラハバキに何か別の思惑がある事を知らない。

 もうすぐ清雅と旗艦が全面衝突する。その結末がどうなるかわからない。だが、確実に言える事が一つだけある。戦いは確実に起こり、絶対に止められないという事だ。アラハバキの様な者達が主導する限り、戦いを望む者がいる限り確実に悲劇は起こる。そして、それは私達も同じ。

 どの様な理由であれ戦う道を選んだ以上、止まるなど出来ない。
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