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第3章 漂流
41話 別れの時は近い
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20XX/12/16 2041
コンビニから更に車を走らせること十数分、目的の場所へと辿り着いた。検索した場所と相違が無い事を確かめる為に一旦車を停め、外観をゆっくりと眺める。どうやらこの場所で間違いない――が、やけに派手な電飾や装飾や珍妙な名前等々、どうしてこの手のホテルは何処も似たり寄ったりなのか。
いやこの場合に限れば外観はどうでも良くて、この場所自体に男女揃って入ると行為の方が問題な訳で。彼女に勘違いされたら俺、死ぬようなぁ。まぁ、バレたら人助けの為だと何とか言い訳してみよう。
希望的観測を胸に入口を潜り、地下の駐車場へとゆっくりと入った。車を止め、ずっと車窓から外を眺めるルミナに目をやる。窓に肘をかけた体勢で外の様子をジッと見つめ続ける彼女だが、停車したというのに微動だにしない。
起きてるか?規則正しくゆっくりと呼吸をしているから死んではいないようだが、やはり動く気配はない。仕方ないと肩に手を掛けようと身を乗り出す。本当に寝ていた。近づいて、漸く寝息らしい吐息が漏れる音が耳に入った。
「着いたぞ」
少し大きな声で呼びかけつつ、華奢な身体を揺すった。触れてみて初めて分かったのだが、ちょっと冷たい。が、それ以上に驚いたのが重さ。見た目からは考えられない位に重く、大の男が少し力を入れた位ではほとんど動かす事が出来なかった。
「あ……あぁ」
ルミナの口が寝息とは僅かに違う溜息が混ざる様になった、漸く目を覚ましたらしい。
「ン……あ、大丈夫だぞ!?」
いや、何がだよ?目的地に着いたと教えただけなのに。それとも寝てたのか?もう少し寝かせておいた方が良かったかな?
「え?いや……色々と考えていただけだ。寝てなどいない」
「そう、か?」
彼女は少し不機嫌そうに否定した。どう考えても寝ていた様に見えたが、まぁ本人が否定するのだから触れないでおこう。改めて目的地に着いたと説明し、外に出るよう促した。
※※※
先を急くルミナの後を追いかけ無人の受付に現金を投入、昨日の二の轍は踏まない様に比較的落ち着いた雰囲気の部屋へとルミナを案内した。が、彼女は扉を開けるや率先して部屋へと入ってしまった。
やはりこういう場所を知らないのか、あるいは彼女達の文化には存在しないのか。だが、何方にせよ率先して入るべきじゃないだろう――と、昨日の光景を思い出したところで、一つだけ昨日と違う行動がある事に気付いた。
昨日は入室前にややぎこちない間があったが、今日はそんな様子がなかった。考えてみればやはり当然か、いきなり助けた奴を全面的に信用するなんて普通はいない。何よりこんな場所となれば尚の事。とすれば、どうやら少しは信頼してくれたらしい。
後を追い、部屋の中へ入り内装を確認した。落ち着いた色合いと雰囲気の部屋は、一見すれば何てことない普通の宿泊施設と変わらない。一足早く部屋に入ったルミナは何やらバイザーを弄っていた。そういえば仲間と連絡が取れたと言っていた。連絡途中で大地に襲撃され、なし崩しで市外まで逃げ回る羽目になったので漸く内容が分かるのか。多分、迎えが来るのだろう。
別れの時は近い
幾ら強いとはいえ、仲間が孤立無援の敵地にいつまでも放置しておく理由はない。事実、既に襲撃されている。この場所もそうだが、清雅の影響力を考えたら地球の何処にも逃げ場も安全な場所もない。
喜ぶべきだ。死んで欲しくないから助けたのに――だけど、心の中に小さな穴が開いたような寂しさに包まれた。最悪だな、そう思った。仲間との再会を喜んでやれない事に、助けるなんて言いつつも、結局は自分の事しか考えていない、そんな性根に気付けば、自分への嫌悪感が膨らみ続ける。
俺はどうしたいんだろう?どうしたらいいだろう。いっそ、彼女の居る旗艦アマテラスだったか?この国の神話における太陽神の名前が付いた艦に逃げ込もうか。
いや、と頭が即座に否定した。俺でも酷く苦労した。だから、次は彼女が同じ苦労を背負い込む事になる。何せ戦争してる相手側の人間なんだから。となると、反清雅組織に身を置くしか選択肢がなさそうだ。その名前の通り、清雅に対し強烈な叛意を持つ集団。名は体を表すという言葉がぴったりな組織は世界中に幾つも存在するが、その中でとりわけ有名なのが赤い太陽。
苛烈な事で有名な同組織の理念は、清雅が世に送り出した全製品の購入拒否。清雅一社が世界を牛耳る現状、取り分け通信事業と携帯端末をやり玉にあげ極めて不健全で危険と言って憚らず。特に携帯の過剰使用によって発生する中毒症状|(※1)を放置するのは極めて危険と言う理由で清雅を目の敵にしている。
名の由来は、この国の最高神がアマテラスオオカミだという仮説から。清雅が信奉するツクヨミは月の神。青い光で地上の争いを平定した後、空高くから人を見守為にその姿を月に変えたとされる。一般的に知られる神話とは対を成している事から赤い太陽と名乗った、という件は入社後の研修で叩き込まれたからよく覚えている。
問題はテロ紛いの過激な行動と、世間からほぼ完全に身を引いた生活を行う事を規範としている為、かなり不自由な暮らしをしている点。加えて、その拠点は清雅の目の届かない海外ばかり。最短でも海を渡った隣の国まで行く必要があるが、見逃してもらえる可能性は低い。
となれば後は座して死を待つ――
のは流石に嫌だな。と、その後も色々と考えるがどうしても有効な解決策が出ない。どうしたものかなと考えた末、落ち着かない頭を切り替える為にテレビをつけてニュースを確認した。が、内容はと言えばO駅で起きた爆発事故でどこも持ちきり。
派手に暴れた駅構内の戦闘の続報は昨日の清雅市中央区の時と変わらず、ハンコを押したようにテロ騒動を装った愉快犯の仕業だと喧伝していた。
愉快犯、か。命懸けで逃げたのをそんな一言であっさり片づけられたのはでは堪ったものじゃないと、これ以上の気分転換は思いつかないとばかりにコンビニで買ってきた食事へと手を伸ばした矢先――
コンビニから更に車を走らせること十数分、目的の場所へと辿り着いた。検索した場所と相違が無い事を確かめる為に一旦車を停め、外観をゆっくりと眺める。どうやらこの場所で間違いない――が、やけに派手な電飾や装飾や珍妙な名前等々、どうしてこの手のホテルは何処も似たり寄ったりなのか。
いやこの場合に限れば外観はどうでも良くて、この場所自体に男女揃って入ると行為の方が問題な訳で。彼女に勘違いされたら俺、死ぬようなぁ。まぁ、バレたら人助けの為だと何とか言い訳してみよう。
希望的観測を胸に入口を潜り、地下の駐車場へとゆっくりと入った。車を止め、ずっと車窓から外を眺めるルミナに目をやる。窓に肘をかけた体勢で外の様子をジッと見つめ続ける彼女だが、停車したというのに微動だにしない。
起きてるか?規則正しくゆっくりと呼吸をしているから死んではいないようだが、やはり動く気配はない。仕方ないと肩に手を掛けようと身を乗り出す。本当に寝ていた。近づいて、漸く寝息らしい吐息が漏れる音が耳に入った。
「着いたぞ」
少し大きな声で呼びかけつつ、華奢な身体を揺すった。触れてみて初めて分かったのだが、ちょっと冷たい。が、それ以上に驚いたのが重さ。見た目からは考えられない位に重く、大の男が少し力を入れた位ではほとんど動かす事が出来なかった。
「あ……あぁ」
ルミナの口が寝息とは僅かに違う溜息が混ざる様になった、漸く目を覚ましたらしい。
「ン……あ、大丈夫だぞ!?」
いや、何がだよ?目的地に着いたと教えただけなのに。それとも寝てたのか?もう少し寝かせておいた方が良かったかな?
「え?いや……色々と考えていただけだ。寝てなどいない」
「そう、か?」
彼女は少し不機嫌そうに否定した。どう考えても寝ていた様に見えたが、まぁ本人が否定するのだから触れないでおこう。改めて目的地に着いたと説明し、外に出るよう促した。
※※※
先を急くルミナの後を追いかけ無人の受付に現金を投入、昨日の二の轍は踏まない様に比較的落ち着いた雰囲気の部屋へとルミナを案内した。が、彼女は扉を開けるや率先して部屋へと入ってしまった。
やはりこういう場所を知らないのか、あるいは彼女達の文化には存在しないのか。だが、何方にせよ率先して入るべきじゃないだろう――と、昨日の光景を思い出したところで、一つだけ昨日と違う行動がある事に気付いた。
昨日は入室前にややぎこちない間があったが、今日はそんな様子がなかった。考えてみればやはり当然か、いきなり助けた奴を全面的に信用するなんて普通はいない。何よりこんな場所となれば尚の事。とすれば、どうやら少しは信頼してくれたらしい。
後を追い、部屋の中へ入り内装を確認した。落ち着いた色合いと雰囲気の部屋は、一見すれば何てことない普通の宿泊施設と変わらない。一足早く部屋に入ったルミナは何やらバイザーを弄っていた。そういえば仲間と連絡が取れたと言っていた。連絡途中で大地に襲撃され、なし崩しで市外まで逃げ回る羽目になったので漸く内容が分かるのか。多分、迎えが来るのだろう。
別れの時は近い
幾ら強いとはいえ、仲間が孤立無援の敵地にいつまでも放置しておく理由はない。事実、既に襲撃されている。この場所もそうだが、清雅の影響力を考えたら地球の何処にも逃げ場も安全な場所もない。
喜ぶべきだ。死んで欲しくないから助けたのに――だけど、心の中に小さな穴が開いたような寂しさに包まれた。最悪だな、そう思った。仲間との再会を喜んでやれない事に、助けるなんて言いつつも、結局は自分の事しか考えていない、そんな性根に気付けば、自分への嫌悪感が膨らみ続ける。
俺はどうしたいんだろう?どうしたらいいだろう。いっそ、彼女の居る旗艦アマテラスだったか?この国の神話における太陽神の名前が付いた艦に逃げ込もうか。
いや、と頭が即座に否定した。俺でも酷く苦労した。だから、次は彼女が同じ苦労を背負い込む事になる。何せ戦争してる相手側の人間なんだから。となると、反清雅組織に身を置くしか選択肢がなさそうだ。その名前の通り、清雅に対し強烈な叛意を持つ集団。名は体を表すという言葉がぴったりな組織は世界中に幾つも存在するが、その中でとりわけ有名なのが赤い太陽。
苛烈な事で有名な同組織の理念は、清雅が世に送り出した全製品の購入拒否。清雅一社が世界を牛耳る現状、取り分け通信事業と携帯端末をやり玉にあげ極めて不健全で危険と言って憚らず。特に携帯の過剰使用によって発生する中毒症状|(※1)を放置するのは極めて危険と言う理由で清雅を目の敵にしている。
名の由来は、この国の最高神がアマテラスオオカミだという仮説から。清雅が信奉するツクヨミは月の神。青い光で地上の争いを平定した後、空高くから人を見守為にその姿を月に変えたとされる。一般的に知られる神話とは対を成している事から赤い太陽と名乗った、という件は入社後の研修で叩き込まれたからよく覚えている。
問題はテロ紛いの過激な行動と、世間からほぼ完全に身を引いた生活を行う事を規範としている為、かなり不自由な暮らしをしている点。加えて、その拠点は清雅の目の届かない海外ばかり。最短でも海を渡った隣の国まで行く必要があるが、見逃してもらえる可能性は低い。
となれば後は座して死を待つ――
のは流石に嫌だな。と、その後も色々と考えるがどうしても有効な解決策が出ない。どうしたものかなと考えた末、落ち着かない頭を切り替える為にテレビをつけてニュースを確認した。が、内容はと言えばO駅で起きた爆発事故でどこも持ちきり。
派手に暴れた駅構内の戦闘の続報は昨日の清雅市中央区の時と変わらず、ハンコを押したようにテロ騒動を装った愉快犯の仕業だと喧伝していた。
愉快犯、か。命懸けで逃げたのをそんな一言であっさり片づけられたのはでは堪ったものじゃないと、これ以上の気分転換は思いつかないとばかりにコンビニで買ってきた食事へと手を伸ばした矢先――
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