95 / 273
第5章 謀略 渦巻く
幕間11-1 歪みは波紋の様に広がり 楽園を超え 世界を飲み込む 其の1
しおりを挟む
20XX/12/20 1200
映像が旗艦アマテラス第一艦橋を映し出した。惑星サイズの巨大な航宙艦の艦橋ともなれば艦橋も相当に広大。細長い三角錐状、上下二層で構成された艦橋の総面積は約5万㎡。広大なスペースには数千人以上のオペレーターが等間隔に並び、各々に割り振られた業務を必死で、黙々と熟す。
主要業務である旗艦内外との通信の大半は神が構築したシステムにより自動化され、適切な部門へ繋がれる。よって業務の大半は監視、および突発的な事故や戦闘行動といった不測の事態発生時の手動対応がメイン。よって、艦の規模に対し人数が少なくとも問題なく回る。
しかし、平時だというのに誰もの顔にも疲労が色濃く浮かんでいる。その様子に、旗艦の現状と問題を垣間見た。
アマテラスオオカミが封印された事により旗艦内外で多数の問題が発生、回線が既にパンク状態となった結果、業者や市民の窓口となる部門だけでは苦情を捌ききれず、艦橋にまでその仕事が回ってきた。オペレーター達は本来行わなくて良い対応に苦慮しているようだ。
そんな、忙しいながらも恙なく業務が進む広大な艦橋に変化が訪れた。
艦橋内外を繋ぐ入り口の巨大な扉が開き、数人の人物が意気揚々と艦橋へ乗り込んで来た。アラハバキ。子飼いの部下達を引き連れたアラハバキの中心人物となる4人の男女は上層側入口から現れるやオペレーター達などまるで気に掛けることなく無遠慮に中央へと進み、やがて上下二層とは明らかに違う床色をした、他よりも豪奢な意匠が施された場所で歩みを止めた。
その場所は艦橋管制を統括する特別な席。有事の際は神たるアマテラスオオカミが鎮座し、そうでなければ空座となるべき場所。4人の更に中心人物であるヤゴウが席へ歩み寄り、乱暴に腰を下ろした。余りにも傲慢な態度に、艦橋全体が水を打ったように静まり返る。
オペレーター達の顔を見た。誰も彼もがそれまでとは打って変わり、怒り、苛立つ。対するヤゴウを始めとしたアラハバキはお構いなしとばかりに付近のオペレーターに何か指示を出した。内容は――
「旗艦アマテラスに動きがありました、どうやら地球近郊へ転移するようです」
ツクヨミに淡々と事実を告げ、同時に複数枚のディスプレイを拡大表示した。ツクヨミは清雅市に隣接するO区を目指す2人を気に掛けながらも、艦内を映した映像へと視線を落とす。
「地球近郊への転送完了しました。地球との距離、およそ22億3000万。各数値全て異常なし……旗艦及び全アメノトリフネの隠形|(※ステルス機能)、正常展開を確認」
「地球の通信傍受、全て問題なし」
「不正侵入の形跡、ありません」
オペレーターの数人が地球近郊、距離にして約20億キロ離れた場所への転移が問題なく終了した旨を伝達した。ただ、報告に一つだけ誤りがある。アラハバキを含めた旗艦側の誰一人として、情報が全て筒抜けである事実を知らない。不正侵入の形跡はなかったのではなく、巧妙な偽装に気付いていないだけ。
誰も彼も、まさか旗艦が既にツクヨミの監視下にあるなど疑いもしない。しかし、それもヤゴウという無能が上にいるのだから致し方のない話。奴等は地球側の情報を真面に調査しようとさえしない。スサノヲが命懸けで持ち帰った情報の精査などせず、寧ろ碌に制圧すら出来ない現状を責めるばかり。
圧倒的な文明レベル差に己惚れ、人を道具と見下す。そんな隙だらけの連中だから、情報流出が密かに進行しているなど欠片も考えない。まるで裸の王様の如き茶番、三流役者の大根演技を見ているに等しい光景は、余りにも愚かすぎて見ていられない。
「全制御系確認完了、異常ありません。ヨカッター」
転移後のチェックは全て完了したようだ。誰も彼も緊張の色を隠せず、隠そうともせず、寧ろ隠す余裕さえない有様だったが、最後の報告を聞くや一斉に胸を撫で下ろした。
旗艦アマテラスは天の川銀河系圏の探査という重要な任務がある。よって超長距離の転移など恒常的に行われており、別段珍しくはない業務の一つとなっている。加えて超長距離転移の制御は主に主星側で行われており、旗艦側に大きな負担も危険性もない。それでもオペレーター達が緊張した理由は、既に散々に辿り着いた結論なのだが――神の不在以外にあり得ない。
無事の転移完了に安堵したオペレーターの何人かが旗艦を制御するメインシステムに命令を伝達するインターフェイス、無色透明のバイザーと指に嵌めたリング状のデバイスを外し、目元をほぐした。
装着した者の視線・脳波パターン・音声などの情報から与えるべき指示や命令を読み取り、連動表示されるディスプレイを通して速やかに伝達する。地球のインターフェイスはこの技術を応用して作り出した模造品だが、現行地球の技術では完璧に同じ物を作り出す事は出来なかった。
何気なく映る機器一つをとっても地球との文明差が浮き彫りになる。が、正に豚に真珠。あるいは猫に小判。如何に優れた技術を持とうが、我らに情報を全て握られ、あまつさえそれに気付かないお粗末な連中には過ぎた代物だ――と思ってしまうのは彼等への怒りからだろうか。
「随分と弛んどるようだな、これだから神に甘やかされた腑抜け共は使えんのだ」
棘のある言葉が耳を掠めた。アラハバキの中心、ヤゴウだ。男の叱責に艦橋中の視線が集まる。あからさまなな不平不満は波紋の様に広がり、艦橋全体を染め上げた。しかし当人は相も変わらず傍若無人に振る舞う。
「我々は神に甘やかされた貴様等とは違う。常に利益を出す為に研鑽を重ねてきたのだ。神の手など借りずにな、オイ貴様!!全艦に向けて放送を行うから通信を開け……早くしろッ!!」
狭量な奴ほど他人の視線に敏感。艦橋の変化に気付いたヤゴウはまだ年若い女性オペレーターに当たり散らした。異を唱える声は上がらない。淡々と準備を進める彼女も、それ以外の誰もが自分の物差しでしか物事を測らない男に口答えしたところでどうにもならないと諦めている。
「準備、完了いたしました、何時でもどうぞ……チッエラソウニ」
年若い女性オペレーターが準備完了した旨をヤゴウに伝えた。ヤゴウはそれまでの不機嫌さが嘘のように上機嫌になると演説を始めた。囁くような本音は聞こえなかったようだ。
映像が旗艦アマテラス第一艦橋を映し出した。惑星サイズの巨大な航宙艦の艦橋ともなれば艦橋も相当に広大。細長い三角錐状、上下二層で構成された艦橋の総面積は約5万㎡。広大なスペースには数千人以上のオペレーターが等間隔に並び、各々に割り振られた業務を必死で、黙々と熟す。
主要業務である旗艦内外との通信の大半は神が構築したシステムにより自動化され、適切な部門へ繋がれる。よって業務の大半は監視、および突発的な事故や戦闘行動といった不測の事態発生時の手動対応がメイン。よって、艦の規模に対し人数が少なくとも問題なく回る。
しかし、平時だというのに誰もの顔にも疲労が色濃く浮かんでいる。その様子に、旗艦の現状と問題を垣間見た。
アマテラスオオカミが封印された事により旗艦内外で多数の問題が発生、回線が既にパンク状態となった結果、業者や市民の窓口となる部門だけでは苦情を捌ききれず、艦橋にまでその仕事が回ってきた。オペレーター達は本来行わなくて良い対応に苦慮しているようだ。
そんな、忙しいながらも恙なく業務が進む広大な艦橋に変化が訪れた。
艦橋内外を繋ぐ入り口の巨大な扉が開き、数人の人物が意気揚々と艦橋へ乗り込んで来た。アラハバキ。子飼いの部下達を引き連れたアラハバキの中心人物となる4人の男女は上層側入口から現れるやオペレーター達などまるで気に掛けることなく無遠慮に中央へと進み、やがて上下二層とは明らかに違う床色をした、他よりも豪奢な意匠が施された場所で歩みを止めた。
その場所は艦橋管制を統括する特別な席。有事の際は神たるアマテラスオオカミが鎮座し、そうでなければ空座となるべき場所。4人の更に中心人物であるヤゴウが席へ歩み寄り、乱暴に腰を下ろした。余りにも傲慢な態度に、艦橋全体が水を打ったように静まり返る。
オペレーター達の顔を見た。誰も彼もがそれまでとは打って変わり、怒り、苛立つ。対するヤゴウを始めとしたアラハバキはお構いなしとばかりに付近のオペレーターに何か指示を出した。内容は――
「旗艦アマテラスに動きがありました、どうやら地球近郊へ転移するようです」
ツクヨミに淡々と事実を告げ、同時に複数枚のディスプレイを拡大表示した。ツクヨミは清雅市に隣接するO区を目指す2人を気に掛けながらも、艦内を映した映像へと視線を落とす。
「地球近郊への転送完了しました。地球との距離、およそ22億3000万。各数値全て異常なし……旗艦及び全アメノトリフネの隠形|(※ステルス機能)、正常展開を確認」
「地球の通信傍受、全て問題なし」
「不正侵入の形跡、ありません」
オペレーターの数人が地球近郊、距離にして約20億キロ離れた場所への転移が問題なく終了した旨を伝達した。ただ、報告に一つだけ誤りがある。アラハバキを含めた旗艦側の誰一人として、情報が全て筒抜けである事実を知らない。不正侵入の形跡はなかったのではなく、巧妙な偽装に気付いていないだけ。
誰も彼も、まさか旗艦が既にツクヨミの監視下にあるなど疑いもしない。しかし、それもヤゴウという無能が上にいるのだから致し方のない話。奴等は地球側の情報を真面に調査しようとさえしない。スサノヲが命懸けで持ち帰った情報の精査などせず、寧ろ碌に制圧すら出来ない現状を責めるばかり。
圧倒的な文明レベル差に己惚れ、人を道具と見下す。そんな隙だらけの連中だから、情報流出が密かに進行しているなど欠片も考えない。まるで裸の王様の如き茶番、三流役者の大根演技を見ているに等しい光景は、余りにも愚かすぎて見ていられない。
「全制御系確認完了、異常ありません。ヨカッター」
転移後のチェックは全て完了したようだ。誰も彼も緊張の色を隠せず、隠そうともせず、寧ろ隠す余裕さえない有様だったが、最後の報告を聞くや一斉に胸を撫で下ろした。
旗艦アマテラスは天の川銀河系圏の探査という重要な任務がある。よって超長距離の転移など恒常的に行われており、別段珍しくはない業務の一つとなっている。加えて超長距離転移の制御は主に主星側で行われており、旗艦側に大きな負担も危険性もない。それでもオペレーター達が緊張した理由は、既に散々に辿り着いた結論なのだが――神の不在以外にあり得ない。
無事の転移完了に安堵したオペレーターの何人かが旗艦を制御するメインシステムに命令を伝達するインターフェイス、無色透明のバイザーと指に嵌めたリング状のデバイスを外し、目元をほぐした。
装着した者の視線・脳波パターン・音声などの情報から与えるべき指示や命令を読み取り、連動表示されるディスプレイを通して速やかに伝達する。地球のインターフェイスはこの技術を応用して作り出した模造品だが、現行地球の技術では完璧に同じ物を作り出す事は出来なかった。
何気なく映る機器一つをとっても地球との文明差が浮き彫りになる。が、正に豚に真珠。あるいは猫に小判。如何に優れた技術を持とうが、我らに情報を全て握られ、あまつさえそれに気付かないお粗末な連中には過ぎた代物だ――と思ってしまうのは彼等への怒りからだろうか。
「随分と弛んどるようだな、これだから神に甘やかされた腑抜け共は使えんのだ」
棘のある言葉が耳を掠めた。アラハバキの中心、ヤゴウだ。男の叱責に艦橋中の視線が集まる。あからさまなな不平不満は波紋の様に広がり、艦橋全体を染め上げた。しかし当人は相も変わらず傍若無人に振る舞う。
「我々は神に甘やかされた貴様等とは違う。常に利益を出す為に研鑽を重ねてきたのだ。神の手など借りずにな、オイ貴様!!全艦に向けて放送を行うから通信を開け……早くしろッ!!」
狭量な奴ほど他人の視線に敏感。艦橋の変化に気付いたヤゴウはまだ年若い女性オペレーターに当たり散らした。異を唱える声は上がらない。淡々と準備を進める彼女も、それ以外の誰もが自分の物差しでしか物事を測らない男に口答えしたところでどうにもならないと諦めている。
「準備、完了いたしました、何時でもどうぞ……チッエラソウニ」
年若い女性オペレーターが準備完了した旨をヤゴウに伝えた。ヤゴウはそれまでの不機嫌さが嘘のように上機嫌になると演説を始めた。囁くような本音は聞こえなかったようだ。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
日本の運命を変えた天才少年-日本が世界一の帝国になる日-
ましゅまろ
歴史・時代
――もしも、日本の運命を変える“少年”が現れたなら。
1941年、戦争の影が世界を覆うなか、日本に突如として現れた一人の少年――蒼月レイ。
わずか13歳の彼は、天才的な頭脳で、戦争そのものを再設計し、歴史を変え、英米独ソをも巻き込みながら、日本を敗戦の未来から救い出す。
だがその歩みは、同時に多くの敵を生み、命を狙われることも――。
これは、一人の少年の手で、世界一の帝国へと昇りつめた日本の物語。
希望と混乱の20世紀を超え、未来に語り継がれる“蒼き伝説”が、いま始まる。
※アルファポリス限定投稿
旧校舎の地下室
守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
日本新世紀ー日本の変革から星間連合の中の地球へー
黄昏人
SF
現在の日本、ある地方大学の大学院生のPCが化けた!
あらゆる質問に出してくるとんでもなくスマートで完璧な答え。この化けたPC“マドンナ”を使って、彼、誠司は核融合発電、超バッテリーとモーターによるあらゆるエンジンの電動化への変換、重力エンジン・レールガンの開発・実用化などを通じて日本の経済・政治状況及び国際的な立場を変革していく。
さらに、こうしたさまざまな変革を通じて、日本が主導する地球防衛軍は、巨大な星間帝国の侵略を跳ね返すことに成功する。その結果、地球人類はその星間帝国の圧政にあえいでいた多数の歴史ある星間国家の指導的立場になっていくことになる。
この中で、自らの進化の必要性を悟った人類は、地球連邦を成立させ、知能の向上、他星系への植民を含む地球人類全体の経済の底上げと格差の是正を進める。
さらには、マドンナと誠司を擁する地球連邦は、銀河全体の生物に迫る危機の解明、撃退法の構築、撃退を主導し、銀河のなかに確固たる地位を築いていくことになる。
蒼穹の裏方
Flight_kj
SF
日本海軍のエンジンを中心とする航空技術開発のやり直し
未来の知識を有する主人公が、海軍機の開発のメッカ、空技廠でエンジンを中心として、武装や防弾にも口出しして航空機の開発をやり直す。性能の良いエンジンができれば、必然的に航空機も優れた機体となる。加えて、日本が遅れていた電子機器も知識を生かして開発を加速してゆく。それらを利用して如何に海軍は戦ってゆくのか?未来の知識を基にして、どのような戦いが可能になるのか?航空機に関連する開発を中心とした物語。カクヨムにも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる