G.o.D 神魔戦役篇

風見星治

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第5章 謀略 渦巻く

幕間11-1 歪みは波紋の様に広がり 楽園を超え 世界を飲み込む 其の1

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 20XX/12/20 1200

 映像が旗艦アマテラス第一艦橋を映し出した。惑星サイズの巨大な航宙艦の艦橋ともなれば艦橋も相当に広大。細長い三角錐状、上下二層で構成された艦橋の総面積は約5万㎡。広大なスペースには数千人以上のオペレーターが等間隔に並び、各々に割り振られた業務を必死で、黙々とこなす。

 主要業務である旗艦内外との通信の大半は神が構築したシステムにより自動化され、適切な部門へ繋がれる。よって業務の大半は監視、および突発的な事故や戦闘行動といった不測の事態発生時の手動対応がメイン。よって、艦の規模に対し人数が少なくとも問題なく回る。

 しかし、平時だというのに誰もの顔にも疲労が色濃く浮かんでいる。その様子に、旗艦の現状と問題を垣間見た。

 アマテラスオオカミが封印された事により旗艦内外で多数の問題が発生、回線が既にパンク状態となった結果、業者や市民の窓口となる部門だけでは苦情を捌ききれず、艦橋にまでその仕事が回ってきた。オペレーター達は本来行わなくて良い対応に苦慮しているようだ。

 そんな、忙しいながらもつつがなく業務が進む広大な艦橋に変化が訪れた。

 艦橋内外を繋ぐ入り口の巨大な扉が開き、数人の人物が意気揚々と艦橋へ乗り込んで来た。アラハバキ。子飼いの部下達を引き連れたアラハバキの中心人物となる4人の男女は上層側入口から現れるやオペレーター達などまるで気に掛けることなく無遠慮に中央へと進み、やがて上下二層とは明らかに違う床色をした、他よりも豪奢ごうしゃ意匠いしょうが施された場所で歩みを止めた。

 その場所は艦橋管制を統括する特別な席。有事の際は神たるアマテラスオオカミが鎮座ちんざし、そうでなければ空座となるべき場所。4人の更に中心人物であるヤゴウが席へ歩み寄り、乱暴に腰を下ろした。余りにも傲慢な態度に、艦橋全体が水を打ったように静まり返る。

 オペレーター達の顔を見た。誰も彼もがそれまでとは打って変わり、怒り、苛立つ。対するヤゴウを始めとしたアラハバキはお構いなしとばかりに付近のオペレーターに何か指示を出した。内容は――

「旗艦アマテラスに動きがありました、どうやら地球近郊へ転移するようです」

 ツクヨミに淡々と事実を告げ、同時に複数枚のディスプレイを拡大表示した。ツクヨミは清雅市に隣接するO区を目指す2人を気に掛けながらも、艦内を映した映像へと視線を落とす。

「地球近郊への転送完了しました。地球との距離、およそ22億3000万。各数値全て異常なし……旗艦及び全アメノトリフネの隠形おんぎょう|(※ステルス機能)、正常展開を確認」

「地球の通信傍受、全て問題なし」

「不正侵入の形跡、ありません」

 オペレーターの数人が地球近郊、距離にして約20億キロ離れた場所への転移が問題なく終了した旨を伝達した。ただ、報告に一つだけ誤りがある。アラハバキを含めた旗艦側の誰一人として、情報が全て筒抜けである事実を知らない。不正侵入の形跡はなかったのではなく、巧妙な偽装に気付いていないだけ。

 誰も彼も、まさか旗艦が既にツクヨミの監視下にあるなど疑いもしない。しかし、それもヤゴウという無能が上にいるのだから致し方のない話。奴等は地球側の情報を真面に調査しようとさえしない。スサノヲが命懸けで持ち帰った情報の精査などせず、寧ろ碌に制圧すら出来ない現状を責めるばかり。

 圧倒的な文明レベル差に己惚れ、人を道具と見下す。そんな隙だらけの連中だから、情報流出が密かに進行しているなど欠片も考えない。まるで裸の王様の如き茶番、三流役者の大根演技を見ているに等しい光景は、余りにも愚かすぎて見ていられない。

「全制御系確認完了、異常ありません。ヨカッター」

 転移後のチェックは全て完了したようだ。誰も彼も緊張の色を隠せず、隠そうともせず、寧ろ隠す余裕さえない有様だったが、最後の報告を聞くや一斉に胸を撫で下ろした。

 旗艦アマテラスは天の川銀河系圏の探査という重要な任務がある。よって超長距離の転移など恒常的に行われており、別段珍しくはない業務の一つとなっている。加えて超長距離転移の制御は主に主星側で行われており、旗艦側に大きな負担も危険性もない。それでもオペレーター達が緊張した理由は、既に散々に辿り着いた結論なのだが――神の不在以外にあり得ない。

 無事の転移完了に安堵したオペレーターの何人かが旗艦を制御するメインシステムに命令を伝達するインターフェイス、無色透明のバイザーと指にめたリング状のデバイスを外し、目元をほぐした。

 装着した者の視線・脳波パターン・音声などの情報から与えるべき指示や命令を読み取り、連動表示されるディスプレイを通して速やかに伝達する。地球のインターフェイスはこの技術を応用して作り出した模造品だが、現行地球の技術では完璧に同じ物を作り出す事は出来なかった。

 何気なく映る機器一つをとっても地球との文明差が浮き彫りになる。が、正に豚に真珠。あるいは猫に小判。如何に優れた技術を持とうが、我らに情報を全て握られ、あまつさえそれに気付かないお粗末な連中には過ぎた代物だ――と思ってしまうのは彼等への怒りからだろうか。

「随分と弛んどるようだな、これだから神に甘やかされた腑抜け共は使えんのだ」

 棘のある言葉が耳を掠めた。アラハバキの中心、ヤゴウだ。男の叱責に艦橋中の視線が集まる。あからさまなな不平不満は波紋の様に広がり、艦橋全体を染め上げた。しかし当人は相も変わらず傍若無人ぼうじゃくぶじんに振る舞う。

「我々は神に甘やかされた貴様等とは違う。常に利益を出す為に研鑽けんさんを重ねてきたのだ。神の手など借りずにな、オイ貴様!!全艦に向けて放送を行うから通信を開け……早くしろッ!!」

 狭量きょうりょうな奴ほど他人の視線に敏感。艦橋の変化に気付いたヤゴウはまだ年若い女性オペレーターに当たり散らした。異を唱える声は上がらない。淡々と準備を進める彼女も、それ以外の誰もが自分の物差しでしか物事を測らない男に口答えしたところでどうにもならないと諦めている。

「準備、完了いたしました、何時でもどうぞ……チッエラソウニ」

 年若い女性オペレーターが準備完了した旨をヤゴウに伝えた。ヤゴウはそれまでの不機嫌さが嘘のように上機嫌になると演説を始めた。囁くような本音は聞こえなかったようだ。
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