G.o.D 神魔戦役篇

風見星治

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第5章 謀略 渦巻く

67話 清雅の真実 その一端

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 展望台から駐車場へ向かう足が不意に止まった。違和感の正体が、車へ近づくほどにはっきりとした形をとる。車の傍に男が一人、まるで誰かを待つように車にもたれかかる。こんな辺鄙へんぴな場所に俺達以外の人影はない。敵だ――

「よう、相変わらず仲いいねぇ」

 俺達に気付いた男は、まるで旧知の間柄の様に気さくな挨拶を投げかけた。顎辺りまで伸びた長髪を後ろで縛った、黒いスーツ姿の男。無精ひげの生えた若干地味な面構えに覇気は全く見当たらず、寧ろ酷く弱々しい。

 顔は――と記憶を辿ってみたが、社内で見た覚えはない。無論、社外も。とは言っても清雅と言う超巨大な企業で関係者の顔全てを記憶している奴なんていやしないんだけど。敵の可能性が高い。戦うつもりかと思いチラ、とルミナを見たが――予想に反し何もしていなかった。

「何者だ、とは聞くだけ無駄だろうな。だが、戦うつもりがないならどんな理由で私達の前に姿を見せたんだ?後でもつけて来たのか?」

 彼女の言葉に俺も気付いた。始末するつもりならもっと人数が多いし、そもそも殺すつもりなら不意打ちした方が確実だと。

「俺ぁ、羽島はしまってんだ。だけどまぁ、もうどうでも良いがな。昨日の件、俺もあの場に居て、仲間が弾にされるのを見て、見捨てられるとは思ってなかった。で、ブルッて逃げちまった。もう、俺にもう居場所はない。それどころかお前達と同じで今頃指名手配でもされてる頃なんじゃないかな、ハハ」

 羽島と名乗った男は自嘲気味に境遇を語った。正しいと、何となく思った。やつれきった顔が疲労と寝不足を訴えかける。近づけば目も充血していた。恐怖で一睡も出来なかった、そんな様子が伝わる酷い顔だ。

「何の用だ」

 欠伸を噛み殺す隙にルミナが一言、質問をねじ込んだ。確かに、と小さく相槌を打つ。戦うつもりがないならこの場に来る意味もない。

「いざお前達と同じ立場になったらさ、震えと後悔が止まらねぇんだよ。頼ってたモンとか、寄り掛かってたモンとかが全部いっぺんに消えちまってよ。だから聞かせてくれ。なんでお前等立ってられるんだ?俺なんか、立つのもやっとなのにさ」

 羽島は理由を語ったが、意図が分からなかった。死ぬのが怖いから一緒に逃げたいと暗に要請しているのか?本当に聞きたいだけか?本心だとしてどうしてそんな事を聞きたいのか?仮にそうだとして、清雅と言う組織が地球と宇宙の前面衝突を前にそんな真似を許すか?特にあの清雅源蔵が。

 地球上において最も機嫌を損ねてはならない男、それが清雅源蔵。逸話は幾つもある。とある情報番組が清雅源蔵の話題に触れた折、司会者が口を滑らせた。人気急上昇中のアイドルとの密会疑惑に際し、「女好き」「若い女が好き」と。

 結果、司会者は元より所属事務所と放送会社の重役全員が職を失い、番組は強制終了した。他にも清雅源蔵のプライベートから女性関係に難癖をつけた出版社は関連会社まで丸ごと潰され、社名にもなったツクヨミの名をつけたラブホテルを建設しようとした間抜けな会社に至っては関連する全員が一人残らず行方不明という、逆鱗に触れた相手には一切容赦しない苛烈な性格を裏付ける逸話は良く聞いた。
 
 そんな奴がこの男を泳がせておくか?数日前まで社員だった俺が全く事情を知らない辺り、秘密裏に戦力を集めていたと思う。大っぴらに募集できない訳だから人数には限りがあって、ならコイツも貴重な戦力なのは明白。

 普通は連れ戻すか始末する。可能性から考えれば後者の方が有り得る話だから、一緒に行動していても問題はなさそうに思える。何せ全員揃って清雅から狙われているのだから。

 と、そこまで考えたところで疑念が浮かんだ。本当か?もしかしてスパイとか?そう考えると一気に言動が疑わしくなった。この男は敵か、味方か――いや、この状況は俺の時と同じだ。とすれば、彼女はこんな分かり辛い判断を既に一度下している。

 そう認識した瞬間、酷い眩暈めまいに襲われた。激しい後悔が圧し掛かり、思考を奪う。あわよくば復讐の代行を願った過去の行いが棘となり、胸を穿うがつ。助けるつもりが迷惑をかけっぱなしで、合理的な彼女はそんな事を口に出しても何も解決しないと固く閉ざしていたと知った。

 いや、だからこそ。尚の事、例え拒否、拒絶されても、それでも助けろと訴えかける。助けられたからではない、罪悪感でもない、別の何かが自分の中に生まれつつある。視線を隣に向けた。やはり迷っている。味方かどうかの判断など即断で下せる訳がない。

「覚悟を決めたんだよ、諦める前にやれるだけやろうって、ただそれだけさ」

 無意識。羽島から視線を逸らさないルミナの横顔に、無意識に口が動いた。

「あぁ……そう、そうだな」
 
 ルミナは驚きながらも、直ぐに同意した。心なしか笑っていた様な気もする。対する羽島は――

「お前が答えるとは思ってなかったよ、伊佐凪竜一。カグヤ、お前も同じか?」

「カグヤ?私の呼び名か?」

「そうだよ。お前も同じ答えか?だけどなぁ、そんな答えじゃ納得できねぇよ!!」

 それまでの無気力から一転、怒りを噴出させた。

「伊佐凪竜一!!お前は清雅がどんだけデカいか知ってる筈だ!!いや、漠然とであって全てじゃァない。俺も!!何年も前に入社して裏の顔を知らされるまでは、報道で流れるだけが清雅の全てだと思っていたさ。世界一デケェ会社だってな!!だが違う、トンデモねぇ技術を使って世界を完全に管理してるのさ。そんで、清雅に不利な人間を見つけたら情報封鎖した後に速やかに処理部隊が消しちまうんだよ。まるで要らねぇデータを消すようになぁ!!カグヤに真実を教えてやるよ。宇宙の組織に関する情報一切合切、実情含めて全部知られてるぜ!!」

「そう、か」

 衝撃的な事実。羽島の言葉を信じるならば、ルミナ達の情報は全て筒抜けだという。なのに、意外と落ち着ている。どうやら予測していたようだ。宇宙のどの位置にいるか分からない宇宙船を探し出し、情報を盗み出している。確かに地球の通信に使用するホムラには距離も時間も無視する特性があるが、それはあくまで地球という範囲内だと思っていた。道理で清雅が強気に出られる訳だ。

「意味、分かるか?お前等の旗艦ふねは清雅の神ツクヨミに監視されてるんだ。全部、筒抜けなんだよ。お前等の間抜けな足の引っ張り合いやらも全部だ!!その情報を元に!!売られた喧嘩を買ったんだよ!!ってか寧ろ喧嘩を売ってくれるように仕向けたって話だ」

「やはり、一度接触を」

「そうさ。で、勝算を見込んだから打って出たんだよ!!そういう相手なのさ、お前達が戦おうってのは!!情報戦において全てを圧倒する……何故だかお前達だけは……いや、だが……だが!!だがそれでも!!地球は元よりお前達ですら逃げられない!!それでも戦うってぇのか?カグヤ、今度はお前が答えろよ!!」

 頭が追い付かない。化け物。清雅と言う巨大組織を知れば知るほどに、こんな陳腐な言葉以外で表現しようがなくなる。
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